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MW元   作者: ただっち
オールドア編
4/69

ステージ4:水の大魔導士リュウ

小さくなったライのイメージは、そうですね・・しま○郎ですかね・・

 急な入り方で申し訳ないが、どうしてこうなってしまったかを俺は説明してほしい。

 何故に虎獣人に求婚されているのだろうか?


「翔琉、俺の嫁になってくれよ‼ 大丈夫、優しくするから――――」

「何を優しくされちゃうんだ? 俺は‼」


 声を荒らげて言う俺なのだが、ライは全く聞こうとしてくれない。

 むしろ幼児体型のまま、どんどん詰め寄って来ている。

 手つきがすごくいやらしい――――変態オヤジか‼

 するとディルが大きな欠伸をして


「体力を回復させたいから今日はこの別荘で休みましょうか」


 と提案した。

 俺は即答で


「うん、そうしよう! もう寝よう! もう寝よう!」


 と言い、寝室の方へダッシュで逃げ込んだ。

 そのままベッドにダイブした。

 勿論白衣と学生服の上を脱いで、ズボンのベルトを外して、半袖に学生服のズボンと言うスタイルである。

 流石にベルトを外さないと、寝心地が悪い。

 今日は色々な事があった(一番最後の出来事が一番疲れた気がする)。

 一刻も早くに元の世界に帰りたいのだが、そのためには7人の大魔導士たちの力を借りなければならない。

 しかし、焦ってしまって失敗してしまうくらいならば、時間を少し掛けてでも安全に確実に成功に向かって歩むべきなのだろう。

 それに慎重に進まなければならないだろう。

 何せ、この世界は俺のいた世界ではないのだから……。

 本当に今日はいろいろあった。

 異世界へ紛れ込んだり、魔法を覚えるために地獄の特訓を行ったり、大魔導士を探しに行くたびに出る羽目になったり――――あと


「翔琉!一緒に寝るぞ」


 その大魔導士に恋を抱かれたことだ・・。

 雷の大魔導士ライ。

 現在は5歳児くらい大きさの虎の獣人、本当の大きさは筋肉むきむきのごつい虎の獣人だ。

 先ほど着込んでいた甲冑などは脱いだようで、現在はパジャマ姿に近い格好になっている。

 ライは俺めがけてベッドにダイブしたが、俺は横に転がりそれを回避した。

 ベッドは勢いよくはずみ、ライはその上でバウンドしている。


「嫌だよ」


 と俺が言うと、ライはバウンドした状態からこちらへとはねながら近づいて


「寝るもん! 一緒に寝るもん!」


 と5歳児のような返しをして、そのまま俺にしがみついてきた。

 あの触り心地の良い毛並みが、先ほどまで学生服の下に隠れていた皮膚にあたる。

 もう、抱き枕にしたいような気持ちよさである。

 だが、いくら身体が5歳児くらいだからと言って、精神まで少し幼すぎやしないか?


「そりゃそうだよ。 今は身体が5歳児なんだから、それに比例して精神年齢も幼くなるはずだよ」


 とディルの声が俺の後ろから聞こえた。

 後ろを振り向くと、俺のベットの上にディルが寝転んでいた。

 いつの間に……

 しかも、下着姿である。

 中学1年生には少し刺激が強すぎる!


