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MW元   作者: ただっち
ファントムソウル編
58/69

セカンドステージ35:風

 死んでしまった以上は、完全なナレーションとなって物語が進行しやすかったり、解説なんかに気を取られずに話を進めることができそうで楽と言えば楽なのかもしれない。

 そして今回の状況はまさにそれなのではないだろうか?

 謎の青年の攻撃を受けてしまって、消し炭にされてしまったのだから、肉体が完全に消えたのだから、魂だけの存在となってしまったのである。

 魂―――――少し前の俺なら、非科学的だなどと言ってしまっていたかもしれない。

 だが、この世界に来てその価値観や思考までもが変わってしまった。

 否、変えなければならないほどに追い詰められていたというのが事実であろう。

 あーあ……死んでしまったんだな……


「そんなわけないだろう。 馬鹿め」


 え?


「俺様が助けたんだからな、感謝しろよ」


 目を開けた先にいたのは、トルネだった。

 風の大魔導士トルネがそこにいた。


「なんでトルネがここに?」


 と聞くとトルネは、舌打ちして俺をそばにあった瓦礫へ投げた。

 痛いんですけど。


「なにするんだよ!」

「何って、え? 花魁どもにいちゃいちゃこらこらされてたお前見てたらむかついたから」

「そんな理由で、俺を投げるな! 見ろよ! 重症なんだぞ!」

「知らねーよリア充が」

「この状況でリア充とか言うな!」


 くっそ……こいつと話してると、傷が痛む。


「まあまあ、お前はそこで倒れておけ。 俺様があいつを倒してきてやるよ」


 そういっていつの間にか上空にいる謎の青年を指さす。

 謎の青年はくすりと笑い、トルネに向かって言う。


「君ごときが、俺を倒せるとでも思っているのかい?」

「いやいや、逆に問おう。 貴様ごときが俺様に意見するのか?」

「ふん。 どうなっても知らないけど、せめてきれいな血しぶき上げてくれよ――――トルネぇぇぇぇ!!!!」


 謎の青年はそう叫び、トルネに向かって無数の光弾を投げつける。

 光弾と言うか、むしろ光の束のような形になってトルネを貫く。

 だがそれは、トルネの作った分身。

 本物は――――


「こっちだよん! おまぬけさん♪」


 そういって上空のトルネは風魔法を発動させる構えをする。

 そして魔法が発動する瞬間、青年はトルネの後ろにいた。


「遅いよ、のろま!」


 青年がトルネを蹴り飛ばしたが、またしても分身だった。


「おいおい、この程度の原理も理解せずに私に挑むなんて、なんて雑魚なんだろうね――――青年よ」


 どこからか、挑発するトルネの声が聞こえる。

 しかしどうやら本気で姿を消しているようなので、気配は感じるものの、具体的にどこにいるかは分からない。

 青年は笑みを浮かべ、そして


「ふん。 この程度が分からないと思うのか?」


 そういって、何もない空中に手を突き刺す。

 そこから血が一滴ぽつりと垂れたと思うと、トルネの姿が突然現れた。

 トルネも笑みを浮かべて


「小手調べはこの辺で、そろそろ本気で戦うとしよう―――――観客たちや花魁どもの安否が気になるからのう……」


 そういってトルネはつけている王冠を外した。

 中から出てきたのは寝癖のついた癖のある金色の髪の毛。

 そして王冠を地面へと捨てた。

 青年はそれを見て


「ふふふ……その程度で何か変わるのかい?」

「その程度? どの程度だい?」


 トルネが言い終わる前に、青年は瓦礫の中に埋もれていた。

 え? いったい何が?

 そう思っていると、先ほどトルネが捨てた王冠が降ってきた。

 そしてそれは、地面に深くめり込んだ――――なんて表現が生易しいほどの威力で地を貫いた。


「俺様の王冠は特別製でな。 被っている間は基本的に精神力と体力を奪っていく。 そしてそれは重みとなってさらに身体に負担をかけて、修行の効果が得られるんだよ。 神がかつて生成したとされている20個の宝具の1つ。 付加王冠マスタークラウン。 この効果から解放される時こそ、俺様が真に力を発揮するときさ。 感謝しろよ、青二才。 かつて暗黒教団のボスと戦うときにさえ解放しなかった枷を今はずして正々堂々と戦ってやるんだからな――――」



 そういうと再び青年は上空にいた。

 正確には打ち上げられた。

 そしてそこからみるみるボロボロになっていく。

 覆っていたフードが無くなりかけた時、青年はいよいよ反撃した。


「いい気になるなよ、トルネ。 お前だけが宝具を持っているんじゃないぞ」


 そういって青年は、懐中時計を出した。

 そして青年は言う。


「永遠の虚無へといざなえ! 夢幻時計ナイトメア!」


 するとトルネの動きがスローモーションのように遅く見えた。

 いいや、そのほかのものまでもが限りなく止まって見える。

 そして青年は笑みを俺に見せて言う。


「ほう……さすがは、神魔法に選ばれた異世界の天才少年。 この魔法に対して耐性があるのは君くらいなものでしょうね―――――この宝具:夢幻時計ナイトメアは、世界中の時を操る魔法。 それはこの世界の理を受けたものには全員あらがえない運命。 つまりはこの世界の人間は絶対この魔法には逆らうことができない。 だが異世界に生きる君にならあらがえる。 何故ならこの世界の人間じゃないからね。 だけど残念。 今の君は抜け殻。 残念ながら何もできない。 そこで大人しく、仲間がやられる様子を見ていなよ」


