セカンドステージ31:思わぬ再会と―
水の大魔導士の神殿に到着した俺達は、いよいよリュウを救出するために侵入するのだが、どうにも空気が悪い。
と言うのも、先ほどのグランとウルのいざこざがあってから、あの二人の雰囲気が悪い。
険悪すぎる。
「この状態で行くのは何だか嫌だな~」
そういうのは勿論俺こと天野翔琉である。
だって嫌なものは嫌だもん。
「ママ~この雰囲気嫌だから、何とかして!」
と泣きそうな顔で言うのは、この場にいる中で一番幼く、そして俺の血を受け継ぐ少年であるジンライである。
流石俺の血筋! 同じこと言うのね!
「まあ、とにかくリュウを救出することが最優先だからな!」
と一括をいれるのは中間の立場であるライである。
普段はリュウと仲が悪いが、こういう時にはやはりきちんとしてくれる。
しかしながら、そんな声もむなしく2人には届かない。
「ほっといていこうぜ、翔琉」
そう言ってボルは先に神殿の中へと入って行った。
それに続くかのように、みんなも続々と神殿内へと入っていく。
しかしながらここで唯一、この神殿への侵入を拒んだものがいた。
それは、この中で一番幼い少年であるジンライだった。
「ここ……なんだか嫌な気配がする……嫌だ……入りたくない……」
その様子に気づいたのは、俺とボルとライの3人だけだった。
他の2人は喧嘩をしながら奥へと進んで行ってしまった。
ジンライの様子に気が付いた俺とボルとライは引き返してきた。
「どうした? ジンライ? 何が嫌なんだ?」
そうボルが尋ねるが、ジンライは、嫌だ……嫌だ……とつぶやきながら、小刻みに震えている。
いったい何が嫌だというのか? それは現状では俺たちには分からないものであるが、次の瞬間に聞こえたグランとウルの悲鳴がなんとなく俺たちにわからせてくれた気がする。
「なんだ? 今の悲鳴は!」
そういって俺たちは急いで、神殿の内部へと入っていく。
すると、そこにはタコの触手によってとらえられていた2人がいた。
「なんだこの触手は!?」
「落ち着いてください! これは、この神殿を乗っ取ったものの身体の一部です!」
見た感じがとてもヌメついているので、正直触りたくない。
「ごめん、グラン! 俺、そういうヌルヌルしたものNGです」
と俺はついつい言いかけてしまうが、ギリギリのところで思いとどまり
「よし! 助けるか……」
そういって仕方なく仕方なく、仕方なく助けた。
想像以上にヌメヌメしていて、正直言って気持ち悪い。
「何なんだよ! このヌメヌメした触手! 気持ち悪いな!」
グラン達を助けた俺は、ヌメヌメしたのをそれとなくグランの服で拭った(グランはそれに気づいて、めっちゃ怒りました)後、神殿の奥へと進んでいく。
ジンライはいまだにおびえているが、それは先ほどの触手を見たからなのかな?
まあ、それはさておき、リュウはどこにいるんだろう?
なんてことを考えていると、ばったりと偶然にもリュウと道で遭遇した。
笑顔でこちらに手を振っている。
「お! リュウ! 久しぶり! ……?! え??? なんでいるの?」
「やっぱり助けに来てくれたね翔琉! あたしの王子様! 白馬にのってないのが残念だけど……」
うん。この感じはリュウだな。
「おいおい! なんでリュウがこんなところに? いやそもそも、捕まっているんじゃないのか?」
ライが驚きを隠せない表情で聞くが、リュウはケロッとした顔で
「いやいや、だってあんな雑魚いタコ野郎なんかに、あたしがひれ伏してやってると思ってるわけ?」
と言う。
すいません……確かに、あんまし心配してなかったかも……
「師匠! 御無事で!」
とウルはリュウの元へ行く。
リュウはウルの頭を撫でながら笑顔で
「お~愛弟子! 心配かけたね。ちゃんと翔琉たちを連れて来てくれて、ありがとう!」
まるで子犬をあやしているかのように、リュウはウルに接している。
「ごめんリュウ! 今はのほほんとしている暇はないんだ。 実は……」
とこれまでの経緯を急いで話した。
「そう……ロギウスを倒すためには、この神殿にある水の魂記憶が必要なのね」
「そうなんだ! で、その場所って言うのが……」
「探す必要ないわよ。。だって持ってるもんそれ」
「「え?」」
そう全員がきょとんとする中、リュウは服の中から書物を取り出した。
「これが水の魂記憶よ! あのタコ野郎の目を盗んではこれを探し回っていたの。アニオンに前に神殿の書物が読みたいって頼まれていたから、ここから出る前についでに探しといてあげようと思ってね」
流石としか言いようがねえな。
さあ、こんなところからおさらばしましょ! とリュウが神殿の出口へ向かおうとしたとき、謎の触手が道をふさいだ。
「これは! さっきのとは色が違うが、触手!」
ライが触手に向かって攻撃しかけた時、リュウが突然声を張り上げて
「ライ! ダメ! その触手は強力な毒の塊よ! むやみに攻撃したら、この場のみんなが危険よ!」
と言われたので、攻撃を中止した。
「また毒かよ……」
とボルが自身の苦い経験を思い出したかのように、顔を曇らせる。
確かにボルにはシャドウとの戦闘によって瀕死になったほどの経験があるので、毒はあまり好ましくないのも確かであろう。
「でも、毒ならリュウが浄化できるんじゃないか?」
そういってライはリュウを見るが、リュウは首を横に振り
「あたし自身の魔力が、ここ最近で激しく消耗しちゃったから、自分にかけている分しかもう無いの。だから、この場にいる中で強い浄化作用を持った魔法となると……」
「「翔琉しかいないな」」
そういって一斉にこっちを見た。
え~……やるの? あのヌメヌメした触手に?
