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銀鈴の異邦人  作者: 月兎
10/13

第10話

王都に到着した一行はギルドに馬車を返却し、隣の宿で部屋を取ってから学院へ向かっていた。部屋はツインルームを2つで、真人とグラン、カティアとエナーシャで1つずつだ。


学院への入学手続きは学院の窓口で受け付けているという事なので、部屋に荷物を置いて学院へ急ぐ事にした。王都では口座からの引き落としが可能という事なので、入学費用の金貨80枚は降ろさずに引き落としする事にしている。


「すみません、こちらで入学を受け付けていると伺ってきたのですが。」


「はい、受け付けております。説明をお聞きになりますか?」


「はい、よろしくお願いします。」



学院の入学は3月25日まで受け付けており、原則4月1日にのみ入学が可能。3か月毎に考査があり、このタイミングでも入学は可能であるが、余程の事情が無い限り受け付けてもらえないようだ。間に合ってよかった。


修学費用は寮費も兼ねており、3か月毎または1年分の支払いを先に済ませる必要がある。授業は週5日で、複数ある科目の中から予め選択した4つまでを受講する。余暇・休日の過ごし方は自由で、冒険者として依頼を請ける事も許可されているという事だ。


学院は時間の管理が厳密にされており、時刻は王都中に鳴り響く鐘の音で判断できる。朝食は7時からの1時間で、8時半から授業開始。授業は90分単位で授業の合間には30分休憩を挟む。12時からの食事休憩は1時間だ。4時限目が終了する16時半以降21時までは余暇時間だが、夕食は18時から20時までの間に取らなければならない。


学院内は制服の着用が義務付けられている。購入できない者は学院から貸し出すが、数とサイズに制限がある。



「制服・・・ですって?」


「ええ。3年前から正式に採用されたのです。なんでも学院長が夢の中で神々からご教授頂いたようで、生徒に制服を着せる事の必要性を学ばれたのだとか。」


(これ絶対日本文化の影響だよなー・・・。もしかして、神様がちゃっかり生徒に紛れ込んでないだろうな。)


「・・・そうですか。制服はどこで手に入りますか?」


「学院内に制服を扱う専門店を構えております。ご購入の際はそちらへ申し出て頂く事になりますが、学生証がなければ購入は受け付けられませんのでご注意ください。」


「なるほど、了解しました。では、まずこの4人の入学手続きをお願いします。」


「承知致しました。ではこれから入学手続きに入らせて頂きますが、修学費用のお支払いはいかが致しますか?」


「1年分で。僕の口座から4人分引き落としてください。」


ギルドカードを預け、処理後に金貨が80枚減っていることを確認した。続いて、各自身分証明品を提示して学生証を発行してもらう。


神楽(かぐら)真人(まこと)様、こちらの真人というのは家名でしょうか?」


「いえ、真人の方が名前です。こちらに合わせて名乗るとマコト=カグラになります。」


「大変失礼いたしました。お連れ様の寮はお近くにご用意した方がよろしいでしょうか?」


「はい、できれば近くに用意してもらえると助かります。」


「かしこまりました。・・・では、こちらが1年間有効な学生証になります。各科目の説明は学生証に記載しておりますので、そちらをご確認下さい。科目の選択は28日まで受け付けております。遅れますと、しばらく受講できない可能性もございますのでご注意ください。」


その他にも寮則と学院則の説明を受け、次は制服を買う為に販売店へ向かった。制服は1から仕立てるらしい。購入すると伝えると、制服のオプションや価格の説明をもらった。


【男性用上下セット】

 銀貨2

【女性用上下セット】

 銀貨2 銅貨5

【防汚加工】

 銀貨3

【対魔法加工】

 金貨2

【アイアンチェイン裏打ち加工】

 金貨1

【ダークスチールチェイン裏打ち加工】

 金貨3 銀貨5

【ミスリルチェイン裏打ち加工】

 金貨10

【男性用シャツ】

 銅貨2

【女性用シャツ】

 銅貨2

【ネクタイ】

 銅貨1 銅半貨5

【リボン】

 銅貨1 銅半貨5

【男性用ソックス】

 銅貨1

【女性用オーバーニーソックス】

 銅貨5

【革靴】

 銅貨8

【革靴(鉄板仕込み)】

 銀貨2 銅貨6

【革靴(黒鋼板仕込み)】

 銀貨8

【革靴(ミスリル板仕込み)】

 金貨2 銀貨5



シャツとソックスを3枚ずつ買ったとして、オプション無しなら一式銀貨4枚くらいか。しかし、気になるのはメンテナンス性か。学生生活以外にも冒険者として活動する真人たちにとって、優れた防具になるのであればそれに越した事は無い。

