5.和解
「何よそれ!!」
怒鳴り声と共に、美玖はダンっと拳を机に叩きつけた。
古い木の机が震え、教室に鈍い衝撃音が響く。
透花はその激しい怒りっぷりに、両手をスカートの横で硬く握りしめたまま立ち尽くしていた。
「だって里奈ちゃんが」
掠れるような声で「だって」を繰り返す透花の顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいる。
「何? どうしたんだよ二人とも」
尋ねた幹介に対し、美玖は一瞬、彼を射るように睨みつけた。それからすぐに、怯えるように戸惑う透花へと、その怒りの視線を戻す。
「透花ちゃんが、私たちはみんな幽霊だっていうの!! 本当、意味わかんない!!」
「だって里奈ちゃんが……」
「もう! 里奈里奈うるさい!!」
美玖はダンッと足を踏み鳴らすと、乱暴に扉を開け教室を出て行ってしまった。
残された透花は俯いて、ついに泣き始める。
「透花……どうしたんだよ本当に」
呆れたように透花を見る幹介との間に入って、彼女に話かけると、透花はグスグスと鼻を啜りながら話し始めた。
「あのね……里奈ちゃんがね、顔が見えない人はみんなお化けなんだよ、透花ちゃんは騙されてるんだよって言ったの。それを言ったら美玖ちゃん怒っちゃった」
そりゃ怒るだろ。
ただでさえ美玖は、透花の話の中にしか出てこない里奈に怒っている。
同い年の女友達に憧れていた美玖は、嫉妬なんて言葉はとうに通り越していた。
他人の『顔』がわからない透花。
彼女が唯一見分けがつく顔だからって、いい加減な事ばかり言いやがって。
小さくため息をついて、里奈に対する怒りを透花にぶつけないよう頭を冷やす。
「あのさ、俺たち毎日一緒に学校来てるんだぜ? そんなわけないじゃん。それに、そんなこと言ったら里奈の方が怪しいだろ」
「ぶっ。確かに言えてる」
俺がそう言うと、幹介が吹き出しながら同意した。
透花はまだ涙を流しながら悲しそうに俯いて「でも」と小さく答えながら泣き続ける。
自分が言った事なのに、ギュッと胸が苦しくなった。別に透花を悲しませたかった訳じゃない。
「透花は……美玖とこのまま仲悪くなりたいの?」
そう聞くと、透花は「美玖ちゃんとも仲良くしていたい」と首を振る。
透花は俺たちと話す時、まずキーホルダーを見て誰かを確認している。簡単な見分け方だけど、普通に会話もできるし効果は絶大だった。
そのきっかけをくれた美玖。
喧嘩はしたけれど、透花がまだ美玖との関係を諦めていないと知って俺は安堵した。
「祭りでさ、美玖とも仲直りしろよな」
そう言うと、透花はこくりと泣きながら頷いた。
――そして祭りの日。
午後になって俺たちは神社に近い透花の家に集まった。
美玖はまだ不貞腐れた顔をしていたが、ちゃんと来てくれてホッとする。
素直じゃないし、少し怒りっぽいところもあるけれど、美玖はそんな簡単に人を嫌いになれるやつじゃない。
透花の家のチャイムを鳴らすと、すぐに透花が出てきた。
透花は俺達の後ろにいる美玖を見て、安心したように表情を緩ませる。
「美玖ちゃん。昨日はごめんね」
透花は恐る恐る謝った。美玖はその言葉でやっと一歩踏み出せたように顔を上げて、唇を結び首を振る。
「ううん、私こそ言いすぎちゃった。私……お化けじゃないからね?」
「うん……」
里奈の名前を二人とも出さなかった。
その名前を出さないことが暗黙の了解だと二人とも分かってる。
それでいい。
ただでさえ人数が少ないんだ。
この中で、仲が悪くなって欲しくない。
二人の間の張り詰めた空気が無くなったことに幹介と功太も静かに安堵していた。
「じゃあ行こうぜ」
俺はわざと明るい声を出し、先頭を切って祭りの方角へと歩き出した。




