セカンドステージ16:雷の大魔導士の神殿へ
俺が再び目覚める頃には、さっきまで死にかけていたみんなは元気になっていた。
後に話を聞くと、少しだけ回復したフルートが、薬草を用いて、お茶を作ったらしい。
それを、具合が悪そうにしているみんなに飲ませたところ、たちまち良くなったらしい。
そんなものがあるなら、さっきの朝食の時に飲ませてくれよ!
と思うのだが、どうやらフルート自身、アニオンの食べ物を見たせいで、思考が麻痺していたらしいのだ。
とりあえず、俺も例のお茶を貰って飲んだところ、苦みが強かったが、先ほどあった身体の気だるさがなくなった。
効き目が早い事に感心しつつ、飲み干したお茶の容器を台所に置いて、次の目的地である雷の大魔導士の神殿についての話しを始めるのであった。
「雷の大魔導士の神殿って、どこにあるんだ?」
と俺が首を傾げて聞くと、アニオンが地図を出してある場所を指差して
「ここよ!」
と言う。
俺は地図に目を近付けて、確認してみると、そこに書いてあるのは、“雷鳴湖“と書いてあって、湖の真ん中に小さな島らしきものがある場所であった。
「ここはね、雷の湖なのよ」
とアニオンは、続けて話し始める。
雷の湖って、どういうことなんだ?
その疑問はアニオンの説明によって、すぐに解消された。
「湖自身が、雷なのよ。別名:雷水っていう、特別な水でね、水みたいに液体なんだけど、特性は雷そのもので、まず素手で触るなんてことしたら、手が丸焦げになるわ」
と真剣な目をして語るアニオン。
「そして、雷の大魔導士の神殿はこの湖の真ん中にある島にあるわ」
と再び地図を指し示すアニオン。
じゃあ、空から行くことになるのかな?
と思っていると、アニオンはそれを見透かしたように
「ちなみに、空からの侵入は出来ないわ」
と冷淡に言うのである。
俺は不思議そうな顔をして
「え? なんで?」
とアニオンに聞くと、アニオンはあのね……とどこからか出した、小さいスケッチブックに描いて説明をする。
「それはね、この水の特性が常に雷と同じようなものであることが起因しているの。簡単に言ってしまうのなら、あそこにあるのは地上にできた雷雲っていうわけ。ただし、普通の雷雲と違って、地面に雷を落とすんじゃなくて、空に向かって雷を落とすの。だから、そんな水の上空から行くって事は、雷地帯をかわしながら行かなきゃいけないの。しかも、地上と違って、空中には避雷針になるものがないから、浮いてるものがあれば、それが雷によって追尾される事になるからよけい難しいのよ」
と言い終わり、スケッチブックの最後に“おしまい“と書いてあった。
アニオンはどうやら料理の時とは違って、絵は凄く上手であった。
まるで、漫画を呼んでいるかのような分かりやすくて見やすい絵であった。
料理もそれくらい上手かったらいいのにな……
「じゃあ、結局どうやって行くんだ? 空からは無理だし、水中なんてとてもじゃないけど進めないよな・・」
と俺は再び首を傾げる。
すると、グランがにこりと笑い
「我が輩の魔法で橋を造る」
と言うのである。
“計画で言うのならば、まず彼の地へと赴き、我が輩の地の魔法で巨大な橋を造る。そして、その橋を渡って目的地へと到着すると言う感じだな。橋の強度なら問題はない。雷属性の弱点である氷属性の魔法でコーティングするし、水属性の弱点である地属性で橋を造るわけだから問題はないだろう“
と自信満々に語るグラン。そんな自信はどこから来るのだろう?
「じゃあ、行きましょうか」
と言ってアニオンは張り切って外へ出て行く。
俺たちもその後に続いて外へ出て行く。
待ってろ、ライ。今、助けてやるからな!
全員が円形に描かれた魔法陣の中へ入ったところで
「じゃあ、行くわよ!」
とアニオンが手を上空に掲げる
すると、地面の魔法陣が輝き、光が俺たちを次第に包んでいく。
この青空を次に見ることができるのはいつなのかな?
