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MW元   作者: ただっち
オールドア編
5/69

ステージ5:温暖帝

風呂上りは牛乳派のただっちです。

 水の大魔導士リュウが仲間に加わった。

 ドラゴンクエス○などでは、仲間に加わった際には、それに対応したBGMが流れるが、現在聞こえるのは水の流れる音だけである。


「じゃあ、よろしくね――――あれ? 翔琉ちゃん、怪我してるわね。 治してあげる」

「え? あ、本当だ。 肩から血が出てる」


 ディルはそっと俺の肩に手を置いて、治癒魔法を発動させる。

 すると見る見るうちに、傷が消えていった。


「おお! すごいな。 ありがとう、リュウ」


 と俺が笑顔で言うと、リュウは頬を赤めて


「いやいや、仲間なんだし、当然でしょ」


 と言って、下を向いてもじもじとしている。

 照れてるのかな?

 そう思っていたのだが、次に彼女が発したセリフで俺は彼女がそのような行動をとっていた理由が分かった。


「翔琉ちゃん……あの……その……翔琉ちゃんが、あたしを倒したんだから、あたし傷物になっちゃったの……だから、責任もって幸せにしてね」


 そういってリュウは俺に対してキスを迫ってきた。

 え?え?えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!


 ライがそれを遮り、俺とリュウを引き離し


「何勝手に翔琉にキス迫ろうとしてんだ? この雌豚がああああ! 翔琉は俺のもんだああ!!!」


 とまあ戦闘モードになってしまったのだ。

 しかし、雌豚なんて表現は昼ドラくらいでしか聞いたことがないフレーズだ。

 まさか現実で聞くことになろうとは――――

 あと、俺はお前の物ではないぞ、ライ。


「雌豚とは何よ。 翔琉ちゃんは、あたしのものよ! あんなに攻撃受けたらもう傷物になっちゃってお嫁にもらってもらうしかないじゃないの……キャッ」


 ぽっと頬を赤めリュウは言う。

 この人も勘違いをしているようだが、俺は君らの物じゃないよ……


「はああああ?さっき回復しただろ?自分で。傷なんか残ってねえだろ?」

「さっきから何よ。ライ。あんた人間嫌いでしょ?だったら人間である翔琉ちゃんは、あたしがもらったっていいじゃないの。」

「いいや!翔琉は俺の予言の運命の人だ。俺の子供を作ってもらうんだ!俺と結婚するんだ!!!」

「はあ?だったらあたしと子供作ってもらうわよ。こう、翔琉ちゃんの……」


 痴話喧嘩が白熱したところで、ディルが2人を止めるべく雷を落とした。

 酷い――――


「落ち着きなさい2人とも。 それよりも、まずは残りの大魔導士の捜索の方が優先でしょ?翔琉のためにも」


 と言いディルが叱りつけると、あっさりと2人は大人しくなった。

 よかった――――また戦闘になるとかは、勘弁してほしいもんな。


「翔琉の……」

「ため……」


 2人は俺の名前が出たから止まったようだ。

 何とも複雑な気分だ。

 あと、2人とも俺の名前言った後に、ニヤつくのやめてくれ――――


「ひとまず、仲裁してくれて、ディルありがとう」


 と俺はディルに言った。

 ディルは、やや頬を赤めて


「いやいや、当然の事しただけよ」


 と言う。

 その光景を見ていたライとリュウは、ディルの方を睨めつけて


「あいつ翔琉にお礼言われた……」

「あたしも、もっと言われたいわよ……」


 とぶつぶつと呟いている。

 この先、このメンバーで大丈夫かな?


「じゃあリュウ。 大魔導士の捜索を頼んでもいいかしら」


 ディルがそういったがリュウは反応しないので、俺にアイコンタクトしてきた。


 ”この状況何とかしろ”


