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2.5次元のバグ  作者: 舘山 悠
序章
1/1

~合流~

この物語はフィクションであり、作中に登場する人物・団体は実在の個人、企業名等とは名称が一致しても一切関係ありません。

2047年7月。

街中ではイヤホン程の大きさのチップを耳にはめた通行人が独り言のように口を動かしている。近年、携帯電話も大きな成長を遂げたのだ。

2000年代初頭から世界中を騒がせた地球温暖化の問題はとうに忘れ去られていた。当時のゲームの技術は相当なものだったが、2043年、アメリカの大手ゲーム会社で開発されたソフトウェアによってその技術は塵となった。

開発直前から話題をさらっていたそのゲームとは、医療技術やスポーツ技術の最先端を応用したもので、直径2.5メートル程の大きさのカプセルに入ったプレイヤーに脳波を読み取る装置と、同時に電気信号を送る装置が取り付けられる。それにより、脳の一部に微弱な電流が流され、一種の催眠効果を生み出す。その技術は恐ろしいもので、プレイヤーは視覚、嗅覚、味覚、触覚、あらゆる面で現実のそれと変わらない疑似体験が可能になった。


その「カプセル式ゲーム」の記念すべき第一号となったソフトが、「World Of The Magic War」、通称「WMW」である。

プレイの総人口は今や世界中で2億を越える。かつて不動の王者とされていたテレビゲームの「スーパーマリオブラザーズシリーズ」の興行収入をたった4年で塗り替えたのである。

一般家庭の普及に向けて、カプセルの最小化、並びに脳波機器周辺の小型化、軽量化が検討されているが、ここ、日本ではゲームセンターの予算の問題もあってか、2045年型の初代が導入されていた。

ソフトの内容も、改良に改良が重ねられ、実験段階で見られていたバグや動作の読み込みのタイムラグの問題はほぼ解決されていた。

正しく言えばそう、ある事件が起きるまで、それらの問題はほぼ皆無だと思われていた。


******


「行こうぜ行こうぜ!」

石原 昌広は渋々頷いた。実を言うと、ゲームやアトラクションやテーマパークといった類のものは好きになれず、あまり興味を示さないものだった。そんな彼を例の如く促したのは、同じクラスメイトの高橋 隼人だった。

「わぁったよ、行くから。じゃああいつ等も呼ぼう」

昌広は右耳にはめたチップを押して、制服の内ポケットから小型のリモコンを取り出した。直径4cm四方程の液晶の下に、小さなボタンがいくつかある長方形のリモコン。それを使い、慣れた手付きで通話の相手を呼び出す。暫くコールの音を聞き流していると、接続音が鳴った。

「あきひろ?どうした?」

電話の相手もまた同じくクラスメイト。吉田 兼。

運動神経は良く、勉強もそこそこ出来るが、たまに可笑しな行動を取る所が仲間の笑いを誘う男だ。皆今年で18になる同級生だ。

「はやとがまたアレ行こうって言ってるんだけど」

断ってくれ、と心の内で呟いた。

「マジ?解った。じゃあ他の皆も連れて行くからいつもの所で待ってて」

一方的に通話は断たれた。

「はぁ」

昌広が小さくため息を吐くと、内心を知ってか知らずか、隼人が笑いかけてきた。

「で、何だって?皆来るの?」

「らしいよ」

いつもの場所、とは学校から歩いて10分程の場所にある2階建てのコンビニエンスストアだった。昌広と隼人の二人は中に入ると、あまりの冷房の強さに少し身震いした。

「さむっ」

汗だくのシャツが冷えて体に張り付くと、なんとも不快な気分になる。言いつつ向かったのはアイス売り場で、二人して同じアイスを手に取った。1900年代後半から変わらない売り上げと生産システムで国内の売り上げをほぼ独占している棒アイスのメーカーの定番アイスを手に取ると、急いでレジへ向かった。

会計を済ませて外へ出ると、車線を挟んだ反対側の歩道から渡ってくる影が二つ見えた。

「やっぱアイスは暑い所で食べなきゃだよね」

少し遅れて出てきた隼人も二つの影に気付いて声を上げた。

「翼!と……陸!」

笑顔で手を振ると体のラインが細い方の制服姿の少年が手を振り替えし、車道を渡って走ってきた。隣で歩く少年も小走りしながら小さく手を挙げる。車道は2030年代から黒一色で統一され、リニアモーターカーの原理を応用したタイヤの無い乗用車が無音で車道を行き交っていた。安全性が第一に考慮された新型車は、最新型の人感知センサーが搭載されており、人を発見すると減速、或いは停止するようプログラムされていた。古くからあるカーナビゲーションシステムと一体化した乗用車は、目的地を入力すると自動安全運転で時間内に到着する。

「隼人じゃん!昌広も。何してんの?」

これまた同じクラスの岡本 翼と藤崎 陸だった。

身軽な動きでひょいひょいと車の間を走ってきた翼は何時見ても陽気な男だ。

「これからアレ行くんだよ、WMW(スリーエム)

表記はWWが二つとMが一つだが、学生の間では言いにくい手間を省く為に「スリーエム」という通称が生まれていた。Wを逆さにするとMになる、という幼稚な発想からだった。

「マジ!?いいなぁ~、俺達も行きたいな」

少し遅れて来た陸が頷く。

「うん。でもこれから夏期講習だから。学校行かなきゃ」

時計の針は一時を回っていた。昌広と隼人は午前中の夏期講習を受講していたので、四人とも同じ制服姿だが、息苦しい夏期講習から開放された直後であった。

「そっか、じゃあ終わったら来てよ、時間が時間だから、続けてるかどうかは解らないけど」

「解った、じゃあまた」

二人はその場を後にして、学校へと向かった。


棒から滴る水滴が指につき、また昌広は不快感を抱いた。

指がベタ付くのは許せない。

コンビニの裏の蛇口で手を洗って居ると、表で待つ隼人の声が聴こえた。

「あ、来た来た!おーい!」

ハンカチで手を拭きながら表へ戻ると、見慣れた顔があった。

「おう、昌広も居るじゃん」

山中 裕太が昌広の肩を叩きながら言った。

「だから言ったじゃん、昌広に呼ばれたんだって」

兼が言うと、昌広は仲間達を冗談交じりに小馬鹿にした。

「たまには俺が呼んでやろうと思ってさ。いつも電話とか連絡は隼人と翼の担当だし。まあ皆も行くって言うならたまにはゲームもいいかなと思ったんだよ」

「でも滅多に来ないんじゃない?ジョブレベルも低いでしょ、昌広」

新田 貴弘が心配そうに言う。

「別にいいだろ。俺だって魔法の一つや二つ、使えるよ」

昌広が少しムキになる。と、それを見てまた裕太が笑って言った。

「でも俺達が今日倒すのエリアの小ボスだぜ?ジョブレベルはせいぜい20から30は無きゃ駄目だろ」

昌広はうろたえた。ログオンしても、仮想空間の中でまともなモンスター退治や賞金稼ぎはしていなかったので、レベルも低く所持金も少なかった。

「まあ俺達がサポートするよ、最初は昌広のレベル上げからやろうよ」

隼人が言うと、一同は頷いてゲームセンターへ意気揚々と向かった。



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