第一話:初めての○○デート
少しベタすぎたかもしれません……
授業中、隣の席のゆきが小声で話しかけてきた。
「ねね?今日さ、学校終わったらデートしようよ」
「……いきなりだよ?
準備とか何もしてないのに……。それに制服のままでしても良いの?」
「あ、そっか……お洒落できないのは残念だけど……俊とデート出来るなら良い!」
と、かなり大きめの声で言った為……。
「こら、おまえたち!授業中ぐらい静かにしなさい!」
担当教科の先生に怒られてしまった。
周りの生徒たちも、その様子にクスクスと笑うのであった。
「す、すみません!」
「ぶぅ~、ゴメンなさ~い」
二人は先生に謝り、その後の休み時間に打ち合わせをする事にしたのであった。
休み時間になると、ゆきが机の前に飛んできた。
隣の席なのにわざわざである。
「でさでさ!今日どこ行こっか?」
「うーん……ベタにゲームセンターとか行こっか?」
ゆきと向かい合いながらの会話は、クラスでもすっかり見慣れた光景となっていた。
少し視線が痛いが。
「あ、それ良いかも。えへへ~、じゃあ決まりだね!
今日の放課後は俊との制服デートなり!」
ゆきが、声高らかに宣言した。
「おいおい……声でかすぎるだろ」
「いいじゃん、いいじゃん!もうみんな知ってるんだからさ……」
机に両腕をぴとっ、と付けたゆきが微笑みながら言ってくる。
その姿は、何というか『天使』のようだった。
「ん、わかったよ」
俊が了解したところで、休み時間終了を告げるチャイムが鳴った。
「よし!あともう少しで6時限目が終わるな」
「まーた、怒られるよー? 大きい声出してると」
ゆきが注意した途端に、先生から注意を受けた俊であった。
「あはは……」
「もう……(でも、そんなところが好きなんだよな~)」
頭を掻きながら苦笑する俊を横目で見つつ、心中でそう呟くゆきであった。
そうしてる内に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
下校の挨拶を終えると、生徒たちは散りぢりになっていった。
「よし、じゃあ行こうか!」
「うんっ!」
教室からげた箱へ向かう二人は、自然と手を繋いでいた。
「ところでさ、お金、持ってるの?」
「うん、今月はお小遣いいっぱい貰えたから!」
俊が訊ねると、待ってましたと言わんばかりにゆきが答えてきた。
「そっか、僕も結構持ってるからさ、たくさん遊んじゃおー!」
「おー!」
二人は手を繋いだまま、近くのゲームセンターへと向かうのであった。
「ここ……?」
「うん。僕が知ってる中じゃ結構おっきなところ」
「そっか。ではでは! 俊のオススメのゲームセンターの力、見せてもらおうか!」
ゆきが、ふっふっふ、などと微笑しながら叫んだ。
二人が到着したゲームセンターは三階立てのかなり大きな場所だった。
一階にはUFOキ○ッチャーコーナー、二階にはメダルを使って遊ぶコインゲームコーナー、三階にはテレビゲームコーナーという仕様になっていた。
「まずは一階の景品をかき集めよう……!」
「あはは……俊ってこういう場所好きだもんね」
子供みたいにはしゃぐ俊を見ながら、ゆきはこう思っていた。
『……どうか、俊とのこの時間が、ずっと続きますように……えへへ、ちょっと、スケール大きいかな……』
「……ゆき? どうかした?」
ふと横に目をやると、俊が不思議そうに小首を傾げていた。
「えっ……? な、なんでもないよ……っ!?」
完全に不意を付かれた……。
「そう? じゃあ今度はプリクラ行こっか!」
俊はさして気にしていない、と言った様子だった。
「う、うん……!」
二人はその後も、初めての制服デートを満喫したのであった。
「ふぅ~……ちょっと疲れちゃったね……」
「まあ……あれだけはしゃいだら……当然の結果だよ……」
暗くなるまで遊びまくった二人は、近くの公園のベンチで休憩をとっていた。
時刻は夜の八時を過ぎたところである。
「えへへ……でも楽しかったよね。俊と付き合って、初めての『制服』デート」
「うん、楽しかったよ……明日に疲れが残らない程度にしたかったけどね」
「ぷぅ~! 何その言い方ー!」
ゆきがあからさまに頬を膨らませながら言ってくる。
「あ、あはは、冗談だってば……! 本当に楽しかったよ、誘ってくれてありがと、ゆき……」
ぽんぽん、と俊がゆきの頭を撫でてやると、今朝見たように頬を赤く染め、少し俯いてしまった。
「う、うん……俊が楽しかったのなら、あたしも……楽しい」
「そっか、ありがとうな」
そっと、ゆきの唇にキスをしようとした、だが、公園を犬の散歩の人が通りかかったため、見事に失敗し……。
「……っ!? ちょとっ、なにしようとしてるのよ……っ!?」
顔を上げると、俊の顔が目の前にあり、ゆきは驚愕してしまう。
「い、いやー……キスとか、しようかなー、って……そしたら人がさ」
「なッ……!? こ、こんな場所で……ッ!?」
「しっ、しーっ! 声が大きいよ……!」
思わずゆきの口を手で塞いでしまった。
「んっ!?」
突然のことに目を見開いて驚くゆき。
「あっ……ごめっ、大丈夫!?」
慌てて塞いでいた手をどけると、ゆきが苦しそうにせき込んだ。
「ごめん! 本当に悪気はなかったんだ! だから許して!」
必死に謝ると、ゆきがようやく口を開いた。
「……だ、大丈夫……ちょっと、びっくりしただけだからさ……」
「そ、そっか……それなら、よかっ……たっ!?」
ホッと胸をなで下ろした俊は、一瞬何が起きたのか理解できなかった。
何故なら、ゆきのほうから、俊にキスしてきたのだから。
しばらくの間、唇を重ねていた両者だったが、先に唇を離したのはゆきのほうだった。
「ゆ、ゆき……っ!?」
俊があたふたしながらゆきに訊ねると、ゆきは立ち上がり少し俊から離れ、振り返りながらこう言った。
「あ、あたしは……俊の彼女なんだからさ……これぐらい、言ってくれれば、いつでもしてあげるんだからね……」
「……ゆき」
俊の前に立つ少女は、おおよそこの世のものとは思えないほど美しかった。
「今日は、本当に楽しかった……じゃ、また明日!」
照れくさそうに言ったあと、ゆきは足早に公園を去っていった。
「気をつけて、な……さて、僕も帰るか……」
ゆきを見送ったあと、俊も帰路につくのであった。