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殺人鬼と元魔王候補  作者: 末吉
プロローグ
10/35

出会いに懸けるとは何を期待してると言いたくなる

「お師匠様! 新年一発目が私達ってなんだか照れますね!」

「これしかなかったんだろ」

「それは言いっこなしだと思います!!」

 で、その後何事もなく山を下りれた俺達は、そこからちょっと先にある村の近くに来ていた。


「あそこが村ですね!」

「はしゃぐな。バカが丸わかりだ」

「ひどくないですか!?」

「しかし国に属しておったかあそこ?」

「属していないはずだ。だが、集落というよりは村に見えるだろ?」

「まぁ確かに」


 山道を降りて数十分ぐらいのところにある村が見える場所で俺達は話し込んでいる。

 理由は特にないが、強いて挙げるならなんとなく嫌な予感がしたからだろうか。

 勘が働くとロクな事にならないことが多いからな…と思いながら木々の中に隠れて遠目で存在を確認していると、「そういえば、どうしてこう隠れているんですか?」と今更な質問をしてきたのでシュラヌに確認する。


「なぁシュラヌ。変わったことが見えるか?」

「ふむ。少し待て」


 そう言うとシュラヌは背負っていた荷物をおろして目を瞑ったと思ったら、背中から翼をはやしてその場から飛び去った。


「どこ行ったんですか?」

「偵察だ。空から村の様子を確認してもらっている」

「なんでそんなことするんですか?」

「悪い予感がよく当たるんだ俺は。だから保険」


 そんなことを言っている間にシュラヌは戻ってきた。


「何やら同じ鎧を着た奴らがあわてて動き回っておった。まるで誰かを探しているように」

「ひょっとして私ですかね?」

「んな訳あるか。お前を探しに来るのはお前の兄と姉たちだけのはずだ。魔王になる条件に組み込まれたというならな」

「確かに。それに、魔族だったらわしが分かる」

「それじゃぁ誰ですかね?」


 真剣に考えだそうとしているのか両腕を組んで言うエレナ。

 そんな姿に考えるだけお前じゃ無駄だと言いそうになったが堪え、村に入るの面倒だなとため息をつきたくなっていると、背後から呼吸を整える息遣いが聞こえたので振り返る。


「……ゼェ、ゼェ、ゼェ…………ようやく、追いついたわ」

「「……」」

「お師匠様。誰ですかこの人?」


 膝に手を当て俯いて息を整える姿はどう見ても疲れ切っている。しかもさっき魔法ぶっ放して来た女。

 そういやエレナ、その時に顔見てなかったんだよなと思いつつなんて説明しようか面倒になったので立ち上がって「仕方ない。村に行くか」と提案する。


「ようやくですか! やっとふかふかのベッドに寝られるんですね!」

「金ない奴が何言ってる。自分で払え」

「さすがにひどくないですか!? そこはお師匠様払ってくださいよ!!」

「フム行くのか。しかし兵はどうするつもりだ?」

「どうにかなるだろう」

「……って、待ちなさいよあんた達!!」


 背後から叫び声をあげられたので仕方なく足を止めて振り返る。

 すると、息を整えていた女が顔を上げて不機嫌そうなまま叫んできた。


「無視するとはいい度胸じゃない!!」

「ああすまない。実は耳が若干聞こえなくてな」

「え、そ、それだったら悪かったわよ」

「まぁ嘘だ」

「!! か、からかったのね!?」

「嘘だったんですか!?」

「で、一体なんだ環境破壊娘。危うく死にかけたんだこっちは」

「うっ……でも人が通るなんて思ってなかったのよ……」

「でもお師匠様普通に生きてましたよね! 後早く村へ行きましょう!!」

「シュラヌ。とりあえず面倒だから先に村へ行ってくれ」

「それがよかろう。では行くぞ、エレナ」

「はい! お師匠様も早く来てくださいね!!」


 とりあえず話が進まなそうだから追い払い、二人だけになったのでもう一度たずねた。


「……で? 何しに来た」


 そう訊ねると彼女はばつが悪そうな顔をしてから頭を勢いよく下げて「ごめんなさい!」と謝ってきた。


「分かった。じゃあな」

「って、ちょっと!」

「まだあるのか?」


 用件が済んだのでさっさと行こうと思ったのに呼び止められたので、仕方なく足を止めて振り返る。

 女は「あるに決まってるでしょ!」と言ってから俺を指さして言った。


「あんた、私の用心棒やりなさい!」

「断る。じゃぁな」

「えっ」


 呆気にとられたらしいが付き合ってられなくなったので、さっさと村へ行くことにした。

 図々しい奴だなと思いながら。




 村に着いた。名前は確かあったはずだが、そこまで覚える必要がなかったので覚えていない。

 何もない周辺からすれば格好の襲撃場所だが、それでもこの村を襲う奴はいない。


 なぜならトラップの山だから。不法侵入しようとしてトラップに引っかかったバカを俺は知っている。

