セカンドステージ19:vs雷の大魔導士ライ
「ママ、そういえば、パパは?」
そうジンライが言うと、噴水から流れていた雷が止まった。
雷が止まったということは、奥の祈りの間へ行けるということである。
「あの奥に、ライは……パパはいると思うよ」
実際にパパなんて呼ぶのは恥ずかしいものだな……
ママって呼ばれることにもやや抵抗があるが、なんだろうな……
これが親になったって事なのかな?
いや、それとは違って、なんか恥ずかしさを感じる。
「パパの元に急ぐ!」
「え? ああ! ちょっと!」
ジンライは俺の手を引っ張り、噴水の下の入口に走る。
すごい力だ。
「ちょっと! もう……」
そういって、アニオン達も走って後ろについてくる。
雷の大魔導士の神殿における祈りの間に行くまでの道のりは、何というか空気がびりびりしていた。
しびれるというよりかは、ちくちくした。
静電気でも発生しているのだろうか?
そんな中を進んでいくと、広い場所に出た。
どうやら、ここが祈りの間なのだろう。
その証拠にパパ……いや、ライが中央で雷の球体に眠っているのが見えたからだ。
景色的な事を言ってしまえば、先ほどの電気が走ったという感覚は今はない。
そして、周りには雷属性の紋章らしき像が建てられている。
「パパ~!」
そういって、ジンライは球体の方へと走っていく。
「危ない!」
と血相を変えたフルートが叫ぶが、その声は少し遅かった。
すでに、ジンライはライの元へとたどり着いて、球体に触れてしまっていた。
その瞬間、ライの目が開き、球体がはじける。
そこから現れたのは紛れもなく、ライ。
服装が戦用の甲冑姿で、背にはマントを羽織っている(あんまり似合わないな……マントが邪魔だな)。
球体のはじけた衝撃で、ジンライは俺の方へ吹き飛んできた。
俺はそれをどうにかキャッチした。
しかし、その勢いで壁に背中を強く打ち付けてしまった。
「痛っ!」
ついつい声が漏れてしまった。
それを聞いたジンライが、俺の顔を覗き込んで
「ママ、大丈夫?」
その目元には涙が出かかっていた。
自分のせいで傷つけてしまう原因を作ってしまったから……
そのように感じてしまったのではないだろうか。
俺は安心させたたくて、にこりと笑い
「大丈夫だよ」
と言う。
そして、俺は中央にいるライの方へと目線を向けるのであった……
「我……天野翔琉捕獲シ、主ニ差シ出ス……」
こんなロボットみたいなしゃべり方になっちゃって……
可哀想なライ……
ライは、俺が旅をするきっかけになった時にいた初期メンバーだから、ディルの次に付き合いが長い。
そして、たびたび色々な事を話し合っただけあって、どうにもやりずらい……
「パパ!」
そういって、ジンライは再びライの元へ駆け寄ろうとした。
しかしながら、それを俺は後ろからがばっと掴んで止める。
「ママ! 放してよ! パパが! パパが!」
そういって暴れるジンライを俺は必死に抑える。
「今、行ったら危ないんだ! ダメだ!」
そういって俺が必死に抑えている中で、フルートとグランがライに攻撃を仕掛ける。
「悪いな! 我輩たちで、幕引きにさせてもらうぞ!」
「ライ……すぐ、解放してあげるからね!」
2人の表情はとても険しいものになっている。
かつての仲間に攻撃せざる負えない状況と言うは、とても辛いものである。
その気持ちを抑えているのが、痛いほど分かる。
アニオンとエンとディル、そしてボルもすでに後方支援の準備ができているようだ。
しかし、みんなの表情はやはり暗い。
「みんな! パパをいじめないで!」
そう言いながらジンライが、涙目になってそして震えている。
そして、その言葉が全員に一瞬の隙を生んでしまった。
その結果、何が起こったのかと言うと前衛だったグランとフルートがいつの間にかやられていた。
グランは全身が痺れて気絶しているが、フルートはぎりぎり意識が残っているが雷の結界を張られてしまっているので身動きが取れない。
「え? 何が起こったのんだ?」
その問いに答えたのは、俺の中に眠っていたアマデウスだった。
”翔琉! ライは今もうすでに、神魔法:雷天神を発動させている!”
え? でも雷天神を発動したら、雷の音が聞こえるはずだろ?
”よく思い出してみてくれ! 確か雷の音が聞こえなくなるなんて事が前に無かった?”
……!
”そう。その通り! アニオンがこの場所に魔法をかけていたよね?”
確かに……範囲が確か……島全体だっけ?
”その結果として、この島で発動する雷の魔法は無音になる。さっきの噴水の時にも、思い返してみれば音がしなかったでしょ?”
じゃあ、今のライは……
”そうだね。無音で高速移動する神魔法を使っているってことになるね……ふあああ~……”
そういって、アマデウスの声は聞こえなくなった。
寝やがったか? あいつ。
こんな時に……
「ライはいったい何をしたの?」
そうアニオンが周りに尋ねていた。
俺は全員が聞こえるくらいの音を出すために、声を絞り出した。
「気を付けて! ライは神魔法を使っている! そして、今この島の特殊な条件下において、あいつの攻撃は見えても聞こえない魔法になっている!」
そういうとアニオンが俺の方に向かって
「え? なんでそんなことが起きてんのよ!」
と聞いてきた。
流石に、お前のせいだよ! とは言えないので
「アニオンがさっき島全体にかけた魔法が関係しているんだよ!」
と少し柔らかく教えた。
すると倒れているフルートが小声で
「あのバカ女……」
と言っているのが聞こえた。
どうやらアニオンには聞こえていなかったようなので、ここは黙っておこう。
「くそ! じゃあ、今のあいつは無敵に近いって事か……」
エンがそういうとボルがひらめいた顔をして
「アニオンが魔法解けばいい話じゃねえか?」
と言う。
あ……
全員がそう思った。
「今すぐ解くわ! 魔法解……! きゃっ!」
気が付くと、アニオンが壁に大きく叩きつけられていた。
そして、アニオンはそのまま意識を失ってしまう。
何というタイミングなんだ!
