第二話:それは夢か、幻か
ついにあのキャラが転校生として初登場します!
寝起きは少し不快だった。
「……はぁ」
昨日の制服デートの疲れがとれず、おまけに変な夢まで見てしまったら当然である。
「あー……、ゆきもたぶんこんな感じなんだろうなー……」
俊はぼやきながら時計に目をやった。
時刻は朝の七時半だった。
「着替えしないと……ふわぁ~ぁ……眠い」
俊は寝起きでまだ重い体を動かしながら高校の制服へと着替えていった。
「おはよう。昨日の疲れ、残ってるみたいね」
「若いからといって遊びすぎは良くないぞ?」
いつも通りの朝の食卓。
「はは……自分でもちょっとはしゃぎすぎたとは思ってるよ。
でも、ゆきが楽しかった、って言ってくれたから良いんだ」
「ほんと……ふふっ」
「大切にしてやるんだぞ」
「言われなくてもわかってるよ」
両親と昨日のデートのことについて話しながら、俊は朝食を食べ終えた。
時計の針は八時に差し掛かったところ。
「あら、今日はゆきちゃんのお迎えが遅いわね……」
「きっと疲れているからだろう」
「……そうだといいけど……。僕、ゆきの家に行ってみる、ごちそうさま、行ってきます……!」
少し胸騒ぎがした俊は急ぎ足で家を出ていった。
「……まだ寝てなきゃいいけど」
走りながら呟くと、前方にすごく見覚えのあるシルエットがあった。
ゆきだ、俊は少し離れた位置からでもすぐにわかった。
「………」
当の本人は、ものすごーく、眠たそうだった。
「あららー……ゆきー? 大丈夫ー?」
俊が大きな声で言うと、向こうも気づいたらしく、手をぶらぶらと振り返してきた。
「……大丈夫かな……?」
小走りでゆきに近づくと、近くで見て初めて気づいたことがあった。
「えーっと、……ゆき? 朝、何があったの……?」
それは、ゆきの服装である。
下半身はしっかりスカートなのだが……。
上半身のカッターシャツが異常にはだけていた。
何というか、妙にエロい。
「………………うーん……?」
しばしの間沈黙したゆきは、ようやく自分の服装の異常さに気づいた。
「わっ! 何これ……っ!?」
気づいた途端に眠気がぶっ飛んだ様子で、顔を真っ赤にしながらあたふたと両手を動かし始めた。
「えっと! これは違うの! なんというか、時間がなくて急いでたら……!」
ばたばたと手を動かしながら力説を見せるゆきに対し、俊は落ち着いたツッコミをいれた。
「それは、わかったから……服をちゃんとしよ?」
「……ッ!」
「あ、そっか。僕、あっち向いてるから大丈夫だよ」
俊は表面上は優しく取り繕っていたが、内面は照れくささでいっぱいだった。
そうしていると、ゆきが小声で口を開いてきた。
「……もう、ぉわったよ……えへへー、びっくりさせてゴメンね」
顔はまだ少し赤かったが、いつものゆきに戻ってくれて、俊は内心ホッとしていた。
「大丈夫だよ。それより、急がないと遅刻しちゃう!」
「あっ……! ほんとだ、走っていこ!」
二人は大急ぎで学校へと向かうのであった。
「はぁ……はぁ……間に合った~……」
「うぇーん、汗めっちゃかいちゃったよぅ~……」
二人はなんとか時間内に学校にたどり着くことができたが、俊はくたくた。ゆきはくたくた+汗でべちょべちょのWパンチである。
「大丈夫じゃ、なさそうだね……」
「もぉ~! これじゃあ二時間ぐらい経たなきゃ乾かないよぅー……」
「そうかな? 僕は、こんなゆきも可愛くて良いと思うけどなぁ……」
「……ッ!?」
ついさっき見たように、ゆきは顔を真っ赤にしてしまった。
そして、そのまま先に歩いていってしまう。
「……あはは。また変なこと言っちゃったかな……?」
そう呟いたあと、俊もゆきを追うように校舎へと向かう。
「………」
先に教室に入っていたゆきは、下敷きで自分の顔や身体を扇いでいた。
「あぁ、おはよう。ねぇ、ゆき?」
「……何よ」
むすっとしながら俊の方に顔を向けてくるゆき。
「いや、その……さっきは、ごめんね」
「……え……? あ、ああ、あれは、その……嬉しかったから」
ほんのりと頬を染めながらゆきが言ってくる。
周りの視線が痛い……。
「なんだぁ……僕てっきり怒らせちゃったかと思ってさ」
俊がホッと息を漏らしたところで、朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴った。
「はーい、席につけよー! それから、今日は転校生を紹介する。入っていいぞー」
担任の教師が言うと、クラス全員の視線が入り口に注がれる。
そして、扉が開かれると、歓声が上がった。
男女両方からである。
入り口から入ってきたのは、背が少し高く、スタイル抜群の少女であった。
「おー! 歓迎されてるのかなー?」
金髪まではいかないが、黄色っぽいセミロングの少女は、生徒達のリアクションを見るなり驚きの表情を作った。
年はゆきと同じなのだろうが、ゆきや他の女性徒と比べると、胸も少しばかり大きかった。
「転校生の子、なんだかモデルみたいだよね」
「う、うん……ちょっと憧れる……」
「え? なんか言った?」
「へっ……? い、いやいや、なんでもないよー」
余程俊に聞かれたくなかったのだろう、ゆきは必死に俊に答えるのであった。
「静かにー! じゃあ、自己紹介を頼んだぞ」
担任が言うと、はーいと少女は手を挙げ、黒板と向かい合った。
「かんせーい! えーっと、月神命でーす! みんな、今日からよろしくねー!」
名前を書き終えたあと、元気な声で自己紹介をした。
それからすぐに、再び悲鳴にも似た歓声が上がった。
「あれー? みんなどうしたのかな……?」
その光景を見た命は、さぞかし不思議そうな顔を作っていた。
「静かに! 月神の席だが……窓際の一番後ろが空いているな」
担任はその場所を指さしながら命に言う。
「はーい!」
また手を挙げたあと、命は俊の席の横を通りながら指定された席へと向かう。
そして、指定された席に到着した命は鞄を横に掛け、綺麗な姿勢で席についた。
「よーし、じゃあホームルーム始めるぞー」
こうして、俊たちのクラスに新しく加わった月神命という少女。
「…………まさか、ね」
この教室に命が入ってきたときにはまだ小さな疑問だったが、先ほど横を命が通ったときに俊の疑問は確信へと変わった。
「……今朝見た夢に出てきた子が、転校生、か…………」