 やれやれだぜ――――


「リュウ、頼む。 大魔導士たちを探してくれないか? 俺のために」


 そう俺がリュウに真剣な面持おももちでいうと、リュウはこっちに満面の笑みを見せ


「翔琉ちゃんの頼みならいいわよ~、仕方がないな~♪ 手伝ってあーげる♪」


 と言い、抱き付いてきた。

 その光景に、ディルは不機嫌、ライは不貞腐れている。

 本当にこの状況はカオスすぎるだろ―――――


「水の魔法:探査人道らくどう!」


 そうするとリュウの前に水の水晶が現れた。

 水の魔法:探査人道は、発動者の魔法の力に応じた能力を発揮する魔法で、発動と同時に水晶が現れる。

 この水晶に、探している人物がどこにいるか、断片的に映るらしいのだ。

 勿論その精度は魔法の力に応じて、高くなる。

 7人の大魔導士の1人であるリュウが、この魔法を使うという事は精度的には、ほぼ100%を発揮することが出来る。


「見~つけた」


 リュウは水晶の中を覗こうとしたが、全て見終わる前に水晶は壊れてしまった。


「む……誰かに妨害されちゃったけど、まあいいや。 闇の大魔導士ホルブの居場所が分かったわよ」

 

 誰かに妨害された、という言葉が聞こえたが―――気のせいだろうか?



「闇の大魔導士ホルブの居場所を突き止めたけど……この場所は……地獄炎瑠ヘルズフォールだわ!」

「「地獄炎瑠だと!」」


 ライとディルは驚く。


「そこは一体何があるんだ?」


 俺は聞く。

 するとリュウは、不安そうな顔をして答えた。


「地獄炎瑠はマグマの湖と呼ばれている火山地帯で、ドラゴン族が住む地帯よ。 激しいマグマは行く手を塞ぎ、いまだに龍族以外はうかつに近づくことが出来ない危険な地帯なのよ。 確か、炎の大魔導士エンは龍族の血筋だったはずだから、ホルブを訪ねる前に、エンの方へ行った方がいいわね。 エンにしか攻略できないと思うし……。 まずはエンを仲間に加えましょう。 じゃなければ、闇の大魔導士ホルブには接触できないわ。 彼の居場所は分かっているの?」

「炎の大魔導士エンはこの泉から3kmほどにある温泉地帯、別名:温暖帝ホットフォレストにいるぜ」


 ライはそう答えた。

 ライは何やらあれをやってほしそうな目でこっちを向いていたのでゴロゴロしてロリライにした。

 ロリライとは、ライが幼児化した姿の通称である(命名したのは俺だ)。

 やっぱりいつみてもかわいい。

 中身は酷いけど―――――


「きゃー! なにこれ? ライなの? 超かわいいんですけど!」


 とリュウが触った瞬間に元の姿に戻ってしまった。


「翔琉以外が触ったら、ライは元に戻っちゃうのよ」


 とディルはリュウに言った。


「ふん! 何よ。 まあいいわ。 あたしには翔琉ちゃんがいるんだし!」


 とリュウが不敵な笑みをしたので、ライはムッとなって言い返す。


「は!翔琉と一晩も共にしたことないくせに。 俺なんか昨日腕枕してもらったぜ。」

「きいい!!! 悔しい――――じゃあ、今日はあたしもやってもらおうかしらふふふ」


 はあ……大変だな俺。

 なんかほんと……もういいや。

 割り切ろう――――


「じゃあ、行くわよ!」


 とディルは不機嫌そうに上空に飛ぶ。

 ため息をつきながら続いて俺が、そのあとにライ、リュウと続くのだった。

 道中ふと思ったのだが、リュウはあの場所を離れてもよかったのだろうか?

 何故ならば、あの癒しの泉は、世界各地からけが人や病人が、リュウの治療を求めてやってきているのではないだろうか?

 それなのに、彼女自身がいなければ、治療はままならないのではないだろうか?

 その質問をリュウ本人にしたところ


「あー、大丈夫大丈夫。 あたしの弟子たち優秀だから、あたし1人いなくなってもなんら問題ないから。 一本の矢では脆くても、三本集まれば強靭になるって言うのと同じよ」


 と、あっさりと飄々と言ったのである。

 まあ、大丈夫ならいいのだけど――――



 温暖帝……この場所は、この世界における有名な観光名所で、傷を癒すことのできる温泉や、魔法の力を一時的に上昇させる温泉もあるという、魔法の温泉がある場所である。

 という事は勿論人も多いはずなのであるが、今回は何故か観光客の姿さえ見当たらなかった。

 その理由を、ディルに聞いたところ


「ああ、それはだって今、私たちの貸し切り状態にしてあるからね」


 とあっさりと自白した。

 と言うか、いつの間にそんな状態にしておいたんだ?

