表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MW元   作者: ただっち
オールドア編
3/69

ステージ3:雷の大魔導士ライ

雷の魔法をもし使えるなら、自宅発電とかできて便利そうですよね。

 何故他の属性の魔法を覚えなければならなかったのか――――

 その問いにディルは


「極力、神魔法を使わないためによ」


 と念を押すかのように答えた。


 この世界では神魔法を使えるのは、ディルの知る限り俺しかおらず、そのために他の人物に見られたりすると危険だ、と言うことだ。

 言ってしまえば、権力者や悪い人たちに利用されてしまうかもしれない、という事だ。

 確かに、強力な力をむやみにポンポン使うのは避けた方がいいだろうな。

 感情を持つ生物の短所は、強力な力に魅入られて、使役してしまうという事なのではないだろうか?

 まあそんな事を言っても仕方ないので、俺は他の属性の魔法も覚えることにした。

 初心者が一度に複数の属性を覚えるには、かなりの時間を要するらしく、普通ならば数年かかって、ようやく習得することが出来るらしい。

 だが残念ながら、俺にはそんな余裕は無かった。

 一刻も早く、元の世界へと戻りたかったからである。


 その後厳しいトレーニングがあった。

 まさに、速攻で覚えるためだけの地獄の特訓と言ったところであろう。

 何度か死にかけたりした。

 初心者に対して、上級者の上級向けの特訓をするとか、自殺行為にもほどがある。

 もし仮にこの世で一番恐ろしい人物は誰か、と聞かれた際には、俺は特訓中のディルを推薦しておこう。

 目が血走っていて、言動も荒く、何よりスパルタすぎる。

 まさに鬼教官である。

 

 悪夢のような特訓は、3日ほど続いたように感じたのだが、彼女の持っている時計には、3時間ほどしか経過していなかった。

 あれ?

 まだ、その位しか経過していなかったのか?

 もっと長く感じたのだが。

 そしてあれは気のせいだったのかな?

 修行中は、周りの景色が止まっているように思えた。

 そう、まるで時間が止まっているかのように――――


 特訓の成果もあって、取りあえず、炎、雷、氷、風属性の自然魔法を覚えることができた。

 残念ながら、水属性の魔法や、地属性・闇属性の魔法は、覚えることが出来なかった。

 ここで属性の特徴を注釈しておくと―――


 炎属性は”すべてを焼き尽くす炎”使用中は肉体のパワーが上がる。


 水属性は”優しく包む聖なる水”使用中は防御力が上がる。

 また回復系の魔法の大半がこの属性である。


 雷属性は”雲より轟く雷”使用中は移動速度が速くなる。

 また、攻撃が少し強化される。


 闇属性は”深き眠りに鎮める闇”使用中は魔法耐性が高くなる。

 また異常状態の魔法は大抵この属性である。


 氷属性は”永遠に凍り付かせる氷”使用中は氷塊が自動的にガードしてくれる。

 封印系の魔法の大半はこの属性に該当する。


 風属性は”守護する暴風”使用中は攻撃に追加攻撃を与えることが出来る。

 またこの魔法を使用すると、ものによっては空中に浮くことが出来る。


 地属性は”永久に受け継がれる大地”使用中は重力を無効化できる。

 またこの魔法の使用中は植物と会話することもできるらしい。


 光属性は”聖なる星々の光”使用中はすべての能力値が高くなる。

 また、悪しき者や霊的な物を滅ぼすことが出来る魔法でもある。

 あと、回復系の魔法の中でも最も強力なものが、この属性である―――


「さて、魔法も覚えたことだし、取りあえず町に行きましょうか」


 とディルは俺に言う。


 「あれ? 魔法を覚えたから、オールドアに行くんじゃないの?」


 と聞くと、ディルは、軽くため息をつき真顔で


「まだやることがあるわ」


 と言う。


 いったいこれ以上何をするのだろうか?


