セカンドステージ24:樹の中で
樹の中は幻想的でとてもきれい……なんてことは無かった。
中は、洗濯物で埋もれて、ゴミがたまっているいわゆる、一人暮らしの部屋だな~って感じである。
「ごめん、ごめん。かなり散らかってるけど、ゆっくりして」
そういいながら、入口近くにあった服をせっせと片付けながら、ムラサメは俺たちに言う。
これは本当に酷いな……
なんか、カビとかキノコみたいなものが、ムラサメの持ってる服に見えるんだけど、どんだけ部屋散らかしてたんだ? この人。
そう思ってみていると、ボルとジンライがくしゃみを連発した。
鼻水ずるずる。
そうか、ここほこりっぽいから、鼻のいい虎の獣人である2人にとってはここきついのか。
このままにしておくと、ライも来た時にひどいことになりそうだな―――よし!
「しょうがない。片付けるのを手伝うよ。片づけしている間は、ボルとジンライは外にいた方がいいよ。鼻水止まらなくなっちゃうから」
と俺が言うと、2人は鼻を押さえながら、外へと駆け足で出ていった。
「じゃあ、ムラサメさん。片付け始めましょうか!」
と俺が言うと、ムラサメはぎょっとしたような顔でこちらを向いて
「え? いやいや、そんな。マジで大丈夫なんで。勘弁してもらってもいいですか?」
と言う。
あれ? なんでこんな反応? 感謝されるのかと思いきや、拒絶ですか?
「いやいや、だってここ片付けないと、ボルもジンライも大変だろうし……まあ、片づけ得意なんで、任せて下さいよ!」
と俺が足元にある、洗濯物を拾い上げると、ぽろっとそこから本が落ちた。
「あれ? これなんだろう?」
と拾い上げようとすると、ムラサメが持っていた洗濯物をその場で落として、すさまじい速度で俺の足元に落ちている本を拾い
「ちょっと、勘弁してって言ったじゃないですか!」
と本を慌てて後ろに隠す。
いったい何を隠したんだ?
「あの……その本は?……」
「本? 本なんか持ってないけど……! 見間違いじゃないのかな?」
ムラサメは明らかに動揺している。
目がたどたどしいし、何よりそのいかにも隠してます的な顔を見れば明らかだ。
俺がムラサメの隠している本を見ようと回り込もうとすると、ムラサメはその動きにあわせて体を反らして本を後ろに隠す。
いったい何を持っているんだ?
「じゃあ、分かりましたよ。じゃあ、俺は……」
あっちの方片付けますから―――と、先ほどムラサメが落とした服を拾おうとしたとき、再びムラサメはぎょっとして、俺が拾い上げようとした服を慌てて拾って
「だから! いいですって! やめてくださいよ!」
なんか、そういわれ続けた結果、なんかいじわるしたくなった俺は、ダッシュで一番遠くにある服の元に走って拾い上げた。
すると、またそこから本が落ちた。
今回は、流石にムラサメも間に合わなかったようで、本を奪い取るのが遅れたので俺はそれを目にすることができた。
そのタイトルが、”ディルの夜の秘密”と書いてあって、表紙で明らかに分かるエロ本であった。
……
ポカンとして、ムラサメを見る。
すると、ムラサメは顔を真っ赤にして
「もう! 一回外で待っててください!」
と俺を扉の向こうへと押していった……
家から出されて、すでに3時間。
もうすぐ夜になるかという、夕暮れ時である。
といっても、雲に覆われているこの状況では、大して何も変わりはしないけど……
「翔琉どうしたんだ?」
とポカンとしている俺にボルは話しかけているが、全くと言っていいほど今の俺には返事を返すことすらできないくらい、ショックを受けていた。
先ほどの光景はあまりにも衝撃的過ぎた。
ディルを様づけで呼び、慕っている影の一族の最後の1人、ムラサメ―――
その彼が管理する、別荘に俺たちは来ていた。
別荘内部はきれいなものだと想像していたのだが、想像以上なまでの汚さであった。
ムラサメの脱ぎ散らかした服や、食べ物のゴミなどで溢れていたためである。
このままでは、ボルとジンライ、そして後からここへと向かうライのためにもと、俺は掃除を手伝おうとするのだが―――どうにも、何かを隠しているムラサメにそれを拒否されてしまう。
そんな中でも俺は、強引に掃除を始めようとした結果、ムラサメの隠したかったものが分かった。
それはムラサメの慕うディルのエロ本であった。
あまりの衝撃な光景にいまだに唖然としている。
だってさ……これから変態と戦わなきゃならないのにさ、ここで変態キャラいらないでしょ。
「ママ! あれ見て!」
とジンライが指さす方向には、ライとグランが見えた。
森の奥からこちらに向かって歩いてくる。
ジンライは、ライに向かって飛びつこうと走り出すが、その歩みを急に止める。
そして、ジンライはライたちに向かって突然声を荒らげて
「お前ら、誰だ!」
と言う。
俺ははっとなり、ジンライの方を見るとすでにボルがジンライの前に立っていた。
いつの間にボルは移動したんだ……それより、どういうことだ?
