エピソードイレギュラー
本編とは違った結末にしてみました!
内容はうーん、だと思いますが、どうか楽しんでください!
朝、うるさい小鳥の鳴き声とと共に目を覚ます。
「……あー、もう朝かよ――」
三上翔輝はベッドから身を起こして時計の時間を確認する。
時計の針は、八時ちょうどを差していた。
「やばっ、彼奴のご飯作らないとッ!」
翔輝は慌ててベッドから飛び降り、ハンガーに架かってあった高校の制服をハンガーごと掴むと、自室の扉を開けて階段を下り、一階のリビングの扉を勢いよく開け放った。
「お――おにーちゃん! 起きるの遅いよ! 早くご飯作らないと、学校遅刻しちゃうよ!」
リビングに入ると同時に翔輝に気づいた妹――三上琴音が翔輝の元へ駆け寄ってきた。
「わ、悪い琴音! 兄ちゃん今からすぐ作るからもうちょい待っててくれ……!」
翔輝は琴音にそう返しながらキッチンへ向かい、冷凍庫に入っていた食パンをオーブントースターへ二枚放り込み、フライパンをコンロに掛けてそこに卵を割り、即席のモーニングセットを作り始めた。
翔輝の妹、三上琴音は中学生で、いつも髪の毛をツインテールにしているが、今日は少し違うようで何故か二つに括らず、ストレートにしていた。
と、その時、三上家のインターホンが鳴った。
「っ、誰だよ、こんな忙しい時に」
翔輝は琴音に聞こえないように毒づきながらコンロの火を消し、お皿にパンと目玉焼きを盛り付け、電子レンジで暖めておいたウインナーを付け合わせとして横に置き、それを両手に持って琴音の待つテーブルへと向かった。
「琴音悪いけど先に食べててく、兄ちゃんお客さんの相手しないといけないから」
「わかった! じゃあ先にいただきます……!」
翔輝はチラッと時計に目をやりつつ、ほんと誰だよ、と呟きながらリビングを後にした。
ピンポーン。
インターホンがまた鳴る。
「はいはい、今出ますから!」
翔輝は舌打ちを挟みつつ大きめの声でドアの向こうに居るであろう人物へとそう叫ぶ。
「どちら様ですか……?」
「………覚えてる?」
「はい?」
「覚えてる? 三上翔輝君」
扉の前に立っていたのは翔輝が通う高校の制服を着た女性徒だった。
髪は長く、鮮やかな朱色でスタイルはかなり良い。
しかし、どこか独特の雰囲気を保っている。
翔輝が彼女に会ってまず覚えたイメージであった。
しかし、彼女が発した『覚えてる?』という言葉には身に覚えが無く、翔輝は玄関先でその女性徒と向かい合ったまままた一つ疑問に思うことがあった。
「……失礼ですが、どうして俺の名を? それに俺はあなたとは会ったことないですよ?」
翔輝は引っかかるものを感じながらも眼前の女性徒に問いかけた。
翔輝の問いを聞いた女性徒は薄い微笑みを浮かべながらこう返した。
「夢で…。私は三上君を夢で見たことあるんだよ…?」
「はい……?」
翔輝は思わず相手に訊き返す。それが当たり前の状況だ。
見ず知らずの人物にいきなり“夢で見た”などと言われたのだから。
「聞こえなかったかな…?私は、三上君を夢で、見たんだよ…?」
「ちょ、ちょっと待てよ……夢で見たってどういう」
「……三上君、妹がいるよね?」
翔輝が状況を飲み込めない中、翔輝の言葉を遮るようにそう言った。
「っ!?」
「名前は三上琴音。中学生だよね……?」
「……そうだとしたら、何だよ?」
翔輝が訊き返すと、ふと怜梨の視線が動く。
その視線の先には……。
「翔にーちゃん……?」
二人の話題に上がっていた人物、三上琴音が玄関に立っていた。
「琴音、どうした?」
翔輝は声のした方へすぐに振り向き、琴音に歩み寄りながら訊ねた。
「ご飯、美味しかった!ごちそうさま、翔にーちゃん!」
「お、おう。お粗末さまでした」
天使のような可愛い笑みを浮かべ、琴音が言ってくる。
翔輝はその姿に驚きながらもそう言葉を返した。
「……………」