「くそ! これじゃあ、あちらの優位性は変わらないじゃないか!」
エンは師匠であるアニオンの元へ近づいて、介抱する。
そんな中、ボルは自身の空間魔法でこの祈りの間を包み込もうとする。
そうすることができれば、いかに速く動くことができても、対処できるからである。
しかしながら、そんなボルの魔法は発動しなかった。
まるで、スタンガンのように後ろからライによって襲われ眠らされてしまった。
「ボル! くそ!」
と俺は言う。
するとジンライはそんな俺の顔を見て
「ママ……パパは、助かるよね?」
と服の袖をぎゅっとつかんで言う。
俺はそんなジンライの頭を撫でて
「今、助けてくるから……大人しく待っててね」
と言って、ジンライに壁の方に寄っているように促す。
そしてエンに
「エン! みんなを頼む! ライとは俺がやる!」
そういってエンに全員の介抱を任せ、俺はライと対峙する。
張り詰めた空気の中、俺は無詠唱での神魔法:光天神・零式を発動し
「さあ、始めようか!」
そういってライとの1対1の戦いが幕を開けたのであった……
「ママはパパと戦うの?」
そう心配そうにエンに尋ねるジンライ。
エンは結界が張られたものを除いて、全員の介抱をしている。その中でエンはジンライの方に笑いかけ
「大丈夫! 君のママは強いから、パパを元の優しいパパに戻そうとしてるんだ。だから、君はそれを見守っててあげなさい」
その言葉には強いものを感じたようで、ジンライは頷き再び俺とライの方へと目を向ける。
「よお! ライ。しばらく見ないうちに、ずいぶんと悪趣味な服なんか着せられちゃって……マントが無かったらカッコいいけどな」
無表情に冷淡にライは俺の言葉にこう返した。
「天野翔琉……貴様ヲ捕獲スルノガ我使命!」
その言葉が言い終わると、ライの姿が消えた。
気が付くと、俺の後ろにいた。
「コレデ終ワリダ……」
そういって俺に重い拳を振り下ろす。
俺はどうにか間一髪のところで、避けることに成功したがこちらが反撃しようとしたときには、再び姿がなかった。
「どこ行った!」
俺は神経を集中させる。
魔法にも使ってる分、余計に疲れる気がした。
頭が痛くなってきて、吐きそうになった。
しかし、そのおかげでライの場所を捕えることができたのだ。
「そこだ!」
と言って、俺は聖邪光纏をライに向けて放つ。
攻撃は当たった。
しかしながら、その当たったのは、ライが雷で作った囮であった。
「残念ダッタナ」
そういって、ライは俺の後ろにいた。
そして再び、俺に対して重い拳を振り下ろす。
今回、魔法を放った反動で俺は避けるタイミングが無くなってしまったために、ガードする他なかった。
しかも、魔法の発動は間に合わない。
瞬間、俺は左腕を前に出してガードした。
そして拳が当たった瞬間に、ぼきっと言う大きな音が鳴って、俺の左腕の骨が折れた。
「っっっっ!!!!!」
俺は声にならない悲鳴を上げた。
そして、ライから距離を取る。
「ママ! 大丈夫!?」
ジンライの声がこだまする。
俺は、やせ我慢して、笑顔をジンライにおくる。
そして無詠唱で光治を発動させて、左腕の傷を治した。
そのおかげで、骨折はすでに完治した。
「大丈夫だからね!」
と言って、左手でジンライにピースをする。
その時、再びライが俺の後ろに回り込んでいるのが、ジンライの瞳に映っているのが見えた。
俺は急いで攻撃をかわして、再び距離を取る。
「いつから、後ろから攻撃するようになったんだよ」
そう俺が言うと、ライは何も言わずに消えた。
またかよ。
いい加減にしろよな……どうせまた後ろなんだろうけど……!
しかしながらこの読みは外れてしまう。
次に奴が狙っていたのは、ジンライだったからだ。
「危ない!」
そう言い切る前に俺はジンライの前にいた。
そして、ライの攻撃からジンライを守るために、自らを盾にした。
今回の攻撃はいささか誤算があった。
先ほどの拳の打撃ではなく、爪を使った攻撃に変わっていたということだ。
その結果どうなったのかと言うと、俺の腹にライの鋭い爪がえぐりこんで、貫通した。
お腹に大きな風穴があいた。
そして、ライが手を引き抜くと、そこから大量の血が出てきた。
「あれ? ……こんなはずじゃ、なかったのにな……」
そのまま俺はその場に倒れる。
意識が朦朧としながらも、周りの様子や声は分かった。
大量に血が出てしまったのを見てしまっていたジンライは、その光景にただただ、茫然と立ち尽くすだけ。
エンのおかげで目を覚ますことができたアニオンと、ボル、そして雷の結界内で身動きが取れないフルートと、皆を介抱しているエンの悲痛な叫び声と、俺の名前を呼ぶディルの声が聞こえた……