「ジンライ……その人たちは、ライとグランじゃ……ないの?」
と俺はふらふらっとなりながらも、ジンライの方へと歩み寄る。
すると、ジンライが大声で
「ママ! 危ない!」
そういって、ジンライは俺に向かって走って、俺を突き飛ばした。
その瞬間、ジンライの腕から血が出てきた。
かすり傷程度だが、かなり痛そうだ。
どうしようと、考えている間もなく、ボルが俺の方へと吹き飛んできた。
「っ!」
ボルは自身のお腹を押さえている。
どうやら、そこに攻撃をくらったらしい。
俺は、ボルとジンライを後ろに隠し
「お前ら、何者だ!」
と声を荒らげる。
するとライとグランの姿をしたものは、互いに黒い何かになったと思ったら、その黒いものは1つとなった。
その黒い何かは、人間の姿をしてはいるが、何か違う雰囲気だった。
生気がない……というか、生きてはいない。
まるで幽霊みたいだった。
そして、黒い何かはしゃべり始める。
「御初に御目にかかる……我こそは、魂揺籠の長、ロギウス殿下の抱える、部下の1人……影の冥界王シャドウと申すものである」
そういうと、黒々しかった姿は、ようやく人間の色をしたものへと変わっていった。
冥界王シャドウ、その姿はいかにもあの世を統べているかのような服装であった。
黒い甲冑に、ボロボロのマント……そして、何より夥しい骸骨をベルト代わりに巻いていた。
「いったい、何のようですか?」
と俺は神経を尖らせつつ、シャドウに問う。
すると、シャドウはその場にあぐらをかいて座り、ふぅ……と一呼吸おいてからこちらを向いて
「なーに、心配なさるな。我は、主と話でもしようと、この地へと降り立っただけじゃ」
そういうと、近くの花をむしり取って食べ始める。
何故このタイミングで花を食べるんだ?
いやいや、そんな事はおいといて、話しをしにきたって言ったよな……
後ろにいるボルとジンライは、足元にがっつり掴まっている。
その2人の様子をみた、シャドウは眼光を鋭くして
「主らも座れ……さもなくば、ここで喰らうぞ……」
と言う。
威圧感に、圧された2人は大人しくその場に座る。
俺も、とりあえずその場に座って
「話って……何を話すんですか?」
と言って、シャドウの方をじっとみる。
この男は本当にヤバい……
前のメイオウとは、明らかに格が違う……
俺の頬には、一筋の汗が流れ、そのまま地へと落ちていった。
すると、シャドウは突然笑い初めて
「かっかっかっ……そう、緊張するでない。主と話がしたいと言うただけであろう。今はな……」
その今はな……というセリフに恐ろしさを感じた。
その今が次の瞬間に変わってしまうのではないだろうか?
そんな事を考えていると、シャドウは再び口を開き
「話というのはな……」
と言い、一方的にシャドウは語り始めたのであった……