ステージ19:夢幻峡谷
桃源郷と言うものを見てみたいものです。
夢幻峡谷。
ここには不思議な植物や、動物が生息している。
そのため、密漁目的で訪れる魔導士たちが後を絶たないというのだが、それを迎撃するためにフルートは連合の命令でそこにいるのだと、ディルは言う。
「フルートはね、太古魔法:植物魔法を使って、植物を操ることのできる魔導士なんだ。」
と、語るエン。話によると、植物魔法によって夢幻峡谷内の植物たちの様々な耐性を極限までに上げているというのだ。しかも、耐性を極限まで上げた結果、植物たちは自我を持ち自由に移動ができるようになったという。植物が歩く・・そんな光景を俺は見るまで信じられなかったが、心のどこかではきっとこの世界で起こることだからな・・と思っていたのだろう。目の前を花々がかけっこをして走り回っていても、木々が川の水で乾杯をしていても、意外にも驚かなかったのがいい証拠だろう。
「へ~ほんとに走ってるな!」
俺は、そんな風に見ていた。
すると、花々や木々は俺たちに気付いてすぐに、警戒態勢に入ったのだが、ディルがいることに気付くと、あっさりと警戒を解き、俺たちに近づいてきた。
「ディル様ですね。フルート様がお待ちです。どうぞ、こちらへ・・」
そういうと植物たちは俺たちをフルートの元へと案内すべく、深々と生い茂る森の中へと進んでいくのであった。道中、様々な美しい木々、花々が見られたが案内してくれている植物の一人が
「ここの木々や花々は、危険な毒をもっておりますのでお触れにならない方がよろしいかと・・」
おいおい、なんて恐ろしい場所なんだよ。
見た目は天国でも、中身は地獄かよ。
「着きました。」
そういうと案内してくれた植物は森の奥へと消えていった。
ここは、どうやらここにフルートがいるようだ。
森の真ん中らへんにあると推定される、この巨大な木の下の山小屋に・・
俺たちが家の前に来た時に、1人の女性が出てきた。
どこかのお姫様のような顔立ちに、綺麗なドレスを着てその上からエプロンをつけている。
「ディル。遅いじゃないのさ。」
「ごめんごめん。ちょっと、温泉に寄ってたからね。」
そういうディルに、フルートは詰め寄る。
「いいわね。たまには私も温泉に入りたいわ。」
と苦笑しながらディルに言う。
「そんで?あんた達・・何しに来たんだっけ?」
ディルが盛大にこけた。
いや、驚いた。
「昨日連絡したばかりじゃないの!」
そういい、ディルが身体に着いた土ぼこりをほろいながらフルートに、がみがみ説教をしている。
フルートはどこからか取り出した紅茶を飲みながらそれを聞く。
「相変わらずの天然ね~」
「全くだわ。」
と、リュウとヒョウは近所のおばさんみたいに談笑している。
「相変わらず美しいのう!抱き付いてもいいか?」
「殺されるぞ。トルネ。」
「お主は懲りぬのう。」
「ホルブ、言うだけ無駄だ。」
とライ・エン・トルネそしてホルブまでもが談笑を始めた。
「なあ、翔琉。そろそろ、話が修まりつかなくなりそうだな・・」
「そうだね~」
と、俺もボルと談笑し始めたのであった。
そして、30分後くらいにようやく収拾がついたようで、本題に入ることができた。
「やれやれ、ディル君は説教が長すぎるよ。」
「誰のせいだ!まあ、いいわ。とにかく、フルート。あなたに頼みたいことがあるのよ。」
そういい、ようやくディルも落ち着いたようだ。いつもマイペースのディルをここまでにするとは・・フルートってすごいんだな。
「分かってるわ。じゃあ、まず中に・・」
と言いかけた時、フルートの表情が変わった。先ほどのニコニコしながらディルの話を聞いていたフルートの顔ではなく、鬼のような恐ろしい顔になった。
「また、私の可愛い子たちを奪いに来たごくつぶしどもが来たようだ・・すまない、皆・・先に小屋にいてくれ・・私は・・そいつら、狩ってくるから・・」
そういうと、フルートは森の奥へすさまじいスピードで走って行った。
と言うことなので、俺たちは小屋の中で待つことにした。
ディル曰く、あの女はキレさせたら1番怖いと思うよ・・その意味は単純に口調だけなのかと思っていたがそうではない。
「お待たせ~」
と帰ってきたフルートの服にはたくさんの返り血がついていた。
「今回の狩りもうまくいったわ~。これで、あいつらは私の子たちの肥料になったわ・・」
ああ・・埋めたんですね。
「ほらほら、女の子が返り血が浴びた状態なんてだらしないわよ。服脱いで、シャワーでも浴びてきなさい。」
そういって、ディルはフルートの服を脱がす・・ってええ!!ここで着替えるの!?