そんな二人の姿を、ぎりぎりと歯を噛みしめながら見ている怜梨には、翔輝は気づかなかった。
「翔にーちゃん、学校遅れる」
話が落ち着いたところで、琴音が玄関に置いてある時計に目をやりながら呟く。
「やばっ!琴音、早く準備してこい!」
翔輝が慌てて言うと琴音は飛ぶようにして家の中に消えていった。
翔輝も準備があったが、お客として来た謎の少女の相手がまだ残っていた為玄関で立ち往生してしまう。
「準備、して来ても大丈夫ですよ…?私はここで待ってるから」
どうしようかと考えていた翔輝の耳に、怜梨の声が入る。
「……俺の家じゃお客を外で待たせるなんてご法度なんだよ」
「……え?」
「だから、俺が準備終えるまで、リビングで待ってろって意味」
翔輝が靴を脱いで二階に上がろうとしながら怜梨に告げる。
「……分かった、じゃあ、お邪魔します」
翔輝は「どうぞ」と言うと二階へと上がっていった。
リビングにまだ準備中の琴音がいることを忘れて……。
怜梨は翔輝が二階に消えていくのを確認すると、真っ先にリビングと思いし部屋に向かった。
彼女の目的は『待つ』などではなく、三上翔輝の妹、三上琴音を『殺す』ことだった。
「これから始まる私の三上君の恋路を邪魔する奴には、消えてもらわないと……」
怜梨は呟くと鞄の中に忍ばせておいた包丁を取り出した。
そしてリビングの扉を開ける……。
「………?」
リビングには中学校の制服に身に着け、翔輝を待っている琴音の姿があった。
「……見つけた……」
その姿を確認した怜梨が先ほど翔輝に見せた笑みとは違う歪んだ笑みを浮かべる。
「……お客、さん?」
その声は琴音には届いておらず、純粋に不思議がる少女がそこには居た。
「三上、琴音……お前は邪魔だ!」
怜梨が琴音に歩み寄りながら叫ぶ。
琴音は訳が分からないと言った様子で、特に怯えている素振りは見せなかった。
「邪魔って、なに……?」
「三上琴音、三上君のことが好きなんだよね?そうなんだよね?」
やがて琴音の目の前に来た怜梨は、包丁を右手に持ち、その手を後ろに回して隠しつつ、相手に顔を近づけながら訊ねる。
「っ……、翔にーちゃんは私のおにーちゃんだもん!好きとか、そんなんじゃ、ないもん……」
目の前の少女に答えを返しながら、琴音はあることに気づいた。
『私……、この光景、知ってる……?』
既視感を覚えた。
「……嘘はつかない方が、長生きできるかもしれなかったのに」
琴音の答えを聞くと、怜梨はこてんと首を倒し、何の感慨も込めずにそう呟いた。
「え……?」
琴音が小さく声を洩らす……。
何かが起きた。
琴音は自分の身体、腹部に違和感を感じた。
ゆっくりと、ゆっくりと頭を垂れる……。
そこには信じたくない現実が、広がっていた。
「……なに、これ……?」
琴音が震え切った声を出す。
琴音の腹部には、怜梨の手が、その手に持たれた包丁の刃が、深く深く突き刺さっていた。
「……ははぁ、大成功……」
包丁を刺した張本人、怜梨が笑う。
「い、やだ……なにこれ!……痛いよ……!」
「三上君との恋路の邪魔はさせないよ……ハハッ」
怜梨が笑いながら琴音の腹部に深々と刺さった包丁を抜く。
「ひぐッ……」
包丁を抜かれると、琴音は声にならない声を上げて床に倒れる。
それから数秒もしない内に傷口から血が溢れ、あっと言う間に床が血の池へと変わっていった。
「…………おい、なに、してんだよ……?」
そこに翔輝が現れた時には、既に琴音の命の火は消えかかっていた。
翔輝の声が聞こえると、怜梨は顔だけを翔輝に向けた。
その顔は嫌に歪んでおり、翔輝を見たまま口元が微かに動いた。
怜梨の言葉を聞いた翔輝は、床に倒れている琴音を見ながら涙を流し、膝を付いて怜梨を睨み付けた。
『三上君は私だけのもの。妹は邪魔だったから処分したよ?
だから、これからはずっと二人で居ようね……翔輝』
次話は第二章のエピソードイレギュラーを投稿します!