 早く帰りたいのに……


 そう思いながらも、焦らない焦らないっとひたすら自分に言い聞かせている。

 今は彼女に従うしかなかったのだ――――――



 草原の終わりまで行ったが、何もなかった。

 せいぜい見えるのは、【オールドア】のある塔だけであった。

 他に見えるのは青々とした山々と、空に浮かぶ2つの太陽と雲位なものである。


「町って? この辺には見当たらないけど……ここからどの位の場所にあるんだ?」


 そう辺りをキョロキョロとしながら聞いた。

 ディルは、ふふっと、笑いながら言う。


「ざっと、20kmくらいかな」

「20km?!」


 あからさまに驚いてしまった。


 遠いな……。

 え?やっぱり歩きなのかな?

 この距離歩いちゃうのかな?

 タクシー……なんて、ないだろうし……

 まあ、そりゃあ、フルマラソンの半分くらいだから―――――って半分でも多すぎ‼


 慌てふためいている俺を見て、ディルは必死に笑いをこらえている。

 他人事だと思って……いや?ディルも歩くのか?


「なあ、やっぱり町まで歩いていくのか?」

「何言ってんの! 歩きで行ったら時間かかるでしょ。早速だけど、魔法を使って移動するわよ」


 とディルは言った。

 あ、その方法ありましたね。

 あー良かった。

 歩きだったら、大変そうだもんな……


 ディルは魔法を発動させた。


「風の魔法:浮遊ふわらいどう


 そういうと、ディルは空高く舞い上がっていく。

 空中浮遊専門の風の魔法。

 この魔法は、単純に空中に浮くという風属性の魔法の基礎中の基礎である。


「翔琉も、ほら早く~さっき教えた通り、やれば大丈夫だから♪」


 とディルが腕を振っている。

 俺をせかしているのだ。

 初心者なんだから、もう少し甘くなってくれよ……鬼教官め‼

 俺も先ほどの呪文を唱えた。


「風の魔法:浮遊ふわらいどう


 俺の身体もふわふわと浮いていった。

 おお!

 空を飛ぶ間隔はなんとも心地いい。

 トランポリンで飛んでいるのがずっと続いているような感覚。

 最初はバランスがとりにくかったのだが、次第に慣れていき、すぐに空中浮遊を楽しむことができた。

 俺……空を飛んでいる!

 わーい!

 そして上空へと行くと、ディルが先ほど言っていた町が見える。

 どうやら、あそこに俺たちは向かうらしいな。



 ディルは俺に修行の続きと称して


「じゃあ、魔法を融合コンフリートさせるよ」


 と言った。

 また新しい用語が出たな……

 融合って事は、何かと何かを混ぜ合わせて、1つにするって事だな。


「え? それって、どうやってやるのさ」


 と俺が聞くと、ディルは


「違う属性の魔法を今使用している魔法の上に重ねればいいのよ。 いつも通りに魔法を使うように発動させるようにすればいいだけだから。今の場合は移動速度を上げるために雷属性を融合させると――――とまあ、口で説明するより、実際にやって見せた方がいいか♪」