「な‼ なんでディルまで‼」


 俺が慌てて目を塞ぐと、ディルは近寄ってきて俺の背中の骨をなぞるかのように触ってきて


「仲間外れは嫌だもん―――――ふふっ」


 と言うのだ。

 えっと、この状況を説明するならば、カオスである、と俺は言うだろう。


 幼児に下着女子って、俺はいったいどういう状況で寝ることになるんだよ‼


 すると突然ライが、ガバっと俺の腕を引っ張って


「翔琉‼ 腕枕して‼」


 と言い、その腕を掴んで丸くなってしまった。

 それを見ていたディルも


「私も私も‼」


 と言って、残っていた腕を持って行ってそのまま頭にひいて寝転んでいる。

 完全に悪乗りである。

 すぐに2人は寝息を立てて寝始めてしまった。

 俺も寝ようとしたのだが―――――ディルの寝息が腕に当たっていてこちょばしいし、ライのよだれが腕に流れていて、ベトベトしていて、気持ち悪い。

 俺もすぐに寝たかったけど、中々寝付けない。

 幼児と下着姿の女の子に、腕枕って……とあるマニアな人ならば喜びそうな光景である。


 やばい、寝れない。

 仕方無い、外に出てみるか


 と思ったが、ライが腕にしがみついて離れない。

 仕方ないので、ディルを起こさないように静かに移動させ、ライが腕にくっついたまま外へと俺は出たのだった――――



 夜の湖、と言うのに訪れるのはこれが人生で初めての事だった。

 月のような惑星が2つ湖畔に映っている。

 風の音と水の波紋―――何というか、落ち着く空間だ。

 湖畔には砂浜があってそこに腰を下ろした。

 それを見上げると、満天の星空。

 都会では見られない光景だろう。

 もし、見れたとしても、プラネタリウムにでも行かない限り、見れないだろう。


「綺麗な景色だな~」


 そういうと、ちょうど流れ星が流れていった――――願い事でもしておけばよかっただろうか。


「みんな、心配してるんだろうな」


 元の世界にいた友達や両親――――そして弟の翼の事を思い浮かべると、心配が次第に募ってきたが、水面を見ていると自然に落ち着いた。

 湖は穏やかで、水面は一点の曇りもなく、透き通った美しい水である。

 心が洗い流されるかのような気分になる。


「そりゃそうだろうぜ、この湖は魔法の湖なんだから」


 そういってライが起きた。

 道理で先ほどから、腕がゴソゴソ揺れているわけだ。

 ふあ~と欠伸をしている。


「ごめん、起こしちゃった?」


 俺はライに尋ねるが


「大丈夫だ! 俺の毛皮はあったかいから外でも中でも変わらねえぜ」


 と言う。

 まあ、それならいいんだけど……とりあえず


「じゃあ、まず腕を放してくれる? 今は寝てるわけじゃないんだったら、腕枕する必要ないもんね」

「おう……それもそうだな」


 と渋々放してくれた。

 渋々かよ‼

 俺の横に、ちょこんと座ったライは、心の奥を見透かすように


「どうした翔琉。 明日からの旅が不安か?」


 とライは聞いてきた。

 俺は空を見上げながら


「うん、少しな。 この世界に来てから魔法やら色々あったから、疲れてるのもあるけどね―――――」

「そうか……だろうな。 誰だって、いきなり違う場所に来たら戸惑ってしまうものだよ。 翔琉は良く、耐えていると思うぜ」


 ライは慰めてくれているのだろう。

 優しいな。

 これで求婚とかしてこなかったら、最高なんだけどね、ははっ……


 少し沈黙が続いた後に、ライが口を開いた。


「俺の身の上話を少ししてもいいか?」


 といい、服を脱いで湖の水に飛び込んだ。

 ネコ科の動物は濡れるのが嫌いだと聞いていたが、獣人の場合は違うのかな?

 それにしても、これから話をするというのに水の中に飛び込んで行ってしまった。

 しかも、全然顔を出さない。

 え?

 まさか、沈んだ?


「ライ?」


 俺は慌ててズボンをまくって、水の中へと入っていく。

 辺りを探したが、見当たらなかった。

 もうだめかと思ったその時、ザバーンと水面にライは上がってきた。

 その勢いで飛んだ水しぶきが俺にかかってしまって、びちゃびちゃになってしまった。

 くそ……心配したんだぞ……それなのに、この仕打ちかよ―――――


「おいおい、ライ……酷いよ。 せっかく心配して探したって言うのに――――」


 と俺が少し顔をムッとさせると、ライは笑いながら


「ははは。 悪い悪い、わざとじゃないから。 別に翔琉の濡れ場が見たかったとかそういうのじゃないから、ははっ」


 なんか今本音が混じってなかった?

