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銀鈴の異邦人  作者: 月兎
7/13

第7話

順調にハーレム形成中です。

巴ちゃんだけ愛でるつもりだったのに、いつの間にか日陰の存在に・・・

翌日、真人(まこと)は夜が明ける頃に目を覚ました。着替えを済ませて宿の裏口にある井戸へ行き、借りておいた桶に水を汲む。ついでに一口飲んでみると、どこか甘さを含んでいるような味がした。


顔を洗ってから水を捨て、ケイトに桶を返して食堂へ向かった。朝食は毎朝決まっており、パンとチーズの塊にグリーンサラダが付くようだ。チーズは馴染みのあるプロセスチーズ(一口サイズ毎に銀紙で包んだアレ)ではなく、水分を抜いて硬く作られたハードチーズだ。


食事を終えて一息ついていると、昨日約束した通りカティアが迎えに来た。挨拶もそこそこに宿を出て、2人でエレンの家へ向かった。




「おはようエレン。調子はどうだ?」


「マコトさん、おはようございます。なんだか前より調子が良いくらいです。」


手術中の【ヒーリングライト】は患部(かんぶ)に掛けたが、効果は身体全体に及んでいたようだった。特に問題が無かったので手術はそのまま進めたが、他にも悪くしていたところが治ったようだ。

念の為簡単な問診をして具体的な変化を聞き、特に問題なしと判断した。あれだけの血を流したというのに、体力低下や脳障害といった問題が全く伺えない。魔法ってすごいな。


「そっか、経過は順調みたいだね。念の為1週間は無理をしないように。僕はしばらくケイトさんの宿でお世話になってるから、何かあったら宿においで。」


「はい!」


ゴブリンの胎児を堕胎した記録がほとんどない為1週間は様子見だ。その間は村に留まって冒険の準備を進める事にしている。


「テア、約束してから随分待たせちゃったね。外に行こうか。」


「うん、よろしくね。」


今日はカティアに魔法を教える約束を果たす為、2人で西門から村の外へ出た。念の為、周りの被害を気にしなくても良い、(ひら)けた丘の上に向かった。



「テア、魔法を教える前にギルドカードの詳細を見せてもらって良いかな。僕も見せるからさ。」


カティアがギルドに所属している事は既に確認済みだ。カティアはポーションを作って生計を立てているが、ギルドと契約して定期的にポーションを納品する事で管理費用を免除されているようだ。


「んー・・・。まあマコトなら構わないわよ。」


特に嫌がる素振りも見せずにカード情報を開示してくれた。



 ───────────────────────────────

 氏名:カティア

 

 種族:エルフ

 性別:女

 年齢:16

 

 ギルドランク:D

 ───────────────────────────────

 HP:351 / 351

 MP:418 / 418

 ST:398 / 398

 

 状態:正常

 

 STR:41

 VIT:38

 DEX:53

 INT:65

 MND:48

 AGI:51

 CHR:73

 LUK:22

 

 金 貨:21

 銀 貨:8

 銅 貨:0

 半銅貨:0

 ───────────────────────────────

 ▼習得技能

 【魔法医術見習い】【調合:初級】【属性魔法:Lv.5】

 

 ▼固有技能

 

 ▼適正属性

 水,風

 

 ▼備考

 

 ───────────────────────────────



「テア、客観的に見てこのステータスって冒険者としての強さはどのくらいのレベルなのかな? あ、変な意味じゃなくて、僕はまだ強さの基準が判らなくてさ。」


エナーシャと大体同じようなステータスだから、Cランクくらいだろうか。カティアは少し考えていたようだが、直ぐに想像した範囲内の答えを返してくれた。


「うーん、多分ステータスならCランクに届いてると見て良いと思うよ。ただ、私の場合は攻撃手段があまりないから、同じランクの魔獣と一人で戦ったりはできないんだけど。」


今のところCランク相当のステータスしか見てないからまだ何とも言えないなあ。いっそのことステータスの項目ごとに一般的な数値がどの程度かレクチャーしてもらった方がいいのかな。


「マコトのステータスはどうだったの?見せてくれるんでしょ?」


「あ、ごめんごめん。そうだった。」


僕とのステータスの差をどう説明しようか迷ったが、ひとまず有りの侭を受け止めてもらおうと覚悟を決めた。昨日作ったギルドカードのステータスを開示してカティアに渡す。



 ───────────────────────────────

 氏名:神楽(かぐら)真人(まこと)