 と言って、実際にやってくれた。

 手のひらを足に向けて呪文を唱える。


「雷の魔法:瞬進かそくぐるま


 といい、一瞬で町の上空まで移動した。

 凄まじい速さだった。

 20kmもある場所に、一瞬で―――


「じゃあ、俺も……」


 とやろうと、呪文を頭の中に浮かべていた。

 心の中でそっと呟いた。

 すると勝手に発動し、ディルの隣にいた。

 俺には何が起こったのか、一瞬の事で理解できなかった。

 俺は起こった出来事を認識する間もなく、いつの間にか町の上空に、ディルの隣にいたのだ。


「あれ? なんでだろう……。 まだ何も言っていなかったのに……」


 自分の手や足や身体を見回したが何も異常はない。

 汚れた白衣に、学生服姿。

 いつも通り、何の変哲のない自分の身体だ。

 先ほど起こった出来事をディルに話すと、彼女は再び驚いた顔をして、小さく笑った。


「あんたの才能が妬ましいわ。 次のステップで行おうと思っていた高等技術である無詠唱ノーリードを、こうも簡単にやるなんて――――」


 と俺を指さす。

 またまた、新しい用語が出たな。


「無詠唱?」


 と俺が聞くと、ディルは話始める。

 無詠唱の説明を――――


「そうそう。 無詠唱。 魔法技術の中でも高い技術力と才能を要するもので、一般に習得するのは困難な技――――なんだけど……」


 と難しそうな顔をし、首をかしげて、俺の方を見つめている。

 いや、俺だってわかんないよ?

 なんで出来たかなんて。


「たぶん、偶然出来ちゃったのかな?」


 とディルは、自分を納得させるように言った。


「まあ、こんな空中で話をするより、取りあえず町に降りましょうか」

 

 そんな感じで、俺たちは町へと降りていった――――



 町の様子はいたって普通だ。

 ヨーロッパにありそうな煉瓦の家が多い。

 その奥に小さいが城が見える。

 現在は夕暮れ時であるので、城に2つの夕陽が反射して赤々しくなっている。

 住人は普通の人間に見えるのもいれば、虎や狼の容姿の獣人など様々だ。

 俺たちが下りた場所は、丁度市場の近くだったようで、人がいっぱいいる。

 こうやって人ごみが、ごちゃごちゃしている様子が、俺のいた世界でも何ら変わらない光景だな……と思いながら俺はその光景を眺めている。

 違う点をあげるのならば、ここで売り買いされているのは、魔法の道具であるということであろう。

 火の出る刀や、水でできた食器、雷を帯びている果物など、様々なものが売られている。


「ここが魔法の世界か……」


 俺は不安もあったけど、案外こちらの世界も自分のいた世界でも、対して変わらないものなのだな――――と思った。


 だけど、この世界から早く戻って研究がしたいな……

 今頃、元の世界ではみんなどうしているのかな? 俺の事を心配とかしてくれているのかな?


 と、1人で考え事をしていた。

 ん?

 1人?

 どうやらいつの間にかディルとはぐれてしまった。

 これはとてもまずい……


「あれ? ディル? おーい‼ どこ行った?」


 俺は辺りを探し回るがどこにもいない。

 とりあえず、街中を探してみることにした。


「いらっしゃいませ! 本日は炎属性の商品が10%OFFだよ!」

「らっしゃいやせー! 今、食品のタイムサービスやってるよ!」


 辺りの店から、絶え間なく大声で商品や店のアピールする声が聞こえる。

 市場なのだから当然だろう。

 しかし、周りの人々が興味津々でこちらを見ているのは気のせいか?

 まあ、この世界の人間と服装が違うので、当然と言えば当然なのだが――――

 この市場はくまなく探した。

 市場の店主や、買い物に来たおばさんにまで、声をかけて尋ねた。

 みんな知らないようで


「頑張って、ディル様を見つけられるといいね」


 と言ってくれた。

 ディルに様がついてるけど、どうしてなんだろうか?

 案外、ディルは有名人だったりして。

 それにしても、あちらこちらを探したが、この市場にはディルはいないようだ。

 他を当たってみることにしよう。

 お城の方に行ってみようかな。

 そう思って、俺は城に向かって駆け出した――――

 


 そして、ようやく城の前へとたどり着くことができた。

 日が落ちかかっているので、城の堀の水には、赤と黒の空の景色が映し出されている。

 そして、夕ご飯の時間帯であるため、とても美味しそうな匂いがする。

 