 聞かなかったことにして、ここは水に流そう――――水場だし。

 俺は、岸へと戻り、服を乾かす。

 ライはそのまま泳ぎ始めた。

 話はいつ始まるんだろうか――――と思いきや、ライは話し始めた。

 まさか、泳ぎながら話をするとは……

 まあ、背泳ぎだから、クロールや平泳ぎと違って、話しやすいのか。

 

「実はな、俺昔奴隷だったんだ」

「大魔導士なのに?」


 と俺は驚いた。

 奴隷――――いにしえよりある、社会の進歩の中であった非人道的行動の1つである。

 そしてライは泳ぐのを止めて、ざばっと岸に上がってきた。


「大魔導士は今の話しで、昔は違った……」


 と言い、身体を身震いさせて水を振り払う。

 今回は遠くで行ってくれたので、水しぶきはかからなかった。

 ふう、と何かを達成したようないい顔をして、ライは話を続ける


「俺のいた村ではな、獣人迫害があってな・・人間たちは俺たちを奴隷にしていたんだ。 来る日も来る日も労働……休めば鞭で叩かれるそんな日々だった」

「魔法は? 使わなかったの?」

「使わなかったんじゃない。 使えなかったんだ――――特殊な道具を付けられていて魔法を封じられていたんだ」

「そうなんだ……」

「そのあとに、当時の大魔導士が来て俺たちを助けてくれたんだ。 俺は当時は人間が憎くてたまらなかったが、その大魔導士達は好きだったな……そんでその中にいたディルの父親ディンは俺にこういったんだ、『いずれお主には、運命の人物が現れる。そのもの、異世界から来訪せし光の力をもつものなり。 ぬしに安らぎと平穏をもたらす。』と。 ディンさんは、ディルと同じく時空間魔法の使い手――――未来を予知できる男、と呼ばれていた。 つまりはディンさんは俺に予言をしてくれたんだ。 でも、異世界からなんてそうそう人が来るものではない。 だからな翔琉……ディルがお前が異世界から来たって話してくれた時に、お前が運命の人だと思ったんだ。 異世界から迷い込んだ翔琉が――――」

「ディルのお父さんがそんなこと言ってたんだ……なんか考え深い話だね……でも当時嫌いだった人間を好きになるなんて、ある意味運命って皮肉だと俺は考えてしまうよ――――」

「まあな。 今でも一部の人間は嫌いだけど……翔琉!お前は別だ!正式に俺と結婚して子供を作ってくれ……何なら今からでも‼」


 え?

 横を向くと、鼻息荒く元のごつい姿に戻ってしまったライがそこにはいた。

 そのまま俺を押し倒してきた。

 え?えええええちょっとちょっと


「まってライ! 俺、男だから子供作れないしそれに……‼」

「うへへへ……クンクン、うわーい、翔琉の匂いだ~。 さてと、次は翔琉の味を楽しむぜい♪ 取りあえず、首筋でも舐めてから――――」


 そういって舌なめずりをして、いっそうに鼻息を荒くして、ゆっくりと顔を近づけてくる。

 だ……誰か助けて‼

 その願いが叶ったようで、家の方からディルが猛スピードで走ってきて


「お前らはなにやっとんのじゃい‼」


 とディルがライを飛び蹴りした。

 ぐはっ、と言いながらライは湖に、投げ出され、ドボーンと水に落ちた。


「ふう……ディル! 助かったよ。 あと少しで完全に18禁な行為が始まってしまうところだったよ」

「全く……トイレに起きてみればベットから翔琉とライがいなくなっていて、窓から外を見ると怪しげな行為をしてたから、何事かと思ってこっそり外に出てみたら、ライが突然翔琉を押し倒して襲い掛かってるじゃないの。 それは、びっくりだわ‼ 完全に目が覚めたわ‼ ライの奴ったら、いったい何を考えているのやら――――」


 ばしゃーん、と湖から大量の水しぶきが上がり、ライが飛んで現れた。

 飛ぶ、と言うか湖の上に浮かんでいる状態である。


「ディル……俺様の求愛邪魔してんじゃねえよ。 俺は翔琉とこれから子供つくるんだよ……翔琉の身体を厭らしくベロベロ舐めた後に、子作り始めようと思っていたのによぉ……」


