セカンドステージ5:vs炎の大魔導士エン
希望を捨てない事が大切です。
炎の大魔導士エンのいる神殿は本当に近くで、アニオンの隠れ家からほんの3kmほどであった。その割に、何故アニオンの隠れ家が発見されていなかったというのならば彼女の使う魔法に起因するという風に言えるだろう。
彼女の使う魔法:負極魔法はどんなものに対してもマイナスにする事のできる魔法で、かつての暗黒魔法教団首領であるブラッドの使う加重魔法の真逆である。
倍にする魔法の逆であるので、倍ではなく減ると普通は考えるのだが、それは違く、実際は0に近づける魔法であるというのが正しいであろう。
そのため彼女が行っていたのは、隠れ家の存在を0に近づけるということである。その結果彼女は見事に隠れ抜いていたのである。
だが、隠れ家だけでなく自身の存在を0にすればいいでは無いだろうかという疑問を持つ人もいるであろうが、それをしなかったのは俺たちのせいである。俺たちが今日訪れるかもしれないから・・そういう理由でどうやら彼女は自身に魔法をかけなかったらしいのだ。
「さあ、馬鹿弟子をぶちのめしに来たわよ!」
そういって、うれしそうな顔をするアニオン。そして、俺たちの目の前には炎の大魔導士の神殿があるのであった。その炎の大魔導士は先ほどから嬉しそうにニヤニヤしている、アニオンの弟子で1週間前までは俺たちの仲間であった。
彼との出会いは、温暖帝と呼ばれる、温泉地帯であった。初めて出会った時には、雑魚そうなどと、失礼なセリフを言われてしまったが、最終的には頼れる仲間となってくれた。
そんな彼と戦わなければならないのは少しばかりか、抵抗があるのだが、初めて会った時も実際は戦闘をした、と言っても過言ではないであろう状況であった。しかし前回は、ライとリュウの戦闘を止めるために参戦したので実際は戦闘とは言えないかもしれない。だが今回はその件とは完全に違い、敵として彼は俺たちの前に立ちはだかるのである。そんな彼を助けるとともに、俺たちはディルに憑りついた神話の罪人:ロギウスを完全に倒すために必要な情報が書かれているかもしれない書物を手にするためにもこの神殿へと足を運ばなければならないだろう・・。
そんな感じで長々と説明文が長くなったところで、早速敵が現れた。
前回の説明で分かった、黒い何か・・時限亡者と呼ばれる生物ではない生物が俺たちに向かって襲い掛かってきたのだ。
「貴様ラヲ捕縛スル」
「抵抗スル場合ハ状況ニヨッテハ、殺ス」
前回の戦闘の時と同じようなセリフを言っているけど、こいつら他に感情なんかは存在しないのかな?奴らが言った後に、アニオンは
「ここは私に任せてくれるかな?」
と自信満々に言ってきたので、俺たちはその場を任せることにした。そして、俺たちを襲う時限亡者たちをアニオンは魔法で攻撃する。
「負極魔法:無印」
そういうと、次の瞬間には時限亡者の姿は消えていた。これは、何が起こったのだろう・・。そう思い、俺はアニオンに聞いた。すると、彼女は満面の笑みで答えた。
「ああ、彼らは元々生物としては完成していない不完全なものだからね。さっきの私の魔法で、その存在自体を0にした。さっきの魔法は、私が隠れ家にかけていた魔法と同じやつなんだけどね、それを時限亡者たちにやると、形ないものの存在が0になる。すなわち、消えてしまうんだよ。」
怖いな・・その魔法・・。俺とボル、そしてフルートはそう思った。その気持ちを察してか、アニオンは微笑みかけながら答えた。
「でも、安心して。彼らは、存在が0になったおかげで魂としてはリセットされたわけだから、この世にきちんと転生することができるようになったって事さ。だから、この魔法は時限亡者たちの浄化だと考えてくれて構わないと思うよ」
その説明になら納得がついた。しかしながら、浄化と言いつつ存在を消す作業を笑いながら行っている彼女の方が恐ろしいのではないだろうか。
まあ、とにかく道が開けたので俺たちは神殿へと進む。
~そのころ、ロギウスとアマデウスは・・~
アマデウスは必死に抵抗し続けていたのだが・・結果的に彼の意思が残されたまま、ロギウスに取り込まれてしまったのである。心の世界で、アマデウスは翔琉に謝る・・しかしながら彼の声はもはや外に漏れることはなくなってしまったのである。
「はっはっは~、ついに神魔法を我の物に完全に融合したぞ。はっはっは~」
高笑いするロギウスの声は時空城一帯に広がる。そして、彼の笑いが終わるころに玉座にある各属性を模したモニュメントの内、炎のモニュメントが怪しく光りだす。それを見たロギウスは
「ついに、連合の魔導士が動き出したのか。ならば、丁度良い。先ほど融合し終えた、神魔法を炎の小僧に貸し与え、侵入者どもの戦意をそいでやろうではないか」
そういって、モニュメントに触れ集中するロギウスであった。
~そして、再び神殿へ~
俺たちは神殿の奥にある、祈りの間に来ていた。そして、そこには炎の球体の中で眠りにつくエンがいた。エンはいまだに眠っているのだが、そこにアニオンが
「いつまで寝てるんだよ。馬鹿弟子が!」
と一括を入れると、目が覚めて球体が解ける。彼の目は、何も見えないような黒い目だった。そして、彼は言う。
「侵入者ハ排除スル」
そういった瞬間に、彼の身体が炎に包まれる。あの姿は・・!
