ステージ15:休息
休みの日は基本眠るのが私の趣味です。長い時には15時間とか寝てます。
休息。
生物にとって、激しい運動後などには必ず取るであろう行為だ。
俺たちの旅にはなかなか余裕がない。
俺は早く元の世界に帰りたいし、ここの世界の住人は教団を一刻も崩壊させたい・・
しかしながら、俺たちは旅を少し焦りすぎていたのかもしれない。冷静になって周りを見ることも大切だということだ。将来博士になろうとしていた俺ながらに、冷静さを失っていたようだ。ここで、少しの休憩をはさみ、冷静さを取り戻すことにしよう・・柔軟な考えこそが、素晴らしい発想のもとになるのだ。
3分間の修業・・この修業はとてつもなくハードであった。まあ、実際は3日間にするという特別な魔法空間で行っていたので、現実的には3分でも、俺たちにとっては3日間だ。
しかし、修行後半に会得した”神魔法の他人への貸し出し可能”によって、この3日間は、3年分と言えるほどの高度な修業ができた。
その結果、全員の肉体は限界に来ていたのだ。だから、今日1日だけ俺たちは真剣な休息をとることになったのだ。進まないことは何も悪いことではない。むしろ、焦ってしまうのがいけないのだ。ここで万全に回復して、最高のコンディションにすることが今やるべきことであるのだ。
「エン~温泉入りたい~」
そういったのはリュウであった。
「温泉?まあ、疲れを癒すには最高だが・・この辺にうちが知るような温泉は無いぞ!」
そういい、頭をかくエン。まあ、それもそのはず。ここは、エンもめったに来ない地方なので知らなくて当然であろう。
「じゃあ~ディル~なんか知らない?温泉か何か~」
「温泉ね・・温泉は無いけど、大きなお風呂ならあるわよ。」
「お風呂か・・まあ、いいやそれで。」
「大きな風呂場か・・だがディル・・男女に分かれたりなどは・・」
「ええ。だから、順番に入っていくしかないわね・・」
ここで目が光る4人がいた。もちろん、あの4人だ。
何だか嫌な予感が・・
「ディル!その風呂場は最大何人入れるんだ?」
とその4人の1人、ライがディルに迫る。
「そうね・・最大1度に3人ずつかしらね。」
そうディルが言うとその4人、ライ・リュウ・ボル・ヒョウは言い争いを始めた。
「あたしが翔琉ちゃんと入るわ!」
「何言ってんのリュウ。ワタクシが翔琉さんの背中を流してあげるのよ。」
「お前らいい加減にしろ!男同士で入るにきまってるだろ!」
「それに翔琉と昨日風呂入る約束したから、俺が入るんだ!」
と、まあ俺と一緒に入る人を決めているみたいだ。その中にディルやエンも、そしてホルブも入って行った。
「たまには私も翔琉と入りたいわ!」
「うちは翔琉君に聞きたいことがあるから、風呂場で語り合いたいんだよな~」
「若いもんが年寄りの背中を流さんでどうするんじゃ。我と入ろうではないか。」
とうとう全員が、俺と風呂入ることでもめてしまった。この解決策で俺はまあ、考えられる平等な策を取った。
「じゃあ、俺・・1人で入るわ。」
そういった瞬間全員から、不満の声があがり収拾がつかなくなりそうになったため仕方がないので俺は全員と風呂を入ることになったのだ。
くじ引きの結果、次の通りになった。
1番:ライ・エン・俺
2番:ヒョウ・ホルブ・俺
3番:ディル・リュウ・俺
4番:ボル・俺
となった。くじ引きなので公平に行ったので流石に誰も文句は言えないのだが、どうやらみんなボルの位置が良かったらしく、ボルが喜んでいる中みんなは睨んでいる。
まあ、1体1でみんな入りたかったんだろうな・・まあ、俺は4回連続で入らなきゃいけないからのぼせないのかが心配だ。
~1番目の入浴時間~
ライ・エン・俺は風呂に浸かる。
ライはサイズが大きいので、いつも通り子供の姿でいてもらっている。
「なあ、翔琉。うちは一番気になってることは、君の知識だ。」
そうエンが俺に話を振る。
「ああ。その件ね・・で?何が聞きたいの?」
「君の世界の事かな。」
そういったところで、ライも反応する。
「俺もそれ聞きたかったんだ!翔琉の来た理由は聞いたが、翔琉の世界については詳しく聞けていなかったからな~。翔琉の世界はどんな場所だったんだ?」
と俺の顔をつんつんする。肉球がたまにあたるのでぷにぷにしてて意外と気持ち良かったりする(笑)
「俺の世界はな・・」
と俺は語る。自分のいた世界の事を。
”今俺が住んでいる場所は日本と言う場所で、今の時代の日本は平和だ。