 あーあ……お腹すいた……


「ここにディルがいるのかな?」


 そういいながら、ふらふらっと歩いている。

 注意力散漫となってしまって、完全によそ見をして歩いてしまった結果―――――どん、と目の前の虎の獣人とぶつかってしまった。

 ぶつかった衝撃で、俺は後ろに大きくしりもちをついてしまった。

 顔を上げると、そこには甲冑を着ていて、ずっしりとした筋肉質な感じで首元にマフラーをしている虎の獣人はこちらを向いて、ぎろりと睨んでいる。


「おいおい、どこ見て歩いているんだ?」


 と虎の獣人は俺をがばっと、掴みあげて言った。


 やばい、絡まれた。


「すみません! つい、よそ見をしていました。 本当にごめんなさい」


 と俺は謝るのだが、虎の獣人は今度は俺の胸倉をつかんで


「謝れば何でもすむと思ってんのか? 取りあえず、面かせや!」


 と怒鳴って、俺は虎獣人に連れて行かれそうになる

 どうしよう……

 そう俺が思っているとき、ディルがすっと現れて


「ねえ、やめなさいよ。 弱い者いじめは良くないよ」


 と虎獣人の肩に手を置く。

 虎獣人は、ああ? とディルの手を振りほどき後ろを向く。

 そして、ディルの顔をみて態度は一変した。


「お前……ディルじゃねえか!」


 そういい、俺をつかんだまま、ディルの方に笑顔を飛ばす。

 苦しいんだけど……!

 ディルも俺の事をお構いなしに


「あれ? ライくんだ! 探したよ♪」


 と言う。

 談笑する雰囲気なのは分かるけど、取りあえず俺を何とかしてくれ!

 俺が苦しそうにしているのを見てディルは慌てて


「ライ、その人放してあげて! 私の連れなの!」


 と言うと、ライも俺が苦しそうにしているのが見えたようで、慌てて手を放す。

 ドサッと地面に落ちて、その場でゲホゲホとむせている。

 危ない危ない。

 もう少しで、意識が消えるところだった。


「すまねえな! 大丈夫か?」


 とライは俺の近くでかがんで、背中をさする。

 俺は、ライの方を向いて


「だ……大丈夫です……」


 と言う。

 声が震えていた。

 九死に一生を得るとは、このことであるのだろうか?

 しばらくすると、呼吸もだいぶ楽になった。

 それを見計らって、俺にディルはその虎獣人の紹介を始めた。


「翔琉、紹介するわね。 この人はライ、私の仲間の一人よ」


 俺は急いで起き上がって、はじめまして、とお辞儀をした。

 先ほどひどい目にあわされたのに、よく平気な感じで俺はお辞儀できたな……と自分を感心していた。

 するとライは頭をかきながら


「おう! 翔琉っていうんだな。さっきは悪かったな。ここ最近、仕事がうまくいかなくてむしゃくしゃしててな。 つい、当たっちまった。 んじゃ、改めまして俺様の名前はライ。 7人の大魔導士の一人だ! よろしくな!」


 と言って、握手してきた。

 さっきとは全然違い、社交的な人(虎)である。

 ん? そういえば、7人の大魔導士って何だろう?

 そう思ってディルの方を見ると、目があった。

 やれやれ、と言わんばかりに、ディルは説明をし始めた。


「7人の大魔導士っていうのはね、この世界で強い力を持つ魔導士の中でもさらに強い力を持つ者の事よ。特に7人の大魔導士は別名:魔法守護者マジックガーディアンと言って、光以外の属性の各エキスパートたちなんだ。 ライはその中で、雷属性の大魔導士エキスパートにあたるわ。 つまり、この世界における雷属性の達人中の達人、と言ったところかしら」


 すごい人なんだな……と思った。

 と言うかそんなすごい人でもうまくいかない仕事っていったい何だろう?


 ライは頬を赤めて、照れながら


「よせよ、ディル。 照れるじゃねーか。 と言うか、ディルの方が俺よりすげえんだから」


 と言う。

 ディルが7人の大魔導士であるところのライよりすごいとはいったいどういう意味なんだ?


