第七話:すべての終わり
ドンでん返し、みたいな感じになってしまいました……
意識が戻って初めて分かったことがあった。
「あ……私、死んじゃうんだ……」
意識を取り戻した琴音の視界に広がったのは、部屋だった。
所々が腐っていて、今にも崩れてしまいそうだった。
「………あ~、やっと起きたんだ~」
そして、薄暗い部屋の奥から時雨怜梨が右手にダガーナイフを持ちながら近づいてきた。
その姿に、琴音は恐怖していた。
「……や、だ……っ!?」
自分の体を動かそうとして、また一つ分かったことがあった。
四肢を重い鎖に繋がれ、身動きが出来なかったのだ。
「なに、これ……!?なんで、こんなもの付いてるの!?」
「……………あはは」
琴音の問いに、怜梨は恐ろしいとも見て取れる表情を浮かべ、琴音に答えてきた。
「なんでぇ?……死ぬからに決まってるじゃんか!」
「ッ!?……やだ……イヤだ……ッ!」
ガチャガチャと鎖が音をたてる。
琴音が恐怖で身を捩っているからだ。
「イイねぇ、これから死ぬ奴にふさわしい顔だよ」
「……じょうぶだもん……だいじょうぶだもん……!
翔にーちゃんが、助けに来てくれるもん……ッ!」
しっかりと怜梨の顔を見ながら琴音が叫ぶ。
「……うるさいよ」
怜梨は布切れを取り出し、それを琴音の口に巻き付け、琴音が言葉を発せないようにしてしまった。
「んっ!……んーッ!?」
「なにを言ってるのかわかんなぁい!」
また怜梨が笑う。
と、その時。
「琴音ーーッ!」
建物の外から、翔輝の叫ぶ声が聞こえた。
「来た、翔輝君だ……!」
「んっ!?んんーッ!」
二人が同時にリアクションをし、そして怜梨が部屋を出ていった。
「はぁ、はぁ……琴音ーーッ!」
傷口を押さえながら翔輝は必死に声を張り上げた。
すると、建物の玄関が開き、暗闇から怜梨が現れた。
「っ、……怜梨、おまえ……っ!」
「よく来てくれたね……さ、入って。そして見届けてよ……『アレ』の最期をさッ!」
怜梨が恐ろしい笑顔を浮かべながら言ってきた。
「……(そんなこと、……させるかよッ!)」
怜梨に言われた通りに翔輝は、平静を装って建物内に足を踏み入れた。
そして、部屋の奥。
薄暗い場所に案内された翔輝は驚愕した。
「ッ!琴音……ッ!」
「ん!?ん!んんーんんッ!」
翔輝と琴音、その二人の目が交わった瞬間に、翔輝の前に怜梨が立ちふさがった。
「……怜梨、琴音を解放しろ……!」
「駄目だよ。『コレ』は処分しないと、邪魔だから」
ハイライトの消えた目で、右手にダガーナイフを持つ怜梨が翔輝に答える。
その姿に翔輝は多かれ少なかれ『恐怖』を覚えていた。
しかし、翔輝は迷ってなどいられなかった。
琴音を解放し、怜梨のてから逃げなければならない。
その準備は出来ていた、あとはタイミングを見計らって実行に移すだけ。
「っ、……なんでだよ、どうして琴音が邪魔なんだよッ!」
声を張り上げる度に傷口が痛むが、その痛みを気にすることはできなかった。
なんとしても琴音を助け出す。
「私ね……翔輝君のこと、好きなんだよ?」
「なッ!?」
あまりにも予想外なことを翔輝は告げられた。
「初めて会った日、覚えてる?私に優しくしてくれたよね?あのとき、すごく嬉しかったなぁ……一目惚れ、って本当にあるんだ、って思った」
「……そう、か。でもそれとコレとは、何も関係ねぇじゃねえか!一体琴音が何したって言うんだよ!」
少し戸惑いの表情を浮かべたが、現実を理解し、再び怜梨に問う。
「……だってさ、『アレ』は翔輝君のことが好きだって、言ったんだよ?
私がもう好きな翔輝君のことを、私だけが好きな翔輝君のことを!」
言う度に、怜梨の顔が翔輝に近づく。
そこで、翔輝は改めて実感する事になる。
「どうして……っ!どうしてそんな理由で琴音を殺すんだよ……っ!
