セカンドステージ23:隠匿森
俺はジンライとボルを引き連れて、隠匿森へと向かう。
現在、飛行中である。
なお、現在魔法を修得していないジンライは俺がおんぶしているのだが時々背中を引っかいてくる。
どうやら俺の背中で爪を研いでいるようだ。
痛いから止めて欲しい。
そして、ボルはと言うと、俺が抱っこして引っ付いている状態である。
一連の事で魔法を大量に使用した影響のため、現在魔法が使えない状況であるのだ。
度重なる戦闘に加えて、大人数を一度に異空間へ10秒だけとはいえ送るなど、今日は魔法を使い過ぎている。
そんな疲れているはずの俺が今抱っこしているボルは、何故か俺の胸あたりに顔を押し付けてスリスリしている。
こちょばしいから止めろ。
「翔瑠、あと10kmで目的地の上空に着くぞ」
ボルは俺の胸に顔を当てて言っている。
そのため、声が骨に響く。
怪我治ったばっかりなんだから、止めてくれよ。
「ママ! あれ見て! 森が見えるよ!」
そう言って俺の頭をぺちぺち叩きながら、前方を指差すジンライ。
頭叩かないで!
くらくらするから!
確かに前方に森が見える。
かなりの規模である。
もう少し具体的な森の様子はというと、深い緑をした葉が生い茂る木々があり、中央には雲を突き破っているほどの巨大な樹が立っている。
隠匿なんて字の割には、大いに目立ちすぎてはいないだろうか?
まさかとは思うけど、あの木の上に別荘あるとかそんなオチ?
いやいや、流石にないでしょ。
森の上空に差し掛かろうとしたとき、突然森の中から葉がまるで手裏剣のように飛んできた。
「危ない!」
そう言って俺は、葉をかわして、森の外側の地上に降りる。
俺は2人を下ろして、森を眺める。
「さっきのは何だったんだ?」
と俺はぼそりとつぶやく。
また得体のしれない敵なのか、はたまた何か別の物なのか……
考えても、まとまるはずがない。
そんな中
「とりあえず、先に進むか?」
とボルは腕を組みながら俺の横で森を眺めている。
その言葉は、今の俺にとっては大きいものであった。
確かに……このまま何もしないでいるくらいなら進むべきか……
「そうだね……ライ達がくる前に、厄介ごとなら片付けて起きたいからね……でも、今戦えるのって俺だけなんだよな……」
「そうだな……」
ボルは申し訳なさそうな顔をして俺の方を向く。
ごめんね、責めてるわけじゃないからね。
戦力的なのを確認しただけだからね!
「じゃあ、とりあえず行こうか……」
そう言って俺は森に向かい歩み始める。
その後をジンライとボルがついて来る……
隠匿森の中は、至って普通な森であった。
風が吹くと、葉のかすれる音が聞こえ、虫や鳥の鳴き声が聞こえる。
日の光が無いため、やや薄暗いが至って俺の世界にあるような森と大差は無い。
そんな薄暗い森がどうやら怖かったようで
「ママ……怖いよ……」
そう言って俺の手を強く握ってビクビクしているジンライ。
やっぱりまだ子供であるので、暗いところが怖いんだな……
「これからどうする?」
とボルは聞く。
容姿は幼くとも、本当は大人なのだからこの暗がりでも平気なようだ。
「とりあえず……ディルの別荘探そうか。でも、どこにあるのかな?」
と辺りを見回すと、看板らしきものがあった。
俺はジンライを引っ張りながら、その看板の近くへ行って、覗いてみる。
看板にはこう書いてあった。
“この先、影の一族の地なり。邪な者には死を与えん……“
「影の一族か……」
そう言ってボルは看板を眺めている。
「影の一族って何だ?」
と俺が聞くと、ボルの耳がピクッとなって俺を突き飛ばした。
俺の手を強く握っていたジンライも俺が吹っ飛ぶことによって一緒に吹き飛んでしまった。
突き飛ばされている中でも、どうにかジンライをかばい地面との間に割って入ることができた。
地面に着いたとたんに、俺は何事かと思い、倒れた身を起き上げると、先ほどまで俺のいた場所に、先ほどの葉の手裏剣が刺さっている。
そして、ボルは木の上を見ている。
その目は、いつもの戦いの時に見せる目立った。
俺も、視線を上へ向けるとそこには木の枝の上に立つ、忍者の格好をした人が立っていた。
忍者は俺たちに指を指し
「この森に近く悪は討ち滅ぼす! 早々に立ち去るが良い!」
と言う。すると、ジンライが忍者に向かって
「ママ達のどこが悪んだよ!」
と言う。すると、忍者はクスリと笑い
「他の者は知らぬが、そこの者は完全に悪であろう?」
とボルを指差す。
そして、話しを続けた。
「かつて、この世界を混沌へと誘った暗黒魔法教団。その教団の暗黒賢者の1人……ボルよ……」
それを言われてしまっては反論しようがない。
何故なら事実であるからだ。
そんなことを勿論知らないジンライは忍者にくってかかる。
そんなジンライを見ているボルの心中は複雑であろう。
顔がだんだんと暗くなって来ているボルを、見たくなくて俺は忍者に向かって言う。
「君だってさ、善良な市民である俺たちを襲うなんて、君の方こそ悪人じゃないのかな?」
忍者は、何?と言う。
表情は分からないけど、どうやらムッとしているようだ。
俺は引き続き言う。
「だいたいさ、不意打ちとか卑怯じゃない? そんな卑怯者に悪がどうだの言われたくないし、何より今ので、もし子供が怪我してたら洒落になってないよ? なんなの? 子供襲ってる時点で充分君たちも悪者じゃないのかな?」
うまく挑発に乗ってくれたようで、忍者は顔を隠していたものを取る。
顔は人間の顔ではなくどうやら狼の獣人のようであった。
俺の方を薄暗い中、赤く光目が睨みつける。
「悪人に語られるほど……俺は落ちぶれてねーよ……」
そう言って俺に向かって葉ではなく、金属製の手裏剣を投げてきた。
俺の近くにはジンライがいるため、俺は下手にかわすことが出来ない。
そのため、光の盾を使って攻撃をガードする。
「ほう……お前、ディル様と同じ属性の魔法を扱うのか……」
ディル様? あいつディル様って言ったか?
