セカンドステージ27:天野翔琉が怒ると……
天野翔琉、つまり俺は人生であまり怒ったことがない。
怒りに感情を任せて、何でも感情のままに行動すると、いいことなんて起きやしないからだ。だから俺は、いつも喜怒哀楽で言うと、喜と哀楽だけを残そうとして行動してきた。
だが、俺は所詮一般的な人間であるので、そんな事が必ずしもできるはずもない。怒りという感情は必ずしも、心の中に存在する。
しかしながら、その感情を心の奥深くにしまい込んで、深層心理に閉じ込めてきた。それが集まってできたものは、次第に感情を持つようになった。
その負の塊ともいえる存在は、小学6年生の時に突然現れた。
きっかけは、同級生とのいざこざだった。深層心理において怒りの感情がこみ上げた時に、俺の表層心理と深層心理の人格は入れ替わると言うことが、この時分かった。
分かったという結果から、ふまえて考察するならば、俺は2重人格であることと、深層心理の性格は明るくてぶっ飛んだ性格で、名前は煉というらしい。
この煉のさらに特徴を言うならば、身体能力が異常に高いことである(俺とは、大違いだ)
そして、俺の怒りを向けた対象のみを攻撃する。
つまりは、記憶を共有しているのだ。だから、小学6年生に起きたこともちゃんと覚えている。
その、いざこざがあった友達が謝るまで、机を振り回しながら追いかけたのだ。
もちろん先生たちは止めたのだが、大人の力を持ってしても完全に止めることは出来なかった。
そして、精神科の先生によってこの存在は、催眠療法で封じられていたのだが、この世界に来てから、度重なる精神的な疲労などから、その封印が解けてしまったようで、この間の修業にて完全に枷が外れてしまった。だから、本気で怒った際には、煉は現れてしまうのである。
今回の件は、先ほどのアマデウスの発言と、最後の決め手はシャドウの発言が引き金である。
その結果、煉は現れた。
煉の使う魔法は、消去魔法……通常は、命を削る魔法であるのだが、煉の場合は命の代わりに、怒りの感情、つまりは煉にとってのエネルギーが消費されていく。
怒りの感情が全て無くなると、煉は再び眠りにつき、俺に交代するという画期的なシステムなのだ。
「参上しますは、天野翔琉の別人格! 煉だよん! よろしくにゃん!」
そういって、煉は横ピースをして、舌をぺろりと出してシャドウを見る。
シャドウはポカンとしながら
「え? なんでこの状況でふざけてんだ? 天野翔琉」
そのシャドウに向かって、煉はにこやかに答える。
「あっははは。俺様が出てきた時点で、てめーは終ってんだよ。クズが……」
そういって、ビシッと決めポーズを決める煉。
俺の身体で、そんな恥ずかしいポーズ取るの止めて!
「ボル。僕たちの周りに3重で結界を張っておいてくれ」
「分かった」
そういって、ボルたちは自身の周りに結界を張る。
その光景を見ていた、シャドウは
「おいおい、お前らこの状況説明しろよ」
と言う。すると、結界が張り終えた段階で、アマデウスはシャドウに言う。
「その煉は、翔琉の中に存在するもう一人の翔琉。そいつの戦闘力は、神魔法使用時の翔琉と同等に強い。そして何より、翔琉と違って容赦がないから、マジでやばい奴だから……ご愁傷様」
そういい終わると、ボルは結界の密度を上げたため、姿さえ見えなくなってしまった。
「猟奇的な少年が、俺様どれ様? サマーバケーション! 煉君なのですよー!」
と煉が、ギニュー特選隊みたいなポーズをとる。
やめろ! 人の身体で遊ぶのやめろ!
「やれやれ、変人とは思っていたけど、ここまでとはね。良い実験材料になってくれて有難いけどね」
そういって、シャドウはふざけたポーズをとっている煉(肉体は俺)を指をさす。
すると、煉はその指を見て
「人に指さすのはいけないんですよ~。そんな悪い子にはお仕置きだ!」
煉は眼にもとまらぬ速さで、シャドウの背後に回って殴った。
シャドウは突然起きたことに驚きを隠せなかった。
「いやいや、恐れ入った。まさか、魔法も使わずに光速に近い速度で動けるなんて……普通の人間ならば、身体が塵となっているぞ。いや~実に面白い研究材料だ」
「いや~ん。そんなに褒めないでよ。恥ずかしくって恥ずかしくって……お前を消したくなるじゃないか!」
そういって、煉が指を鳴らすと、シャドウの先ほど煉に向けていた指がある腕が消えた。
「なるほど……これは魔法か……。消去魔法とは、またまた強力な魔法を使うな。普通、完全消去させるには、対象者の命を代償にするくらいの危険な魔法なんだが……」
「そんなのは、お構いなしさ! さあ、お祭りフィーバーが始まるぜ。視聴者どもは、見逃すなよ」
シャドウが殺気に気付いたおかげで、いち早く回避することができた。そして、シャドウは回避した場所を見てさらに、驚愕した。
空間ごとえぐり取られた場所が存在していたからだ。
それは、先ほどまでシャドウがいた場所である。
シャドウの形にきれいにえぐり取られた空間があった。
「よけちゃ、だめだよ~ん」
そういって、煉はほっぺを手で覆いながら体をくねらせる。
だから、やめろって! 俺の身体で遊ぶな!
シャドウは、その魔法の威力に驚きのあまり、笑みを浮かべていた。
「ありえない、ありえない、ありえない……この空間を消去させるなんて、次元が違いすぎる! こんなの完全消去のレベルを超えて、概念消去と言うレベルだぞ! 過去に一度だけあった時は、1000万人の生贄のもとで、ようやく発現したというのに……流石は、アマデウスに選ばれた少年であるということか」
「きゃうーん! べた褒めとかやめてっちょ! 照れて苦しくて、あなたを今すぐ消し去りたくなるワン」
そういって、煉の攻撃が再びシャドウを襲い始めるのであった。