おまえ、十二分に可愛いじゃねえか!俺のことを好きになってくれるなら構わない、でもどうして琴音を……っ!」
そう、眼前に居る、この少女が可愛いと。
「……嬉しいなぁ……翔輝君がそんなこと言ってくれるなんて
でもさ、やっぱり『アレ』は邪魔なんだよ。殺さないと駄目なの」
翔輝に可愛いと言われた怜梨は少し頬を赤く染めたが、琴音を殺す。という目的に狂いは無かった。
「っ、だから……!」
だから、どうして邪魔なんだよ!と、言おうとした翔輝だったが、これ以上怜梨を説得しても無意味だと悟り、予め考えていた行動を実行に移すことにした。
「もう、良いよね?殺すよ?」
言いながら、怜梨が琴音に歩み寄っていく。
その姿を見ていた琴音は涙を流しながら、必死に身を捩っていた。
「……もう、これしか、ないんだよな……」
怜梨の後ろ姿を見て一言呟いた翔輝は……、懐に忍ばせておいた刃渡りの長い包丁を取り出し、ゆっくりと怜梨に近づいていった。
「……こうするしか、ないんだよな……。怜梨……!」
怜梨の背中が目の前に迫ったところで、翔輝は彼女の名を呼んだ。
「なにかな……翔輝君……?」
怜梨が振り向く。
その刹那、翔輝は怜梨の脇腹に包丁を突き刺した。
「……え……?」
一瞬、怜梨の表情が固まる。
そして、脳が、思考が、身体自身が状況を理解していく。
「……うそ……、なん、で……?」
「……こうやるしか、なかったんだ……じゃないと、琴音が……俺の大切な妹が……!」
嗚呼……出来ることなら、避けたかった。こんなことは。
「……翔輝、君はさ……私のこと、……『好き』なんだよね……?」
刺された怜梨が、翔輝に抱きつきながら、訊いてくる。
「……っ、ああ……好きだ」
「っ!……そう、なんだ……私、も……大好き、だよ」
怜梨が、泣いていた。
そして、翔輝が、怜梨の身体から包丁を抜くと、夥しい量の血が溢れだし、翔輝はその帰り血を浴びてしまった。
「……は、ははは……これで、よかったんだよな……?」
自然と、涙が溢れ出てきた。
「………」
怜梨の身体がゆっくりと横に傾いていく、そして、生気の隠っていない瞳で翔輝を見ながら、微かに口が動いた気がした。
「……ッ!?」
それを見た翔輝は目を大きく見開き、思わず後ずさりをしてしまった。
そして、ドサッと怜梨の身体が床に倒れた。
「……嘘だ……はは、もう、終わったんだ……」
明らかに動揺を隠せない翔輝は、そう呟いた後に、琴音の元へと歩み寄っていく。
「琴音……もう、大丈夫だからな……」
重い鎖を琴音の身体から外し、そして口を塞いでいた布切れも外してやった。
「……っ!おにーちゃん!翔にーちゃん!」
身体の自由が効くようになった琴音が、大粒の涙を流しながら翔輝に抱きついた。
「……まだ、俺のこと、『おにーちゃん』って呼んでくれるんだな」
血塗れの翔輝が琴音に言うと、琴音は抱き締める力を強めながら叫んだ。
「うん……っ!おにーちゃんは、おにーちゃんだよ……っ!
どんなことをしても!助けてくれたから!」
「……そう、か……。琴音、……ありがとうな」
翔輝が言うと、琴音は『うん!』と大きく頷き、その後しばらく大泣きしてしまった。
「……ねえ、翔にーちゃん」
「ん?どうした……琴音」
「私、翔にーちゃんが、大好き……」
「……そうか……俺もだ、琴音、大好きだ……」
薄暗い部屋の中、翔輝と琴音は寄り添って、一夜を過ごしたのであった。
「……翔にーちゃんさ、私を助けてくれる前に、すっごい驚いてたよね?なんで?」
琴音視点から見たあの光景は、異常なほどに不思議だった為、翔輝に訊いてみた。
「ん?ああ、あれか……あれは、気にするな。もう、忘れよう、この事は……」
「そっか……翔にーちゃんがそう言うなら、もう訊かない」
「ああ……ありがとな」
あの時、怜梨が言った言葉。
それは……。
『来世で、また、会おうね』
第一章はこのお話で完結します。
第一章を最後まで読んで下さった方々、本当にありがとうございます!
そして、次から始まる第二章の方もよろしければお付き合いください!




