第四話:雨の中、二人きり
少しでも進展をつけようと努力してみたのですが…
俊達のクラスに命が転入してきて初めての休日。
その日は雨だった。
「月神さん…?」
「………」
俊が母親に頼まれた買い物のため、自宅を出ると、そこにはずぶ濡れの命が立っていた。
「どうしたの月神さんっ!」
俊はなぜ命が自分の家の前に立っているか問うより先に、命の手を取って玄関に招き入れていた。
「……おー、月宮君だー!」
「え…?」
そこで初めて、命が俊に気づいた。
まるでそれまで気づいていなかったのように。
「おー、じゃないですよ…! いったいどうしたんですか? こんな雨の中」
俊が命にタオルを差し出しながら訊ねると。
「…何でもないよ。ちょっと遊びに行きたかっただけ…」
学校で見る命とは少しだけ様子が違った。
「遊びに、ですか…? こんな雨の中に?」
「そうだよ、月宮君の家に遊びに行こうと思って…ちゃんと調べたんだ、場所」
俊は少しだけ寒気を感じながらも、このまま命を玄関にほったらかすのも良くないので、リビングに上げることにした。
「ちょっと待っててくださいね。ジュースとか用意するんで」
「ねえ、月宮君。シャワー借りてもいいかな……?」
「そうですね…大丈夫ですよ。お母さんとお父さんは仕事で居ませんし」
俊は冷静を装いながら、内心かなり驚いていた。
転校初日から校内一の可愛い生徒と噂の命が自宅のシャワーを使うのなら当然(?)である。
命をバスルームまで案内し終えると、俊はリビングに戻って来客用のお菓子を準備していた。
「こんな感じで良いかな?」
テーブルの上にお菓子やジュースの入ったコップを並べ終えた俊は、命が来るまでソファーに座って待つことにした。
そしてしばらくして……。
「終わった…かな?」
シャワーの音が止み、静かなリビングに足音が近づいてきた。
「………」
「あ、終わりまし……っ!?」
命の姿を見て俊は驚愕した。
なぜなら、命はその美しい柔肌にバスタオル一枚しか纏っていなかったからである。
「シャワー、ありがとね…」
「そ、それは、どういたしまして……」
「…どうかした?」
俊は目のやり場に困りながらも何とか返す。
「い、いや…服、着ないのかな、って思ってさ…」
「濡れてるから仕方ない。しばらくはこのままで居るから…」
「いやいや、風邪引いちゃったら大変でしょ? ちょっと待っててね」
命に言うと素直に頷いてくれた。
俊はそれから自分が使っていたパジャマを命に着せるため二階の自分の部屋へと向かう。
「えーっと、確かこの辺りに……あ、あったあった」
サイズは俊のものなので少し大きいかもしれないが、命は背も高いし大丈夫だろうと俊は思い、一階へと戻る。
一階に着くと、テーブルに目が行く。
俊が用意したお菓子やらジュースやらを命が食べていたからである。
「月神さん、これしかなかったんだけど、いいかな?」
「ありがとう。大丈夫だよ…」
席から立った命が俊に近づいてくる。
と、その途中……。
命の身体からバスタオルがずれ落ちてしまった。
「……ッ!?」
俊はとっさに目を瞑ったが、ちょっとだけ見えてしまった。
高校生にしては大きな胸に、モデルのようなくびれ。
絶世の美女、といった類の形容がとてもよく合う姿だった。
かなりの時間目を瞑っていた俊だったが、先ほどまで手に持っていたパジャマが無いことに気づく。
そして恐る恐る目を開けると……。
「…もう大丈夫だよ」
「……はぁー、びっくりしたー」
「ふふっ…、俊って可愛い一面持ってたんだね」
命が、俊の家に来て初めて唇を笑みの形にした。
しかし俊には可愛いと呼ばれたこと以外に気になることがあった。
「名前……? 月神さんどうしたんですか、急に名前で呼ぶなんて」
「呼んじゃ駄目、かな…?」
「い、いや、別に構わないですけど……ゆき以外にクラスの人に名前で呼ばれたこと無かったから」
「そうなんだ、じゃあこれから私のことは命って呼んでよ」
「わかりました、命さん」
俊が名前を呼ぶと、命は嬉しそうに唇を笑みの形にし、席に戻ってお菓子をまた食べ始めた。
それに続いて俊も席に着き、一番きになる疑問をぶつけてみた。
「命さん。訊きたいことがあるんですけど、いいですか?」
訊きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「何かな……?」
「その、学校での命さんはあんなに元気なのに、どうして今は元気が無いんですか?」
そう、簡単に言えばテンションの違いである。
「……だーめ、その質問には答えられないのだー」
「えー? どうしてですか?」
「その顔を見てるのがおもしろいからー! まあ、でも…いつかちゃんと説明する」
俊は「そうですか」と納得し、雑談を交えながらお菓子を食べ進めていくのであった。
「俊どうしたのかなー。携帯掛けても繋がらないし……。
家まで来てみたけど、居るのかな…?」
俊の自宅の外。
雨が降りしきる中、ゆきが傘を指しながら立っていた。