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第三話:二人の出会い

翔輝に好意を抱いている琴音と怜梨が出会う回になります。

あの夢を見てしまった。


火事が起きた。

何処かわからない場所で。


(……ここどこなんだよ、なんで俺、こんなとこにいるんだよ……ッ!)


赤い、赤い炎があたり一面を包み込んでいた。


翔輝は必死に脱出口を探した。

そして、ようやく見つけた扉を開けてなんとか火の手から逃れることができた。


(なんだよ……っ!なんだってんだよ……ッ!)


叫ぶ、煙にやられて声が出ない、それでも叫ぶ。


周りには野次馬や消防車、救急車の姿も見て取れるが……今の翔輝にはそんなことを気にしていられる状態ではなかった。


(……嘘だろ……時雨、怜梨……!?)


翔輝が見つめる先に、自分の知っている顔を見つけたからだ。


(……っ、怜梨ッ!)


掠れた声で無意識、ただ無意識その少女の名を叫んでいた。


それが届いたのか、届かなかったのかはわからないが、燃え盛り、今にも崩れ落ちそうな建物の中で、少女は笑っていた。



夢が終わる、景色が暗転していく。


そして気がつくと、俺は妹に起こされ、学校へと向かっていたのだった。

翔輝の目の前を、あの少女が歩いていた。


忘れもしない、今朝夢に出てきた少女、時雨怜梨だ。

綺麗な朱色の髪を風に靡かせながら歌のようなものを口ずさんでいるようだった。


「…時雨、怜梨……!?」


声が自然と出ていた。


「……っ!?」


翔輝の声が聞こえたのか、怜梨はびくっと肩を揺らし、ゆっくりと翔輝の方に顔を向けてきた。


……嗚呼、この少女だ、あの顔だ……。

翔輝は今朝の夢を思いだし、時雨怜梨があそこに、あの夢に居た少女だと確信した。


「……君…は」


怜梨に問うてみる。


「…私は、時雨怜梨…だよ……?」


当たり前の答えが返ってきた。


「……すまん、よく聞こえなかったんだが…もう一度言って……」


言ってくれないか?と言おうとしたときには、怜梨の姿は遠くになっていた。


「…嘘だよな…あんなこと起きるはずがない…悪い夢で終わるさ」


翔輝は自分に言い聞かせるように心の中で呟き、学校へ向かうのであった。



「はぁ…。やっと終わった…」


号令が終わり、やっと学校から解放される。

まあ、始業式だからそこまで長くはなかったのだが……。


翔輝が教室の外に出ると、見慣れた人物が外を眺めながらそこに立っていた。


「…時雨怜梨……?」

「!は、はいっ!?」


翔輝が言うと、怜梨はまたもやびくっと反応し、翔輝の方に体を向けてきた。


「…なにしてんだ……?」

「あ、えと……三上君と同じ学校だったから……それで」

「…それで?」


翔輝は少し変な気分だった。

昨日初めて本屋で会ったこの少女が何故俺のクラスを知っていたのか。


「……三上君が、もしよかったら、で良いんだけど…今日一緒に帰らない……?」

「…これから妹の学校に寄って帰らなきゃいけないんだが…それでもいいなら」

「妹……?へぇー…三上君って妹いるんだー……私はそれでも、いいよ」


怜梨がやけにニコニコしながら言ってくる。

翔輝はそれに似たようなものを今朝見たばかりだった。


「あ、あぁ…じゃあ、行くか……」

「……うん」


そうして二人は、琴音が通う中学へと向かうのだった。


琴音が通っているのは翔輝の高校から徒歩5分ほどの場所にある私立中学校だ。

翔輝のも含め、学費は海外に居る両親が入学の際に全て一括にして払ってしまったので、実質タダ(?)なのである。


「あの…三上君の妹って、どんななの?」


その途中に怜梨が訊ねてきた。


「んー?…元気で、泣き虫なやつだ」

「そんなことじゃなくて…その、可愛いのかな?…って」

「…あぁ、可愛いな…大切な妹だし」

「……へぇ~……」


翔輝が可愛い、と言った瞬間、怜梨の表情が少し曇った気がした。


「着いたぞー…」

「……え?あ、うん…」


二人が中学校に着くと、それを待っていたかのように校門から琴音が飛び出してきた。


淡いピンク色の長い髪をボニーテールのようにリボンで結んでいる。

端から見たら本当に可愛い。


「お待ちかねか…琴音ー」

「おお!?翔にーちゃん!」


翔輝が言うと琴音は心底嬉しそうな表情を見せ、二人のもとへ駆け寄ってきた。


「……誰……?」


駆け寄ってきた琴音の第一声が怜梨に向けて発せられた。


「っ、私は……」

「あー…丁度良い機会だから紹介しておくか…こちら時雨怜梨さん、同級生だ。こっちが俺の妹、三上琴音だ」


怜梨が答えようとしたが翔輝に気負いして途中で言うのを止めてしまった。


「ふーん……よろしくね!」

「は、はい…よろしく」


琴音と怜梨はお互いに挨拶を済ませ、同時に翔輝を見てきた。


「……なんだよ」


半眼になりながら言うと、二人はなんでもない、といった様子で先に歩いて行ってしまった。


「…答えろよ…てか待てよ」


翔輝は駆け足で追いかけるのであった。


「なんか喋れよ…なんかないのか?」

「………」

「………」


帰りの空気が異常に重かった。


「じゃあ…私、こっちだから。また明日、バイバイ三上君」

「…あぁ、また……明日も一緒に帰るのかよ…」

「………」


怜梨が二人に向けた別れの挨拶をしたが反応したのは翔輝のほうだけだった。

琴音は終始無言で一人先に歩いて行ってしまっている。


「……はぁ。どうした、琴音、どっか具合でも悪いのか?」


琴音と二人きりのシチュになったため、翔輝の普段見せない一面に突入である。


「んー?ちょっと考え事してただけー」

「そかそか…今日の晩飯どうする?何か食いたいものとかあるか?」

「何でも良いよ!翔にーちゃんの作る料理ならね!」


琴音がようやく笑顔になる。


「…そっか。じゃあ、今日もおいしいの作ってやるよ」


翔輝が言うと琴音は大仰に頷き、スキップを始めたのであった。

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