 なんかもう暴走状態なようで・・目が赤く輝き周囲に緊張が走るような圧迫感。

 と言うか、本当に危なかったんだな、と痛感した。

 危ない危ない。

 腐女子なら喜びそうな展開ではあるけれども、この物語は、そういう物語じゃねえんだよな――――



「それにライ。 まだ会って1日も満たないのに……そんなことをすると翔琉に嫌われてしまうよ。 そんなことしたら、運命の人に逃げられちゃうんじゃないのかい?」

 

 とライを落ち着かせるように、宥めるように、彼女は言うのであった。

 そうディルが言った後に、ふっと赤々しい目が消え、いつもの青色の目の色になった。


「そそそそ……そうだな。 嫌われたら、元も子も無いし、それに相思相愛じゃなきゃ、意味がねえもんな‼ 危ない危ない」


 とライは上空から降りてきた。

 危ない危ない、じゃねえよ。

 危ない通り越して、自主規制に入らなきゃいけなくなるとだぞ。

 ライはじっと俺を見つめていたようで、俺の背筋に氷のような寒さが走った。


「ふう……危うくこの辺の土地一帯が消えてしまうところだったわ。 せっかくの別荘が台無しになってしまうとこだったわ」


 とディルは言う。

 そりゃあ、世界でもトップクラスの戦闘力を誇る魔導士が、暴れたらただでは済まないだろうな――――

 ここに来てどっと疲れが来たようで


「なんだか、疲れた。 寝る……か……な――――」


 と俺はその場で眠りについてしまった。

 眠りにつくというよりかは、気を失ったという表現が正しいのかもしれない。

 後から聞いた話、その後ベットまでライが俺を運んだらしいのだが……あいつ俺に何もしてないだろうな?



 次の日、俺たちは次の目的地に向かう事になった。

 昨日は本当にカオスだったな……

 外に出ると、すでにディルとライが準備を終えて待っていた。


「リュウがいるのは癒しの泉にある古城だよ。 彼女はそこで、人々の治療を行っているのよ」


 とディルがいい、じゃあ出発しようか、と昨日のように空中浮遊の魔法を使う。

 そして俺、ライと続いてディルの後を追う。

 相変わらず、説明が少なすぎる――――


「次の目的地はどんな場所なんだ?」


 と俺はディルに聞くとライが、”俺が教えてやるよ”と言い懇切丁寧に説明してくれた。


「次の目的地は癒しの泉、別名:自然療養所ヒールスプリングだ。 その場は世界最高クラスの回復魔法の使い手が集まる場所で、年間100万人の病人やけが人が来るんだと。 そしてリュウは弟子たちと共に、その地で治療をひたすら毎日毎日行っているんだ」

「じゃあ、リュウって人は医者ってことかな?」

「ああ。 そうなんだけどな……」


 とライはディルの方をちらっと見る。

 ディルもやや表情が険しくなって


「ええ……」


 と言う。

 え?何があるんだろう?

 と言うか、2人は何を隠しているんだろうか?


「まあ、緊張しないで普通に接してあげれば問題ないわ」


 ディルは苦笑いで言う。


「ああ、怒らせたりしなければな……」


 とライも苦笑いで言った。


「怒らせるようなことって何をすればそうなるのかな?」


 俺はそう聞くがディルは、そろそろ着くわ、と話しをはぐらかされた。

 この先、俺に待ち構えているのは、なんなのだろうか?



