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銀鈴の異邦人  作者: 月兎
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第4話

ゴブリン殲滅(せんめつ)とオーガの討伐を達成した真人(まこと)は、村長の勧めに従って村長宅で一泊した。夕食はカティアが作ってくれていたらしいが、真人は完全に熟睡していた。後で確認したが、疲労で寝ているところを起こしては忍びないと、そのまま朝まで寝かせてくれたらしい。



翌朝・・・。


普段は目覚ましによって強制的に覚醒する真人だが、この日は誰に起こされる訳でもなく目を覚ました。上体を起して反らし、体を伸ばす。次いで清廉な朝の空気を深く吸い込む。冷たい空気が肺を満たし、気持ちよく意識が覚醒した。


「知らない天井だ・・・って言い()がしたな。」


どうでも良い事を1つ呟き、ベッドの下に転がしたブーツに足を通す。自分の体とベッドに【清浄化(クリーンアップ)】を掛け、静かに部屋を出た。1階に下りるとリビングには既に村長がいた。


「おはようございます」


「おはよう、マコト君。そろそろテアも起きてくると思うよ。朝食はテアに作って貰うから、一緒に食べようか。」


「はい、ご相伴に預かります」


「そんなに堅くならなくても良いんだよ?」


こちらを気遣ってか、村長さんはにこやかに笑っている。朝食ができるまで少し時間があるので、日課の素振りをする事にした。一言断って庭を借り、素振りする為に庭に出た。

インベントリから刀を取り出すと、昨日手入れし忘れた事を思い出して【清浄化】を掛けた。続いて鞘から刀身を引き抜く。


(やっぱり少し歪んだか)


刀身を鍔元から剣先に向かって視線を()わせる。刃毀(はこぼ)れこそ無いものの、刀身に若干の歪みが出ていた。昨日だけで何体ものゴブリンを骨ごと両断した上に、堅過ぎて断ち切れなかったオーガの骨に弾かれたのだ。刃毀れしていなかったのが不思議なくらいだ。


(今回は研ぎ直すにしても、刀身を研ぎ減らしていく事を考えると。代わりの刀を仕入れないとまずいな。施設と材料探して自分で刀を鍛えてみる事も考えた方が良いだろうか。)


そこで一旦思考を切って素振りを始めた。何年も繰り返した型通りの動作だ。自然に体が動く。30分程で素振り終えて納刀した時、家の入口に人影が躍り出た。テアが食事に呼びに来たのだろうか。


「マコト!いるか!?」


昨日一緒に村に帰ってきたカティアの幼馴染・・・グランがいた。その表情(かお)は事態の深刻さを察するに十分な険しさで、見ようによっては今すぐにでも真人に襲いかかろうとしているようにも見える。


「グランか? 一体どうした。」


「頼む、すぐに一緒に来てくれ!」


どうやら切羽詰まった事態のようだ。彼との付き合いはまだ1日にも満たない。だがそれ故に、僕を頼るとなれば事情はかなり限定できる。しかし、僕はまだグランの事をあまり知らないのだ。迂闊(うかつ)な推測で動くのは控えるべきだろう。


その時、表の喧騒に気付いたのだろうカティアと村長さんが家から出てきた。


「一体どうした? とりあえず落ち着いて事情を話せ。」


「今朝エレンの家から知らせがあった。エレンは・・・受胎していたそうだ。」


僕が森からエレンを救出した時、エレンの衣服は原形を留めない状態だった。ゴブリンに(はずかし)められた事は明らかだったのだ。とはいえ、エレンが拉致されたのが昨日の朝。その日の昼過ぎには僕が救出しているから、ゴブリンの元に居たのは長くても5時間程度だろう。その僅かの間に受胎させるとは、本当に侮れない。

昨日村長さんに顛末を報告した時に堕胎(だたい)の話をしたが、それがフラグだったんじゃないかと邪推(じゃすい)したくなる高確率だ。


グランが僕を頼ったのは、昨日彼に施した回復魔法の事があったからだそうだ。僕なら何とか助けられる可能性があるのではないかと思ったらしい。


「エレンの様子を見てきたが、微熱が引かないんだ。飯食わせても吐いちまう。」


「村長さん。その症状って受胎で間違いなさそうですね?」


「そう・・・だね。どうやら間違いなさそうだ。昨日マコト君から報告を受けた時、何となくこうなる予感はしておったのだ。何とも因果(いんが)なものだ・・・。」


つまり村長さんもフラグと思ったようだ。少し罪悪感が・・・。


「グラン、何か考えてみる。すぐに行くからその子の(そば)に居てやってくれ。あと、エレンちゃんの家族には早まるなと釘を刺しておいてくれ。」


グランをエレンの元へ走らせ、対策を思案する。【ヒーリングライト】では回復を望めないだろう。受胎している状態は怪我でも病気でもない。堕胎について本格的に考えてみるしかないか。

