セカンドステージ29:勝負の結果
ギャグの高いセンスを見せつけたシャドウ。
俺は思わず笑ってしまった。もちろん、心の奥底でだが。
だが残念ながら、俺は面白いと感じても、煉にとってはくだらなかったようで、ピクリとも笑わなかった。
むしろ、別の事に興味が言っているようだった。
「ねえねえ~そんなくだらないギャグよりさ~、ちょっと実験してみたいことがあるんだけど、試してみない? 一応、実験好きなんでしょ? 貴様?」
そういってまたまた変なポーズをとる煉。
いったい何を考えているんだ?
そんな風に思いながらも、先ほどのギャグの受けなかった具合から、やや赤面している風にみられる。
「実験とな? それはいったい何をするのかのう?」
とそんな中でも、声を張り話すシャドウ。
そして、再びビシッと怪しげなポーズを決める煉は
「え? そんなの決まってるじゃん! ロギウス倒そうぜ!」
え? 最近忘れかけていた当初の目的を突然言い始めたよあの子。
ちなみに、だいぶ前の事なので、ここでロギウスについて注釈すると、今回のラスボス……と言う風に言えばいいかな? もっと具体的に言えば、仲間の1人であるディルの肉体を奪ったうえで、アマデウスの神魔法の大半を奪った張本人にして、かつて神に逆らった歴史的大犯罪者でもある。
こいつを倒せば世界は救われる―――そういう、ありがちで完全なフラグ要素でありご都合主義なまで、そういう風に今回は成り立っていてほしいと思う。
だからこそ、今そいつの元へ行くために、倒し方と奴のいる場所へ行くために、神殿を巡っているのだが……
「ふん! 何を言うかと思えば、我の主を倒すだなんて、そんなことは今のお前等では出来はせぬぞ」
一気に完全に不機嫌になってしまったシャドウに対して、上機嫌な煉は笑いながら
「え~? なんで無理なのかな? 結界があるから? んなもん俺様の魔法で消し去れるよ? ディルの身体を乗っ取ってるから? んなもん、消せばいいだけでしょ? 奴の魂を。ほら、条件満たしてるじゃん!」
「それを、我々(・・)がさせると思っているのか?」
「じゃあ、邪魔者もいっぺんに消し去って、この世界をきれいにしましょうか! 楽しいよ! 漂白剤ぶちまけたみたいで☆」
「何を分からぬことを……貴様は、やはり研究材料としては危険すぎるな。ここでその存在を抹消させてやるわい」
「え~? なんで俺様が消されるとかそういう風に表現されなきゃいけないのかな? 普通に消えるのはお前だよ。気持ち悪い顔しやがって、見てるだけで吐き気がするっての。お前はさゴ……」
と煉が言いかけたところで、シャドウは襲い掛かってきた。身体から無数の槍を出し、その周りを黒い球体が飛び交い、煉に向かってそれらが何億と言う数になって、襲い掛かる。
黒い空が余計に黒々しく、まがまがしく覆っている。
「貴様はここで消えろ! 冥界魔法:処刑演舞壱式! 永遠に槍に刺され、最期には黒き塊の中へと消えてしまえ!」
そうシャドウが言い切る前に、すでに億の槍は、煉に向かって襲い掛かっているが、億にも及ぶ無数の槍は、煉に触れる直前に姿を消している。
「ふん! 貴様の消去魔法は確かに、無敵だろうが、だが制限はあるはずだ。先ほどの話が正しければ、消耗が激しいはず……我の億にも及ぶ槍をすべて防ぎきるのは難しいだろう!」
はっはっは~と、シャドウの高笑いが響くが、そんなことを気にもせずに、煉は余裕の顔をしている。
「そんな攻撃程度なら、余裕のよっちゃんで防ぎきれちゃうよん! ざまあみやがれ、三下」
カチーンっと、頭に来たシャドウは億に億をかけて、兆にも及ぶ槍を出して攻撃を始める。その光景はもはや、ブラックホールの中にいるといわんばかりの圧倒的な数で、辺り一面が黒々と染められてしまった。
「我に対して、そこまで言う男は、ロギウスを含めても、お主だけじゃ。だからこそ、貴様を塵にして、消し去ってくれる! 永遠に消えるがいい! 天野翔琉とともにな!」
その声が響くと同時に、あれほどの槍の大群は、まるでそこに何もなかったのかというくらい、見事に消されていた。そして、その何もなくなった空間にこだましたのは、煉の声だった。
「消去魔法:始終……。兆の槍を、この世界から消し去った……さあて、次は君の番だね。シャドウ……」
流石にシャドウもすぐには言葉が出なかった。
