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京舞う桜と  作者: Haruka
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試衛館





 あれは、俺が12歳の頃であったか。


「晋作!江戸へ行くわよ!!」


「はぁ!?江戸だと!?長崎から帰ってきたばっかじゃねぇか!」


このときは、我が儘であったな。

晋作にも無理を言ったと思っておる。





「早く行きたいの!だって、江戸といえば、玄武館に、練兵館でしょ、

それから、士学館だってあるのよ!?」


「馬鹿か!練兵館の斉藤先生に勝てるわけねぇだろうが!」



確か、晋作と小五郎は練兵館にて剣を教わったことがあったな。

故に、強さを知り尽くしておったのじゃろう。




「だからこそいくんでしょう!?

・・・もう。・・・いいわよ、一人で行ってくるから。

小五郎と玄瑞も休んでいて。 疲れたでしょう?」



俺は、一人身支度をすませ、江戸に出発しようとしたのじゃが、



「春花さん!お供します。

私も、様々な流派を学んでみたいのです。」


玄瑞は急いで駆けてきて、柔らかくへらっとしたその憎めない笑顔を見せた。

本当は、道場破りが目的でないことなどわかっておった。

ただ、俺を守るために共に行ってくれるのじゃとな。

本当に優しき男じゃと改めて思ったわ。



「では、行きましょう。」





 江戸へ行く道中、一人では寂しいと思えるようになった夜道も、

玄瑞が共にいてくれたから、寂しいなど欠片もおもわんかったな。


「玄瑞。ありがとう。本当に。」


俺が、急に言い出したものじゃからな。

玄瑞も酷く驚いておった。


「・・・っ何です? 急に。」


「ううん。・・・その、色々ね。

・・・ふふっ・・・玄瑞は優しくていい人過ぎるから、貴方に愛される方が羨ましい。」


・・・あぁ・・・。

なんて恥ずかしいことを。

何故、こんなことを言ってしまったのか・・・。

これでは、玄瑞が顔を逸らしたのも頷けるのう。




「・・・えと・・・春花さん・・・。」


「呼び捨てで良いのに。・・・できれば敬語じゃない方が良い。」


我ながら、図々しいのう。

じゃが、この頃の俺は、玄瑞との間に距離を感じておってな。

少しでも、近づきたいと思っておったのじゃ。

敬語は、素であると最初に聞いておったのにのう。



「では、名だけ。・・・改めて、よろしくお願いしますね。 春花。」


 このとき、結局変わったのは呼び方だけであったのじゃが、妙に嬉しかったのを覚えて居る。

玄瑞とすごく、近づけた・・・そんな気がしておったのじゃ。

・・・そうじゃのう・・・。

もしや、このときにはもうとっくに、玄瑞に恋心を抱いておったのやもしれぬな。

そういう年頃だったのよ。

・・・いや・・・今も・・・じゃな。

今、こんな男装姿、こんな状況でも、玄瑞のことを・・・恋慕っておる。

・・・ははっ・・・もう、叶わぬがのう。







「着いたわよ!江戸!そして練兵館!」


このように、長旅へ出ては幾度も達成感を味わってきた。


 最初は、練兵館を訪ねた。

何人か門下生と試合をしたのじゃが、手応え無く。

とうとう、道場主、斉藤弥九郎本人が出てき居った。

晋作や、小五郎でも勝てぬとはどんな奴じゃと思うておったが・・・。

俺の小さい背と、女子で子どもということに油断したのか、あっさりと勝ってしもうた。

晋作と小五郎の師といえども、見かけで判断し、相手の力量を測り違えるとは。

まだまだじゃ・・・などとしかいえぬな。


 次は玄武館じゃ。

その道場には、北辰一刀流免許皆伝だという女子がおってな。

名を、千葉佐奈といったか。

その女子は、美しゅうてのう。

じゃが、門下生から聞いたところによると、千葉佐奈の異名は『千葉の鬼小町』じゃそうな。

免許皆伝ともあって、期待しておったのじゃが、思ったよりは下であった。