だが、学院内で着用を義務付けられている制服が、サイズが合わなくなったり破れただけで丸ごと買い替えるとなると、オプションは付け辛い。


「対魔法加工とか裏打ち加工は、制服を買い替えた場合に流用できますか?」


「防汚加工と対魔法加工は制服に使用する生地に織り込む加工方法になりますので、仕立て直される場合は改めてお申し付け下さい。制服が破れた場合につきましては、状態によりますが修繕も可能でございます。また、裏打ち加工につきましては仰る通り流用が可能でございます。」


「なるほど。了解しました。

では全員分全身ミスリル加工で、その他オプションもつけてください。制服は裏打ちの無い物を予備で一式と、シャツとソックスは3枚ずつお願いします。」


「「「マコト(殿)!」」」


「反論は聞きませんー。1年目に必要な費用は僕が持つって約束したからね?

それに課外訓練がある場合に防具付けて良いのか怪しいし、学生として何かのイベントに参加する場合は無防備で参加する可能性があるんだよ?これから冒険者としても活動するんだし、性能が高いに越した事はないよ。」


はい、中盤は適当な事を言って水増ししてみました。単純にメンバーの安全を確保したかっただけなのだが、この3人は遠慮してしまうのだ。パーティーの誰かが欠ければ他のメンバーの生存率を落とすのだから、僕としては妥協する理由は無い。


「それと・・・多分、女性陣は裏打ち加工が必須だよ。」


「どうして?」


「多分、僕の故郷の・・・ある特殊な学生服をベースにデザインされてると思う。もしそうだとすると、スカート丈が結構短いよ。生地は綿だと思うから、風で翻らないように裏打ちしておいた方が良い。」


女性用のソックスがオーバーニーソックスって事だから、ほぼ間違いないだろう。この趣味はどこの神様の仕業だ。制服だけ無駄にオーバーテクノロジーつぎ込みやがって・・・。


「裏打ち加工はスカートにもしてもらえるんですよね?」


「はい、制服の上下に裏打ちさせて頂きます。」


「スカート丈はどのくらいなのだ?」


「膝上20cmとなっております。太股の下半分くらいが出る作りになっておりますが、代わりにソックスが膝上までございますので、意外と抵抗は少ないと思います。」


カティアもエナーシャも驚いている訳でも無いし、特に騒いでもいない。抵抗もないのか?

そう思って聞いてみたところ、成長期の女性は服のサイズ調整をあまりしなくても良いように、スカートを履いて過ごすのが一般的だそうだ。成長するに従って丈が体に合わなくなってくるが、多少の調整程度で済ませてきたらしい。



「ご注文の内訳はこちらでよろしかったでしょうか?」


僕はその見積内容を確認して署名した。金額は合計金貨70銀貨8銅貨6枚。修学費用の支払いと同様に引き落としてもらう。続いて全員分の採寸をし、手続きを全て完了した。


全ての手続きを完了した一行は、ひとまずギルドへ行って今後の予定を詰める事にした。王都のギルドには2階にカフェがあり、そこがラウンジや打合せスペースを兼ねている。護衛等の依頼がある場合、依頼人との待ち合わせに使われる事もあるそうだ。


「色々予想外の事はあったけど、当面の目標は達成だね。これからどうしようか。」


「飯の前に公共浴場でも行ってすっきりしたいところだよなぁ。」


「風呂があるの?」


「おうよ。一緒に行くか?」


「うーん・・・そうだな。行こうか。」


真人は銭湯のような施設は利用する事が少ない。旅先でも個室の据え付けを選んでいる。理由は至って単純、他の利用客の視線が痛いのだ。一見女性に見える真人を見てしまう気持ちは判らなくはない。だが、日本でならまだしも、海外の場合は身の危険を感じる事もあったのだ。