 村の入り口は二つ。そこから左右に建物や畑が立ち並び、柵で仕切られている場所までが範囲。そこから円状にトラップが仕掛けられている。


 村人かギルドに聞かなかったら間違いなく俺も引っかかっていたなと思いながら正規の道を通って入口を通り過ぎる。


 慌ただしい奴らが右へ左へ走り回る。まだ探しているのだろう。

 俺には関係ないが。そう思いながら、ここ唯一の宿へ向かうことにした。


 途中。


「あ、お師匠様!」


 何やら両手でバケツを持っているエレナに見つかった。

 水汲みにでも行っていたんだろうかと考えつつ無視して宿へ向かうと、「あ、お師匠様! 宿は……!!」と何やら言われたが、無視した。


 で、宿屋。


「生憎と部屋全部埋まっているんだ。悪いね」

「……何やら兵が動き回っているのと関係があるのか?」

「視察へ最果てへ向かう途中のここで王女様がどこか行ったらしくてね。かれこれ三日はこの調子さ」

「大変だな」


 「まぁ金払いだけはいいからね」そう店主が言ったので俺は軽く頭を下げて宿屋を出る。

 すると、エレナが前で待っていた。


「どうした」

「どうした、じゃありませんよお師匠様! 宿が埋まってるって言ったのに無視して行っちゃうんですから!!」

「ああ……そういえば何か言ってた気がしたな…」

「そんな感想ですか!?」


 とりあえず邪魔にしかならないだろうから場所を移すという意味で歩き出すと、エレナが「あ、でも心優しい人が家に泊めてくれるんですよ!」とついてきながら言ってきたので「ああそう」と返す。


「お師匠様嬉しくないんですか?」

「嬉しい嬉しくないといえばどちらでもない……そういえばシュラヌはどこだ?」


 あいつの事だから一緒に居るんだろうと思ったがこいつがバケツを持っていた時におらず、またこの時ですら近くにいないという事実に気付き質問すると、「シュラヌさんですか?」と顔をキョトンとさせてから思い出したかのように言った。


「そういえば泊めてくれる家の人の手伝いをしていたような……」

「ふーん。レッドドラゴンが人の手伝いか…」

「珍しいんですか?」

「まぁ……ところでお前」

「なんですかお師匠様?」


 不意に心配になったことを思いついた俺は、なおも嬉しそうについてくるエレナにあることを質問した。


「お前、自分が魔王の娘だというのを言ってないだろうな」

「はい! シュラヌさんが説明する前にそんなことを言っていたので!」

「そうか。ならいいんだ」


 馬鹿正直に言った場合色々と面倒なことになりかねないという懸念材料があったが、どうやらそこはシュラヌが先に教えてくれたようだ。

 本当、面倒だなと思いながら行く当てもなく歩いていると、「む。エレナよ。やっと連れて来たか」との声が。


 声がした方を向いてみると、木造二階建ての家の前に小さい女の子を肩車しているシュラヌの姿が。


 俺はシュラヌの方ではなく肩車されている方に声をかけた。


「……年甲斐もなく何やってるんだ?」

「やはりお主じゃったか、コール」

「え?」


 不思議そうにエレナが声を上げるが、誰もそれには取り合わない。

 シュラヌに肩車されていた女は自分で飛び降りてから俺の方に近寄り、見上げたと思ったら肩に乗っていた。


「ふむ。レッドドラゴンの肩に乗るよりもやはりお主の方がいいの」

「……降りろ」


 言っても聞かないことは分かっているが、それでも苦言を呈す。

 案の定俺の苦言などどこ吹く風といった感じで聞き流し、「“最果て”へ向かったと思ったら仲間を増やして戻って来て。数奇な人生じゃの、本当」と言ってきた。


 そこでようやくこの状況を悟ったのか、「お師匠様、この子と知りあいなんですか?」と訊いてきたので渋々ながら「まぁな」と答えた。


「仕事で三年近く一緒だった。この村の実家にこいつを送り届けるまでの間」

「誰も組んでくれぬのにコールだけは何も言わずに受けてくれたんじゃよ。強さだとAに入ってもいいのに、昇格試験を一切受けずにCのままなんじゃろ?」

「まだ完遂報告をしてない」

「その途中で戻ってくるとは、思いもしなかったぞ」

「あっそ」


 なんだか脇道に逸れだしたので、俺は軌道修正するべくエレナに説明した。


「こいつはさっきも言ったように、ここに来るまでの三年間一緒に旅をしていたやつだ。名前はルノア」

「ルノアちゃんですね! 私、お師匠様の弟子のエレナと言います!」


 そう言って勢いよく頭を下げる。それを見ていたルノアは「そう畏まらんでもいいぞい」と笑いながら言う。

 一方で俺はルノアの事をある程度知っているからエレナの発言のある部分に関して猛烈に訂正したくなったのだが、本人が気付けばいいかと思い直すことに。

 そんな折、ルノアが「まぁ立ち話もなんじゃし、家に入ろうぞい」と言ったので、俺達は黙って目の前の家に入ることにした。

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