 目的地に着いた。

 癒しの泉。

 その名にふさわしく、絶景であった。

 光り輝く木々に水がまるで滝のように辺りから流れ、その中に城が見える。

 城の方へと続く道には、長い行列ができていた。

 あの城が、言ってしまえば病院という事なのだろう。


「ここに、水の大魔導士が……」


 泉に近づきながら俺は言う。

 次の瞬間ディルとライが戦闘態勢に入った。

 俺はディルに引っ張られて、泉から引き離された。


「え?何しているの?どういうことなのか説明してくれ!」

「あなたも早く戦闘準備しなさい! 来るわよ!」


 と怒鳴られてしまった。

 一体、何が来るんだ?辺りを見回すと、先ほど列をなしていた人々がいつの間にかいなくなっていた。

 次の瞬間ライが


「危ない!」


 と俺を突き飛ばした。ライは上から降ってきた水の柱に足を刺されてしまった。

 ぐっ、と痛そうにライは声を漏らした。


「ライ! 大丈夫か?」


 俺は駆けつけようとしたがライは”来るな!”と大声で言った。

 すると水の柱が崩れ、ライの刺さって出来ていた傷は完治していた。

 どういうことなのだろうか?


「相変わらず粗い歓迎だな。 リュウ……」


 ディルは正面の泉に向かって言う。

 すると、泉が割れそこから髪が長く、巫女のような装束の女性が現れた。


「なんだよ。文句あるなら帰れよ。 久々に顔合わせたけどなんともまあムカつく」


 と女性――――リュウは言う。

 女の人だったんだ……


「翔琉、この女が水の大魔導士リュウだ。 リュウは医者であるのと同時に、戦闘狂バトルマニアで、戦うことが何よりも好きな女性なんだ――――」


 とディルは言う。

 だから、そういうことは早く言ってくれよ。


「戦闘狂で何が悪いのさ。 全く。 人の趣味を馬鹿にしないでよ。 戦って戦って戦って戦って、全身から溢れるこの高揚感がたまらなく、快感なんだから――――」


 とリュウは言う。

 大魔導士って変態多いのかな? 

 とか思ってしまった。

 まあ、なんにせよ自己紹介しておこうと


「俺の名前は……」


 と言いかけるとリュウは


「あーあ、自己紹介しなくても大丈夫よ。 天野翔琉でしょ? 翔琉ちゃんって呼ばせてもらうね。 あたしが水の大魔導士のリュウだよ~よろしくね♪」


 え?なんで俺のこと知ってるの?

 そう考える間もなく、俺の周囲に水の槍が全方位に展開させられていた。


「えっと、リュウさん? これはいったい?」

「え? 目が合って、自己紹介したら……バトルしかないでしょ!」



 ポケモ○かよ! 

 全方位の攻撃が俺に襲い掛かる。

 えっと、確か防御の魔法は……


「光の魔法:明鏡めいきょう


 といい、全方位攻撃をガードした。

 光属性の魔法である明鏡は、自身の周りに特殊な鏡上の盾を展開させて、ありとあらゆる攻撃を防ぐ魔法である。


「へえ……光属性の魔法か……いいね。 しかも、高等魔法である明鏡を使えるだなんて、凄いじゃない。 これは、久々に楽しめそうじゃない――――」


 ぺろりと舌なめずりをするリュウ。

 さながら、獲物を見つけた時の蛇のようである。


「しかし、あの歳で光属性の魔法を、使えるとは驚いたわね……将来が期待できそうだわ――――」


 ふふっ、とリュウは笑った。

 明らかに何かをたくらんでいる様子だった。

 怖い――――


「ねえねえ、翔琉ちゃん。 この勝負、1つ賭けをしないかい?」

「賭け?」

「そうそう。 あなたが勝ったら、あたしはあなたのいう事を1つ何でも聞いてあげるわ。 でも、あなたが負けた場合は――――あたしのいう事を1つ何でも聞くこと……」


 ディルは顔色一つ変えずに、こういった。


「いいわよ、翔琉は負けないもの。 その勝負受けたわ‼」


 お前に言ってねえだろ!

 と言うか、なんで俺の事なのにディルが勝手に決めてんだよ‼


「ディル‼ お前何言ってるんだよ‼」


 とライはディルを怒鳴った。

 しかし、彼女は何も反応せずに、俺に視線を戻した。

 ”大丈夫、あんたなら行けるでしょ!”