 

 種族:銀狐

 性別:男

 年齢:17

 

 ギルドランク:E

 ───────────────────────────────

 HP:12184 / 2184 (+10000)

 MP:121628 / 71628 (+50000)

 ST:7830 / 2830 (+5000)

 

 状態:正常

 

 STR:195 (+500)

 VIT:168 (+2000)

 DEX:373 (+1000)

 INT:772

 MND:158

 AGI:442 (+500)

 CHR:830 (+1000)

 LUK:12

 

 金 貨:0

 銀 貨:0

 銅 貨:0

 半銅貨:0

 ───────────────────────────────



昨日見た時とそれほど違いは無いが、INT と MND が僅かに上がっている。


「なによこれ!!」


カティアが座り込んでカードを食い入るように見ている。アビリティの表示に切り替えようとしてカードに触れようとしたところ、まだ満足していなかったのかカードに伸ばした手を叩かれた。


(テアさん、だんだん僕に遠慮が無くなってきたな。まあ打ち解けたと思えば悪い気は全くしないが。)


改めて断りを入れ、今度はアビリティを表示させる。



 ───────────────────────────────

 ▼習得技能

 【新明無限流免許皆伝】【魔法医術】

 【属性魔法:Lv.2】

 

 ▼固有技能

 【九尾】【衰退停止】【固有魔法:教与】

 【インベントリ】【魔法開発】【夢見】

 

 ▼適正属性

 火,水,風,土,光,闇,無

 

 ▼備考

 【大神:天照の加護】

 【神獣:銀狐の加護】

 ───────────────────────────────



固有技能に【夢見】が追加されていた。夢で巴ちゃんと会った事が原因だろうか。それに真人の技能という事は、巴ちゃんに会おうと思って眠れば夢で会えるのかな。


「そっか、御加護をお二方から頂いてるんだったよね。でも御加護の能力値補正って、ステータスに載ってた(プラス)表記だよね。御加護なしでもほとんどの能力値がAランクを越えてるよ。

特に魔力(MP)魔法力(INT)、あとはカリスマ(CHR)なんて、Sランクでも同等の人っていないんじゃない?

固有能力は聞いた事も無いのばかりだし、無属性って御伽噺(おとぎばなし)にしか出てこないものじゃないの?」


(・・・テアさん、僕にそんな事言われても解りませんよ。)


カティアはステータスの方がまだ気になるらしかったので、もう一度ステータスを表示した状態で預けてある。まだしばらくは返してもらえそうにないな。


「今日までの村の人達の反応を見て思ったんだけど、僕はあまり目立つのは苦手みたいなんだ。でも、ステータスは極力隠すようにしないと目立ちそうだよね?」


「目立つなんてものじゃないよ。どの能力値も見た事無いほど高いじゃない。それに加えて無属性の適正と2つの御加護。どこの国や組織でもこんな有能な人材放っては置かないわ!」


何とかカティアを(なだ)めて落ち着かせ、ギルドカードを返してもらった。今後はステータスの開示は極力控える事にしようと決めて、本題に入る事にした。




「さて、じゃあ改めて魔法の授業を始めようか。と言っても、テアの方が魔法の習得レベルが高い事実が判ったから、教えられるのは僕が開発できる魔法に限る訳か。」


「んーと、技能としては一見高いように見えるけど、習得できた魔法は支援系に偏ってるの。私は攻撃魔法が苦手なのよ。」


「攻撃系の魔法を覚えるのが難しい体質・・・みたいなもの?」


「ええ。お爺様にも散々(さんざん)教わったんだけど、どうしても一定以上威力のある魔法にならなくて・・・。」


「了解。じゃあまずはテアの魔法を見せてもらおうか。」



カティアが見せてくれた魔法は【ウォーターアロー】と【アイスアロー】だ。どちらも速度は申し分ないが、(もろ)い為大したダメージを与えられそうにない。試しに手ごろな岩にぶつけてもらったが、【ウォーターアロー】は水滴が飛び散るに留まり、【アイスアロー】もぶつけた氷の方が砕けてしまった。


Lv.3 以上の魔法でも大差無い状況で、攻撃範囲が広がる分味方の邪魔をするだけなのでほとんど役に立たないらしい。


「風の攻撃魔法はないの?」


「【ウィンドアロー】って魔法があるにはあるけど、風を飛ばすだけの魔法なんて役に立たないから誰も使わないわ。これに関しては攻撃魔法が苦手な私に限った話じゃないわよ?

