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第六話:壊れ始めた彼女

かなり展開が進みました。

少し進みすぎたかもしれませんが…

「えー、今日は月喰は風邪の為に学校を休むと連絡を受けました。じゃあ出席取るぞー」


担任の先生から今日はゆきが休みだと聞かされる。

俊は隣の空いた机をぼーっと眺めながら何か嫌な予感がしていた。


「……(ゆき、本当に風邪引いちゃったのかなー…昨日雨だったから心配だな…)」

「月宮ー、おい月宮ー!」

「ぇ…? …あ! は、はい!」


ぼーっとし過ぎていて先生が俊を呼んでいるのに気づかず、大声で名前を呼ばれてしまうという少し恥ずかしい展開となってしまった。



そうして、俊はゆきが居ない一日を始めるのであった。


授業が終わり下校時間になると、命が俊のところに歩み寄ってきた。


「ねえ、今日、さ。一緒に帰れないかな……?」

「あ、はい、大丈夫ですよ。……そうだ! 命さんもゆきのお見舞いに一緒に行きませんか?」

「…ぁ、そっかー、月喰さん風邪引いちゃったんだったね……よし、私と俊でお見舞いに行こー!」


俊が訊くと命は小さく声をもらし、心配そうな表情を浮かべた後、俊の手を取って走り出した。



「はぁ…はぁ…、命さん、早い…」

「俊が体力無さ過ぎなのだー!」

「うっ…、そ、そんなこと言ったって、ここまでずっと、走り続けてたじゃないですか」


二人はあの後ゆきの家の近くにまで来るのにずっと走り続けていたため、俊はクタクタ、それとは対照的に命は元気バリバリと言った感じだった。


「さー、入ろうー! 月喰さん大丈夫だと良いけどねー」

「あ、ちょっと待ってくださいよ! インターホン押さないと!」

「おー! 大事なことを忘れてたー…」


俊の注意を聞いた命は既にゆきの家の敷地内に入っていた身を翻し、インターホンを押すべく俊の元まで戻ってきた。

そして命はインターホンを押し、しばらくして玄関の扉が開く音が聞こえた。


「………」

「ゆ、ゆき……! 大丈夫!? 熱は下がったの!?」


玄関に立っていたゆきを見た途端、俊が駆け寄り、訊ねる。

ゆきの服装は少し奇妙なものだったが、今の俊にはさほど気にならなかった。


「…………入ってよ」

「ゆ、ゆき…?」


ゆきは俊の後ろに居た命に気づいたようで、俊の顔を見てそう言い、家の中に消えていった。

不思議そうに首を傾げた俊だったが、先ほどの質問に答えてもらっていなかったので心配になり、ゆきに続いて家の中に入っていった。


そして一人玄関前に残された命は……。


「あらら…置いてきぼりか…俊ならずっと一緒に居てくれると思ったのにな」


俯きながらぽつりと呟き、命もゆきの家の中へと入っていった。




「俊、お見舞いに来てくれてありがとうね……」

「う、うん、恋人のことが心配になるのは当たり前だよ」

「……あたしね、本当は風邪なんか引いてないんだ」


二人はリビングに向かいながら会話を交わし、俊の言葉を聞くと嬉しそうに唇を笑みの形にし、そんなことを言った。


「え? じゃあ風邪じゃないならどうして学校休んだの?」

「それは…ちょっと買い物に行ってて、遠くの方に、それで休ませてもらったの」


俊がゆきに聞き返すと、ゆきは立ち上がってキッチンの方に行きながら俊にそう言った。

買い物だけで学校を休むのはさすがに変だが、俊はそれでも頷き「どうしてキッチンに行くの?」とゆきに訊ねた。


俊の問いにゆきは答えず、キッチンの前に立つと何かを手に持ち、ソファのある位置にまで歩いて戻ってきた。


「……? ゆ、ゆき…? それ、何?」

「……これ? 見てわからないかな?」


ゆきが手に持っていたもの、それは……。


「そ、それって……包丁、だよね?」

「当たり。さすがはあたしの彼氏だね…そうだよ、これは包丁、料理人が使う肉切り包丁…」


ゆきが手に持っていたのは主に中華料理を作る際に用いる巨大な包丁だった。


「肉切り包丁って!? もしかして、それ買いに行く為に学校休んだの……?」


俊がゆきに訊ねたところで、リビングの扉がゆっくりと開き、命が入ってきた。

命が入ってきたのを確認したゆきは、手に持っていた肉切り包丁を命から見えないよう床に置き、命の方へ顔を向けてはこう言った。


「月神さんもお見舞いに来てくれてありがとね」


それを聞いた命はおー、と頷き、俊の横に腰を下ろした。


「……ごめん、二人とも、僕ちょっとお腹痛くなってきちゃった。ゆき、トイレ借りるね」


異様に張り詰めた空気に俊は耐えられなくなり、一人リビングを立った、否、立ってしまった。


俊がリビングを後にしたことにより、必然的に残ったのは命、そしてゆきの二人である。


「………」

「……?」


そして二人は全く会話を交わすことなく俊が戻ってくるのを待ったが、俊はなかなか戻ってこなかった。


「ねえ、月神命さん」


その沈黙を破ったのはゆきだった。

突拍子もなく命のフルネームを呼び、ソファから立ち上がる。

そして、その手には……肉切り包丁。


「な……月喰、さん……?」


なにかなー、と返そうとしてゆきの方を見た命は、立ち上がって右手に肉切り包丁を持つゆきの姿を見て固まってしまう。


「ねえ、月神命さん……」

「な、なによ……!」


座ったままの命にゆきが近づく、命の表情が恐怖に染まり始め、身体が震え出す。


「ねえ、月神命さん……あたしから俊を奪わないで?」

「え…? なに言ってるのかな…? 私、わからないよ?」

「ねえ、月神命さん。あたし知ってるんだ……最近俊と仲良くしてるの」

「な、仲良くはしてるよ…? 昨日なんて俊の家に泊めてもらって……ッ!?」


命が答えようとした瞬間、ゆきが右手に持っていた肉切り包丁が命の首筋にゆっくりと密着された。

少しでも動けば刃がズレ、首に傷をつける、そんな表現が正しいほど、肉切り包丁の刃は綺麗に命の首筋に密着していた。


「ねえ、命さん……あたしから俊を奪わないで……って言っても、もう遅いか」

「な、に…言ってるの…?」

「命さん……あなたは俊が好きなんでしょ? だからあたしと俊の恋路を邪魔した。そうでしょ? そうだよね!? そうなんだろ?!」


ゆきの声が段々と震えていき、やがて指先の振動が刃先に伝わり、微かだが刃が動く。

命の首筋からは赤い血が垂れ、やがて痛みが命に伝わっていく。


「っ!? そ、そうだよ!? 私は俊が『好き』だよ!?」

「……あーははッ、やっぱりそうだったんだァ……ねぇ、月神命さん? 生きたい? それとも死にたい? ねぇ、教えて?」


ゆきは命の首筋に刃を当てたまま顔を命に近づけていきながら問う。


その時、リビングの扉が開き、俊がトイレから戻ってきた。


「……ね、ねえ、ゆき……? なに、してるの……?」

次回のお話で第二章は最終話となります

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