 と言わんばかりの期待の眼差しであった。

 相変わらず、無茶ぶりが好きな奴だな――――


「ディル! あの魔法は使用していいのか?」


 そう聞くと、ディルは首を横に振り


「ダメよ! その魔法以外で勝ちなさい! これも特訓よ」


 そう返答してきた。

 相変わらず、無茶を言うな――――


「何をごちゃごちゃ言ってるの? さあて、そろそろ始めましょうか。 翔琉ちゃん」


 パチン、とリュウが指を鳴らすと、巨大な水のキューブができた。

 中は空洞で、空気が満ちていた。

 俺とリュウはその中に閉じ込められしまった――――否、リュウが閉じ込めた。

 外の声は全く持って聞こえなくなってしまった。

 つまり、ライやディルの助言は期待できない。


「水の魔法:湖底概念こていがいねん。 純度の高い水でコーティングした箱の中に相手を閉じ込める魔法―――ってのが、本当は正しい使い方なんだけどね、こういう使い方もできるのさ」

「なるほど……水の中のデスマッチってところかな?」

「話が早くて助かるよ。 じゃあ、男と女の真剣勝負をしましょう……行くわよ‼」


 そういって激しい戦いの幕が開けた――――



【その頃、外では――――】


 ライはディルに掴みかかっている。

 それはそうだろう。

 自分の好きな相手を、みすみす危険な場所に送り込む者など、いないであろう。


「おい! あいつを殺したいのか! ならば俺が加勢する!」


 そういって、水でできたキューブに飛び込むが、弾き飛ばされる。


「無駄よ……湖底概念は、強力な結界魔法。 闇の大魔導士ホルブでもない限り、そう簡単に破れないわ……」


 冷淡に彼女はライに向かって言うのであるが、どうにもライはディルの態度が気に入らず、噛みつくように怒鳴り散らす。


「ずいぶんと、余裕そうだなディル……もし、翔琉が負けて、リュウの言いなりになったらどうするんだ? お前、責任とれるのか?」

「じゃあ、逆に聞くけど、あなたは翔琉の勝利を信用していないの? 翔琉が絶対負けるとでも思っているの?」

「それは……」

「もう少し、彼を信用してみなさいよ。 それにしても、人間に不信感を持つあなたが、ここまで人間にこだわるだなんて、本当に珍しいわね――――」

「ああ、それは俺も思うぜ。 なぜか翔琉は穏やかで、とても優しい感じがするんだ。 そう、他の人間には感じない強い慈愛の心ってのがな」

「慈愛の心――――光属性の魔法を使う者に必要な絶対条件にして、強ければ強いほど浄化の力が強くなる。 確かに、翔琉には強い慈愛が備わっているわね―――――それに、翔琉は私の”地獄の特訓”を3時間でクリアした男だし」


 ライは”地獄の特訓”と聞いて、冷や汗を流した。


「あの特訓をクリアできたのか! じゃあ、大丈夫だな――――だって、あの訓練は7人の大魔導士が結局クリアできなかった特訓だったからな……」


 ライは苦笑いしながら、箱を見つめる。

 同様にディルも箱を見つめている。

 2人共翔琉の無事を信じて―――――



【翔琉サイド】


 激しい水の流れ、水圧の猛攻。

 光の神魔法の使用不可のこの状況で、リュウの激しい攻撃は続いていた。

 