 でもそんなに簡単に貸し切りになんて――――あ、そういえば有名人だったもんね、ディル……。



 温泉地帯と言うことで大魔導士捜索前に温泉にて体力を回復させることにした。

 男湯、女湯そして混浴―――まあ、完全に貸し切り状態であるので、温泉を管理する人や、お店の方以外はいない状況下なので、俺とライとディル―――そしてリュウ以外は、温泉にいない状況である。

 ざっと見た感じでは、東京ドームほどの広さの温泉なのであるが、そんな大浴場すら、俺の場合はライと2人きりであるので、若干寂しさすら感じる。


【男湯サイド】


 まあ、そんな事を言っても仕方がないので、風呂に入ろう。

 物思いに耽っていると、いつの間にかロリ姿になっていたライが後ろにいた。


「翔琉!背中流してやるよ!」


 そういって爪を立てている。

 いやいや、それで引っかかれたら、血が流れ出て、洗い流す予定の背中が、真っ赤になると思うんだけど……


「いや、いいかな……痛そうだし―――」

「ああ、爪は使わないよ。 えっとね―――これ使う!」


 と、タオルを取り出した。

 よかった―――それなら血は出ないぞ。

 でも、タオルどこに隠してたんだ?


「まあ、それなら頼もうかな」

「おう! 任せてくれ! 身体の隅々まで、舐めまわすように、きれいさっぱり洗い流してやるぜ……えへへへ」


 なんか……頼みたくなくなってきたな――――


 その後、宣言通り隅々まで洗われてしまった。

 頭のてっぺんから、指の間に至るまで……洗い流されている間はひたすらライが不敵な笑みを浮かべているので、この後何をされてしまうのかと、内心ビクビクしていたが、結果として身体を洗っていてくれただけで収まった。

 その後、お礼にと思って、俺もライの身体を洗ってあげた。

 隅々とな――――

 ライは脇腹が弱いらしく、その部分を洗い流そうとすると、手で抱えてしまうのである。

 無性にイタズラしてみたくなったので、その点を集中して洗ってあげたところ、ライは悶絶寸前まで行ってしまって、そろそろヤバいな、と思って洗うのを止めたところ


「そんなテクニック……卑怯すぎるだろ――――」


 と言って、その場に転げてしまった。

 俺は、ははっ、と笑いながら


「だって、他人の身体洗いなれてるし。 良く弟の世話してたから――――」


 俺は不意に弟の翼の事を思い出してしまい、言葉はそこで止まってしまった。

 無言のまま、浴槽に向かって、そのまま俺は湯につかった。


「翼……か。 元気かな?」


 天野翼あまのつばさ、俺の弟である。

 現在は幼稚園児で、人懐っこい性格の笑顔が可愛い子だ。

 母と父より、俺に懐いていて、よく”お兄ちゃん、遊ぼ‼”と言ってくる。

 俺は勉強の合間に、弟と遊んであげるのが日課で、最近だとゲームをして遊んだかな。


「あいつ、俺がいないからって、泣いてないだろうな? 早く帰ってやらんとな――――」


 そんな感じに物思いに耽っていると、ライがお湯に向かって


「ダイビング‼」


 と言いながら、飛び込んできた。

 思いっきり鼻に水が入ってしまったようで、急いで浮き上がってきて、ゲホゲホとむせている。

 そうなるのなら、始めからやるなよ――――


「翔琉‼ 顔が暗いぞ‼ 元気に明るく、ポジティブに、だよ‼」

「ん? ああ、ごめんごめん。 ちょっと考え事してた。 顔暗かった?」

「うん、そういう風に見えたぞ‼ また元の世界の事考えてたのか?」

「まあね……あっちに、残してきた弟の事が気がかりでな……」

「翔琉……兄弟いたんだ……」

「ん? ライにもいるの?」


 と聞いたのだが、すっかりそっぽを向かれてしまった。

 どうしたんだろう?