ライやエンなどの多くの大魔導士とボルは別に動揺していなくいたって普通に男性の場合は見ないように後ろを向くなどの対処をしたが、俺は動揺したため少し遅れてしまった。
「いやーん。エッチ。」
そういって、フルートは俺に言う。
「いやー!変態!」
そういって何やら痛そうな音がして、壁に吹っ飛んでいった男がいた。
トルネだ・・。
女性陣が
「トルネ・・あんた一回死んでみる?」
とマジなトーンで言っているのが聞こえた。
「だって、女の着替えのぞくとかロマンがあるじゃないか!」
とトルネは堂々と言う。
「状況考えてもの言いやがれ!」
そういって、トルネはヒョウとリュウに外に連れていかれてしまった。
外で、すごい痛そうな音が響いてるな・・まあ、いいや。
「じゃあ、シャワーから上がるまでもう少しまっててね~」
と、奥の扉の音が鳴りディルが、もういいわよと言ったので取りあえず落ち着いた。
それにしても、外の音鳴りやまないな・・ちょっと様子を見に行ってみるか。
「おら、このクズ!」
「女の覗き見ようなんて、いい度胸してんじゃないのよ!」
「・・・」
どうやら、もはや意識を失うほどに虫の息のトルネをいまだにリュウとヒョウがいたぶっていたようだ。
いたぶっているリュウと目が合ってしまった俺は、怖くなって小屋の柱の裏に隠れた。
それを見たリュウが、ヒョウに何か言って音がようやく修まった。
「あら、翔琉ちゃん。いたの!やだあ~」
「まあ、ワタクシ達ったら・・」
と可愛らしい声をあげてはいるものの、俺には悪魔にしか見えない。
だって、そういってる彼女たちの後ろにいるトルネは瀕死なのだから・・
「女の裸を見る輩は許せませんけど・・ワタクシ達でしたら、翔琉さんに裸を見られたりしてもいいのですわ~」
「そうね~翔琉ちゃんになら見られてもいいわ。」
そういい、笑いながら近づいてくる2人。
怖い怖い。近寄らないでよ、と心の中では叫べても現実には叫べない。
叫ぶどころか、恐怖で声が出ないのだ。
「さあ、翔琉ちゃん・・」
「ワタクシ達と・・」
と彼女たちが言いかけたところでディルが外に出てきて
「フルートが上がったからみんな来て。」
と言うので、俺はダッシュで向かった。
怖かったな・・。
トルネが、か細い声で
「俺も・・連れてってくれ・・」
と言っていたが、誰も何もしないのでお外に放置されてしまったのであった。
「大地之中心に入るには2つ手があるわ。」
そういって、フルートはトルネを除いた俺たちに言う。(トルネは外で瀕死中です)
”鎖国国家:大地之中心。あの国には国境線近くに入国審査の門がある。
ゲートをくぐるには、その国のパスポートを有しているか特殊な条件以外は原則として通れない。
君たちが狙うのは、特殊な条件における方法で侵入するものだ。
その方法は、私が所持している大地之中心勲章をもっていく事だ。その勲章を持っているものは、入国審査をパスすることができる。そして、連れの人々も入国審査せずに侵入することができる。
ちなみに、あの国は入るのは難しいけど出るには何も調べられないんだ。だから、この勲章をもって前に進みなさい。”
そういって、金と銀があわさったメダルをディルに渡した。
「ありがとう。フルート。」
「いいわよ。別に・・ああそうそう、君ちょっと来てくれる?」
と、俺の方を指さす。
何事かはわからないが、取りあえず行くと奥の部屋に連れていかれた。
え?なんかされるの?俺。
怖くなって戻ろうとしたときに、フルートが俺の手を引く。
「あなた、確か不老不死の薬の研究をしているって・・?」
「ええ・・まあ・・。ディルから聞いたんですか?」
「ええ。実は私、植物学者でもあるの。そして、過去に不老不死の薬の研究も行っていたわ・・」
「え!そうなんですか!」
意外だった。こんなに、のほほんとしている人が学者とは・・おっと、失礼だな。
「それで・・研究は完成したんですか?」
「ええ、一応。」
「すごいじゃないですか!」
俺は疑心の目から尊敬の目へと変わった。
自分がまだなしえていない、研究を完成させた人が目の前にいるのだから。
「でもね・・あの薬の研究をするなら同時に不老不死じゃなくする薬の開発も必要になるわよ・・」
「どうしてですか?」
そう聞くと、フルートは真剣な面持ちで言うのだった。
「いい、不老不死ってことは死の概念を外れるってことなの。もしも、世界全員が不老不死になったとしたら食料や環境の問題はどうするの?やがて何もかも無くなっても・・死にかけても・・絶対に生きのこる。自殺すらできない身体・・それは地獄にも等しいわ・・」
「なるほど・・でも、フルートさんは不老不死の薬は開発したってことはその薬も開発したってことですか?」
と聞くとフルートは首を横に振る。
「いいえ。できなかったの。理論はできているんだけど、あと少しのところでやめたの。」
「もしよろしければ、俺にその時の資料をいただけませんか?俺が研究してみたいんです!もし元の世界に戻ったとしても!」
そう聞くとフルートは少し迷って、いいわよといい、俺の頭に手をかざす。
「私の中にある、不老不死の薬の研究に関する記憶と、それまでの不老不死をなくす薬の理論の記憶をあなたの頭の中にコピーするわ!」
そういうと、フルートの手から優しい光が俺の頭に流れてくる。
そして俺は、自分がまさに知りたかった薬の研究を知ることができやや有頂天になっていた。
「長かったわね。何の話してたの?」
とディル達が聞いてきたがフルートが
「彼の研究に関することよ」
と言うと全員が納得してくれた。
「じゃあ、出発しましょ!」
そういって、ディルは勢いよく外へ飛び出す。それを見て、フルートは
「相変わらず、せっかちね~」
と言う。そして、俺たちも外へ行きフルートに別れを告げて、俺たちは大地之中心へと向かうのであった。
次回はいよいよ大地之中心へ。