あとは、【ウィンドスラッシュ】があるのだけど、私では大した風も起こせなかったわ。同じような魔法で水属性の【ウォーターメス】って魔法もあるけど、こっちも同じような状況ね。」


【ウィンドスラッシュ】は腕を振って生まれた風を圧縮する魔法だ。熾した風の強さと圧縮率で威力が変わるので、杖を振って風を熾すと威力が上がる。得物(武器)に剣等の近接武器を選んだ者でも、風属性に適正があれば簡単に使える。ただし、魔法力(INT)が低いと圧縮率に難がある為、牽制(けんせい)程度にしかならないようだ。

【ウォーターメス】は発生させた水を圧縮し、平たく伸ばして飛ばす魔法だ。これも圧縮率で威力が決まるが、カティアがやっても切断するほど薄く伸ばすことは出来ていなかった。


「うーん・・・。支援系の魔法は問題なく使えるんだよね?」


「ええ、少なくとも支援系魔法で不満を感じた事はないわ。」


試しにカティアと同じように【アイスアロー】を岩に向けて撃ってみたら、僕の場合は岩に氷の(くい)が突き刺さる程の威力を発揮した。支援系に問題がなく、村長から教えを受けた上で威力に不満を持っているのであれば、僕の【アイスアロー】との違いは INT補正だけでは無いはずだ。


なぜ攻撃魔法に限って上手く使えないのか、そもそもそれが謎だ。習得はしていると思って間違いは無いだろう。攻撃系と支援系でアビリティが分かれている訳ではないからだ。これについては神様の気まぐれかもしれないが、区別なく使えると判断して良いと思う。


相手に対する殺意とか?僕は岩に対してそんなもの抱いていないから違うだろう。カティアも同程度の事は思っていただろうし。後は・・・魔法攻撃の明確なイメージか?



「テアは攻撃魔法を使う時ってどんな事を考えてる?」


「どんな?うーん・・・詠唱間違えないようにとか?」


(いや、僕に聞き返されてもね!?)


「じゃあ支援系魔法使う時はどう?」


首を捻って考え込んでしまった。まあ意識してなければ覚えてるような事でもないかもしれないな。


「僕の場合、回復魔法を使う場合は『傷口が塞がるように』、【ウィンドウォーク】を使った時は『身体を風で押す』イメージをするんだけど、テアもそうじゃない?」


「あ、言われてみればそうね。回復魔法を使う時は傷口を見て塞がって欲しいと思うし、防御系の魔法を使う時は危険から身を守りたいと思ってたかもしれないわ。」


「じゃあ攻撃魔法の場合はどう? 魔法を使いたいって意思だけじゃなくて、その魔法を使ってどうしたいかをイメージしてた?」


「確かに、攻撃魔法を使うつもりで詠唱してたけど、その魔法でどうしたいかなんて考えてなかったわ・・・。」


僕は魔法を唱える時は詠唱を破棄しているが、具体的なイメージを込めた『言霊』で魔法名を唱えている。言霊は『言魂』とも書くが、文字通り魂を込めて言葉にしなければならない。

カティアの場合は支援系魔法に関してはそれを無意識に行っていたが、攻撃魔法に関してはそうではなかったようだ。


「開発魔法を教える前に、もう一度試してみようか。詠唱はイメージを固めるサポート的なものだから、詠唱に気を取られずにイメージを強く持って。詠唱なんてしなくても魔法は使えるしね。

今度は『硬く凝固した氷の杭を岩に突き刺す』イメージをしながら【アイスアロー】を撃ってみて。」


「解ったわ。やってみるよ。

『水の柱を凍結し、鋭く尖った矢と成さん』【アイスアロー】」


今度は見事岩に突き刺さった。今の【アイスアロー】は殺傷力も十分だろう。

それにしても詠唱のせいでカティアが間違ったイメージを持っていた気がする。詠唱からは氷の矢を作るまでのイメージしか湧かないから、教えを受けていた時も『魔法の表面上を真似る』に留まったのだろう。まあ戦闘中に長々と詠唱する訳にもいかないから、邪魔にならない程度適当に端折(はしょ)った結果だと思うが。


「やたっ。こんなに威力が上がるなんて思わなかったわ!」


「魔法に必要なのは、突き詰めれば『言霊』みたいだからね。意思を乗せて言葉にする事で魔法が効力を発揮するんだ。逆に言えば、明確な意思を乗せないまま魔法を使うと、効果を発揮しないどころか発動すらしない可能性があるってわけだね。」


