プロローグ
その日の帰り道に、私はその男と出会った。
男は、道の真ん中に立っていた。
暗闇の中に立っていた。
私の周りには、こうこうと夜道を照らす街灯の光があるというのに。
その男は1人暗闇の中に立っていた。
黒尽くめの、闇に溶け込むようなその姿の中で、ただ1つ。
闇の中でぼんやりと浮かび上がるような白い顔。
その端整な顔立ちの中、ひときわ目立つ真っ赤な瞳。
人間ではありえない、鮮やかな緋色の色彩。
篝火のように燃えさかる紅の輝き。
目を見ては駄目だ。
平和になれきった生存本能が、初めて切なる警告音を発した。
目を見ては駄目だ。
でも、それはもう遅かった。
私はその目を見てしまった。
飢えたその目を見てしまった。
私は自分が、その男の『餌』だということを理解してしまった。
ゆっくりと近づいてくる男の姿をぼんやりと眺めた。
ああ、なんて綺麗な人なのだろう。
その紅く輝く瞳に魅了されて、私の体はもう一歩も動くことができなかった。
喉の渇きを癒せる悦びに満ちた瞳。
私の体は、ゆっくりと男の方へと引き寄せられていった。
―ああ・・・本当に、なんて綺麗な生き物なのだろう―
御覧くださり、ありがとうございます。
こちらは、ゆっくり更新になります。
妖しさとか葛藤とか描けたらいいなぁと思いますので、よろしければお付き合いくださいませ。