まず必要な道具として、メスは必須か。この世界にメスの代わりになるものがあるのかどうかだな。後は、過去の失敗例から対策を立てるか。


「村長さん。切開しようと思います。過去の失敗例を可能な限り全て教えてください。」


昨日、僕の話を聞いた後、切開については村長さんが調べてくれていた。文献に記されていた失敗例をまとめると、

・切開に伴う混乱で暴れた為、健常な臓器を傷付けた。

・切開による出血死

・衛生面の問題で、切開した傷跡から壊死した


この3点だった。他にも注意しなければならない事はあるかもしれない。だが、先ずは前例の失敗例を生かして改善しなければ話にならない。まず考えなければならないことは「手術中眠らせておくこと」「出血を抑えること」「清潔な状態を保つこと」か。

出血に関しては更に細分化して「可能なら血圧を抑える」「出血している時間を短くする」「出血した血液の補填」の3つが考えられるか。


幸いな事に、僕は天照(アマテラス)さんに教与してもらった知識があり、対策は立てられそうだ。まず、血圧を落とす方法については氷のベッドでも用意しようか。できれば浅い湯船みたいにして、そこに水を張るのがよさそうだ。

眠って貰う方法は、麻酔がある訳ではないので血圧を落とした後にごく軽い電撃で強制的に意識を刈るのが無難だろう。少しでも威力が強いと心停止する恐れがある為、かなり調整が難しいだろう。

出血時間を抑える・・・か。手早く処置するしかない。あとは行程を1つ1つ洗い出して、ミスなくこなすしかない。

血液の補填はグレンに使った【ヒーリングライト】で何とかなりそうだ。手術後に掛けて、上手く作用してくれれば良いのだが。手術中に【ヒーリングライト】を使うと傷口まで塞がってしまう可能性が大きい為、本当は輸血手段を用意したいところだ。しかし、この世界ではやらない方が良いかもしれない。見た目が狼人間とか猫娘だ。遺伝子レベルの違いが大き過ぎて、拒絶反応が起こらない血液の組み合わせなんて探してられない。輸血したらほぼ間違いなく拒絶反応が出るだろう。

衛生面については縫合前に【清浄化】を掛ければ問題なさそうだ。あとは、ほこりが全く立たない空間に隔離して、【清浄化】したメスを使えばいい。【清浄化】だけで滅菌までできるか分からないので、念の為加熱滅菌(かねつめっきん)した方がいいだろう。


「村長さん。この村で一番清潔な部屋って確保できますか? あと切開に使う刃物ですが・・」


朝食を取る間も惜しみ、慌ただしく準備を進めた。朝食を抜いた甲斐(かい)あって、なんとか昼前には全ての準備が整った。

今は村長宅にエレンのご両親とグレン、今日は非番のヨークさんとエナーシャさんを招いている。昼食を取りながら手術の説明をする為だ。昼食は食べ損ねた朝食に加えて、簡単なものをカティアに用意してもらっていた。


「エレンちゃんのご両親、僕はマコト=カグラです。まずは今回の事お悔み申し上げます。」


「君がエレンを助け出してくれたんだったね? 昨日はありがとう。」


エレンの父親からの謝辞(しゃじ)首肯(しゅこう)1つで返答する。僕がやった事といえば、ゴブリンの集落から連れ帰っただけだからだ。現時点でも『まだエレンは助かっていない』。その所為だろう、母親の方は青ざめたまま(うつむ)いている。今にも倒れてしまいそうだ。


「先程テアに伝えてもらいましたが、エレンちゃんの手術をしたいと考えています。まずはその方法の説明と、了解を得るためにお招きしました。

ご存知の通り、ゴブリンを(はら)んだ女性は安楽死が通例です。ですが、過去の文献(ぶんけん)から手術が成功した例がありました。ただ、その手法に関しては文献に残っていません。ですので、僕が持つ『医学知識』を参考に、過去失敗した問題について対策を立てました。

