セカンドステージ18:生まれた理由
目の前に突然現れた子供の虎の獣人、ジンライ。
この子は俺とライの間にできた子供だというのだ。
は?
「あのさ、ふざけるの止めてもらっていいかな?」
と俺が言うと、その子は顔を膨れさせながら
「ふざけてなんかないよ! 僕は正真正銘、天野翔琉とライの子供だよ!」
いやいやいや……
なんの冗談だ?
おいおい、俺子供いないよ。
これは完全に罠だな!
「よっし、これは罠だね」
俺がボルの方を見ると、ボルはその子に近づいて、その子の匂いを嗅ぎ始めた。
すると、突然驚いた顔をして
「いや! この匂いは……あながち嘘ではなさそうだ!」
と大声で言う。
ボルまでふざけはじめたら、俺泣いちゃうよ。
困ったな……
「なあ……」
とエンがその子供に向かって声をかける。
「なんで、君は翔琉とライの子供だって言えるの? 君はいつ生まれたの?」
そう聞くと、ジンライはにこりと笑って
「僕の生まれは複雑なんだよ」
と言って、ジンライは自身の生まれについて語りはじめた。
小さいながら自分の出生について語れるとは……しっかりしている子だな……
”僕が生まれたのは、今から3日前。
この場所で生まれたんだ。
生まれた時、パパは目が真っ黒になってたけど、もうすぐママ達がここに来るからって言って、姿を消したんだ。
僕はそれ以来、パパにはあっていないけど、ママたちが来たら噴水の前まで一緒に来なさいって言ってた。
でも、僕は何かのカプセルの中に入れられてた。
そこにいれば、ママたちが来た時に開くから迎えに行ってあげなさいってパパが言ってたと思う。
そして、さっきカプセルが開いてようやく外に出られたんだ。
この部屋にある鏡を見てみたら、驚いちゃった。
だって、もうこの姿に成長しているじゃないか。
あのカプセルはどうやら、中にあるものの時間を進めてしまうものらしい
そして、僕はそこで成長してしまった……って事だよ
生まれた経緯について、まだ説明してなかったね。
僕はどうやら、この世界の魔法って力によって生まれたみたいだ
何でも、パパの血とママの血を混ぜて、強烈な雷を与えた結果、僕はできたんだって”
その発言を受けて、ボルは驚きを隠せない。
「まさか……こんなことって……」
その様子を見たエンは、ボルにその理由を聞く。
するとボルは、固く閉ざしかけていた口を開ける。
「俺たちの種族は、子をなす時に2つの方法があるんだ……1つが人間たちと同様に、生殖行動をして子をなす場合。そして、2つ目がこの子が言っていた方法。別名:血之誓。
この方法は雷属性の巨大な力を持つ虎の獣人のみが行うことのできる、古の儀式。普通の虎獣人にはできない手法なんだけど……」
「ライは、雷の大魔導士……雷属性のエキスパート。なるほど……」
そういってエンはボルの話に納得する。
ちょっと待って、え? 意味わからないんだけど。
「ごめん! ボル。 俺まだわかってないんだけど……どういうこと?」
俺の顔は真顔になっていた。
そして、それをみたボルが俺に言う。
「俺たち虎獣人の古の儀式によって生まれた生命。つまりは、翔琉とライの正真正銘の子供ってことだよ」
え? 何言ってんの? え?
この子が、俺とライの子供?
「えっと……どういうことかな?」
と俺が目線を外そうとすると、ボルは俺のそむけている顔をぐいっとボルの方へ向けて
「……これが、現実だ……」
「だとしても、もしそうだとしても……」
と俺がたどたどしく焦りながらボルに言う。
「だとしても……この知能の高さは異常じゃないか?」
そういうとボルは首を左右に振る。
「いいや、あの儀式においてできた子供は、血液を採取した時点での血の持ち主たちの両方の力を受け継ぐことになっている。つまりは、翔琉の知識の分がそのままこの子に宿ったって事だろう……」
え? 俺の力受け継いでるの?
いやいや、それでも知能高すぎない?
「そうだ! 皆さん、僕のママを知りませんか?」
そういって、ジンライはうきうきしている。
「僕、まだ会ったことないから、楽しみなんです!」
そういってエンに聞くと、エンは部屋からこっそり抜け出そうとしている俺に指をさす。
俺はドキッとして、部屋からダッシュで逃げ出す。
そのあとを、ものすごい速さでジンライは追ってくる。
「ママ待って~!」
そういって走ってくるジンライをとうとう引き離すことができずに、俺は例の噴水のある場所へ戻ってしまう。
息を切らして今にも倒れそうにしている俺に、ジンライは抱き付いて
「ママ! なんで逃げるの?」
と大声で言う。
それを聞いていたみんなが俺の方を一斉に見る。
特に、ディルとアニオンの目が怖い。
「どういう状況なの? ちゃんと説明してね……」
そういって、アニオンが指を鳴らしている。
暴力反対……
後から駆けつけてくれた、ボルとエンのおかげで、どうにか納得はしてくれた。
「この子が、翔琉のね……」
そういってフルートはジンライを見る。
ジンライはほっぺを膨らませて
「あんだよ? おばさん」
と言う。
態度悪いな……最初にあった時の、ライを思い出す。
「このガキ……やっちゃっていいのかしら?」
とフルートは俺の方を見て、すごい笑顔だけど、後ろに鬼が見えるくらいの気迫が出てます。
怖い……
「止めなさいよ。子供相手に大人げない」
とアニオンが笑いながら言うのだが、ジンライはアニオンを睨めつけて
「うるせー、ババアだな」
と言う。
その瞬間、アニオンの笑みが消えて、鬼の形相になった。
止めろ止めろ、君たち。
大人げない。
「ストップ、ストップ! 2人共、落ち着いて! 子供の言うことなんだから、気にしちゃダメでしょ?」
とディルが急いで仲裁に入るのだが……
「ブスは黙ってろ」
とジンライが言うと、ディルまでもが豹変してしまった。
「いい加減にしろよガキ……」
え? ディルってこんなになるの?
ちょっと、え? 女性人達、みんな怒ってらっしゃる。
このままでは収拾がつきそうにもなかったので、俺はジンライの頭を叩いた。
「え? ママ何するの?」
とジンライは泣きそうな顔でこちらを見ていた。
泣きたいのはこっちだよ……
「ダメでしょ? 人に向かってそんな態度取ったら」
「え? なんで?」
「なんでじゃない! 人に悪口言うと、いいことなんか無くなるよ!」
「何? 説教してるの?」
「うん。説教してるよ」
やった~と、ジンライは叫ぶ。
どういうことですか? この状況。
「始めて、ママに説教してもらえた。嬉しいな~」
「おいおい、説教してるのに、その態度は無いだろう」
俺はややため息交じりに、続けて話す。
「いい? 他人に悪口は言っちゃだめだよ。それは、悪いことなんだからね? 分かった?」
そういうとジンライは、分かったよママ! と言って俺の足にしがみついてきた。
やれやれ、とんだわんぱくな子供だな……
誰に似たんだか……