第2話 人体異物質変換実験プログラム
1時間ほど、経っただろうか。前方から中々、古い型の車が走ってきた。ガコンガコンと鈍い音を鳴らしながら、入り口付近に車が止まった。中から出てきた男は丸渕の眼鏡を掛け、茶色のダウンジャケットをきている。
「早かったなスターリン」
そう言うと、
「近くにいたんだよ」
と、言った。
「おかしいなー。俺は家に電話をかけたんだが」
少しの沈黙の後、
「簡単な話だ。家の電話を携帯と繋いだんだ」
「そうか。まあいい。とりあえず、早く死体を見てくれ」
と言い村の奥の森へと誘導する。
「待ってくれ。その前にトイレに行きたい」
「なんで来る前にしなかったんだ」
「これは子供の頃が言い続けているが、いつ、尿意を催すかは正確には予測できない。そもそも予測とは」
「あーわかった。俺が悪かった。だけど、生憎トイレは借りれそうにない。森の中でしてくれるか」
「しょうがないな」
それはこっちの台詞だ。と思いながら森へと歩いて行った。
「紹介する。俺の友人で元検視官で今は製薬会社の研究員のスターリン・ビショップだ」
「よろしくな」
「ああ。よろしく」
「さてと。スターリン、死体はあの」
と言った頃にはもう、ビニールシートの中に入っていた。
「はあ」
全く呆れる。自分もビニールシートの中に入って行った。
「これは…」
それは、感嘆の声なのか。それとも
「遺体の身元が判明しました。名前は 沢倉 修二。48歳です。村民の話によれば、人に憎まれるような人間ではなかったそうです」
続けて石神が
「事件後、村を出て行った人間は居なかった。外部の犯行と見て、まず間違いないだろう」
と、言った。
「だが、身元はわかってもな。他が全くだ」
「大丈夫だ。その点についてはこいつが解明する」
と言いながら、右手の人差し指でスターリンを指した。
「亮司。死因がわかったぞ」
「おう。早いな。で、なんだ」
「窒息死だ。鉄が覆っているのは皮膚だけじゃない。体の穴という穴を塞いでいる。肛門や陰茎は調べたか」
2人とも、信じられないという、表情だった。
「い、いや。その遺体は重くて動かないので」
「そうか。そういえばそうだった」
そうだった。という言葉を石神は聞き逃さなかった。
「待て。だった。ってのはどういうことだ。まるで、この現象を知ってるような口ぶりじゃねえか」
「そう」
と、スターリンが話そうとした時、
「待て」と制止した。そして、
「警部。もう一度事情聴取を行ってください。もしかすると、見落としている点があるかもしれません。それから、石神。森の周辺だけじゃなく村の周り、全てをくまなく、捜索してくれ。逃走経路や何かが見つかるかもしれない」
「…わかりました」
石神も渋々
「わかった」
と言い、出て行った。
「よし、いいぞ。話せ」
丸渕の眼鏡を手袋をはめた、右手の人差し指で少し上げ、空を見上げた。そして話し始めた。
「昔、政府が秘密裏に行った実験プログラムがあった。そのプログラムの一つにこれがあった。物質を鉄に変えるという、実験だ。鉄に変えたいものにその物質の質量の20%の鉄分とその1/4の…なんだったかな。まあ、もうひとつの何か、物質を混ぜたものを注入する。この実験ではりんごやオレンジ、ぶどうなどと言った、果物は鉄に変えることができた。だが、人間でやるとどうも、うまくいかない。中途半端なところで鉄化が止まりそのまま何人も死んでいった。我々科学者は諦め、そのまま実験は打ち切られた。その何年か後に、1人の男が、実験の行われた、研究所のあった、大学病院に侵入し、自分は「J」だと名乗り、そのまま、行方不明となった」
「つまり、その男が犯人だと」
「ああ。だが、犯人は1人とは限らない。まあ、とにかく、わかっていることは2つだ。まず一つ目。その男は、人体を完全に鉄化させることに成功した。もうひとつはこの男は続けて、犯行を行うということだ」
「なに?」
目を見開きそう言った。
「これはいわゆる臨床実験だ。この犯人はまた、近いうちに他の人間にもこのような現象を起こす、薬品を投与するだろう」
「…だが、どうやって防ぐ。犯人と次の標的の目星がつかない」
「まあ、科学者としての意見を言うなら、次狙われるのは今回と同じ、年齢の、なにかしらの病気を持った男性だと思われる」
スターリンの様子を伺いながら、
「根拠は?」
と、聞いた。
「さっきも言った通り、これは臨床実験だ。つまり、様々な人間で行い、情報を集める必要がある。だから、同じ年代、同じ性別の異なる病を持った、人間で行うのが一番効率的だ」
「なるほど。ありがとう。まだ、わからないこともあるが、とりあえずはOKだな。俺も、事情聴取に行くけど」
「死体は?」
「どうぞご勝手に」
と言い、ビニールシートをめくり、外に出ようとした。その時
「ありがとう。では、もうひとつ、ヒントをやろう」
という声がした。振りかえり、右手を腰に当て
「何だ?」
と、聞いた。
「さっきの言葉にもうひとつ条件をつけよう。同じ年代、同じ性別、異なる病を持った、同じ場所で育った人間でを犯人は狙う」
俺が根拠は?と聞くよりも早く
「なぜなら、同じ場所で育っている方が、色々と都合がいいんだ。場所によって過ごし方が違ったりすれば
体の活性速度や肉付きの仕方も変わってくる」
「なるほど。そうか。ありがとう。参考になったよ」
そう言って、外に出ようとした時また、声がした。
「ああ。後…」
振り返り、ため息をつきながら
「なんだよ」
と言った。スターリンはほんの少し、怯えたような感じだった。だがその様子もすぐに消え去り
「死体の検視。やっとくよ」
と言った。その言葉を聞き、少し笑みが浮かんだ。
「ふっ。サンキュー」
と言って、今度こそ、ビニールシートの外に出た。10月とは思えない寒さにそろそろ慣れてきた。
少し、湿っていてぬめりのある、土の地面を強く踏み込んで…そして、強く歩き始めた。
最近、綾鷹にハマっております。どうでもいいですね。
さて、第2話どうでしたか。スターリンが登場しましたね。アメリカンドラマなどにはよく出てくる、変人研究員ポジションの彼ですが、政府の極秘実験プログラムに関わっていた、重要人物にもかかわらず、刑事の川崎と関係があるのはなぜでしょう?
それは、読み進めて行くうちにわかるでしょう。
そして、今回のサブタイトルですが、本当なら、本編にこの言葉を入れたかったのですが、都合上(入ってないのに気づいたけど、面倒臭くて、編集しなかった。とかじゃありません(汗))の問題で入れることができませんでした。
えー。長くなりました。修正点など、あれば、お申し付け下さい。なるべく早く、対応します。第3話をお楽しみに。