「え? それってどういうことですか?」


 とライに尋ねる。すると、ライはコホンと軽く咳払いをして、こう答えた。


「いいか翔琉。 世界には世界魔法連合マジックエンペラーっていう組織があってな、その組織が色々と役職を決めているんだ。 見習い・魔導士・中魔導士・7人の大魔導士、そしてこの上に3人の太古の魔導士がいるんだ。 ディルは3人の太古の魔導士の一人で、太古魔法の一種である時空間魔法を使うんだ」


 ディルってすごい人だったんだ。

 俺そんな人に、最初に出会ってたのか。

 あー、だから市場であった人たちは”ディル様”って言ってたんだ。

 納得納得。


「ディルってすごいんだな」


 と俺が言うと


「まあね」


 とディルは照れている様子。この世界の人は照れやすいんだな……。


「だがどうして急に連れ人なんて……ディルは弟子を取らないことで有名なのに……」


 とライが言いかけた時、大勢の人(主に男性)がディルに向かって走ってきた。

 お祭り騒ぎになるのではないだろうか?と言うほどの、大人数であった。

 俺とライはその集団に弾き飛ばされてしまった。


「ディル様! 弟子にしてください!」

「ディルさん! 修行させてください!」


 そんな風に言われて、すっかり囲まれてしまったディル。

 するとディルは


「あれ?ライ君と翔琉がいなくなっちゃった。 もう、またはぐれたら大変なんだから――例のごとく君たちには止まっててもらうかな――――」


 とボソッと言って


「時の魔法:静止しすい


 とディルが叫んだと思ったら、その瞬間、俺とライとディル以外は止まった。

 止まった―――そう時間が完全に停止したようにピタリと全てが固まってしまっている。

 音も無く、舞う木の葉や、流れる噴水の水に至るまで何もかもが止まっている。

 そして、囲まれていたディルがそこから、ジャンプしてこちらに飛んできた。

 それを見ていたライは笑いながら


「ほらな」


 と言う。

 そのままライは話を続ける。


「あいつは弟子をとるのが好きじゃないからこうやって時を止めてその間にいなくなるんだ」

「なるほど……」


 と俺はディルを見ながら言う。


 ディルってすごいんだな……。

 もしかして”地獄の特訓”の時に周りが止まっているように見えたのは、もしかしてディルが時間を止めておいてくれたからなのか?

 いや、止めておいたら普通なら時間は止まったままで、3時間なんて経っていないはずだろう。

 ではいったいあれは――――


 と考え事をしていたのだが


「場所を移しましょ。ゆっくり話せる場所がいいわ」


 とディルが言ったので、取りあえず指示に従うため、いったん考えるのを止めよう。

 先ほどの話は、ディルに今度聞いてみる事にしよう。

 俺とライは、ディルが地面に書いた、丸い陣の中に入る。

 俗にこれが魔方陣と言う奴なのだろう――


「空間の魔法:斜辺へいこう


 ディルの手が光り、魔方陣が消えたと思ったら、なにやら町ではない景色になった。

 霧に覆われていて良く見えない。


「ここは?」


 と霧の中、うっすらと見えるディルの影に向かって俺は尋ねると


「さっきの魔法は、瞬間移動の魔法で、今ここは町のはずれの湖の真ん中にある私の別荘よ。 あと、時間停止も解除してあるからそろそろ」


 という。

 すると、霧も晴れて、先ほどまで無音だった世界に音が響く。

 小鳥のいい声が聞こえ、水の流れる音が聞こえる。

 そして、風が吹いてきた。

 周りが水に囲まれており、後ろには一軒の家が建っている。

 ここは、ディルの家なのかな?


「相変わらず、手際が良いな」


 とライは感心してニコニコと笑顔を振りまいている。

 ディルは、コホンと咳払いして、ライに


「じゃあ、ライ。 今回私に連れ人がいる理由を教えるわね―――とりあえず、詳しいことは家で、ご飯でも食べてからにしましょうか。 翔琉がお腹すかせて死にそうな顔してるし」

 

 ふふふっと軽く笑って俺とライを家の中へと案内する。

 やった!