「あの……ライ? どうした?」

「うん? ああ、すまない。 ちょっと思い出したことがあってな……」

「それで、さっきの質問の事なんだけど――――」

「ああ、いるよ。 兄が1人な……」

「へえ……ライのお兄さんだから、きっと優しい――――」

「あいつはそんなんじゃない‼」


 珍しく声を荒らげたライに俺は驚いた。

 この姿の時に、こんなに威圧感が出るだなんて、驚きだ。

 はっ、となって我に返ったライは、慌てて


「ごめん……突然、大きな声を出してしまって――――」


 と、謝ってくれた。

 しかし、ライとそのお兄さんには、何があったのだろうか?

 気になったが、今は聞くのはやめておこう。

 いずれ、彼から話してくれるときが来るだろう――――


【女湯サイド】


 お湯につかる2人の魔導士の姿がそこにはあった。

 それは、まるで天女のようで――――ん?

 語り部が違うのではないかって?

 そりゃあ、女湯に翔琉が来れるはずないのだから、必然的に語れないでしょうに―――というわけで、女湯の状況を語るのは私、ディルが担当します。

 でも、流石に自分たちの事を天女って言うのは言い過ぎだね。

 言ってて流石にひいてしまったわ。

 では改めまして――――女湯には、世にも美しき2人の美女の姿がありました。

 私、ディルと、水の大魔導士リュウである。


「はあ……生き返るわ~」


 と私は風呂に浸かり、そして浴場に響き渡るように言った。

 まあ、どうせ2人きりでいるのだから、少しくらい大きな声を出しても誰も聞こえないって。

 せいぜい、一緒にお風呂に入っているリュウにしか聞こえないわ。


「ほんとね~最近、急患多かったから、ゆっくり休めてなかったから、身体の疲れがお湯に溶けていく感覚だわ~」


 とリュウも同様に、温泉を満喫していた。

 まあ、人がいない状況と言うのは、自由が効いていいものだ。

 私が人払いをする理由と言うのは、そういった理由でもある。

 大人数がいる場合では、自由と言うものが制限されてしまう。

 特に私やリュウみたいに、周りに顔を知られているような人間は、周りの目を気にしながら生活しなきゃいけない。

 悪評とかたてられたりするのは嫌だもの―――


「そういえばディル。 あんた翔琉ちゃんの事をどう思ってんの?」


 と急に恋バナを展開しようとしているリュウに私は驚き戸惑ってしまった。

 

「え? 何よ急に‼ え? え? 何を言っているんだね急に―――私は別に翔琉の事なんて――――」

「あんた……翔琉ちゃんの事好きでしょ」

「何言ってんのよ。 そんなことあるわけ無いじゃない。 私は別に―――」

「好きじゃなかったらここまでしないでしょ? 監視者としての使命とか色々と理由付けは出来るけど、あんだけ他者とのコミュニティケーション能力低いあんたが、その辺で困ってる人間助けるなんてありえないでしょ?」


 なんとも酷い見方をされていたものだ―――

 まあ、他人とのコミュニケーション能力が低いことは認めましょう。

 急に知らない人に話しかけられたりすると、頭の中が真っ白になってしまうし―――


「まあ、そうなのかもしれないわね。 案外と言うか、がっつりと翔琉の事が好きかもしれない。 翔琉といるとホッとするし、なにより心が温まる感じになるのよね。 これまで冷淡に仕事人間だった私にとっては、心が温まるって事はそうそう無かったことだし―――」

