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殺人鬼と元魔王候補  作者: 末吉
プロローグ
12/35

とりあえず……行くか

 ニワトリという鳥の鳴き声が響き渡ったころ。

 ダンダンダン! と玄関を叩く音がうるさくて目を覚ました俺は、ルノアの姿がないことでまだ起きてないのかとあたりをつけ欠伸をしながら扉を開けた。


 そこにいたのは昨日俺を家来にしようとしていた女だった。しかも、武器を持っている様子はない。

 憮然とした態度が顔にも表れているなと思いながら「こんな朝っぱらから何の用だ?」と欠伸をしながら訊ねる。


「って、あんたなんでこんなところにいるのよ!?」

「知り合いの家だから泊めてもらった。で? 用がないなら閉めるぞ」

「う~……だれですかー?」


 怒鳴り声で起きたのかエレナが聞いてくるが無視し、俺は問答無用で閉めた。


「って、なんで閉めるのよ!?」

「朝からうるさいぞ。お前は人の迷惑も考えられないのか」

「うっ」


 言葉に詰まったようなのでもう一度扉を閉め、今度はそこら辺にあった棒を挿めて開かないようにする。

 これで完全に入れないなと思った俺はこれから何をしようかと床に座って考えることにした。



「おはようじゃコール……ところで、先程から戸を叩く音が喧しいんじゃが、一体誰じゃ?」

「女」

「……確かに朝早くというのは迷惑じゃが…ここまでやるといっそ清々しいの」

「お前に客だ。後は何とかしろ」

「そうかの。なら、朝食前にカタをつけようかの」


 そう言うとルノアは目を擦りながら、髪の毛が跳ねているのも気にせず玄関の方へ向かう。

 その行動を眺めた俺は先程までしていた思考を一つの方へ収束させ、いつの間にか横たわって寝ていたエレナをゆすって起こすことにした。


「おい起きろエレナ」

「ダメですよお師匠様そこは~」


 何やら変な寝言を言っているので思いっきり殴る。


「イタッ! な、なんですか!?」

「やっと開いた! 締め出すのもいい加減に……って、子供?」

「なんじゃ姫君か」

「シュラヌを起こせ。これからの事を話す」

「え、はい分かりました……けど、なんで殴られたんですか?」

「起きないから」

「……あれ?」

「あんた! よくも私を閉めだしたわね!!」

「……なんじゃ騒々しい」


 全員が起きるのは、時間の問題だった。



「……ふむ。これからの事、か。ところでコール」

「なんだシュラヌ」

「なぜお主が飯を作っている?」

「知らん」


 そう言いながらも包丁で野菜を手早く切っていく。

 今いるのはルノアの家だが、俺達がいた居間から通路を歩いたところにある台所へ何故か押し込められて朝食を作ることに。

 あるものを使っていいという事なのでとりあえずスープ作って肉焼けばいいかと考えて鍋の中に水と調味料と今切った野菜を適当に入れていく。


「そんなんでいいのかの、料理とは」

「俺は食えればいい。最低限の味が保障されてな」

「……なんというか、とことん冷めておるの」

「見てるなら手伝え」

「味の好みが合わんじゃろ」

「ああそう」


 手伝う気が一切ないというのが分かったので作業に戻る。

 魔法とは便利なものだが、それを扱うには適正というのが存在するそうだ。

 今薪が燃えているのはルノアが魔法で燃やしたからで、俺自身がやったものではない。

 鍋の中身が泡を立てて煮えているのを見ながらそんなことを思い出しつつかき混ぜる。


 ルノア。見た目が子供みたいで可愛らしい容姿をしている女は、これでも俺より年上である。

 にも拘らず子供の姿に成っているのは何かしらの理由があるらしいが、大して興味があったわけじゃないので聞き流していた。

 大変博識で、魔法等の適正どうたらを教えてくれたにも拘らず自身は現存する魔法全てを使えるという規格外の人物である。……容姿のせいで周りから嘘だと思われているらしいが。


 まぁ俺では魔法()扱えないらしいがどうでもいい。魔力の使い方次第でどうにでもなる。


「ところでこれからの予定を聞きたいのじゃが?」


 物思いに耽っていたようでシュラヌの声が聞こえ、反応するまでに少し間が生じた。

 俺は鍋を火のついてない場所に移動させてから別な鍋を置き、干し肉を数枚宙に投げて斬る。

 ぶつ切りにされた肉が鍋の中に入り音を立てて焼けていく。それを聞きながら俺は話すことにした。


「予定通りここから近い国へ行く。レシウス王国だ。それから最果てまで一周する形で五大国を回ろうと思う」

「一周してエレナ嬢を帰すつもりか」

「当たり前だ。弟子は師を超える。王とは何かを自分で学び、考える。旅の間にさまざまなものを見聞していけば自然とそうなる。五大国を回ればどういうものを目指せばいいか自分で見つけられるだろう」

