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京舞う桜と  作者: Haruka
13/18





 鷹司邸 道中






 ・・・ったく。

土方さんも、人使いが荒ぇわな。


皆疲れ切ってるってぇのに、十番組だけが別行動で仕事が一つ増えた。

まぁ・・・しゃあねぇがな。






・・・・・・・・・・・・





 ?・・・。

なんだありゃあ。

戦場にゃ、似合わねぇ淡い桃色。



「原田組長、それは?」



「ん?・・・さぁな。」



まぁ、だいたい予想は付く。

こんな、半分に折りたたまれた、可愛らしい紙の桜の花びら。

娘にでも貰ったんだろ。

そんな大切なもんを落としちまって、気の毒だな。



・・・ん?

裏になんか書いてあるじゃあねぇか。

こりゃあ、男の字だな・・・。

句か?




 ーはかなくも 浮世の人のあだ桜 いづくの野辺に ちらんものかはー







・・・そろそろ行くか。

こんな所で立ち止まってたら、こいつの持ち主が死んじまうかもしれねぇな。

早く、見つけてやらねぇと・・・。









「早く行くぞ!!俺についてこい!!」


『はい!!』






・・・桜か。

そういやぁ、今年は花見をしなかったな。

これが終わったら、花はねぇが、こいつらに酒でも飲ませてやるか。

花が無くても、文句は出ねぇだろ。

どうせ、こいつらは花より団子な奴等だ。


だが、あいつはそうもいかねぇだろうな。

・・・名が思い出せねぇな・・・。

とにかく、桜の似合う綺麗で汚れのないおなごだった。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









 あれは、俺が酒の買い出しに出て、帰る途中だったな。

ちょっとした人だかりが出来ていて、なにやら声が聞こえた。



「ほんに、綺麗な顔しとるに。

あんたなら、島原一の太夫になれたやろなぁ。

あんなにもお父はん、お母はんに期待されとったに。

あんたなら、今戻っても殺されはせぇへんよ。

大事な大事な、売りもんやからなぁ・・・ふふっ。」




身の毛のよだつようなねっとりとした女の声が聞こえた・・・。

嫌気が差した。

だが、次に聞こえた声は、ほどよく高く、凛とした女の声だった。




「売りもんになど、なりとうありまへん。

芸子ならましやけど、女郎なんて苦しいだけやないですの。」



「そう? わてにはそう思えへんけんど。

・・・それとも、心に想うお方でもおるん?」



聞かずとも聞こえてきた女郎という言葉。






「おります。 せやから、うちは戻るわけにいかへんのんや。

・・・うちは、姐はんみとうに、男に媚びを売りたくありまへん。」



俺は、こんなに強い女がいるのかと、興味が出て、声のする方へと足を向けた。







「なんやてっ!! わてを馬鹿にしとるんかっ!!?」



ちょうど、姿が見えてきたときの状況は酷かったな・・・。

女の修羅場ってやつだ。


ちょっと歳のいった女の手が、もう一人の女の頬に命中して、痛々しい音が・・・。





助けてやれりゃあよかったんだが、流石に、間に合わなかったな。

痛々しい音が響くと、打たれた女の顔がチラリと見えた。

その女は、数日前に試衛館を訪れた女だった。


何故だか知らねぇが、助けてやらねぇとだめだって思った。







「おい、ねえさん。

そこまでにしといちゃくれねぇか。」


このときの俺、相当腹を立てていたと思う。





「俺の女なんだ。今度傷つけてみろ。

・・・・・・斬るぞ。」



そう言ってやると、目の前の女は怯えて逃げていった。

そんなに俺が怖かったか?