「恋なんてそんなもんよ。 一緒にいて、心が安らげるんなら、それが恋でしょ」

「まさに―――経験者は語る、だね」

「そりゃあ、長い人生を生きているからね……」

「ふーん……」

「なによ? 何か文句あるの?」

「いや……なんか、おばさんみたいな物の言い方したからさ……」

「誰がおばさんよ‼ まだぴっちぴちの4523歳よ」

「ぴっちぴちって言い方がもはや……って言うか、おばさんじゃなくてババアじゃねえかよ‼」

「ババア言うな!」


 そういって、浴場で私たちの魔法抜きの2人の喧嘩が幕を開けたのであった―――――



【再び男湯サイド】


 さてさて、俺こと天野翔琉は、現在ライとお風呂に入っている。

 先ほどは暗い雰囲気であったのだが、どうにか明るくしようと、2人で仲良くお風呂の中で遊んでいるところだ。


「翔琉! あそこの滑り台のあるお風呂に行ーこう♪」

「うん。 いいよ」


 てちてちてちと浴場をロリライは走る。

 かなりのスピードが出ている。


「ライ! 走ると転ぶよ」


 と言い終わる前に、ロリライは転んだ。

 頭からゴチン!と、床にたたきつけられた。

 俺は慌てて駆け寄った。

 ライは、がばっと起き上がって辺りを見回した後に


「うわーん‼ 痛いよ――――うわ―――ん――――――」


 泣いてしまった。

 大魔導士が、大声で泣きわめいている。

 本当にこの姿では、精神まで幼児化しているようだ。


「うわーん、翔琉~! 俺の頭、痛いの痛いの飛んでけ、して~うわ――ん――――」

「痛いの痛いの飛んでけって、この世界にもあるんだ……」


 俺は泣いているロリライを抱きかかえて、滑り台のお風呂の前に設置してあった、ベンチに座って、取りあえず彼の言うとおりに


「痛いの痛いの飛んでけ~」


 といい頭を撫でてあげた。

 撫で撫で、優しく優しく頭を撫でていると、髭をぴんと立てて、嬉しそうに尻尾を動かして、どうにか泣き止んでくれた。


「これで大丈夫? ライ」

「うん‼ ありがとう、ありがとう、もう一度だけ言わせて、ありがとうございます!」

「何故そんなに、丁寧口調なんだ?」

「御馳走様でした」

「おい、今何に対して”御馳走様でした”って言ったんだ?」

「えへへへへへ……」

「物欲しそうな目で俺を見るな‼ 欲情してんじゃねーよ‼」

「え? だって、ここ浴場だぜ?」

「誰がうまいこと言えって言った?」


 取りあえず、この危険な虎を俺から、引き離して―――引き離し――――引き――――


「離れろよ‼」


 がっつりと、身体を掴んでしまっていてとてもじゃないが、人間の腕力では剥せそうにない。


「え~嫌だ~。 このまま一生離れない、離さない……」

「怖いこと言うな‼」


 やれやれ、と俺は滑り台のある風呂―――ではなく、40℃以上の高温の温泉へと赴き、ライが捕まったまま、そのまま湯船へと入った。

 それも勢いよく――――


「熱――――――――――い‼」


 そういってライは慌てて、俺の身体から離れて、湯船から上がって水風呂へと急いで飛び込んでいった。


「やっぱり、思った通り。 ライは寒さには強いけど、熱さには弱いんだね。 さっき入っていた風呂は温度が比較的低い温度だったし、滑り台のある風呂も温度的に低いからね~」

「くっそ‼ 翔琉、やりやがったな‼」


 そういって再び熱いお風呂へと飛び込むのだが、すぐに耐えきれなくなって、再び水風呂へと戻って行ったのであった―――――


【再び女湯サイド】


 女同士の喧嘩は、案外すぐ決着が着いた。

 勿論肉弾戦も少々行ったよ。

 例えば、ボクシングのような激しいラッシュを繰り広げたり、ムエタイのように激しい蹴り合いを行ったり――――可愛らしい女子の喧嘩である。

 その喧嘩を止めたのは、1つの看板に書いてあったある文章であった。

 

”この先露天風呂、美肌効果あり”


 美肌―――と言う単語を見てしまった私たちは、喧嘩なんかくだらないことはピタリと止めて、そそくさと露天風呂に向かったのであった。


 夕暮れ時に、癒しの泉のある森が、淡い赤色に反射していて、幻想的な演出となっている景色を、この露天風呂では堪能することが出来た。

 更にそこには、先ほどまで喧嘩をしていた女子の姿なんて無く、絶世の美女たちが湯浴びをする、芸術的な状況である。


「ディル……あんたさ……」


 リュウは再び恋バナを始めようとしたので、喧嘩に発展させないためにも


「翔琉の話しならもういいわよ……」


 と念を押す。


「……え~いいじゃないの、別に。 減るもんじゃないでしょ」

「別の話ししましょ。 そんな翔琉翔琉で攻められても、困るわ」

「……じゃあ、聞くけどなんであんたさ、人とコミュニケーションとるの苦手なの?」


 またまた聞かれたくないような事を、平気でふるな~。

 

「ああ……まあそれならいいか――――それはね、昔友達に裏切られて死にかけたことがあってね。 信頼していた相手だったからこそ、ショックが大きくて……そのせいであんまし信用しなくなったのよ、他人を――――」