 ご飯にありつくことが出来る―――



 夕食直後、ディルは魔法で食器などの洗い物を自動で行っている。

 なるほど、日常生活においてもこうやって魔法を使えば、非常に便利であるな。

 そしてライはお腹がいっぱいになったようで、近くのソファーでどかりと座り込んで、お腹をさすって


「満腹、満腹♪」


 と言っている。

 何だか、行動が可愛いが、見た目が筋肉質のこわもての虎さんという事が、少し残念な気もするが、まあそれは言わないでおこう。

 そして、ディルがこちらに来て、空いている椅子に座って


「じゃあ、話を始めましょうか。 えっとまずは――――」


 と俺の話を始めた。

 天野翔琉のこれまでの人生、この世界に来たプロセス、そして【オールドア】の事と、神魔法を覚えていることなどなど、大まかに話をしてくれた。

 流石は特権を持つ者――――俺の過去をここまで知っているなんて……

 と、少し怖いと思ってしまった自分がいた。

 まさか他人に自分の人生を端から端まで知る人物がこの世にいたとは、個人情報留出も大概なものである――――


「なるほどな……大変だったな! 翔琉」


 ライは泣きながら俺を抱きしめた。

 まさに男泣きである。

 人情に厚い人(虎)なんだな……

 だけど、ちょっと苦しいかな、甲冑とかムキムキの筋肉とかにゴリゴリと身体の骨が当たっていて、痛い―――毛はモフモフしていて気持ちいいけど。


「で? ディル? これからどうするんだ?」


 ライは俺を膝に座らせて話す。

 まるで子供のような格好である。

 親戚のオジサンが、子供の頃によくやっていた事であるが、まさか中学1年生の160cmを超えた青年がやられるとは、驚きである。

 ディルはそんな事をよそに、話を進める。


「そうね、オールドアに行きたいけど……そのためには……」

「そうだな……」


 とライとディルはうなずいた。

 二人はそのまま黙って考え込んでしまった。

 なんだ? 何があるんだ?


「どうしたの?」


 と俺はライに尋ねた。

 するとライが重苦しそうな表情で答えた。


「オールドアに行くためには、7人の大魔導士全員の力を借りる必要があるんだ。 オールドアは決して交わることの無い異世界へと唯一行けるゲートだから、俺たちで封印を施しておいたんだ。 万が一、悪しき者や異世界へと干渉を行う輩が現れた時の最終防衛としてな―――」


 とライはディルの方を見る。

 そして彼女はライからバトンタッチしたように、続けて語り始める。


「そして炎・水・雷・闇・氷・風・地の大魔導士のうち今所在が分かっているのが炎・水・雷だけなのよ。 残りの大魔導士は現在行方不明。 この意味が分かる?今オールドアに行っても、強力な封印がオールドアを塞いでしまっているから、翔琉――――あなたは現在、元の世界へ戻ることが出来ない、という事なの」


 何故そんな重要な説明をディルは先ほどしてくれなかったのだろうか?

 と言うか、オールドアへと向かう、と俺が言いだした時に教えてくれればよかったのに。

 気を使ってくれたのかな?

 あの時の俺は明らかに焦っていた。

 不安もいっぱいだったし、何より怖かった。

 訳も分からない世界へと突然来てしまって、見たことの無い魔物やら魔法やらを見ていて、いつもの平常心を欠いていた。

 そんな状態で危険な場所に行くなど、無謀な挑戦にもほどがある――――


「じゃあ……どうすれば……」


 俺は暗い表情になっていた――――絶望感に苛まれていたからだ。

 そんな俺を、見かねたライが解決策を提案をしてきた。

 