じんましん出てきそうなんだけど……
「しょうがないな……ほら、光属性の魔法だ」
手から光球が飛び出して、触手にあたると、触手は消滅した。
水属性と劣らずに、浄化の力があるとされている光属性はどうやらあの触手にも十分通用する様だ。
まあ、だけどあんまり魔法でも触りたくないな。
「ヌヒュヒュヒュヒュ……見つけましたよ、天野翔琉……」
と突然天井から声がした。
ばっと上を見上げると、そこには顔は良く見えないが、何やら人影がある。
「誰だ!」
と言う風に俺が声を返すと、その何者かはべちゃっと言う奇妙な音とともに着地した。
その、べちゃっと言う音はなんだったのかと言えば、そいつの姿を見て分かった。
何故なら、タコの触手がうねうねとその男の足から出ていたからだ。
と言うことは、先ほどの触手や、リュウの監禁?そして、ロギウスの仲間である男……ポセイドンの可能性が浮上した。
否、それしか考えられない。
「ヌヒュヒュヒュヒュ……花嫁が自由すぎて結婚式や披露宴が出来ないし、逃げ回るし何事かと思って来てみれば……これはこれは、驚いた。大魔導士の皆さんに、子供に、元暗黒賢者に……そして、天野翔琉がこんなところにいるだなんて、俺様はなんて好都合なんだろうか」
分かった! この話し方で分かった! こいつは俺の苦手の類な生物だ!
「いやいや、そんなあからさまに嫌そうな顔しないでよ天野翔琉。 これからもっとひどい目に合わせるんだから取っておいてよその時までにその顔はさ」
「んーとね、まず初めに名前を名乗っていただかないとこちらも対処しかねますので名乗れタコ」
「タコだなんて、俺様を愚弄するな! 見ろ俺様の顔を! イケメンだろ?」
「うーんと、聞こえなかったのかな? それとも頭までタコ墨で満たされてるの? 聞いてた? 名前名乗れって言っております」
「お前な……目上の人間に対して丁寧語とか尊敬語とか使う意識をしているだけ褒めてやるが、使い方がおかしいし、何よりけなしてるよな? 俺様の事を……このポセイドン様を……」
ようやく名乗りやがったよ、あいつ。
というか、自分でイケメンとか言ってる時点で、色々と終わってやがる。
「じゃあ、他の皆さんには退場願うかな!」
そういってポセイドンが、何やら合図を出すと、俺とリュウとジンライ以外のみんながこの場から消えてしまった。
「お前! 何をした!」
と俺はポセイドンに声を浴びせる。
ポセイドンは、独特な笑い方と、下種にも劣る笑い顔をして
「ん? この神殿から追い出したってだけ、そして送られた場所は、この町の中央にある広場。そこには時限亡者たちがうじゃうじゃいるから、今頃戦闘中かもね……まあ、今はそれより俺様には疑問が一つあるんだよね―――」
とおもむろにジンライをにらみつける。
ジンライはびくっとなって、半泣きで俺の背に隠れた。
そしてポセイドンはその様子を見て、口を開く。
「俺様の魔法は海魔法。あらゆる生物の全ての始まりをもたらした母なる海と同等の力を操る俺様の魔法は、空間魔法と等しいものである……が、何故その子供には効かない? いやまだ、大魔導士たちなら分かるが、そんな年端もいかぬ童に何故、俺様の魔法が無効化された?」
笑顔の中にも若干苛立ちが見られる。
その答えに答えたのはリュウである。
「あなたの魔法は確かに強力だけどね、知っていれば対処できるし、強い光属性の魔法を扱えるものなら魔法自体がそうそう効かないわ、それすら知らないなんてタコの脳味噌ね」
くすっと笑うリュウ。
やっぱり怖いな……
「ふん! ならば何故そんな子供が光属性の強力な魔法なんか使えるのか、疑問だな。それはもはや潜在的な力であろう。事実、その子供は魔法をまだ使えないみたいだしな」
ならば怖くはないと、ポセイドンは俺たちに向かって襲い掛かってきたのであった。