「え? 知らなかった、そんな事―――裏切りなんて……許せないわね……」

「まあ、プライベートな問題だったから、誰にも話していなかったからね。 それにこれは、私が解決しなければならないのよ……いずれね」

「そっか―――――でも、なんかあったら言いなさいよ。 裸の付き合いをした仲なんだから――――」

「ええ――――ありがとうリュウ―――」

「どういたしましてディル。 でも、所詮は恋敵同士だからね。 翔琉ちゃんを譲る気は無いから―――」

「私も、譲る気ないからね―――リュウ」


 ふふふっと可愛らしく、私たちは笑っている。

 こうして天野翔琉を巡る恋物語は、より一層と深く燃え上がっていく―――ような予感がした瞬間であった。


「そろそろ上がる?」


 と私はリュウに尋ねたが、リュウはニヤリと不敵な笑みを浮かべて


「いいえ――――どうせそろそれあれの時間だし、このまま、いましょ!」


 ”あれの時間”と言うのは――――ああ、そうか。

 あれか――――


「そうね―――きっとあの二人も驚くだろうし―――――」


【三度男湯サイド】


 そろそろ、俺は風呂から上がろうとしていた。

 ロリライの襲撃を躱す為に、ずっと熱いお湯に浸かっていたせいか、頭がくらくらしている。

 のぼせてしまったか?――――しかしながら、浴槽から出た時に、俺はロリライに拘束されてしまう。


「翔琉、捕まえた♪ もう、ずっと待ってたんだから~」

「いや、ラブコメ風に言うな―――と言うか、待っていたというか待ち構えていたというのが正しいだろう? ずっとこっち監視してたくせに」


 湯船につかっている間、ライは俺の事を監視していた。

 滑り台のある風呂では滑り台の上から、噴水のある風呂では噴水の上から、何処にいてもどんな状況下でも、常にこちらを見ていた。

 まさに、監視カメラのようである。


「翔琉~露天風呂行こうぜ~♪」

「露天風呂? そんなのここにあったのか?」

「うん、あるよ。 眺めもいいし―――最高らしいよ♪」

「うーん……でも、俺そろそろ上がろうと――――」

「俺と行くの嫌だ?」


 ウルウル、とライは目をときめかせながら俺に訴える。

 よこしまな考えがありそうだし、何より怪しすぎる――――が、どうしても俺はこの目に弱いようでついつい


「いいよ」


 と言ってしまったのであった――――



 俺はライに連れられて、露天風呂へと向かった。

 連れられて―――と言うより、連行された、と言うのが正しいのであろう。

 抱っこ抱っこといって、ライは駄々をこね始めるが、勿論断った。

 しかし、例のあの目をされてしまい


「しょうがないな・・」


 と再び抱っこして露天風呂に向かう――――あの目に弱いことをすでに見抜かれてしまったようである。

 よくよくライを見るとしっぽが立っている。

 確か猫はうれしい時はしっぽを立てると聞いたことがあるが、ネコ科の虎も同様なのかな?