異世界に来てから1度も風呂には入っておらず、体を拭くだけの生活をしてきた。日本では毎日入浴していた身としては、風呂に入れるのであれば多少リスクがあろうとも欲求を禁じ得ないのである。さらに今回はグランもいる事だし、なんとかなるだろうと思って行く事にした。

ただ、カティアとエナーシャは風呂に行こうとする気配はない。人前で肌を(さら)す習慣がないからだろうか。


「テア達はどうする?」


「私は遠慮しておくわ。」


「私も遠慮しよう。」


「わかった。直ぐに帰ってくると思うけど、遅かったら先に帰ってね。」


「ええ・・・。」


テアとエナーシャの2人をカフェに残し、グランと真人は公共浴場へ向かう事にした。




それから10分後・・・。


「ただいま・・・。」


「おかえり。本当に早かったのね。」


真人はグランと2人で公共浴場へ向かったのだが、施設の雰囲気が思っていた物とは違った為、グランを置いてそのまま引き返してきたのだ。


「今更なんだけど公共浴場ってなんなの?」


「えーっと・・・」


カティアが言い(よど)んでいたところ、エナーシャが逆に質問してきた。


「マコト殿が思っていた公共浴場とはどんなものだったのだ?」


「身体を洗ってさっぱりするところ。」


「もしやそれは異世界の認識では?」


「こっちじゃ違うの?」


施設に入った真人がまず見たのは完全武装した警備と、入浴施設にしては高すぎる料金設定。さらに、脱衣場を抜けた先の方から聞こえる嬌声と喘ぎ声。

真人も男なので興味が無い訳ではない。だが、雰囲気に流される訳にもいかず、気持ちが(たかぶ)る前に何とか抜け出してきたのだ。


「マコト殿は娼館というものを知っているか?」


「まあ話に聞く程度なら知ってるけど、行った事は無いよ。」


「そうか。娼館には女性・・・大抵は奴隷なのだが、彼女たちが性行為を商品として扱っている施設だ。」


そうか、こっちには奴隷もいるんだな。


「公共浴場は行為自体を商品として扱っている訳ではない。代わりに、娼館に行くよりは安いらしいが入場料が取られる。」


「なんでそんな事に・・・。入浴する施設じゃないのか?」


「最初は衛生管理を目的にした、国営の『公共』施設だったらしいのだ。当時は衛生管理が杜撰(ずさん)で、病にかかる者も多かったらしい。これに対策する為、国が公共浴場を作ったのが起源だそうだ。」


そこまでの話は分かる。地球でも大昔に同じような事があったはずだ。それがなぜ?


「当時の公共浴場は男女を(へだ)てる壁を立てて運営していたのだが、入浴中に発情期に入った女性が壁を破壊して男性側の浴場に侵入したらしい。その後の行為に触発(しょくはつ)された他の獣人女性も発情していた者が混ざってしまって・・・」


エナーシャは説明していて恥ずかしくなってきたのか、頬を染めてもじもじしてきた。可愛いんだけど今は触れると危険だ。話題が話題なだけに・・・。


「そんなものを国が運営してるのか?」


「ああ、今は国営ではない。痴情(ちじょう)(もつ)れや異性の奪い合いがあって一時期治安も悪くなったようでな。施設を閉鎖する動きが出た頃に、奴隷商が買い取ったそうだ。

国が閉鎖せずに施設を売ったのは、一重に女性の利用客からの嘆願(たんがん)があったからだな。発情してもパートナーがいない者は抑えるのに苦労するから、獣人女性にとっては貴重な発情処理施設なんだよ。」


「(獣人女性の発情って・・・あの発情か?)」


「ああ、そうか。マコト殿の世界には獣人は居なかったのだったな。エルフやヒューマンには無いが、獣人の女性は子を産める頃になると、定期的に発情期が訪れる。困った事に自分の意思とは関係なく、本能的に異性を求めるようになるんだ。