「・・・原田さん?」


俺が守ってやった女は、先ほどとはうって変わって細い声をしていた。

強がっていただけなんだと気付く。




俺は、何故か返事もせずにそいつの手を引いて、お気に入りの場所へと向かった。

江戸にいた頃は、春になれば、必ずその場所に行って、大きな木を眺めた。




着いたのは、人気の少ない寺の境内。

寺の保存状態はいまいちで、ちとぼろいが、境内にある大きな桜の木の花は、まさに絶品よ。

京の桜も綺麗だが、俺は断然江戸だ。


 このころの桜は、散り際だったな。

満開だと良かったんだが・・・。






「綺麗・・・」


そんなため息が聞こえて、俺は嬉しくなったんだ。



「だろ?・・・だが、ここよりも良いところがあるぜ。」


「どこ?」




俺の一番は決まってらぁ。


「俺の故郷よ。」


「・・・伊予?」



こいつは、俺の故郷を覚えていた。

あんなに乱暴に言っちまったのによ。




「あぁ。伊予は良いところだ。特に春は良いぜ。

透き通った海にみかんの花。

それに、山菜も豊富で、菜の花畑に枝垂れ桜はそりゃもう綺麗よ。

夏の海岸は、はまぼうふう、はまなす、ゆうがおが咲き乱れて、そこで居眠りすんだ。

秋には熱い男たちが祭りで駆け回り、

冬には、皆集まって、うまい鍋を食う。

・・・・まったく・・・脱藩したのが惜しいぐれぇだ。」




俺は、故郷の話になると、熱くなっちまう。

時々、伊予が恋しくなるんだ。

アイツはどうしてるだろうとか、妹は泣いてねぇかとか。




「いいですねぇ。伊予。

私も行ってみたいです。」


「あぁ。いつか、連れてってやる。」



そんなことは不可能だって、わかっていたんだが、

少しでも、故郷に帰れるって信じていたかった。



「はい。お願いしますね。」


こいつも、分かってたはずだ。

それなのに、笑ってそう言ったんだ。









 俺たちは、それからしばらくただ散っていく桜を上に見てた。

何を考えていたのかは忘れちまった。




「すまねぇな。

何にも知らねぇであんなこと言っちまった。

・・・乱暴だったな。」



「いえ。ぜんぜん。

ただ、羨ましいです。

自分の故郷を自信を持って好きだって言えること。」



こいつは、故郷を知らねぇし、京にも良い思い出は無かったんだろうな。



「すまねぇ。さっきの、聞いちまった。」


「いいんです。

隠していたわけではありませんし、

ずいぶん前に、玄瑞に心を軽くして貰いましたから。」




・・・久坂玄瑞・・・か。

あいつも今じゃ敵。

・・・関わりは無いに等しかったが、良い奴だったな。



存在感はさらっさらねぇが、

この女の中には、いつも玄瑞がいた。

そいつを、悔しいと思ったことはねぇ。


俺にとっちゃ、こいつは妹だった。








「ありがとう。・・・左之助。」


初めて、敬語じゃない言葉で、ありがとうと言われて、名前を呼ばれて、純粋に感動した。

本当の、兄になれたような気がして、嬉しかったんだ。








「いや。・・・そろそろ、行くか。」


「まだ、ここにいる。

・・・今帰っちゃったら、お花見ができないじゃない。」



そんときの俺も、十番組隊士と同じように、花より団子だったからな。

こいつの言うことは、理解出来なかった。




「花が無くたって、酒を飲めば花見になるだろ?」


「それ、お花見って言わないわよ。

もう。・・・お花見は花が主役なんだから。」



そう言って、その場をなかなか離れなかったのを覚えてる。






「こんな散り際の桜見たって、どうにもなんねぇだろ。」


「そんなことないっ!

私は、満開の桜よりも、散り際の桜の方が好きなの。」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







「・・・桜・・・か。」



「・・・組長?」



 あ・・。

もう、鷹司邸についてやがったか。

あーあ。

こんな昔話を思い出していてもしゃあねぇ。


それにしたって、アイツの名がさっぱりでてきやしねぇな。

こんなにも、あの時のことは覚えてるのによ。









「中に入るぞ。

敵がいたなら、殺さず、速やかに捕獲しろ。」


『はい。』




 あぁ・・・血の臭いがする。

桜の下にゃ、死体が埋まってるって言うが、そりゃ嘘っぱちだな。

桜からは、こんな血の臭いなんざ、しねぇだろ。







「行くぞ!十番組!俺に着いてこい!!」






































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