そういってトルネに、ポセイドンにしたように手を差し込もうとしている青年。


「やめろぉぉぉぉぉ!」


 そう叫ぶも、虚しく響き、身体は動かせなかった。

 このままでは、目の前にいる仲間を殺されてしまう。

 誰か……誰か……


「誰か、助けて!」


 その瞬間、瓦礫が崩れて、何者かが飛び出した。

 そして青年を蹴り飛ばし、地にひれ伏させる。

 瓦礫の出た衝撃の煙で辺りが良く見えずに、その正体にはすぐに気が付かなかった。

 だけど、声を聞いた瞬間に確信した。


「お前……俺の親を泣かせるとはいい度胸してんな―――――」


 そうこれは紛れもなくあの子の声。

 ジンライだ。

 煙が晴れた時、その姿を見ることができた。

 先ほどまで小さかった姿は、今はなく―――――目の前にいるのは、ライやボルと変わらないくらいの身長の半獣人がいた。

 いつの間にか服装は、ライとボルを足して2で割ったような格好になっていた。

 具体的な事を言うのならば、甲冑と黒っぽい羽織をしている。


「ジンライ? その姿はどうしたの?」


 そう俺が聞くと、ジンライは無言のままに俺の方へ来てそして


「うわーい! これで翔琉ママを抱っこできたりおんぶできるよ!」


 と言うや否や、俺を持ち上げた。

 正直甲冑が当たって痛い。


「じゃなくて、どうやってその姿になったんだい?」


 俺はジンライに持ち上げられたままで変わらずに話を進めようとする。

 だが、その答えが返ってくる前に、謎の青年が立ちあがった。


「あはははは……ごめんごめん。 忘れてたよ。 君はこの世界において、天野翔琉と同様にイレギュラーな存在だったね。 ジンライくん」


 するとジンライは俺を下ろして、青年をにらむ。


「お前なんかに、名前呼ばれたくないんだけどな……それよりも、よくもおじさんやおばさんたちを……そして、親にまで手を出したお前を俺は許さない」

「許さない? だから何ができるのさ。 君が使えるのはせいぜい、天野翔琉譲りの、魔法耐性くらいだろ?」

「それはどうかな……これを見て同じことが言えるかな!!!!」


 そういうと、ジンライの身体が金色に光始めた。

 そしてジンライは言う。

 あの魔法の名前を―――――


「神魔法:光天神、発動!」


 すると背から翼、そして全身を覆う光がより強度を増した。


「馬鹿な! アマデウスは私の手中にあるのだぞ! 何故その魔法が使える!」


 珍しく動揺した青年に対して、ジンライは、あっかんべーとしている。

 子供かよ……


「ふむ……これはどうやら分が悪いようですね。 仕方がないので、撤退させていただきます。 ごきげんよう」


 青年は飛び去ろうとしたが、ジンライがそれを防ぐ。


「逃さない! 光の魔法:神之憤怒!」


 攻撃は確かに直撃したが、そのまま奴は空へと消えて行ってしまった。


「一体なんだったんだあいつは?」


 そういうジンライ。

 俺は青年の正体をおそらく知ってしまった。

 のちにそれは語るとしよう。

 今は――――


「ジンライ。 時間を元に戻す魔法と、全員の体力と傷を癒す魔法を町全体にかけてくれ」

「え? 翔琉ママでも、俺初めてだからできるかな?」

「大丈夫! 神魔法を使えるなら、出来るはずだよ、お願い」

「うーんと、じゃあ、うまくいったらママを抱っこしていい?」

「……いいよ」

「OK! じゃあ、始めるね!」


 そして町の上へ飛ぶジンライ。

 空中で止まり、呪文を唱え始める。

 1度に2つ以上の魔法を同時に放つ際には、詠唱する必要があるのだ。


「天を覆う神々よ、我は英知を授かりし者。古き盟約に従い願う。願いは力となりて、守護する力とならぬ! 光の魔法:魔法拒否せいやくくずし、光の魔法:光治!」


 こうして、俺たちは水の大魔導士を救うことができた。

 何より、ジンライが神魔法を扱えるようになったのは嬉しいことだが、残念なことに俺の中にいたアマデウスと魔法の力は謎の青年に奪われてしまった。

 つまりは、俺には戦う力が残っていないということだ。

 まあ、人格が変わればいいのだろうが、人格を完全に制御するなんてことは俺にはできない。

 いずれ向き合うことになる日は来るだろうが、今はその時ではない気がする。

 今は休むとしよう。

 今日は何だか疲れた―――――

 


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