獣人の女性がいたからこそ今の公共浴場があるのだが、マコト殿の世界だったらこうはならなかったのかもしれないな。」


(しまった、声に出てたか・・・。)


「奴隷商が買い取った施設は浴室の壁が取り払われ、私兵が警備するようになって今の公共浴場になった。現在も発情期の女性客が利用しているが、新人の性奴隷を育てる環境になっている。『公共浴場』というのは、国営であった当時の呼び名がそのまま残ってしまった名残りだな。」


獣人女性の発情というメカニズムによって、日本との常識の違いができているケースは他にもあった。その1つが重婚だ。

この世界の住人も、精神的には一夫一妻制を支持している者が多いという。だが、獣人の女性が発情期を迎えると、衝動(しょうどう)を抑える事が難しいらしい。衝動を抑えている間は思考能力が鈍り、本能が相手を選んでしまう。その縁で婚姻を結ぶと、相手が既婚者であることはよくあるようだ。


日本では法律によって重婚が規制されているが、国際的に見れば似たような例はあるだろう。ただ、それは()()で本人の意思が伴うものであって、情動(じょうどう)に流される事は少ないはず・・・と思う。



「もしマコトが公共浴場に入って行っていたら、裸の男に絡まれていたかもしれないわね。」


「そう思うなら止めてくれよ! 危うく入るところだったよ!」


「ご、ごめんなさい。私達にとって公共浴場がそういうものだというのは常識だったの。だからあの時は当然マコトも知った上でグランに付き合ったとばかり思ってしまったのよ。」


冗談じゃない。告白されるだけでも精神的にキツイのに、裸で襲われたら自制する自信はない。多分斬り飛ばす。去勢(きょせい)してやる!


「まあ僕も異世界との常識の違いは理解してるよ。だから可能な範囲でフォローして欲し「異世界?」」


聞こえたのはカティアでもエナーシャの声でもない。第3者の声だった。


(しまった。油断して聞かれてしまったか。)


「聞き間違いじゃないかな?」


「いいえ、それに貴方の名前はマコトって言うんでしょ? 出身はどこなの?」


後ろを振り返ると、そこには給仕服を(まと)ったヒューマンの女性がいた。どこか懐かしい顔の作りと、黒髪に黒い瞳を持っている。張りつめた表情からは痛いほど真剣な雰囲気が伝わってくる。


「・・・すまないが、先に君の出身地と名前を教えてもらえないかな?」


「私の出身地は・・・」


「言いにくかったら、『一般的じゃない国の呼称だけ』でも構わないよ。」


「日本からきました、栗原(くりはら)結衣(ゆい)です。」


予想通り、同郷から来た人間だった。どういう理由で彼女がここにいるのか、なぜギルドで働いているのか判らないが、彼女の雰囲気からは本意でここに居る訳ではなさそうだ。


「なるほど、やはり日本人だったか。僕の名前は神楽(かぐら)真人(まこと)。ご覧の通りの姿だけど、君と同じ国から来た。」


「やっぱり! ねえ、どうやってここに来たの?どうやったら帰れ「ちょっと待って。」」


栗原結衣と名乗る女性のテンションが高すぎる。彼女も自覚してないのかもしれないが、声が大きすぎて秘密の意味が無くなりそうだ。


「声が大き過ぎるよ。それに、ここで話すような事じゃない。隣の宿に部屋を取ってるから、後でそっちに来てくれないか? テアとエナーシャさんも付き合ってくれる?」


「ええ、もちろん。」「了解だ。」


結衣も周りが見えなくなっていた事を自覚したのだろう。遠くから伺っていた同僚と周りに頭を下げ、「あとで行きます」と告げて仕事に戻って行った。


「エナーシャさん、異世界から来る人って結構居るもんなの?」


「いや、私も良く知らないな。だが、異世界から来た者がいるという噂位なら聞いた事がある。マコト殿を除けば見たのは初めてだが。」


(なるほど。事情はまだ分からないが、僕以外にも日本から来ている人が居る事は判った。他の国からも来てるのかな・・・まあ今は情報が無いから考えても仕方がないか。)