「神魔法:炎天神だ!」
そう俺が驚きながら言うと、アニオンは
「え?神魔法ってあなたが使うものじゃないの?翔琉君。」
とアニオンも驚きを隠せないようで、その頬を汗が伝う。
「神魔法は、翔琉の努力と好奇心のおかげもあって最近知れた事実があって、実は神魔法は他人への貸し出しが可能なんだ!」
ボルがアニオンに向かいそう説明する。アニオンは、悩みながらも考えた自身の結論を述べる。
「じゃあ、あの魔法を抑えるにはあの魔法が切れるまで待つか・・それとも、貸し出しを止めさせる魔法が必要になるわけね」
そういって、彼女はエンの前に立ち魔法を使った。
「負極魔法:通信負荷」
アニオンの手からは、シャボン玉のようなものが飛び出し、エンに向かうが、エンが
「炎ノ魔法:断炎」
というと、シャボン玉ははじけた。そして炎がアニオンに襲い掛かった。その瞬間、舌打ちをしたアニオン。
「今の魔法は、周りの者とのやり取りを0にする魔法だったのに(あの攻撃を壊すなんて、やるようになったわね・・)」
そういって、彼女は回避しようとしたが間に合わなかった。それを見事におさめたのは、ボルの空間魔法であった。ボルの空間魔法によって、炎は空間の裂け目へと消えていった。
「ありがとう、ボル君。助かったよ」
そういって、軽くお辞儀をするアニオン。ボルも若干、このセリフに対して照れているようで頭をかくボル。しかしながら、エンの攻撃は再び始まる。
「炎ノ魔法:炎帝龍」
炎の塊が無数になり俺たちを包み込むように飛んできたのであった。
「しゃあない! あの魔法を使うぞ! いいな? フルート!」
「ええ、お願い!」
そういうと俺は例の魔法を発動させた。その魔法とはもちろんあれである。
「神魔法:光天神・未完全版!」
そういうと俺に光の翼が生えた。その姿を見たボルが笑顔でこういった。
「流石、俺の友だ・・翔琉」
その光景を見たアニオンは驚きを隠せなかった。何故なら神魔法は敵の手に落ちたと考えられていたためである。しかしながら、彼女は現実に神魔法が奪われた少年が未完全ながらも、その魔法を発動させているのだ。彼女はその光景に希望を見出していた。
「翔琉君・・まさか、奪われた神魔法を君は使えるの?」
自然に彼女は声を出していた。疑問を解消するため・・そして、俺の言った言葉で彼女はついつい笑ってしまうのであった。
「なんか、取りあえず発動させてみたらできた」
彼女は笑っている。そんな単純で、適当な答えが他になかったためだからであろう。だがその答えが彼女には希望の光を強くすることになった。
(最終的にロギウスを倒すのは彼なんだ)
と・・そして
(この世界やディル達を救ってくれるのだろう・・)
そういう風に素直に思えた彼女の顔は優しい顔になっていた。
そんな優しい顔の彼女や、ボル、フルートに襲い掛かる炎を俺は神魔法をもって打ち払う。そして、エンの姿が見えるとエンに俺は光属性の邪を滅する魔法、光の魔法:聖邪光纏を放つのであった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そういうと、エンは苦しみだし彼の身体から黒い何かが出た。時限亡者ではなく、負の塊と言える何かは彼の身体から抜け出て、聖邪光纏の光をあびて消滅した。
その時を同じくして、時空城の炎のモニュメントは砕け散り、ロギウスは弾き飛ばされる。そして、彼はこの時初めて気づく。かつて、自身がこの世界から追い出すように異次元へと飛ばした天野翔琉の帰還を・・。
(まさか・・奴が・・)
次回は復活した炎の大魔導士エンと、例の書物が登場。