「お前、ディルの事を知っているのか?」
そう俺が聞くと、忍者の周りの葉が枯れ始めた。
そして、ドスの利いた声で俺に向かって怒鳴る。
「ディルだと……ディル様だろーが! てめぇ、程度が、ディル様を呼び捨てにしてんじゃねーよ!」
その瞬間戦闘が始まるのかと思いきや、俺の服に閉まってあった地図がいきなり輝き始めた。
そして、ポケットからこぼれ落ちて、地図が広がるとそこにディルが映し出された。
その光景を見た忍者は狼狽しながら、地へと降り立ち地図に近寄る。
「おお……ディル様……」
そう忍者が言うと、ディルはため息をつき忍者を睨みつけて
「こらこら、ムラサメ! だめでしょ! こんな事したら」
と言う。そして、映像のディルは話しを続ける。
「また、いきなり襲いかかったんでしょ! そこにいるのは私の弟子よ」
そう言って俺を指差す。
ムラサメと呼ばれている男は俺の方を驚いた顔で見つめる。
ディルはそんなムラサメをよそに、話しを再び続ける。
「それと、ボルは暗黒賢者じゃないわ。今は、連合の魔導士になったから味方よ! 何でもかんでも、昔の情報に踊らされないよに、いつも最新の情報を仕入れておきなさいって言ってるでしょ!」
ビクッとムラサメはなって、はい……と小さく言う。
そして、ディルは俺の方を向いてぺこりとと謝る。
「ごめんね、翔瑠。説明するの忘れてた。おそらく、ここに寄ると思ったから連絡して良かったわ! この地図はね、連絡用の端末でもあるの。だから、今こうして連絡してるんだけど……」
「それは分かったから、で? この人は誰なの? ディル」
そういうとムラサメが俺の方を睨めつけ
「貴様! 様をつけろ様を!」
という。そんなムラサメを睨めつけて黙らせるディル。
映像越しなのに、こんなにも迫力あるのか……
主従関係が成り立っている……怖い……
「えっとね、この人はムラサメ。影の一族最後の1人よ。私の数少ない部下の1人ね。つまりは、あなた達にとっては、味方って事になるわ」
「ふーん……さっき攻撃してきたけどな」
そう俺がムラサメの方をちらっと見ると、ディルが咳払いした。
その咳払いしたのを見たムラサメは、汗が顔から溢れている。
そんなのを気にせず、ディルは話を続ける。
「そして、隠匿森の管理人でもあるわ。ムラサメがいるかぎり、その場所は安全だからゆっくりしてね」
そう言って連絡を切ろうとしているディルを俺は止める。
何? と聞いてきたので
「そっちは今、どこ何だ?」
と聞く。すると、地図が光って
「ここにいるわ」
と言って消えていった。
ディルの消えた地図には、とある別荘の場所が光っていた。
おそらくここにいるのであろう。
トルネのいる、目的地にだいぶ近い場所である。
俺たちと同様、明日神殿に向かうのであろう。
ムラサメは俺たちの方にいつの間にか土下座していた。
そして
「すまなかった!」
と森中に響く声で言う。
それを見ていたジンライは不憫に思ったのか、ジンライのそばで座って、俺の方を見て
「ママ……この人、許して上げて……」
と涙目で言う。
そんな光景を見た俺は
「うん。許します! ムラサメさん! 顔を上げてください!」
と言ってムラサメのそばによる。
それにつられて、ボルも俺のそばに寄ってくる。
「すまぬ! 勘違いとはいえ、俺はひどいことをしようとしていた!」
そう言ってムラサメは顔を上げない。
それどころか、どんどん地面に頭をめり込ませて行ってる。
痛そう……
俺は、そんなムラサメをボル達と協力して起きあがらさせて
「ムラサメさん! それより、別荘の方へ案内して欲しいんですが、いいですか?」
そういうとムラサメは、はっとなり
「すまぬ、すまぬ! 今案内するでな!」
そう言って森の奥へ足を向かわせる。
俺たちはその後をついて行く。
少し歩いたところに、あの巨大な樹の下と思われる場所に着いた。
その木の下には、薬草の匂いがする泉があった。
これが、例の泉であろう。
でも、肝心の別荘と思われる建物が見あたらなかった。
「あのすみません、ディルの別荘ってどこ?」
と俺が聞くと、ムラサメは樹を指差す。
まさか、やっぱりこの上にあるのかな?
そういう風に俺が思っていると、ムラサメが、口を開いた。
「この樹が別荘だよ」
そう言って樹の近くへ行く。
樹が別荘? いったいどういうことなんだ?
そう思っていると、ムラサメが樹の幹に手をふれる。
すると、幹に扉が現れた。その扉の中にムラサメは平然と入っていった。
まさかの樹自体が別荘だとは……
俺とボルとジンライはムラサメの作った扉から、巨大な別荘の中へと入っていったのだった……