確かに、力はあるし、速さも申し分ないが、剣筋が見え見えじゃ。



 最後は士学館を訪ねた。

そこの道場は、形ばかり気にしよって、他はまったくじゃ。

皆、実践を知らぬ。

あれでは、斬り合いになったとき、何にもできぬではないか。

何のために、剣を学んでいるのか、わからぬな。




「残念でしたね。しかし、道場など数えられぬほどあります故、

必ず、強い剣士と出会えますよ。」


「・・・ねぇ、玄瑞。

・・・江戸は、平和なのかしら?」


平和であるから、皆、本物の斬り合いを知らぬのではないかと考えたのじゃ。


「・・・そうですね。

京よりかは、平和でしょうね。」


実践というものは、強くなるための近道であるが、

実践を知らぬというのは、幸せなのかもしれぬな。




 夜を越すため、宿へ向かう途中、子どもの笑い声が耳に入った。

可愛いなんてものなどではなく、まるで、罵倒して嘲笑うような・・・。

少し、気になってな。 俺は、その方へと踏み出した。


 そしたら、予想通り子供らが居ったのじゃが、酷いものでのう。

6歳ぐらいであろう一人の男子が、3人の男子に竹刀で思いっきり叩かれ、突かれ、

しまいには、石まで投げつけられて居った。

それは、遊郭での生活を思い起こさせることじゃった。

どうしても、その子と自分を重ねて見てしもうてのう。




「おい。あんたら。早う家へかえりな。もうじき日が暮れる。」


優しく言ってやったほうじゃと思うが。


「なんだよ!うるせぇな!」


・・・っこの小僧。

俺に向かって、石を投げおったわ。

後ろで、玄瑞が急いで前に出ようと動いたが、俺はその前に竹刀で石を叩き落としてやった。


「帰りなさい。次、この子に手ぇだしたら・・・わかるわね?」


竹刀を目の前に突きだして、そう言ってやれば、あやつら、尻尾をまいて逃げよったわ。

まだまだ、肝が据わっておらぬようじゃ。





「大丈夫?・・・玄瑞、手ぬぐいをちょうだい。」


その手ぬぐいで、所々、血を拭ってやった。

幸い、深手はなくてな。

血もすぐに止まった。



「あなた、家はどこ?」


その男子は、うつろに目を開けて、ゆっくりと途切れ途切れに言ったのじゃ。


「・・・試・・・衛・・館・・・。」


なんじゃ? と思うたわ。

そんな地名などありはせんからな。

じゃが、名からして、道場ではないかと思ったのじゃ。

玄瑞も、江戸に詳しくはないからな。

しょうがなく、俺がその子を背負い、道歩く者に尋ねながら、その試衛館とやらを探した。


最初、玄瑞がその子を背負うと言ったのじゃが、

何故か、自分の背にある小さなぬくもりが心地よくて、俺が背負うと言って断った。



 聞いてまわっていると、試衛館とやらは、意外と有名でな。

すぐに場所がわかったのじゃ。




 そこは、小さな道場でな。

中からは、いい音が響いておった。


「すみません!どなたかいらっしゃらない!?」


大声で叫ぶのじゃが、竹刀の音で見事にかき消されてしまったようでな。


「春花。 少し、待っていて下さい。中の様子を見てきます。」


「ありがとう。 お願いね。」



玄瑞は、気遣いの出来る男じゃ。

俺が困っておれば、それに応じて協力してくれる。


 ぬくもりを背に感じながら、待って居ると、

中から玄瑞とともに、がたいの良い20代後半の男が急いで出てきおってのう。

顔はいかついものの、どこか、優しげな雰囲気をまとっておったな。


この男の名を、近藤勇と申してな。

試衛館の道場主じゃ。

今は・・・俺たち倒幕派の敵である新選組の局長やっとる。


こんな焦って子ども一人を心配しているこの男が、

人斬りと呼ばれる新選組の局長とはな。



 まぁ、俺と新選組の奴等との出会いは、この試衛館・・・ということになる。

































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