一昔前までは戦争をしていた。その戦争で日本は負けたがそのあとの経済の成長はすごかったらしい。
そして、科学技術は進んでいった・・
ん?科学技術とは何かって?まあ、こっちの世界で言う魔法と同じようなものかな・・前に温泉で硫黄の話をしたのを覚えているかな?あれも、科学の力で解明されたものの一つだよ。
俺の世界では、様々な科学技術で成り立っている。この世界の魔法は無いが、科学が俺たちにとっての魔法だよ。
まあ、平和に使えばいいのに人間は兵器を作ってしまった。その兵器は世界そのものを破壊してしまうものであった。俺の住んでいる日本にはその兵器が昔使われたことがある。その結果多くの人間が死んだ。その悲しみを忘れないために、今もその兵器の残した傷跡を残す建物がそこにはある・・
まあ、暗い話はここまで。ここからは、俺の物語だ。
俺は中学生と言う立場であった。科学やその他を学ぶために学校に通っていた。学校では俺は優秀な生徒であった。そのため、俺は自由に行動していた。科学の実験に取り組んでいた。その実験で、世界に新しい科学の恩恵を見出したかったからな・・
だけど、そんな実験のさなかに爆発によって俺はこの世界へ来たのであった。”
「そうだったんだ・・うちらの知らない知識”科学”か・・これは興味深いな!」
「俺の知らない、翔琉の事が聞けて良かったぞ!」
そういって、2人は満足したようだ。長い話をしたのでそろそろ、2番目の時間だ。
~2番目の入浴時間~
ヒョウとホルブとの風呂だ。ヒョウは、風呂に浸かり、俺はホルブの背中を流している。
「これこれ、もっと力を入れぬか。」
「ああ、すみません。」
そういって、俺は力を入れて背中を洗う。
「翔琉さん・・次はワタクシがお背中をお流ししてさしあげますわね・・」
ヒョウは風呂の中から俺を見つめる。なんか、背中以外にも色々なことされそうな気が・・
「翔琉や・・おぬしは何故魔法を覚えて間もないのにも、魔法の名をきちんと言えるのじ?前々から疑問に思っとったんじゃ。」
「ワタクシにも教えてください。翔琉さん。」
俺は、ホルブの背中にお湯をかけ、ひと段落ついたところでその話をする。
何故、俺が魔法の名前をすらすら言えるのかを・・
”光属性の神魔法:光天神を覚えた瞬間に、頭の中に響く声が聞こえるようになった。単純に何か俺に聞いてくるのではなく、魔法の名前を呼んでくれる何か・・それが声の正体であった。そのため、光の魔法を唱えるときには必ずこの声が聞こえるのだ。不思議なことに・・”
「なるほどのう・・それはおそらく、光の魔法:無限音読じゃのう。この魔法は魔法の名前を頭の中に声として響かせる魔法で、自分のイメージ通りの魔法がスラスラ出てくるという、上級魔法じゃな・・」
「つまり、神魔法発動時にはその魔法もセットで発動されるということね。」
「なるほど・・」
その後も様々な魔法の話しで盛り上がった。その合間に俺はヒョウに背中を流してもらった。まあ、怪しいことはされなかったのでよかった・・。
そして、3番目の入浴時間になったのだ。
~3番目の入浴時間~
リュウ・ディルが入ってきた。
「ようやく、翔琉ちゃんとお風呂に・・」
「前の温泉の時に、あなた監禁に近いことして一緒に入ってたじゃないの。」
「あの時は、ライもいたから・・でも今回はあたしとディルと翔琉ちゃんだから邪魔は入らないわ!うふふふ・・・」
俺はこの女に何をされるんだろうか・・
そんな心配をよそに、ディルは平然としながらお風呂で遊ぶ。その中で、俺はリュウに押し倒されている。この構図から言えば普通男が女を遅い、押し倒すのだろうが・・俺はその逆である。
これがいわゆる逆レイ○ってやつか・・
俺の耳元に唇を当てて、リュウは言う。
「翔琉ちゃんは・・あたしの事好きなのかしら・・」
そういって、耳元にふっと息をかけてくる。
他人から見るといやらしい格好に見えるのだがここでディルは笑いながら
「ババアが少年を襲ってる」
といい、笑っている。
この、ババアと言う単語に反応してしまったようで、リュウはディルと風呂の中で喧嘩を始めてしまった。この不毛な喧嘩に巻き込まれたくなかったので、俺はこっそり風呂場から抜け出した。
すると、風呂場の前には鼻血を出したホルブがいて俺に
「いい女ほど、怖いもんじゃぞ・・」
と言って出ていった。おいおい・・ホルブ・・まさかとは思うけど、覗きをいいセリフでごまかしたのか?