「何年も練習してきたのに、こんなに簡単に解決する事だったなんて・・・。」


「まあまあ・・・。まずは、イメージしながら魔法を使う癖をつけた方がいいね。それがしっかりできるようになると、無詠唱でも魔法を使えるようになるだろうし。」


その後しばらくは魔法の練習をする事にしてもらった。その間、僕はカティアが使えるような魔法を開発する事にする。


まずは先程の話に出た【ウィンドスラッシュ】と【ウォーターメス】を使ってみる事に。話に聞いた原理をイメージして魔法名を唱えると、属性魔法レベルが不足しているにも関わらず使う事が出来た。


風で威力を上げるイメージは固めにくいと判断し、【アイスアロー】と【ウォーターメス】を参考にした魔法を作る事にした。と言っても【アイスアロー】に関しては【ファイアブレット】と同じように空気抵抗で回転するようにしたら、あっさりと貫通力が増した。付けた名前は【アイスブレット】だ。


次に【ウォーターメス】の威力が上がらないか検討してみる事にした。【ウォーターメス】とは、密度を高めた水を叩きつけて、接触面を押し切っているに過ぎない。

元の世界にはダイヤモンドを水の力で切断するアブレシブジェットという加工技術があるが、それは水の圧力だけで成り立つ技術ではない。水の中に研磨剤を混入し、それを叩きつけて削っている。

それと同様に、水の中に砂を混ぜてみると威力が上がるのではないだろうか。また、対象にぶつけるのではなく、刀を当てて斬るように角度をつければ切断力も上がるのではないだろうか。


そう思って試してみたが、実際のところ上手くいかなかった。【ウォーターメス】よりも多少強くなった程度だが、切断力を高める結果には繋がっていない。

少し考えてみると、その結果は納得できるものだった。継続的に水圧を集中する事で削る技術なのだから、横に伸ばしてはダメなのだ。水圧を一点集中するようにしなければ意味が無い。

今度はドリルで穴を開けるように、細く糸状に伸ばした水圧を回転させながらぶつけるイメージに切り替えて試してみる事にした。


「【アブレシブジェット】」


研磨剤を混入した高圧力の水柱が、岩を完全に貫通して深く土を(えぐ)っていた。今度は成功と言っていいだろう。これだけの威力があれば、オーガ程度なら簡単に骨ごと貫けそうだ。参考にしたオリジナルの技術(元の世界の技術)にも負けない威力になっている。


開発した魔法に満足したところで、昼食をとる為に一度戻る事を提案する。


「お弁当を用意してきたの。マコトの分も用意してきたから、ここで一緒に食べない?」


街の外にでる事は昨日の段階で分かっていた為、弁当を用意してくれていたようだ。僕はそこまで気が回らなかった為手ぶらで来ている。カップ麺ならあるが・・・。

せっかく作ってくれたので、ここはお言葉に甘えて弁当を頂くことにした。


「ところでマコト・・・今日はずいぶん可愛い恰好してるけど、それってもしかして村で調達した服?」


「ああ、広場に面した雑貨屋の2階で押しつけられたんだよ。」


「なるほどねー。マコトもあの人の趣味につき合わされちゃったか~」


「どうしても下着が欲しくてね。手に入れる為には避けて通れなかったんだ・・・。

それに異世界の服を着続ける訳にもいかないからこれを着てるんだけど、明らかに女性向けの服みたいだから恥ずかいよ。」


「そういう服なら私が着ても問題ないし、2人で同じもの着たら少しは恥ずかしくなくなるんじゃない?」


「ペアルックは別の意味で恥ずかしくない?」


どことなく共通点を感じさせる さり気ない主張ではなく、昔の恋人同士が同じアイテムを揃えていた時代のスタイルになる。現代では所謂(いわゆる)バカップルでさえ全身ペアルックなんて見かけない。


「あっ!・・・そ、そういう意味じゃなかったんだけど。嫌ならやめとく?」


(あれ?・・・いつの間にかペアルックが既定路線(きていろせん)で、それをキャンセルするかどうかを聞いてるの?)