と思い、俺は空を見つめている。
そして、地面の光が最大まで輝いて完全に俺たちを包み込むと、視界が真っ白になった。
次の瞬間、俺たちは空が暗く、水から雷が上空に絶え間なく出ている場所の前に立っていた。
どうやらここが雷鳴湖である。
先ほどのアニオンの説明通りの場所だった。
雷の騒音がすごい場所だ。
耳から手が放せない。
耳に手を当てていても、身体が痺れてきてしまうほどの音である。
アニオンがこちらに向かって何かを言っているのだが、全く聞こえない。
そして、アニオンが湖の方へ向かって何かの魔法をかけたと思ったら、雷の音が小さくなっていってやがて聞こえなくなった。
「これで、ようやく聞こえるわね」
アニオンはそう言って、笑みを浮かべている。
「アニオン、何をしたんだ?」
と俺がアニオンに聞くと
「湖の雷の音を負極魔法で、0にしたのよ」
と腕を組んで自身満々に言う。
なるほど……その方法があったな
と俺は感心する。
が、フルートがアニオンに詰め寄りあることを聞く。
「ねえ、あのさ、この魔法って湖だけにかけたの? それとも湖にある島も含めてかけたの?」
と聞くと、アニオンは笑顔で
「島ごとかけたの。だって、分けてかけるの大変なんだもん」
と言うが、その発言後のフルートの様子は明らかに変だった。何かを悩んでいる様子だったのだが、俺はこの時あまり気にかけなかったのだが、後にこの事が俺たちをライとの戦いにおいて、苦戦に追いやるなんて事を俺はまだ知らなかった……
「おっしゃあ! じゃあ、待ってろ! 我が輩が、今橋を造るからのう!」
と言ってグランが橋を作り始めた。
次第に出来ていく橋には、匠の技ともとれるような見事な装飾がなされていった。
すげぇな……
と思いながら見ていたのだが、それを邪魔するかのように突然奴らはやってきた。
奴ら……すなわち、時限亡者達のことである。
時限亡者達をみる限り、前回出てきた中級達であった。
「今回の奴らは、全員中級のようだね」
と俺の中から、絵本を片手に現れたアマデウスは言う。
「その絵本は何だよ」
本に指を指して俺が聞くと、アマデウスはやや恥ずかしそうに
「僕の武勇伝が描かれてる本だよ」
と言う。
なんで、このタイミングでそんなものもって現れるんだよ
そう思っていると、アマデウスは再び笑顔で
「暇だったから読んでた」
と言って俺の中に入っていった。
何しに出てきたんだよ!
そんな事を考えてるうちに、敵がすぐそこまで迫ってきていた。
グランが俺たちに向かって
「すまんが後、5分だけ持ちこたえてくれ! そうすれば、橋は完成する! すまないが、その間我が輩を守ってくれ! 橋の作業に集中したい!」
と焦った表情で俺たちに叫ぶ。
俺たちはそれにうなずき、時限亡者達の攻撃からグランを守るのであった……
「翔瑠! そっち行ったぞ!」
とボルの声に反応して、俺は正面から向かってきた時限亡者3体を相手どる。
「大人シク投降シナサイ」
そう言ってやってくる奴らの突進に近い攻撃を、ひらりとかわす。
「小癪ナ……」
そう言って再び俺に向かって追撃する時限亡者達に向かって、俺は手を向けて
「光の魔法:輝天鏡!」
奴らの身体が光の鏡に当たり、奴ら自身を光へと変換する。
そして、奴らは次第に消えていった。
「なるほど……奴ら自身を光に変換させる手も倒す方法なのか……」
そう思っている中、また新しい中級が現れた。
今度は10体。
「捕マエロ! 無理ナラ死体デイイ」
1体のこの発言を合図に一斉に襲い掛かってくる。
半分は先ほどのように、突進を……もう半分は、魔法を繰り出してきた。
「光の魔法:輝天鏡!」
再び発動するが、前者は倒すことができたのだが、後者は光属性に変換させられた自身の魔法をかわして、俺に突っ込んでくる。
どうやら、光の魔法:輝天鏡の唯一の弱点である、発動後の隙を狙っていたようである。
あともう一歩、と言うところで、それはディルの時間魔法によって防がれる。
危ない危ない・・
「ありがとう、ディル!」
「お礼はいいから、今は目の前の敵に集中しなさい!」
と怒られてしまったのだが、まあお礼を言えたのでよかった。
「よっしゃ! 一気に行くぞ!」
そういって俺は再び、奴らを迎撃する。
他のみんなも、今全力で足止めと、グランを守りながら戦っている。
しかしながら、敵が減る気配が無い。次から次へと湧き出てくる。
これはどういうことなのだろう?