ただ、それが必ずしも正しいとは言えませんし、必ず救えるなんて断言できません。失敗の可能性も低いとは言えません。

それでもエレンちゃんの手術を受けますか?」


「娘に苦しい思いはもうして欲しくないが、生きられる可能性はあるのならお願いしたい。」


切実な願いである事は見て取れる。助けてあげたいとは思う。だが僕の知識は供与によって得た云わば『借り物』だ。本当に大丈夫なのか、準備に(おこた)りはないか、手順に漏れはないか。どれだけ確認しても不安は尽きない。


「了解しました。全力で対応させて頂きます。まずは手術について説明しましょう。幾つか注意して頂きたい事がありますし、不安もあると思いますので・・・」


そこからは僕の独白が続く。


まず、この後直ぐにエレンちゃんの家に向かい、手術の準備に入ること。そのまま村長宅まで移送し、手術に着手する。腹を切開して子宮を切除し、【清浄化】して傷付けた患部に回復魔法を掛けながら傷口を閉じること。手術中は客室には僕の他カティアとエナーシャさんしか入ってはいけない事。また、部屋の扉に触れない事を約束させた。ほこりが舞うだけで成功率が落ちるのだ。そこは守って貰わなければならない。

ちなみに助手の人選は僕に対してある程度信頼してくれているだろう人を選出した。手術中に錯乱されたり、突然異を唱えられても困る。それも成功率に大きく関るのだ。

一通りの説明を終え、改めてエレンの両親に確認を取る。再び了承を貰い、僕は作業に取り掛かった。



先ずは一旦客室へ行く。用意した寝台の具合を確かめるためだ。客室の中央には幾重(いくえ)にも敷いた布の上に浅めに作った浴槽のような氷が鎮座(ちんざ)していた。これを作った時は表面に霜が浮いていたが、今は若干湿り気を帯びている。


寝台の氷は浴槽に【ウォーター】で水を張り、【フリーズ】で凍らせたものだ。もちろん水だけを張って凍らせたら取り出す時に苦労する上、下手すると浴槽が壊れてしまう。そこは予め空気穴を確保する事と、氷を取り出す為の持ち手を付ける等の工夫をした。

取り出した氷にくぼみを作るように削り、削った氷は桶に貯めておいた、手術の時に水を冷却する為に使う予定だ。窪みを作ったら【ウォーター】で水を貯めて気密を確認。水が漏れださない事を確認して、寝台から水を抜いた後、最後にもう一度だけ【フリーズ】を掛けていた。


僕は寝台の状態に満足して、カティアと入れ替わるようにして部屋を出た。その後、エナーシャさんを伴ってエレンの居る所へ向かう。エレンに不信感を持たせないよう、ご両親にも同行してもらっている。



エレンに会った僕たちが手始めにやる事はエレンの体温低下だ。手術中ずっと氷水に体を付けているのだ。突然そんなところに放り込むと、それこそショック死してしまう。多少時間がかかっても、ここは慎重に体を冷やす必要がある。

まずエレンに清潔(せいけつ)な薄い服を着てもらい、僕が【ウォーター】で桶に水を貯める。そこに布を放り込み、冷水を吸わせた布を板製のタンカに厚めに敷き詰める。そこにエレンを寝かせ、冷水に少し慣れてもらう。続いてエレンの上から冷水に浸した布を掛ける。ここで(しばら)く慣れるまで待ち、慣れた頃に上から被せた布を冷水につけ直し再び被せる。

これを何度か繰り返した後、エナーシャさんと共にタンカを持ち上げて村長宅へ移動した。今回もご両親に付き添ってもらっている。


僕たちが村長宅の客室に戻った時、客室は清浄な冷たい空気が満ちていた。カティアにお願いして、氷の寝台に【ウォーター】で水を張り、【ウィンド】を使って部屋の空気を循環してもらっていた。【ウィンド】は風を(おこ)す魔術で、一般的に汎用性(はんようせい)が無いと思われているらしく滅多(めった)に使われない魔法だ。今回は僕の提案で部屋の冷却をする為に使ってもらっていた。


エレンを客室に下ろし、部屋の前で待機する関係者に告げる。


「これから手術を行います。手術は非常に繊細な作業です。大きな物音やほこりが少し舞うだけで失敗に繋がりかねません。難しい事は承知してますが、どうかお静かにお待ちください。」