「いいわ……すごくいいわ‼ 久しぶりにこんなにも楽しいと感じたバトルは無かったわ‼」


 一般に水属性に有効なのは地属性である。

 だけど、残念な事に俺はまだその属性は覚えていない。

 そんな中で、勝つにはいくつかの魔法を融合させて攻撃するしかない。


「雷と氷の融合魔法:瞬審氷結らいどうひょうが!」


 そう叫ぶと、俺の身体は雷に包まれその周りには氷塊が回る。

 雷属性の攻撃強化に加えて、氷属性の自動防御、それらを合わせた俺のオリジナルの魔法である。

 リュウの放つ水柱や、水の槍を周りの氷塊が自動ガードするとともに、自動氷結の追加効果、さらにそこからリュウに雷の攻撃が行く。

 しかしリュウは華麗に躱していく。


「へえ……雷と氷属性の融合魔法ね……面白いじゃん! いいね。 すごくいいよ‼」


 そういって攻撃の手法を変えてきた。

 水の槍から、水の銃弾に変えてきた。

 こうなってしまえば、雷を水に伝わせて攻撃するということが出来ない。

 激しい水の弾丸―――まるで、嵐の中に飛び込んでいくような感覚だ。


「くっ……水が……激しすぎる――――こうなったら、更に風の魔法を融合‼」


 氷の魔法の自動防御に、風の鉄壁を作った。

 おかげで水の弾丸は防いでいるのだが――――


「翔琉ちゃん、守ってばかりいてもダメよ」


 確かに、リュウの言う通りだ。

 これでは守りは完璧でも、肝心の決定打に欠けてしまっている。

 だが、攻撃を凌いでいる間に、どうにか作戦をたてなければ――――


「おらおらおら、翔琉ちゃん遊びましょ♪」


 リュウの激しい攻撃が更に激しくなった。

 持って残り30秒で、風の防御は壊れてしまう。

 せめて、リュウの動きを封じることが出来れば―――封じる?

 それだ‼


 バキーン、と風と氷のガードは破られてしまった。


「これで終わりよ‼」


 そういってリュウの水の槍が俺を貫きかけたその時――――その槍は氷となって砕け散った。


「あれ? どういうこと?」


 と言ったリュウだが、身体の動きが鈍くなっていることに気が付いた。


「これは……翔琉ちゃん……あなた、いったい何を――――」

「今この空間は生命の活動を極限までに停止させる温度、-273℃という絶対零度の状態になっている。 つまり、魔法を発動している俺以外の行動は極端に遅くなる」

「そんな事が出来るだなんて……」

「ああ、普通は出来ない。 でも、こうやって密閉空間になっていれば話は別だ」

「あははは……まさか……このデスマッチの会場を……利用されるなんて……不覚……あたしの……負け……ね……」


 そういって、リュウは気を失ってしまった。

 この勝負……俺の勝ちだ‼



 リュウが倒れた直後、湖底概念は解除された。

 俺はリュウを抱えて、地面へと降りた。

 ディルとライがそこにはいた。

 2人は勝利を確信したらしく、大喜びである。

 俺はディルに迫り


「ディル、リュウを回復させてやってくれ。 低温状態の影響で眠ってしまったんだ」

「え! それは大変だわ。 じゃあ、急いであの城へと向かうわよ」

「ディルが治すんじゃないのか?」

「私なんかより、あの城にいる世界最高峰の治癒魔導士たちが治療した方が確実でしょ」


 なるほど、それもそうだ。

 俺たちはリュウを抱えて、急いで城へと向かうのであった。


 中に入ると大勢の患者がいた。

 足の無い男、全身大やけどを負った女性など様々な人がいた。

 俺たちは、ひとまず近くにいた治療魔導士に事情を説明した。

 リュウは緊急治療室へと運ばれて行った。

 ひとまず俺たちは、城の外に出た。

 かれこれ3時間後――――リュウは城から出てきた。


「あははは~お待たせ。 もう大丈夫よ」


 そういってリュウは笑みを浮かべた。

 ディルは、彼女に詰めより


「んじゃあ、約束……守ってもらうわよ、リュウ」


 と言った。

 約束――――天野翔琉、つまり俺との一騎打ちに敗北した場合は、俺のいう事を聞くというものである。


「んで、あたしに何をさせたいわけですか?」


 とリュウは顔をムッとさせて、不機嫌そうに言った。

 俺は彼女に自分の願いを言う――――


「じゃあ、リュウ。 俺たちの仲間になってくれ」

「え? そんな事だったの? なーんだ、もっとすごいことされるんじゃないかってちょっと期待していたのに。 まあいいわ。 翔琉ちゃん、あなたのために協力しましょう。 世界最高峰と呼ばれる治療魔導士にして、水の大魔導士が1人、リュウが力を貸します」


 こうしてリュウが俺たちの仲間になった――――

次回は風呂場のシーンです。

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