しばらく待ってもグランは帰って来なかったが、そろそろ夕食時なので宿へ戻る事にした。グランは放っておいて先に3人分だけ夕食を出してもらい、食べ始めた頃に結衣が来た。


「ごめん、食べるの待っててもらって良い?」


「はい・・・。」


「テアたちはゆっくり食べててもいいよ。まずは2人で話してみる。」


そう言って夕食を掻き込むと、結衣を伴って部屋に入った。




「改めて自己紹介しようか。僕は神楽真人、24歳で日本出身・・・だったんだけど、事情があって獣人になった上何故か若返ってる。ギルドカードの上では、種族は銀狐。17歳だよ。念の為・・・男です。」


「・・・私は栗原結衣、16歳です。」


「まあ僕の事情は後で話すとして、結衣ちゃんはどうやってこっちに来たの?」



要約するとこんな感じだった。


高校1年の春、入学して1か月経った頃、帰宅途中に意識を失った。こちらに来た過程は判らなかったが、王都の冒険者ギルド前で倒れていたらしく、ギルドの受付嬢が見つけて保護してくれたらしい。

異世界の事情が全く分からず、どうすれば帰る事ができるかも解らなかった為、まずは生きる為にギルドの職員を頼って安全な仕事を紹介してもらった。

・・・というか、放り出される前に仕事を紹介するから自立しろと言われたらしいが。


真人の方も同郷の人にまで隠すものでもないので、全て包み隠さず話した。話の途中でカティアとエナーシャが部屋を訪れていた。



「神様?神様が居るんですか?」


「うん、実在する。僕が会ったのは2人だけど、話を聞く限りどちらの世界にも複数の神が居るらしい。」


しかもマニアックな方々が・・・。


「僕はこんな姿だからね。自分も納得してこっちに来たし、今更帰りたいとも考えてないんだけど、結衣ちゃんは帰りたいんだね。」


「はい、帰りたいです!」


「あまり期待はしないで欲しいけど、僕の方からコンタクトをとれる神様に聞いてみようか。」


「そんな事できるんですか!?」


「うん。【夢見】って固有技能なんだけどね。夢の中限定で神様に会う事はできるよ。毎回会えるとは限らないけどね。ただ、さっきも言った通り期待はしないでくれ。神様でも判らないかもしれないし、もしかしたら帰る事は不可能って答えが返ってくる可能性もあるんだ。」


「・・・判りました。」


「じゃあコンタクトが取れたら連絡するよ。ギルドのカフェに行けば会える?」


「はい。」



念の為、真人の技能も含めて秘密にしてもらう事を約束し、その日は帰ってもらった。それと入れ替わるようにして、グランがようやく帰ってきた。



「今この部屋からヒューマンの()が出て行かなかったか? ヒューマンなんて珍しいな、知り合いだったのか?」


「いや、そういう訳じゃないんだが、僕の故郷の人みたいだ。」


「そうか・・・。それよりマコト、あの『カップ麺』ってやつくれよ。食堂もう閉まっててよ、食いそびれちまった。」


「何やってるんだ全く・・・。この世界の常識とか風潮がまだ判ってないから強くは言えないが、ほどほどにしとけよ?」


「マコト、その意見には私も賛成よ。グランは自重(じちょう)しなさい。」


「私のような獣人としては何とも言えないな。それが縁で婚姻する事もある。ただ、身持ちを崩すのは良くない。それでは縁を結んだ相手にも失礼だ。」


感覚的にはエルフは日本人に近い思想を持っているようだ。獣人の方は寛容(かんよう)にならざるを得ないと言った感じか。ただ、どちらも


「4人揃ったところで、科目を検討しようか。みんなもう受けたい科目は決めてる?」


Fクラスで選択できる科目は、『魔法全般』『戦闘全般』『生産全般』『採集全般』の4種類。一般的には前者2つをとるか、後者2つを取るかを選ぶらしい。


「私は魔法全般と戦闘全般だな。」


「俺もそれ以外の選択はありえねーな。」


「テアは調合の為に生産取る?」


「ううん、私も魔法全般と戦闘全般よ。生産関係は安全に練習できるし、知識は他から仕入れれば何とかなるから余暇時間でも練習はできるわ。教材が無いからお金はかかるけど。魔法と戦闘はこの機会に習得しないと、他に練習する機会もないと思うから。」