俺はそう考えながら、風呂場の前にある脱衣所の椅子にタオルを巻いて座る。
流石にのぼせかけていたので、ちょうど休憩できてよかった・・。
~4番目の入浴時間~
俺はボルと2人で入浴中。
ちなみに今回は2人きりなので、ボルは元の大きさである。
「なあ、翔琉・・」
「なんだい、ボル。」
「俺は・・お前に感謝している・・」
そういってきた。
「俺に愛情とは何かを教えてくれて・・そして道を教えてくれた・・」
「いやいや、最終的にはボルが自分で気づいたんじゃないか・・よかったよ・・兄弟仲直りできて・・」
「だがな翔琉。俺はこの戦いが終わったら・・罪を償うために・・刑を受けようと思うんだ・・。先の戦争で俺は多くのものの命を奪った・・そのことは報いを受けなければならない・・」
「ボル・・」
そういうと、ボルは俺の方を見た。
ボルはじっと、俺の目を見る。覚悟の目・・死を恐れない目・・そんな目であった。
「ボル・・」
そういって、俺はボルの前で涙を流した。
ボルの覚悟を受けて俺は、その覚悟が勇ましくカッコいいものであった・・そして何より、友達を失ってしまうかもしれないという悲しみがこみ上げたからだ・・
そんな俺の涙を、ボルは俺の涙を優しく大きな指で拭う。
「ありがとう・・俺のために泣いてくれて・・」
その5分後突然ディルが風呂場に血相を変えて入ってきた。
「2人共!あがって!話したいことがあるの!」
「さっきの話し悪いけど聞かせてもらったわ!」
そういって、ディルはごめんと頭を下げる。そのあと、がばっと顔を上げてこういった。
「ボルの罪だけど・・ある条件しだいによっては免除にできる可能性が出てきたの!」
ボルはびっくりしていた。しかし
「俺は人を多く殺した・・命を奪った報いは受けなきゃ・・」
「だから、その話を聞いてすぐに調べたの!あなたの罪状を!そしたら、大量殺人罪じゃなくて、あなたの罪は大量洗脳隷属罪よ!」
とディルは言ったのであった。
「それって?」
と俺はディルに聞く。するとディルはそのことと、ボルの戦争の時のことを話してくれた。
”ボルはね・・あの戦争や他の場所でも実は誰も殺していないの・・。さっき、ホルブが捕えているルーンを空間越しから心眼鏡で見たんだけど・・実は教団はボルに対して、裏切るのではないかと疑っていたの。
教団の中の記憶を操る魔導士が、ボルの過去を見た時に
「この男は、愛情を信条としている・・しかも、表層心理では教団に心酔しているが深層心理では教団ではなく弟に心酔している・・この男は将来我らを裏切るやもせん・・弟の頼みとあれば何をするかわからん・・」
そういって、ボルにある細工をしたの。洗脳の魔法と記憶改竄の魔法によって、当時のボルは操り人形だったの。
そして、その時にボルは殺人ではなく洗脳を担当にしていた。そして、大魔導士以外とは誰とも戦っていないの・・
その後、戦争が終わり、処刑場から逃亡した際にある魔法が発動した・・。記憶改竄の魔法:上書。この魔法は他者の記憶の一部を相手に植えつけるというもの・・そのため、暗殺担当だった暗黒賢者の殺人の光景と、ボルの洗脳をかけている光景をすり替えたの・・では、殺人を犯していないボルが何故死刑になったのか・・それは当時の政治のトップが教団の仲間であったから・・そして、ボルの記憶改竄は死刑場から逃げ出す、と言う条件にあわせて発動する仕組みだったから・・。
だから、ボル・・あなたは誰も殺してはいないの・・そう思い込んでいただけなの。でも、あなたが洗脳をかけて回っていた事実は変えられない・・”
そういった。
「だけどね、あなたの罪を償えるかもしれないの!」
「どういうことだ?」
と俺がディルに聞くとディルはこう答えた。
「連合のトップにさっき掛け合ってきたの。私1人じゃダメだったかもしれないけど、ここには7人の大魔導士のうち5人がいるから、なんとか掛け合ったところ・・連合のトップは条件を出してきたの。」
「条件だと?」
そうボルがディルに聞くとディルはボルに条件の内容を言うのだった。
”元暗黒賢者ボルに与えられる条件は、2つある。
1つ目は暗黒賢者の討伐し、暗黒魔法教団の殲滅・・ただし団員は生かしておくこと。
2つ目は連合の魔導士として、連合に加入すること・・それを守れば、そなたの罪を不問にいたす。”
「この条件を守れば、あなたは死刑にならずに済むわ!」
「だけど・・俺は・・」
とボルは悩む。それもそのはずだ。
さっきまで死を覚悟していたのに、急に生きることができるのだから・・
「俺に・・俺は・・」
そういってボルはやや混乱している。俺はそんなボルにこういった。
「ボル・・俺たちと一緒に教団を倒して・・生きようぜ!」
そういうと、ボルは涙を流し俺に言うのだ。
「でも・・俺の罪は・・」
「ボル・・お前がそう思い続けることができるなら・・それを糧にして、誰かのために・・誰かを守るためにこれから生きていくんだ!俺のためにも・・みんなのためにも・・生きてくれ!」
「・・。」
ボルは悩んだ・・だがすぐに結論は出たようだ。
「ああ・・俺は・・教団を倒して・・翔琉・・そして、ライのために・・生きよう・・。」
そういって、ボルは泣き崩れた。その場にいた俺・ディル、そして陰で話を聞いていたみんなも自然と涙が出た。
仲間が再び、生きる決心をしてくれたことに素直に嬉しかったからだろう。
そして、新たな決意を胸に次の日・・俺たちは次なる目的地へ出発するのであった。
次回は神殿のある町ロールへ
そこで一行は町の様子の異変に気付く・・