いや、むしろ声を必死に絞り出そうとしたが、あまりの早業と、騒然とする出来事が重なってしまって、思った以上に反応が遅れてしまっているのだろう。
圧倒的な力の差……まさか、ここまでの相手だったとは、誰が想像できただろうか。
ロギウスの配下の中でも、1・2を争うほどの、戦闘技術と知識を持つシャドウは、今自分が置かれている状況を悟ることができたのは、煉が次の魔法を発動する直前だった。
「我の負けじゃ……見事なり……」
そういって、煉の放った消去魔法:始終を受けて、シャドウはこの世からもあの世からも永遠に消されることになった。
永遠の無、無すら無い場所……そんな場所に飛ばされたのかもしれない。
だが確かめようがない。
消された人間の行方などは、同じく消されてみないと知りえないのだから―――
「さってと! じゃあ、残った力でこの場所を元に戻しといてやるかなん」
そういって、煉はいつものように怪しげなポーズをとって、手を体の前へと構えるが、その前に結界から飛び出てきたアマデウスの気配に気づいて、魔法を唱えるのを止めた。
「翔琉……じゃなくて、煉だな?」
とアマデウスは煉に言う。
煉は頷き、笑顔で
「アマデウスちゃんじゃん! 久しぶり? あの修行の時以来だね! こうして表に出てこれるきっかけを作ってくれたのは、アマデウスちゃんだし、その点は感謝してるよその点はその点はその点だけはね?」
「何が言いたいんだ?」
流石のアマデウスの顔にも緊張が走っているのが分かる。
そんなアマデウスをよそに、煉はいつも通り自己中心的に答える。
「だってん! お前が翔琉の深層心理の中に俺様がいるなんて話をしなかったら、俺様はきっと飛び出てこれ無かったんだぜ? 翔琉は、俺様の存在自体を毛嫌いして、俺様を意識的に封じ込めているからな。お前が余計な事を修業中に口走って、翔琉を深層心理の部分に至るまで傷つけてしまったから、俺様を封じていた翔琉の心の檻は完全に解き放たれてしまったってわけなんだよな。分かるか? お前のせいなんだよ。お前が俺様を呼び起こした張本人なんだぜ? ランプの魔人とか、神龍とかなら願いを聞いてやるってのがセオリーだが、俺様はあいにく、そんな輩なんかじゃないもんでね。俺様の思うがままに動かせてもらうんだぜ。だから、あの修行の時も、本当は全員ぶっ殺してミンチにして細切れにして豚にでも食わせてやろうと思ったのに……あのディルが、俺様を封じ込めやがったからな。そして、力を今の10分の1にまで封印しやがって全くもって、迷惑だけど。まあ、おかげで世界を滅ぼせなくてよかったぜ」
そういい終わって、煉は地面に向かって魔法を放つ。
その魔法が地面にあたると、跡形もなくなっていた森や、花々、そしてえぐられた土地に至るまでが全て治っていた。
「消去魔法:嫌事忘楽記憶残。自然が傷つけられた事実を概念ごと消去した。これでもう安心。やっぴ! らっぴぃ! まじハッピー!」
そういって煉が喜んでいると、アマデウスが煉に向かって神妙に言う。
「煉……お前は、翔琉からいずれ引き離せばならない。だが、今はその時ではない。いずれチャンスが来れば、お前を翔琉から引き離してやる。別の肉体を与えて、自由にしてやることを約束する。だからお願いだ。翔琉を追い詰めないでやってくれ! あいつはお前の存在にずっと苦しんできた。周りからの視線や声におびえて暮らしてきたんだ。だから、もう翔琉を解放してやってくれ!」
そうアマデウスが言うが、煉は首を横に振る。
「残念ながら、魅力的ではあるけど、その相談は断ってやろう!」
ビシッとポーズを決めて言う。
そして、アマデウスに返答させる隙を与えずに話を続ける。
「俺様がいなくなったら、翔琉は不安や後悔とかの負の感情に押しつぶされるぜ。今まで、翔琉が何事にも平然と淡々と行えたのは、その感情を全部俺様に押し付けていたからさ。負の感情を怒りに変換して、俺様にエサを与えてくれていたご主人様に、何度嫌がられようが、俺様はあいつが俺様にエサを与えるのを止めるその日までにずっと、翔琉の中で生き続けるんだ。それが、一度もらった飯のために報いる恩義ってもんだ。それさえも出来なくなったんなら、この世界はくだらないものなんだぜ。分かったかい? アマデウスちゃん。じゃあ、後はよろしくな!」
そういって、煉の意識は消え、俺の身体は地上まで落下していく。
それをアマデウスが魔法で受け止めて、俺の寝顔を見て笑いながら言う。
「全く、お前といると飽きないな……翔琉……」