客室の扉を閉め、手術に使う道具の確認を念入りに行う。メスは念の為2本用意した。この世界にメスは存在しなかった為、僕が持ち込んだ魚料理を食べる時に使うナイフを加工したのだ。多少脆(もろ)くなる事は覚悟して、丹念に刃先を研いだ。今は水を張った桶の中に沈めてある。他には、清潔な布を10枚と空の桶を3つ、エレンを拘束する為の手錠だ。手錠は頑丈な棒と布、縄を使う。

これで大丈夫なのかと未だに不安になるが、覚悟を決めて次の作業に移る。これらの道具に【清浄化】を掛けて手順の確認に移った。


手術は手順を紙に書き起こして進めるように準備している。その紙を手術に立ち会う2人と共に1行程ずつ確認して失敗が無いように進める。紙にはこう書いてある。


----------

・用意する道具

 ・手術用メス2本(1本予備)

 ・手の代わりに挟むもの

 ・桶3つ

 ・清潔な布を10枚

 ・拘束具(棒、縄、柔らかめの布)

 ・氷の寝台(窪みを作って水を張れるようにする)


・準備

 ・エレンの体を冷却

 ・氷の寝台に水を張る

 ・室温を下げる


・手順

 1.道具の確認

 2.エレンに拘束具を()める

 3.エレンを眠らせ、寝台に寝かせる

 4.腹部露出と切開位置の確認

 5.道具一式とエレンに【清浄化】を掛ける

 6.マコト、エナーシャ、カティアに【清浄化】を掛ける

 7.メスを取り出して【清浄化】を掛け、【ファイア】で加熱消毒する。

 8.マコトが腹部を切開する。

   腹部の切開は他の臓器を傷付けないように注意。

 9.カティアが切り開いた患部に布を当て、流れた血を吸い取る。

   血が大量に出てもあわてない事。

10.子宮側の切断部位に布を巻く。

11.子宮を切除する。

12.切除した子宮は桶に入れて【フリーズ】で凍結。

13.血を吸い取った布を取り外し、腹部に【清浄化】を掛ける

14.子宮回りに限定して回復魔法を掛ける。

15.切開した腹部全体に回復魔法を掛ける。

16.傷が塞がったらエレンを寝台から下ろして拘束具を外し、蘇生する。


・注意

 ・エナーシャは終始脈の確認を行う。

 ・手術の途中でエレンが目を覚ましたら、落ち着いて再度眠らせる。

 ・傷口に素手で触れない

----------


完全に魔法ありきだが、出来得る限りの準備はした。思いつく限りの憂慮(ゆうりょ)に備えた。後は覚悟を決めてやるだけだ。手術に共に挑んでもらう戦友に向かって宣言する。


「2人とも大量に出血する事は想定しててくれ。それを見ても焦らず、慌てずにな。覚悟を決めてくれ・・・。では手術を開始する!」


手順通り、エレンに拘束具を嵌める。エレンの両手首に布を巻きつけ、背中側に棒を通す。棒の両端と布を巻いた手首を縄で固定する。続いて風の派生属性、雷属性の【スタン】をエレンにごく軽く打ち込んで意識を刈り取る。気絶したエレンを水の張った寝台に寝かせる。


作業は一つ一つ手順を確認しながら正確に行われた。特に問題も無く腹部の切開まで進行したが、出血の多さに全員が少し緊張を(あら)わにした。

ここからは迅速に、しかし慎重に。まずは傷口を布で抑え、ゴブリンを(はら)んだ子宮を確認する。予想より大きく膨らんだそれを、(はし)で挟んで一旦持ち上げる。もうひとつの箸で(ちつ)との境界付近に丁寧に布を巻く。布の上から子宮を箸でつかんで左手で持ち直すと、メスで子宮を慎重に切り離す。

大量に出血したが、無理やり無視してメスを空いた桶に放り込む。もうひとつの箸を取り、2組の箸で子宮を取り出し、桶に放り込んで【フリーズ】を掛けた。

再び子宮を切除された傷に向かい、血を吸っていた布を全て取り外して【清浄化】を掛ける。子宮の辺りに【ヒーリングライト】を掛けて経過を観察していると、切断面が再生して小ぶりの子宮が生まれてきた。