「……確かに。成長というのは若いうちにするものじゃし」


 そこに余った野菜を突っ込んで炒める。肉から出た油と塩分が野菜に絡むので味付けはほとんどいらない。

 だいぶしんなりしたかと思う頃に竈の中に水をぶっかけて火を消す。


「分けるからさっさと持って行ってくれ」

「分かったわい。お主が意外と真剣じゃというのは」

「……持って行け」


 少し間を置いて同じことを言うと、シュラヌは笑いながら「分かったわい」と言って三人分の料理を運んで行った。

 バランス感覚すごいなと素直に感心した。



 で、残りの二人分を持って居間に戻ったところ。

 女性陣が一心不乱に作ったものを食べていた。


 主食がないのにその勢いは正直引くなと思いながらもシュラヌに渡すと、「どうやら好評のようじゃの」と言いながら受け取り、粛々と食べ始める。

 残った分を立ちながら食べていると、「座って食べぬかコールよ」とこちらを見ずにルノアが言ってきた。


「分かった」


 おとなしく座る。そして食べ続ける。

 一心不乱に食べる姿を見ながらというのは新鮮だなと考えていると、「そういえばこれからどうするんじゃコールよ」と訊いてきた。


「来た道戻ってギルドに報告してくる」

「なるほどの……」

「ギルドってなんですか?」


 ある程度予想していたのが当たったため眉一つ動かすことのなかった俺は、「俺達みたいな根無し草――冒険者たちのまとめ役で、周囲で困った事態を俺達に押し付けて解決させる場所だな」と簡単に説明した。


「まぁ間違ってはおらぬがな」

「そうね」

「ところで……この女は誰じゃ?」


 食べ終わったのか皿を床に置いてからシュラヌが見知らぬ女に視線を向けて質問する。

 向けられた女は少し後ずさりしてから咳払いをし、自己紹介をした。


「私の名前はサラス=クライア=レシウス。レシウス王国第一王女よ」

「うむそうか。ありがとう」

「って、そんな反応!?」


 シュラヌの反応の薄さが新鮮だったのか驚く女――レシウス王国第一王女。

 ドラゴンにとって人の肩書なぞどうでもいいんだろうなと反応から察した俺は、それを言わずに黙って立ち上がる。

 目ざとく見つけた第一王女は「あんたも反応なしってどういう事よ!」と言いがかりの域な文句だったので無視することにした。


「シュラヌ。食べ終わったのなら食器持って来い。洗うから。そして終わったら行くぞ」

「え、どこへですか?」

「……忘れてるならここで終わってもいいんだが」

「え!? そ、それはひどくないですか!?」

「頑張って思い出せ」

「あ、ああ分かりました!!」


 とりあえずそう言ってから俺は先程調理した場所へ戻った。




 食器を片づけた俺が戻ると、シュラヌがすでに準備を終えており、何故か知らないがルノアまであの時と同じ格好をしていた。


「どうしたルノアまで」

「別に構わぬじゃろ? エレナの話を聞いておったらまた血が騒いでの」

「嫌だから戻って来たんじゃなかったのか?」

「まぁ戻ってきたら淋しくなったんじゃよ。お主のせいかもしれぬの」


 そう言ってチラリと俺の方を意味ありげに見る。

 全くといっていいほど心当たりがないために俺は「好きにしろ」と言ってから最終的に第一王女の方を見る。


「な、なによ」

「いや別に。ルノアに用があったんじゃないかと思ってな」


 たじろいだ王女にそう吐き捨ててからエレナを探す。

 視界にないので外に出たのか二階にでも行ったのかのどちらかなんだろうと思いながら「しかしルノア。ついてくる気なのか?」と訊いたところ、「私はあんたに用があるのよ!」と指を突き付けられた。


 ……。


「で、本当についてくるのか?」

「無視しないでよ!!」

「勿論じゃとも」

「ルノアさんも!」


 なんか面倒な奴だったので、仕方なく話を聞くことにした。


「断る」

「話聞く気なんてない!?」

「まぁとりあえず聞いてみたらどうじゃ? 聞くだけ聞いてみるのも良かろうぞ」

「だそうだ。……で? 話を手短に聞かせろ」

「そして命令口調!? あんた、どこまで私をおちょくる気なのよ…!!」

「さっさと言え」

「ああもう!」


 何に苛立っているのか大体想像つくが誰でも素直に話を聞くと思うなよという洗礼をさせていると思えばこの嫌がらせも役に立つのだろうと考えていたところ、第一王女は用件を言った。


「私も一緒に旅をさせなさい!!」

「…………は?」


 何故お姫様が旅をご所望なのだろうか。多少混乱した状態で、俺は訊いた。


「なんで?」

「聞けばあんた達、王様とは何かっていうのをあの子に学ばせるために旅をするんでしょ? だったら私も行きたい。国の代表としてじゃなく、あんた達みたいに旅をするものとして。私も学びたいの」

「…………」


 一応理にかなっている。身分があるものはそれ相応の対応をとられるためそれ以下の事をあまり知りえない。故にある程度身分があるものを基準に進めていきやすい。

 そうならないように身分を隠してお忍びと言った形で外に出るのもいるが……知らない奴は本当に知らない。

 そう考えるとこいつはまともなんだなと思いながらどうするかと考えたが、ふと思ったことを訊いてみた。


「そういやお前最果てに視察に行くんだろ?」

「ああ、あれ? 結局お父様が行ったのよ。そうなるのが分かっていたからここでゆっくりしてたんだけど、まぁ怒られるでしょうね」


 そう言って肩を竦める。自業自得だというのに図太い奴だと思う。

 それぐらいじゃないと務まらないのだろうと思いつつどうするか考えていると、「お師匠様! 準備できました!! レシウス王国に行きましょう!!」と来た時とは違う服装で二階から降りてきた。


 …………。


「どうしたんですか?」


 今来ているのはおそらくルノアが来ていたであろう服。可愛らしいといえば可愛らしいが、それら自体が何やら魔力を持っているので俺は視線を外して王女に言った。


「ついてくるならついて来い。無理なら置いて行く」

「! 上等じゃない!!」


 かくしていつの間にか二人増え五人パーティでこの村を出ることになったのだが……なぜだろうかこれからの旅が波乱に満ち溢れている気がした。

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