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第七話:それぞれの結末

おしまいです。

内容は…あまりご期待に添える内容ではないかもしれません。

「なに、してるの……?」


リビングへと戻ってきた俊は一瞬目の前で何が起きているのか理解できなかった。

否、正確には頭が『それ』を理解しようとしなかった。

だがしばらくして状況を理解し始める。

今、目の前で最愛の彼女がクラスメートを殺そうとしている、と。


「遅かったね。けどタイミング的には丁度良い感じだよ……」

「やめ、て……! やめて……っ!」


俊がそこに立っていることに気づいたゆきは俊の方へ首だけ向け、俊が今まで付き合ってきて一度も見たことのない『狂気』に満ちた表情で言ってくる。

そしてゆきの前には、首筋に巨大な刃をあてがわれ、恐怖に顔を染める命の姿があった。


「どうゆうこと……? 僕が訊いたのはゆきが命さんに何をしようとしてるのか、だよ?」


俊が再びゆきに対して訊ねた、が、ゆきは彼の言葉に返答を返すことなく、俊が、自分の彼氏が見ている前である行動をとった。

ゆきが手に持った包丁を命の首に当てがったままそれをゆっくりと手前に引き始めたと思うと、途中から一気に引き払った。


「え……?」


俊と命の声が一瞬だけ重なった。

そしてそれは、命が発した最後の声であった……。


俊が声も出せずにその場に立ち尽くしていると、不意にゆきと目が合った。

ゆきの目からはハイライトの光が消え失せ、表情という表情は一切無く、口元が嫌に歪んでいるだけであった。


「ゆき…自分が何したのか、わかってるの……?」

「何? 月神命を『殺した』んだよ? 見てわかるよね、俊……」

「っ、そんなことは言われなくてもわかってるよ! 僕が言いたいのは……ッ!」

「僕が言いたいのは、どうしてこいつを殺したか…だよね、俊?」


俊はゆきの言葉を聞いてすぐにでもそうだと言いたかったが、会話の途中で命の姿を幾度も見てしまい、その言葉を返す前に激しい嘔吐感を覚えてリビングを飛び出していってしまった。


「どこ行くの、俊」


リビングを飛び出ていった俊の後を追うようにゆきもリビングを出ていった。

命を殺めた包丁を手に持ち……。




「はぁ……はぁ…ゆきが、命さんを、殺した……!?」


頭が混乱したままの俊はリビングを出て最初に目に入った部屋の扉を開け中に入って先ほど自分が見た凄惨な光景を思い起こし、口元を両手で抑えて必死に襲い来る嘔吐感に耐えていた。


「俊……どこに行ったのかと思ったらここに居たんだ…」


俊の居た部屋の扉が開き、その隙間からゆきの顔が覗く。


「ッ!? ゆ、ゆき!?」

「うん、あたしだよ……俊の大好きなゆきだよ」

「ッ!?」

「どうしたの、そんな顔して? 笑ってよ、俊は笑ってる方が好きだよ」


部屋の明かりをゆきが付け、奥に居る俊の元へと歩み寄りながら笑ってと、ゆきがいやに歪んだ表情をしながら言う。

俊はその姿に恐怖し、この場から逃げようとした……だが身体が言うことを聞かず、迫ってくるゆきから逃れることができずにいた。

「ねぇ、俊…………」


やがて俊の目の前に来たゆきが、俊の唇に自分の唇を重ねた。


「んんっ!?」


突然の出来事に驚きを隠せない俊だが、自分がゆきとキスしているということを理解した。

俊は抵抗する様子を見せずにただただ唇が離れるのを待っていた。



そしてそれはゆきと俊が交わした最初で最後の大人のキスであった。


「……ッ(いっ!? )」


ゆきと唇を重ねていた俊の腹部に突如激痛が走った。

そして俊がその痛みを感じたのと時を同じくしてゆきが唇を離す。


「俊がいけないんだよ……俊があんな女のことを好きになっちゃったから」


ゆきが言う。

その手には先ほどまで持っていた包丁は無く、赤い血で塗れた手だけとなっていた。


「ゆ、き…どう、して……」


俊の身体が倒れる。

その腹部にはゆきが持っていた巨大な包丁の刃が根本の柄まで深々と突き刺さっていた。


「あの女を好きなった…あたし以外の女を好きになった…あたしよりもあの女を気に掛けるようになった……あの女が居なければ良かった。でも……やっぱり俊が居なければ良かった」


「……嘘、だ……僕の知ってるゆき、は、そんなこと、言わない」


激痛を堪え、ゆきにそう言葉を投げかける俊だったが、意識は薄れていき、ついには、声を発することは無かった。

俊がゆきに言った言葉。それを聞いたゆきは俊の遺体に刺さった包丁を引き抜くと、俊の遺体の横に膝をついて包丁を逆手に持って自分の首筋に当てがった。


そして……。


「あたしの大好きな俊。あたしを好きになってくれた俊……また、付き合えると、良いな……」


俊の遺体を見下ろしながらゆきが掠れた声で呟いていく、その瞳には生気が戻り、頬を涙が伝う。


そして最後の言葉を呟き終えると、ゆきは当てがった包丁の刃を勢いよく自分の首筋に突き刺した。


ばたんとゆきの身体が崩れる。


それは俊の上に覆いかぶさるように、抱きつくように……。


鮮血に彩られた二人の遺体。


翌日、俊達が住む地域では大きなニュースとなって取り上げられ、学校でも大きな話題となった。



誰が三人殺したか、それは今でも分かっていない。

ゆきと命、そして俊以外あの場に居なかった。

誰もゆきが二人を殺して自分も命を絶ったとは……思わない。

次章へ行く前に次回はエピソードイレギュラーを投稿しようと思います!

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