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第六話:終わりの夜

病院の個室、翔輝はそのベッドで眠っていた。


そして、そのベッドの横には、ぐっすり眠っている琴音の姿があった。


時刻はまもなく朝の九時を迎える。


「……俺、生きてる、のか……?

っ、琴……音……?」


目を覚ました翔輝はベッドに腕枕をしながら眠っている琴音を見つけた。


「……すぅ……すぅ……」


「ごめんな、琴音……」


腕を動かすと微かにわき腹が痛むが、それでも翔輝は優しく琴音の頭を撫でてやった。


「……んっ、……翔、にーちゃん……?」


琴音の髪はちょうど良い具合に寝癖が付き、何というか、めちゃめちゃ可愛かった。


「……あぁ、兄ちゃんだ……もう、大丈夫だからな」


言って琴音の髪を撫でる。


「……っ、翔にーぢゃん……ッ!」


自然と涙が溢れ出していた。


「大丈夫……大丈夫だ……」


琴音は涙で顔をぐしゃぐしゃにしていたが、それでもしっかりと頷いていた。


そして翔輝は検査の時間を琴音と過ごし(無理を言って了承してもらったのだが)担当の医者も翔輝の回復力には驚きを隠せないでいた。このまま順調に進めば三週間程で退院できるとのこと。


それを聞いた琴音はとても嬉しそうだった。


翔輝はまだベッドに寝てないといけないため、琴音は一人でしばらくを過ごさねばならない。

翔輝はそれだけが気がかりだった。


「なぁ、琴音……兄ちゃんしばらくこんな状態だから、ご飯とか作ってやれなくなるが……大丈夫か?」


病室の天井を眺めながら翔輝が訊ねると……。


「……じょうぶ。おにーちゃんの分まで私頑張るから、大丈夫……っ!」


力強く頷いてくれた。


「そかそか……兄ちゃん退院したら、またデート行こうな。今度は……遊園地だ!」

「うん!絶対だからね……っ!」


琴音と翔輝は指切りをし、面会時間が終わりを告げる。



「殺す……殺す……っ!

三上……琴音……ッ!絶対殺すッ!」


人気のない山中に激しい憎悪の声が響き渡った。


怜梨は翔輝を間違えて刺してしまった後、人の目を避けるように逃走し、ようやく見つけた小さな山小屋に身を潜めていた。





翔輝の居ない自宅。

そこには昨日大好きなおにーちゃんと交わした約束を守ろうと努力する琴音の姿があった。


「朝ご飯は……これで良いかな。

よし、いただきます!」


琴音が自ら作った朝ご飯のメニューは、焼いた食パンにスクランブルエッグ、そして牛乳という意外な組み合わせ(?)だった。


「……味がない……!?

どうしてだろ……あ、そだ、マヨネーズだ!」


気づくのが遅かったようだ。



「ごちそうさまでした……!

