第3話 棘
「スターリン。調子はどうだ?」
丸渕のメガネをクイっと上げて、
「今調べられるところまでは調べ終わった。ラボに運んでくれ。さらに詳しく調べる」
そう言ったと同時に、村の外に止めてある車に向かっていった。捜査官に召集をかけ、捜索の結果を報告しあい、遺体をラボへ運ばせ、車に乗り込んだ。運転席には中身の無くなった紙パックの牛乳を凹むまで飲んでいる大男がいた。
「戻るか…」
気づけばもう、夕方だった。腕時計を見ると午後5時10分を指していた。
「…5時10分?」
石神が不思議そうに
「どうかしたか?」
と言った。
「いや。少し妙に感じてな。時間が経つのが早いなぁって。俺も歳か?」
「フフ。近所の悪ガキによるとな、三十路を越えたらオジサンらしいぞ。」
「あ?嘘だろ。まあでも俺は31だからギリセーフだな」
「どこがだよ」
笑いながら、田んぼの横の舗装されていない道を進む。夕日が沈みかけているのを見ながら、考えていた。あまりにも時間が進むのが早すぎる。気のせいだろうか?確かこの村に来た時、時計は2時20分だった。捜索時間はもって2時間というところだ。どういうことだろうか…
もしかしてこれが事件に…関係あるわけないな。
署に戻って来てから、事件の報告を済ませ、帰る準備をしていた時、電話がかかってきた。スターリンだ。
「いいものを発見したぞ。至急ラボへ向かってくれ」
「今行く」
スターリンのラボは東教大学の地下一階第一科学研究室にある。
「見せてくれ。何を見つけたんだ?」
スターリンは笑みを浮かべ、シャーレを一つ手渡してきた。中にはガラスの破片とその上に乗っている大きめの植物の棘のようなものがあった。その棘は植物のものというには少し大きく、綺麗な円錐型。その円錐の側面にも、同じ円錐型の無数の棘がある。
「これはなんなんだ?」
「それが何かというのははっきり分かっていない。しかし、驚くべきことを発見した。これを見ろ」
見せられたのはパソコンの画面だった。
「これはその棘から採取したヒトのDNAだ。」
「DNA!?」
驚きを隠せなかった。ということはつまり…
「この棘は…」
スターリンがメガネを上げ、少し上を向きこう言った。
「人体から生えたものだ…」
その時、思い出した。長らく忘れていた「あの」記憶を…