 そして露天風呂へと到着した。

 現在は夕暮れ時だったようで、とても幻想的で美しい世界が広がっていた。

 そしてそこに、2人の天女―――いやいや、不気味に笑ってこちらを向いている悪魔のような女性が2人いた。

 と言うか、ディルとリュウであった。


「翔琉ちゃん、おいでやす、露天風呂へ♡」


 とリュウが近づいてくる。

 ゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。

 怖い―――


「風呂では暴れちゃだめよ、翔琉」


 とディルは言う。

 彼女も同様に、ゆっくりとゆっくりと近づいてくる。


「なんで2人がここに?」


 と俺はライを抱っこした状態で聞く。

 いやほんとはライをおろそうとしたんだけど、しがみついて離れてくれないのだ。

 ライは首を横に振っている。

 どうやら、ライも知らなかった事らしい。

 すると、ふふっとリュウは笑いながら


「ここの温泉はね、18時以降に、露天風呂はすべて混浴になるのよ。 知らなかったでしょ」


 とリュウは言う。

 なるほど、混浴か。

 危うく、女風呂へ入ってしまって、覗きの現行犯になってしまったのかと思った。


「翔琉戻ろ……俺、翔琉と2人がいい……」


 ライは、抱っこからおりて、急いで俺の手を引っ張って、男湯へ戻ろうとしたが手遅れだった。

 男湯の入口は水の柱に覆われていた。

 しまった、とライはその場にうずくまってしまう。


「残念ね、ライ。 確かに、男湯の方に戻られたらあたしたちは追えなくなるけど――――逃がさないわよ翔琉ちゃん。さあ、一緒にお風呂に入りましょ。」


 リュウの魔法によってふさがれている以上、仕方がない。

 俺は蹲っているライを連れて、湯船に浸かったのであった――――



 この後2時間くらいずっと風呂にいた。

 悪魔達に監禁された、といっても過言ではない。

 ひたすら口説いてくるリュウと、俺の身体をじっと見ているディル。

 目が赤く光り元の姿に戻って、女性陣を完全に警戒しているライ。

 一歩間違えれば、戦闘に発展してしまいそうな空間である。

 こんな状態が2時間も続いたのだ。

 風呂場で安らぐ予定が、全然安らげなかった。

 ようやく風呂場から出ることができた。

 監禁されていた状態から、ようやく解放されたのだ――――

 風呂場から上がり、着替えているとロリライが


「翔琉! 俺、牛乳飲みたい!」


 と言い始めた。

 風呂上がりの定番である牛乳を進めてくるあたり、この世界の人も風呂上がりには、牛乳とか、コーヒー牛乳とか、フルーツ牛乳とかを飲むのだろうか?


「いいね―――あ、でも俺お金持ってないや」

「じゃあ、俺がおごるから一緒に飲もうよ―――」


 おごってくれるというのでせっかくだからもらっておこう。

 浴衣に着替え、番台のおばちゃん(種族は妖精?)に金を払い、牛乳を2本貰い、そして俺はそれを1つ、一気飲みした。

 腰に手を当てて、よく漫画とかで見るポーズをとって――――

 しばらくして、女子2人が風呂から出てきた。


「ああ、気持ちよかったねディル、あのエステ最高だったね」

「うん。 身体の毒素が全部取り除かれたって感じだね♪―――――あ、翔琉達もう上がってたんだ。 ごめん、待った?」


 と俺とライに気が付いたディル達は、こちらに駆け寄ってきた。

 よく見れば、2人とも浴衣を着ているのだが、その―――


「2人共、浴衣はだけてるよ―――」


 俺はそういって、目をそらした。

 2人は慌てて、はだけたところを直して、もういいよ、と声をかけた。

 一応、紳士でありたいので、こういった時は目をつむってしまうのが、天野翔琉と言う男なのである。

 風呂場で監禁されてしまった時には、きちんと彼女たちはタオルを身体に巻いていたので、特に目をそらす必要はなかったのである(まあ、景色ばかりを見ていたので、あまりディル達を見ていなかったというのが正しい)。


「もう~、翔琉ちゃんったら、エッチね」

「うわーエッチ~」


 もう、何というかすっかり仲良しになってしまった2人が若干ウザったくなってきたところで、俺とライは今晩寝る部屋に移動し始めたのであった―――


 この温泉にある宿は現在完全貸し切り状態であるので、どの部屋で寝ても問題はないのだが、しかしながら1人で寝るというのも何やら心細い気がするではないか。

 どうせなら、みんなで寝た方が楽しい――――という事で、一番高い宿の一番いい部屋に4人まとまって寝ることになった。

 ちなみに、この部屋はディルの顔パスで無料になった―――というか、この貸し切り自体もディルのおかげで無料で行ってもらったのである。

 どんな事をしたら、こういうことが出来るのか、ぜひ聞いてみたいものである。

 その夜の事――――寝る場所で審議が行われた結果、俺は今回一人だけ布団で寝るため畳の上で寝ることになった。

 他の人はみんなベットである。

 まさかの一人ぼっち……。

 一人寂しく眠りへとついたのだが―――――しかし、夜中に目が覚めるとロリライが布団の上、両腕にはディルとリュウが片腕ずつ腕枕にしていた。

 結局この状態になるのか――――と思い、少し心が温まりながら、再び眠りについたのであった―――――

次回は炎の大魔導士エンが登場。

そして、翔琉の魔法について触れます。

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