「いや、別に嫌って訳じゃないよ?」


「そう、よかった・・・。

あ、それより、さっきの魔法ってマコトが開発した魔法だよね。私の適正て使えそうだし、教えてもらえるのかな?」


「うん、テアが使えそうな魔法を開発したからね。もちろんそのつもりだよ。」


「やたっ。それにしても新魔法なんてそうそうできるものじゃないと思うんだけど・・・。3日間で4つも新魔法開発しただなんて、研究職の人に知られたら卒倒しそうだよね。」


実は5つだった。【アブレシブジェット】の理論を【ウォーターアロー】にも応用したらあっさりできてしまったのだ。違いは水の噴出に持続性があるかどうかで、それがそのまま貫通力として差が出るだけだ。




会話を楽しみながら食事を終え、改めて開発した魔法を教える事にした。


最初は口で説明して教えていたが、流体力学や空力抵抗の基礎的な概念すらないこの世界で、氷で作る弾丸の精密な形までは伝えきれなかった。

物理の概念から教え込む事は諦めて、カティアに【教与】を使って教える事にした。初めて使う魔法に若干躊躇(ちゅうちょ)したが、失敗する事無く使う事ができた。予想通り・・・というか僕も通った道なのだが、多少の頭痛はあったようだ。


カティアの頭痛が治まってからは、MP(魔力)が尽きるまで教与した魔法の練習をしていた。教与したのは【ウォーターブレット】【アイスブレット】【アブレシブジェット】の3つだ。


【ウォーターブレット】は【アイスアロー】に比べてもコストパフォーマンスに優れている為、使い勝手が良さそうだ。

【アイスブレット】は貫く事よりも破壊する事に向いているようなので、【ウォーターブレット】で物足りない場合に使うのが良いだろう。

【アブレシブジェット】は放出している間はずっと魔力を消費し続ける為、魔力の消耗が激しい。約1分間放出し続けると、魔力を100程消費するようだ。それでも、同程度の威力を持つ既存の魔法よりも遥かにコストパフォーマンスが良い。大型の魔物に対峙した時には優れた戦力となるだろう。


カティアは魔力を使い果たして動けなくなってしまった為、少し休憩してから村に戻る事にした。真人はまだ魔力切れを体験した事は無いが、カティア曰く意識が朦朧(もうろう)としてくるそうだ。




少し休んで回復した後、2人は村に戻ってきた。真人は冒険の準備で買い物をする予定だ。カティアもついてきたかったようだが、そろそろギルドへのポーション納品期限だそうで、調合しなければならないそうだ。

真人はカティアと別れた後、ひとまず雑貨屋から見て回る事にした。



「いらっしゃい。昨日きた子だね、何か探してるのかい?」


何から(そろ)えるべきなのかもわからない。とはいえ必要な時に無いというのも可能な限り避けたい。であれば、店主に冒険者が買うようなものを見繕ってもらうのが得策だろう。


「冒険者用の道具を一式揃えたいと思ってます。支度金はそこそこありますので、適当な物を紹介してもらえませんか?」


「はいよ。じゃあまずは・・・」


雑貨屋で勧められたアイテムは、『証明部位切り取り用のナイフ』『多目的用ナイフ』『皮袋2つ』『ランタン』『火打石一組』『ロープ3本』『清潔な布3枚』『木碗』『革グローブ』『マント』と、予想よりずいぶんと多かった。

一応それぞれの用途を聞き、一度は不要と思った火打石も含めて全て購入した。旅をするのであれば、これらに加えて保存食。本格的な長旅をするのであれば、テントと鍋がある方が良いそうだ。

他に加工済みの歯木(しぼく)(歯ブラシ)と歯磨き用の塩袋、財布を買って、合計銀貨3枚と銅貨4枚だった。大量に買い込んだ為か、銅半貨の端数は値引きしてくれた。会計を済ませた後、村の南東にある防具屋へ向かった。


防具屋の店主には鉄鎧はあまり置いてないと言われたが、動きを阻害する重い鎧を着込む気は最初からなかった。代わりにソフトレザーとハードレザーで作られた防具が豊富に揃っており、僕にとってはありがたかった。

その中で1着目のソフトレザージャケットに目が留まった。一見シンプルなレザージャケットだが、肩から背中と胸をハードレザーで裏打ちしており、腕の可動域を確保したまま硬度を上げている。腹が若干無防備なところに目を瞑れば、デザイン的にも悪くない。

カティアが着ていた胸当てのようなものを買うつもりだったが、このレザージャケットを見て直ぐに考えを改めた。

値段は銀貨1枚と銅貨5枚だ。同じ値段でハードレザーアーマーが買えるようなので、機能性で選べばハードレザーアーマーだろう。だが、普段から着てても違和感のないデザインに惹かれてジャケットの方を買ってしまった。