状況を確認後、腹部全体に【ヒーリングライト】を掛けて開口部を閉じた。暫くそのまま【ヒーリングライト】を掛け続け、寝台からエレンを下ろして拘束具を外した。

最期に僕自身がエレナの脈を確認。正常に脈打っている事を確認した。



「術式終了だ。二人ともお疲れ様。みんなを迎え入れる前に道具を片付けよう。」


「「はぁぁ~~~~」」


2人は盛大にため息をついて座り込んでしまった。僕はまず全員に【清浄化】を掛けて手術で付いた血糊(ちのり)を洗い流した。今回使った布を桶に詰め込み、その上に箸とメスを置くと、もうひとつの桶を重ねて(ふた)をした。その上に、凍結させたゴブリンが詰まった子宮を入れた桶を重ねて置いた。それを部屋の隅に置いたら寝台も一緒に部屋の隅に寄せ、窓を解放して換気(かんき)した

エレナにバスローブを着せる作業は2人にお願いし、「外で待ってるよ」と伝えると部屋をでた。


瞬間、部屋の外で待っていた全員に囲まれた。気持ちは判るけど、近い近い・・・超怖い。

後ろ手で何とか扉を閉め、待ちかねた人たちを制する。


「みんな、あと少し落ち着いて待って下さい。」


そう言ってなんとか押し留め、(しばら)く待つと部屋の内側からドアが開かれた。出迎えたのはカティアだ。


「みなさんどうぞ。入ってください。」


カティアが部屋へ招くと、全員が部屋へ雪崩れ込んだ。エレナの両親は、ベッドに近付くと寝ているエレナの呼吸を確認し、僕に目を向ける。


「どうなったんです?」


「ここまでは問題も無く進行しています。後は経過を観察しましょう。」


そう言って、部屋の隅に積み上げた3つの桶の一つを取り上げる。


「これがエレナの腹にいたゴブリンの胎児です。今は子宮ごと凍結してあるので危険はありません。胎児も死んでいるでしょう。

とはいえ一応魔物です。この状態でも脅威(きょうい)にならないとも限りません。もしかしたら母体に影響が出ないとも限りません。ですので、焼却するべきだと思います。後で村の外で焼きましょう。」



そこまで話したところでエレンが目を覚ました。若干寝ぼけた(まなこ)で部屋を見渡し、詰め寄った両親達を見て驚き、意識を覚醒したようだ。申し訳ないと思ったが、心配した両親に一言断りを入れて引き剥がし、問診する事にした。


「エレンちゃん気分はどう?体が熱いとか、吐き気がするとかない?」


「身体はちょっと寒い。あ、お腹が熱くないです。吐き気も全然無いです。」


「そっか。今日は一日身体を暖かくして休んでね。明日またお話聞かせてくれる?」


「はい」


押し退けたエレンの両親に振り返ると、娘の回答に相好(そうご)を崩して笑みを浮かべていた。


「成果は上々です。もう体を動かしても大丈夫ですので、ご自宅に連れ帰ってあげてください。

あと、本来子宮を切除すると再生しません。これは子供を産めなくなるという意味なのですが、手術中に使った魔法が幸いして新しい子宮が再生したのを確認しました。現状、状態は良好ですが、一週間は気を抜かないようにしてください。」


「「はい! ありがとうございましたっ!」」


エレンとその両親がその場にいた面々に感謝の意を述べると、部屋の空気は一転して大歓声に包まれた。


手術で気疲れして真っ白になったように見えるカティアとエナーシェは、言葉を発する事もなく部屋の隅で座り込んでいる。


疲れ果てた僕は騒ぎ立てる面々とエレン一家を部屋からなんとか追い出すと、先ほどまでエレンが寝ていたベッドに倒れこむ。疲れていた心身は安堵で僅かに心地よくなっていた。


元の世界の医者はこんな重圧に耐えながら手術をこなしていたのか。僕の場合は魔法である程度やり直しが効くからプレッシャーは少ないはずだ。


(医者ってすごかったんだなあ・・・)


そんな事を思いながら達成感に震えていた。

エレンちゃんの中絶手術でした。

念の為、これは一般的な中絶をベースにしたものではありません。

胎児がゴブリンですしね。。。徹頭徹尾フィクションです。


それにしても真人君。早くもキャラが迷走してますね・・・


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2012/08/30 誤字修正(披露⇒疲労)

2012/09/20 誤字修正:

 「傷付けた幹部に」⇒「傷付けた患部に」

 「最期にもう一度」⇒「最後にもう一度」

2012/09/22 誤字修正:「カレン」⇒「エレン」

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