後片づけしないと」


普段立つことの無いキッチンに立って綺麗に自分が使った食器を洗い終えた琴音はキッチンから見える景色を見ていた。


「……翔にーちゃんもこんな風に見えてたのかな……」


身長が少しばかり違うのだが、今の琴音には新鮮な光景に見えた。


「学校行かなきゃ……、おにー……そっか、翔にーちゃんいないんだった……いってきます」


自宅玄関で悲しそうに呟いた後、靴の紐を結んでいると……。


「あ……紐、切れちゃった……これって不幸なことが起きる前触れだったりするのかな……」


新しい靴に履き代え、琴音は中学校に向かうのであった。





「琴音、大丈夫かな……ちゃんとやってるといいが……」


病院の個室、窓の外を眺める翔輝の姿があった。


今日からリハビリのため、立ち上がる練習をしていたのだ。


「……っ、まだ少し痛むな……」


傷の直りは恐ろしく速いものの、時折くる痛みはどうしようもなかった。


「早く、退院しないとな……」


と、病室の扉が開かれ、検査の為に二、三人の人が入ってきた。


「え?本当ですか!?」


翔輝が驚くのも無理はなかった。

何故なら、病院の人から「一日ぐらいなら外出しても大丈夫だよ」と言われた為である。


「琴音が聞いたら喜ぶだろうなあ……」


そんなことを呟きながら検査時間を過ごし、翔輝は少し眠ることにした。





「バイバーイ!また明日ー!」


学校を終えた琴音は友達と別れ、一人自宅に向かっていた。

「翔にーちゃんとのデート……楽しみだなぁ……」


と、そんな琴音を付ける不審な人影が。


「………」


その人影は琴音の背後から音もなく忍び寄り、琴音が気配を感じて振り向く頃には、真後ろまで来ていた。


「だ……れ……ッ!?」


背後に居た人物の顔を見た瞬間、琴音の顔が恐怖に染まる。


「やぁぁぁーーっと……見つけたッ!」


琴音が見たのは、否、見てしまったのは、唇を三日月型に曲げ、途方もない憎悪の表情を浮かべる、時雨怜梨であった。


「もう逃がさないッ!今度こそ……殺してあげるからねッ!」

「い……や……!誰か……っ!?」


琴音が大声で叫ぼうとした瞬間に、怜梨は琴音の首筋に手刀を叩き込み、琴音は気を失ってしまった。


「アッハハハッ!……あ、そうだ……どうせ殺すんだから三上君も誘っちゃお……そうと決まれば、パーティーの準備をしなきゃ」


怜梨は琴音を抱っこしながら堂々と道を歩き、そのまま潜伏先である山中の小屋に到着した。


「……さてと、『コレ』はここにしばらく置いておいて……三上君の病院に行かないと」


敢えて言うが、時雨怜梨は殺人未遂を犯して逃亡中の身である。

そんなことはおかまいなし、といった様子で、怜梨は翔輝が入院している病院に向かうのであった。




「遊園地のチケット……買いに行かないとな」


その頃、翔輝は琴音と約束した遊園地デートのチケットを買いに行くために外出許可を取って病院から出たところだった。


病院の人からはあまり遠くには行かないように、と言われたので、翔輝は近くのコンビニへと向かい、チケット予約機のようなものを使って二人分のチケットを予約し、病院へと戻っていった。


その帰り道、病院の正面入り口に、その人物は立っていた。


「……ッ!?」


「あー!三上君だー……!」


「ッ、どうしてだ……なんでまた俺の前に現れやがった……ッ!

お前のせいで……ッ!琴音がどれだけ悲しんだかッ!」


脇腹の痛みを覚悟して翔輝が叫ぶ。


「ああー、そうそう、今日は『アレ』のことで来たんだよ」


翔輝の言葉を無視して続けてくる。


「今からさ、『アレ』の処理をするんだー。そこで、三上君にも是非参加してもらいたくてね」


「おい……アレってなんだよ、まさかお前……っ!?」


翔輝が問うと、怜梨はニターっと唇を歪めこう返してきた。


「……やだなー、三上君の『妹』に決まってるじゃんかー」


「ッ!?なんだよそれ……ッ!琴音になにをしたッ!」


翔輝は脇腹の痛みを我慢しながら声を荒げる。


「大丈夫、『まだ』なにもしてないからさ……もし見に来たくなったら、はいコレ。私たちが居る場所への道が書いてあるから……それじゃあ、楽しみにしてるね……『翔輝』君」


手から紙を地面に落としつつ、初めて翔輝の名前を呼び、怜梨は夕暮れの街に消えていった。


「琴音……琴音……っ!待ってろよ……兄ちゃんが助けに行ってやるからな……!」


翔輝は拾った紙を強く握りしめ、琴音と怜梨が待つ山中へと向かうのであった。

次回のお話で、この三人の物語は完結します。


その次には、また新たなキャラを登場させ、翔輝たちと同じ世界でのお話を開始させる予定です。


では、次回。


最終話:すべての終わり


お楽しみに!

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