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京舞う桜と  作者: Haruka
14/18

桜、息吹きかえす時









 鷹司邸








 ・・・・足音がきこえる。

多くて8人ぐらいじゃろうか。

・・・まったく。 もうすぐで死ねそうだってのに。

頼むから、そっとしといてくれんか。



・・・・・・そっとしといては・・・くれんのか。

あやつら、誰かを捜してる。おそらく、生存者。

捕まってしもうたら、都合の良い捕虜じゃ。

拷問も、受けるのじゃろうなぁ。

・・・それも面白そうであるが、こちらには生きる資格も失っとるのでな。


・・・さて・・と。

意外と死ねぬものじゃな。

こうなれば、無理矢理にでも・・・。






 ー 吉田喜兵衛は、腹に痛々しく食い込んでいる小刀を力任せに抜いた。

吉田は感覚さえも麻痺し始めていたために、痛みも、小刀を抜く感覚さえも感じてなどいなかった。

そんな自分に、吉田は薄く笑みを浮かべる。

自分は、こんなにも軟弱であったか、まさに滑稽である・・・と。 ー










 ・・・そうじゃな・・・。

首にひと突きでもすれば、この俺とて流石に死ぬるじゃろ。




ー 吉田は、首元に血でまみれた小刀を血でまみれた手で持っていく。

吉田はふと、障子の向こうにある桜を見た。

7月の桜。それはなんと美しく儚いのであろうか。

そして、それはどことなく武士の散り際を予感させる。

この桜が、吉田の単なる幻か、それとも天の歓迎かは不明だ。

しかし、何を思ったのか、吉田は後ろに倒れ込み仰向けになる。

小刀も落としてしまった。 ー








 ・・・なんなのじゃっ・・・。

何故・・・今更お前達を思い出す?

・・・・・・そうか・・・。

お前達が桜だからか。

・・・今こそ、敵同士であるが、お前達は俺の知らない所でも桜なのであろうな。

潔くて、儚くて、真っ直ぐな・・・。

そんなお前達を見てやりたいが、俺は、俺のために戦ってくれた仲間を見捨てることなどできない。

天から見てやる。お前達の生き様を。

華々しく散ってみせよ。それが、お前達に見合う死に様じゃて。






 ー 吉田は、震える手で小刀を握りしめた。

そして、仰向けのまま首に突き立てる。

心は、今までにないほど穏やかであった。

吉田は、このまま死ぬる・・・と思った。

しかし・・・思ったよりも早く障子は開いた。 ー







「なっ・・・」



ー 障子を開けたのはがたいの良い20代半ばの男。

男は今まさに小刀を突き立てている吉田に目を丸くした。

そして、素早く吉田の手から小刀を奪い、部屋の隅に投げ飛ばした。 ー







「残念だが、おめぇには山ほど聞くことがある。」



・・・あぁ・・・やはりか。





「うるさいぞ。俺は多くの仲間を死なせてしもうたのじゃ。

それは、死をもって償うが道理というもの。

邪魔立ては許さんぞ。・・・原田よ。」






 ー吉田は、感覚の麻痺した手でとっさに原田の刀を抜きとり、原田の首に添える。

すると、原田の後ろにいた隊士達は、一気に刀に手を掛ける。

それを、原田は制した。ー





「・・・お前・・・まさか・・・」



「はぁ。なんじゃ?

・・・あんた、誰かと勘違いしておるのか?

仕方ない。名乗ってやるわ。

俺は吉田喜兵衛じゃ。長州の一軍を指揮しておった。

敵を何人殺したかなど見当もつかぬ。

・・・殺せ。俺は敵じゃ。」





左之、お前に殺して貰えるなら、こちとら本望じゃ。

最期に見れた。 お前の顔が。




「黙れ。色々吐いてもらうからな。」



・・・何?

馬鹿者が。・・・甘いわ。





ー吉田は原田の首に刃を押しつけ、流れ出る血を見た。

しかし、原田はなんの反応も示さない。

それに負けて、吉田は刀を放した。 ー







「よし。帰るぞ、お前ら。」



 ー 原田は、吉田を軽々と担ぎ上げた。

吉田にはもう、抵抗する力さえ残っていない。

途中でふと、吉田は目を閉じた。ー




・・・眠くなってきた。

このまま、目がさめないといいのじゃが・・・。






ー吉田は、深い闇に落ちる寸前、原田の声を聞いた気がした。ー








「・・・馬鹿野郎・・・。」





・・・馬鹿、左之。

馬鹿野郎は、・・・お前じゃろうが・・・。











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