「まず重要な事は、7人の大魔導士を全員揃える事が重要だ。

 俺らにじゃなきゃ、あの封印を解くことは出来ないんだし。

 そのためには、全員の行方を知っていそうな大魔導士から片っ端から訪ねて、行くしかねえ。 って事は、人探しの名人にして、世界最高峰の治癒魔法の使い手である、水の大魔導士リュウから訪ねた方が得策じゃねえかな? これから全員を集めるためには、険しい旅になるかも知れないんだし、治癒の使い手はいた方が安全だろう。 何よりリュウは、人を探すのが得意だし――――」


 と言った。するとディルは、やや気難しい顔をしながらも、なるほど……と言い


「確かに彼女なら、人探しの魔法はお手の物だけど、ん~まあ、取りあえず行ってみるか。 どうせ全員の力を借りなきゃいけないんだし」


 と言う、やや曖昧な返答をした。

 少し気になる言い方だったのは気になるが―――

 ライは大きな声で元気よく


「大丈夫! 俺とディルがついているさ!」


 と言いまた身体を寄せてきた。

 事あるごとにべたべたと触る、体育系の男子にある行動なのだろうか?

 流石にいい加減うざくなってきたのだが――――それよりも俺は、虎の生態について前々から疑問に思っていたことがあったので、それを実際にやってみることにした。

 それは虎の首元をかいてみて猫みたいにゴロゴロと声を出すのか―――という事である。

 一般に猫はゴロゴロっと音を鳴らして気持ちよさそうにするのだが、ネコ科の動物、つまりは虎やライオンなども、同様にゴロゴロと言う風に猫なで声を、果たして出すのかどうか、という事が前々から気になっていたのだ。

 ましてや元の世界へと帰ったら、虎の獣人なんてそうそう出会えるものじゃない(と言うか、出会えないだろう)

 だから、思いで作りと言うか、いい経験になると思ったのでやってみることにしたのだ。

 すると、違った意味で裏切られた。

 確かに猫なで声をしたのだが――――身体が縮んでいき最終的には5歳児くらいの身長と容姿になった。

 来ていた甲冑も同様に身体に合わせて小さくなった。

 便利な、服だな―――――と感心していたが、なんで小さくなったの?


「もう、翔琉。やめろ。くすぐったいじゃないか!」


 ライは俺の足元をひっかいてきた。

 正直言おう――――かわいい。

 なんだこの可愛さは……ぬいぐるみレベルだぞ!

 可愛かったので抱っこしてみた。

 毛皮がもふもふしてて気持ちいい‼これは病みつきになりそうなほどの、手触り感‼すごいぞこれは‼


「ちょ、翔琉~何してるんだ♪ おろせよ~♪ こちょばしいだろ~♪」

 

 と言い、嬉しそうに、じたばた暴れた―――やべえ、かわいい。

 さっきまでいた筋肉質のこわもての虎さんが、こんなにも可愛い子猫みたいな状態になるなんて、世の中は不思議な事が多いな♪

 するとディルが笑いながらこういった。


「あーあ翔琉。 虎獣人の首筋を撫でるって事は、人間で言うところの、キスと同様の行為であるのよ。 でも、幼児化するのは、その虎獣人が好意を持った者が撫でた場合にしか起きないレアケース――――」


 好意を持った……?

 ん? 

 この人……男だよな……

 って事は、男同士の友情の証か?


「え? それってどういうことかな?」


 と俺はディルに尋ねる。


「ああ、表現が遠まわしで、分からなかったかな? 獣人はねみんな恋愛が自由なの。 人間と結婚したなんてのは多いわね。 あと異種族の結婚とか同性と結婚とかも……とにかく気に入ったものに恋をして好きになって繁殖する生物なの」

「それって……つまりは……」

「そうね。 ライはあなたの事が好きになっちゃったみたい。 本気で結婚して繁殖行為を行いたい対象になってしまったって事よ」


 ええええええええええ!!!!!!!

 そんな俺の心の悲鳴の中、ライは頬を赤めて俺の方を見つめるのであった。

次回は翔琉とライが急接近?その時、ディルは何をするのか・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