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イリグチ様 ─逃げなかった子供だけが背負う呪い─  作者: 白波さめち


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8.大人への不信


「なんで!!!こんなことしたの!!!」


 人殺しを責め立てるような、悲鳴に近い母さんの声。

 白い着物を着た母さんは、俺の両腕を痛いほど掴み激しく揺さぶった。

 

 防犯ブザーのけたたましい音に大慌てで駆け寄ってきた大人達。

 

 俺達は彼らに呆気なく捕まった。

 

「これで全員か?」「何人で来た?!」


 矢継ぎ早に質問する大人達に、いなくなった透花の話をすると全員が血相を変えて探し始める。


 俺たちは家に連れ戻された。

 親や大人にどうなったのかと聞いても、誰も教えてくれない。


「黙ってろ」


 ――ただそう言われるだけだった。


 でも俺達だって馬鹿じゃない。

 大人は理由を知っている。

 それだけは伝わってきた。


 次の日の学校は休校になり、家から一歩も出るなと言われた。閉め切った部屋の中で、俺は昨晩から頭を離れない森の残像と、透花の悲鳴を何度も思い返していた。

 

 リビングから漏れる両親の会話から、透花の親が警察を呼んだと聞こえてきたがニュースにはならなかった。

 それはただの失踪事件ではないからだということを示すように、張り詰めた緊張感が辺りには漂っている。

 

 昨夜の捜索が嘘みたいだ。

 不気味なほど静まり返る村。

 それが本当に気味が悪くて仕方がなかった。


「大和……大丈夫か?」


 下校した湊人が心配そうに部屋に入ってきた。

 透花は見つかるのかという不安と情けなさ。

 俺はベッドの上でわざと背を向けるように寝返りを打つ。


「大丈夫じゃない」


「本当に……子供が失踪するなんてな」


 そう言って湊人は俺のベッドの横に足を進める。

 振り返れなかった俺に「ごめん」と湊人の小さな声が頭から降ってきた。

 

 湊人は悪くない。


 湊人から夜の祭りの話を聞いて「行ってみよう」と誘ったのは、他の誰でもなく俺だった。

 透花がいなくなった責任が誰にあるのかと聞かれたら、夜の祭りを見にいこうと、外に連れ出した俺にある。


 俺はゆっくり起き上がって、まだ心配そうに俺を見る湊人に顔を向けた。


「湊人……悪いけどスマホ貸してくれない? この村について調べたいんだ」


 湊人からスマホを借りた俺はそのままYouTubeで動画を検索する。この村について紹介する心霊チャンネルを片っ端から開いていった。


「大和。こう言う時は動画だけじゃなくサイトを見るんだ」


 リビングからノートパソコンを持ってきた湊人は、俺の部屋の机でパソコンを開く。しばらく色々なページを漁った後「見てみろ」とノートパソコンを俺の目の前に持ってきた。


 『朽木村の怪奇』

 

 そんなタイトルで始まる心霊サイトには、難しい単語がたくさんが並んでいる。文字がずらりと並んでいて、漢字にふりがなもなく読みづらい。


「これ、よくわからないんだけど……」


「かなり昔のサイトだから当てになるかわかんないけど、本当にこの村……子供が過去に何人も失踪してるらしい」


「え?!」


 記事曰く、20年前と37年前にも失踪事件があったそうだ。当時は地元の新聞にも取り上げられたらしい。

 

 動画にも失踪事件について言及しているYouTuberは確かにいた。でもいつ起こったか、詳しく話しているチャンネルはなく、本当かどうかは曖昧に濁されていた。幹介もデマだと言っていたし、当然親達から聞いたこともなかった。


「じゃあなんでそんな事件があったことを、住んでる俺たちが知らされてないんだよ!」

 

「わかんねぇよ。失踪した子供の事を書いてるのは、このサイトだけだった。他の奴は見つけてないだけかもしれないし、信憑性が薄いと思われたのかも。それに失踪した子供達は……全員見つかってるんだ。だから必要以上に怖がらせたくなくて、親達は教えなかったのかもしれない」


 その言葉に胸を撫で下ろした。

 しかし湊人の表情は暗い。

 まだ続きがあることがわかって息を呑む。


「……ただ見つかった子供達は全員、錯乱状態になっていたって書いてある」


「錯乱?」


「おかしくなっちまってたってことだ」


 記事はそこで終わっていた。


 サイトには誰もが知っているイリグチ様の説明と一緒に、イリグチ様に連れて行かれると『よくないもの』を見せられるのかもしれないと作者のあとがきが書いてある。


 おかしくなった子供達がその後どうなったのか――。

 それはいくら調べてもわからなかった。


 そして、その日の夜。

 

 透花は、神社の反対側。

 神社の神主が住む家の、近くの祠の前で見つかった。

 


 

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