狙うはふてぶてしい面構えのアイツ
狙いを定めて引き金を引く。
優しく、そしてしっかりと抱き締めるのはロングバレル。
肘を締め、腰を落として手首でがっちりと銃口を固定して。
キリキリキリ……指に少しずつ力を込め、トリガーをゆっくり引き絞る。
射出されたタマは狙いを僅かに逸れ、すこん。マヌケな音を立てて隣のビスケットの缶を弾く。
「ありゃ」
「ハイよ、兄ちゃん。持ってきな」
「あのね、お兄ちゃん。ゆか、クマさんがほしいの」
出店のあんちゃんから受け取ったビスケットの缶を両手で抱えた妹は、上目遣いに控え目な声で催促。
……いえっさー、まむ。お兄ちゃんはミッション了解いたしましたよ。にゃんこのビスケットでもかじって待ってろ。
射的屋のあんちゃんから受け取ったコルク栓式の空気銃を抱える。
さっきは弾道が十時の方向にズレたので、銃口をその分ズラし。
狙うはピンクのハートを抱えたテディベア。の、右足の付け根。えらく安産型な体型がやや不安だが、大丈夫、イケる。落としてみせる。勿論、物理的に。ちょっと据わった目がコワいんだけど、コレ可愛いのか? とかはさておき、トリガーを引き絞る。
すこーん。どさっ。ころり。
簡単にぐらりと揺れたそれは、当たったコルクより早く地面に落ちた。何だか重そうだ。
「おお、兄ちゃんうまいね! コレ落とす人なかなかいないよ!」
あんちゃんのテンションが上がっている。だが、僕のテンションは下がっている。
だよね。うん、わかってた。だって、持ってみたらますます超安定感ある安産型だもの。どっしりしてるもの。子持ちの貫禄が有るふてぶてしい面構えだもの。
寧ろこれ落としたコルクまじパネェ。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
微妙な気持ちで眺めていた戦利品に妹はぴょんと飛び付いた。
嬉しげに抱えてぴょんぴょんと跳ねて笑う。喜んでいる……。
ま、まあ、嬉しそうで何より。
取り敢えず、僕は無事ミッションクリア出来たようだ。
「お兄ちゃん、早く、早く!」
「ハイハイ。大丈夫、アンズ飴は逃げないよ」
さて。次のミッションはアンズ飴を確保する事らしい。その他にも、チョコバナナにワタアメ、お好み焼きにホットドック、風船吊りに金魚すくい……まだまだ戦いは始まったばかりだ。
慣れない下駄につんのめる小さな司令塔、妹を支えて、手を繋ぐ。
僕の一番の役目は、妹を守る事。
散々僕を連れまわし、ハシャぎ疲れてうとうとする妹を背負い、食べきれないお土産やふてぶてしいテディベアを手に、僕は帰宅した。
帰ってみたら袋が破れてあのクマが見あたらなかったのは、ワザとじゃない。っていうかどんだけ重いんだよ!
泣く子には勝てない。
翌日通った道を辿ってちゃんと見付け、連れ帰ったテディベアは洗って妹に返した。
さっき泣いた烏が何とやら。ご機嫌で遊び出す。子供というのは現金なものである。
そして、そのテディベアは妹の子供時代の友達として長く彼女の部屋に置かれる事となった。