ちなみに裏打ちの無い素朴なレザージャケットだと銅貨5枚という事だから、3倍の値を付けている事になる。店主自慢の一品だそうだ。



最後に立ち寄ったのは防具屋と軒を連ねている武器屋だ。師匠から頂いた刀がそろそろ限界だった。


「すみません、ちょっと見てもらいたい武器があるんですがー」


「おう、どれだ?」


真人は腰に結っていた刀を外し、店主に渡した。予想した通り日本刀を見るのは初めてらしく、物珍しそうに刀を見ていた。


「この刀・・・歪みを強制したり、打ち直したりする事はできますか? ちょっと特殊な技術が必要かもしれません。」


「いや、すまんが俺はこんな剣を見るのは初めてだ。形だけなら似たような剣はあるが、これほど薄くて切れ味に特化したものは見た事がねえ。それにこれほど美しい剣となると、試しに打ち直して悪くするのも気が引けるな。」


今や日本刀は美術品としての価値の方が高い。(さや)(こしら)えも立派過ぎて目を引くほどだ。刀身も鏡のように磨かれているから、下手に打ち直すのは躊躇(ためら)われるのだろう。


「そうですか。では代わりの剣を・・・似たような形の剣をみせてください。」


「家に置いてるのはカトラスとファルシオンだ。ファルシオンは直刀が主流だが家では反りを入れたものも扱ってる。数は少ないがな。」


カトラスは片刃のショートソードに反りを入れたような形で、ガードからグリップの先までナックルガードで保護されている。刀身の厚みは刀の3倍はあろうかという厚さで、かなり頑丈に作られている。

ファルシオンはロングソードを片刃にしたような形だ。多くは直刀になっているが、反りがあるものでも標準的な日本刀程反ってはいない。


カトラスのナックルガードは邪魔になるから選ぶならファルシオンだろうが、刀身もグリップも若干短い。日本刀の代わりに使うにはもう少し長さが欲しいところだ。


ファルシオンを買うか悩んでいたところ、店の奥に飾られた少し大き目のファルシオンに目が留まった。


「あそこに飾ってあるのは?」


「ああ、あれは(うち)に発注した冒険者が受取にこなかったものだ。もう2年になるから金さえあれば売っても良いのだが・・・ミスリルで打ってあるからかなり値が張るぞ?」


「予算は金貨6枚くらいまでは用意できます。そのファルシオンはいくらですか?」


「金貨4枚・・・ファルシオンが10本買える値段だな。」


「見せてもらってもいいですか?」


基本的なつくりはファルシオンと同じだ。やや大きめに作られている為、日本刀の代用にも十分だろう。硬度は刀や普通のファルシオンに比べても遥かに硬く作られているようだ。


ミスリルファルシオンに満足できたので金貨4枚を支払って買う事にした。




一通りの買い物を終えると既に日が沈もうとしていた。宿に帰って荷物を部屋に置き、食堂へ足を運ぶとエナーシャがいた。パーティー勧誘の返事を待っていたのだろう。


「昨日の話の返事を聞きたい。どうだろうか。」


本当のところ、昨日話を聞いた時点で既に決めていた。1日時間を置いてみたが、気が変わる事もなかったので話を受けることにした。


「最初に言っておきますが、今のところ僕に明確な目的は一つもありません。()いて言えば、色々見て回りたいとは思ってます。旅の途中で目的を見つけるかもしれませんし、もしかしたらどこかに腰を据える可能性もあります。

それを聞いてもパーティーを組む意思は変わらないでしょうか?」


「ああ、私の気持ちに変わりは無い。」


「ではよろしくお願いします。」


と言ったところで、いつの間にかエナーシャの後ろに立っていたカティアに気付いた。よく見ると昼間と違う服を着ている。白いシュミーズと黒革のレギンス・・・どこか見覚えがあると思ったら僕とペアルックだった!既定路線は間違いじゃなかった!


僕の顔色から察したのか、背後から不穏な気配を感じたのか、エナーシャが後ろを振り返って固まった。


「・・・たしも」


「「え?」」


「私もパーティーに参加する!」


----

2012/09/16 用語を修正:「護拳」⇒「ナックルガード」

 こちらの方が一般的ですね。

2012/09/19 誤字修正:「弧」「孤」⇒「狐」

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