「なるほどね。僕も魔法全般と戦闘全般取るから、みんな同じ科目になったね。」


「まあ冒険者に他の選択肢はねーだろ。」


課題を決めた後は特にする事も無く、各自部屋に戻って寝る事にした。夢の中で巴ちゃんに会える事もなかった。




翌日以降は選択した科目を学院窓口に連絡する以外は王都の散策に時間を使った。これからしばらく住む事になる街だし、無駄に広い。早い段階である程度把握しておくのが良いと判断したのだ。ただ、スラムの位置程度は把握しても、近付きはしなかったが。


散策の成果として最も大きいと思ったのは、『一般浴場』なるものを見つける事が出来た。王都内に5軒以上見つける事ができ、公共浴場とは違って本当に入浴する為だけの施設で、しっかり男女別に浴室が区切られていた。




学院寮へ入る前日の夜、(ようや)く巴ちゃんが夢に出てきてくれた。最近また天照さんに会いに行っていたらしい。今度はお土産の仕入れではなく、異世界へ渡る方法について天照(アマテラス)さんに相談する為だそうだ。

結衣ちゃんとの会話を聞いていたようで、巴ちゃんの方で解決が難しいと判断して相談に行ってくれていた。


「結論から言うとね、普通の人族だとどう頑張っても無理でしたぁ」


「一応理由を聞いて良い?」



巴ちゃんの話を要約すると、世界には階位(かいい)があり、この世界は元の世界の下位にあたる。こちらの世界に来る前に天照さんが言っていた、『あちらの世界の住人よりも高い魔法の適正がある』というのは、この辺りが根拠になっているようだ。


隣り合う世界同士は割と頻繁に接触する事があるらしい。驚いた事に、宇宙の外側で物理的な接触があるようだ。その影響は世界のどこかの空間を一時的に(ゆが)め、接触した世界を繋ぐゲートとなる。そのゲートを介して上位の世界から下位の世界へ物が流されるようだ。


自然発生するゲートの出現地点は完全なランダムで、神様でも観測は難しいらしい。出現地点は宇宙のどこか。それが地球上の日本だというのは天文学的な確率だろう。もっとも、理由は不明だが地球の地表付近で発生する事が多いそうだが。


巴ちゃんや天照さんはこの穴を任意に作る事、一定時間固定する事は出来るものの、上位から下位に流れる法則性の制御まではできない。これに逆らう場合はかなりの消耗を覚悟しなければならないらしく、巴ちゃんでも一度世界を渡ると3日は休息を必要とする。人族には到底無理だそうだ。

ちなみに、真人の場合は【九尾】を使った状態なら可能らしいが、命を掛けてまで試す気も起きない。



「なるほどね。一部理解出来なかったところはあるけど、だいたい判ったよ。川の流れみたいなものを想像すれば良いのかな?流れに乗って来る時は大した負担は無かったけど、流れに逆らって進もうとする体が持たないんだね。」


「だよ~。残念だけど、帰してあげる事はできないね・・・。」


「仕方ないさ、自然災害だしね。巴ちゃん、態々(わざわざ)調べてくれてありがとう。」


「ここでしか真人さんに会えないんだもん。少しでも役に立ちたかったんだよー。」



本当に神様か疑いたくなる程フットワークが軽いな。しかも3日休息取らないと動けない程の難事を自分からやってくれるとは・・・。巴ちゃんの臨むまま話に付き合ったり遊んだりはしてるが、僕はそれで(むく)いる事が出来てるのかな。

次回から学園生活スタートです!


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2012/09/18 誤記修正:「自嘲」⇒「自重」

2012/09/19 誤字修正:「弧」⇒「狐」

2012/09/20 脱字修正:「16時半以降21までは」⇒「16時半以降21時までは」

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