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イリグチ様 ─逃げなかった子供だけが背負う呪い─  作者: 白波さめち


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4.透花の新しい友達


 最初の違和感は、透花の嬉しそうな一言が始まりだった。


「私ね、里奈ちゃんと仲良くなったの」


「ええ?!里奈と?!」


 小さな村だが、村の中心に小学校があるため俺たちが普段帰る方角はバラバラだ。

 

 俺と美玖は家が近いが、幹介と功太は途中で別れるし、村の西側に住んでいる透花に至っては校門を出たらすぐに別れる。


 だからこそ、放課後はそのまま家に帰らず学校や商店の方へと足を伸ばしてみんなで遊ぶことが多かった。この日も勿論そのつもりで透花を誘った。


 しかし透花は「約束があるんだ」と急いで教科書や給食袋をランドセルに詰め込み、俺達に笑顔を向ける。


「最初の日の帰り道に見た女の子、その子が里奈ちゃんだったの。休みの日、家の近くで遊んでたら声をかけてくれて、そこから一緒に遊んでるんだ」


「えー? ずるい。私も透花ちゃんと遊びたい!」


 ――里奈?

 

 里奈の印象といえば、いつも薄汚れた白いブラウスを着て、うつむきがちな姿勢でいることだった。


 普段からずっと何かにビクビクしていて、冷たい空気で隔絶されている感じ。

 

 前髪も長くて、話しかけても返事もしない子だったのに、見ず知らずの透花に話しかけるなんてことあるだろうか。

 

 それでも、美玖は透花を取られたみたいに感じたみたいだ。眉間に皺を寄せながら「私も今日一緒に行く」と頬を膨らませる。


「俺はパス。里奈好きじゃねぇもん」


「うーん。僕もいいかな」


 俺と幹介が断ると、功太もすぐに「僕もいいや」と手を振った。美玖は不満そうだったが、結局透花と二人だけで帰っていく。


 その日のことは、そのまま俺たちの頭から一旦消えた。



 ――そして次の日の昼休み。

 

 いつものように集まって、俺たちは昨日どうだったか二人に尋ねた。しかし、美玖と透花は顔を見合わせ、少し困ったように首を傾げる。


「それがさ、会えなかったんだよね」


「いつも待ち合わせているところに誰もいなくて……美玖ちゃんに里奈ちゃんの家を教えてもらって呼びに行ったんだけど、里奈ちゃんのお母さんが出てきて断られちゃった」


 美玖は「私がいたからじゃないかな」と静かに怒っていた。


 元々仲が良かったわけじゃないから仕方がないのかもしれないけど、透花も板挟みのようになって困った顔を浮かべている。


「私、今日里奈ちゃんに会ったら聞いてみるね」


 そう言った透花は、この日からどんどん俺たちを避けるようになっていった。


「里奈ちゃんが他の子と遊びたくないっていうの」


「ごめんね、里奈ちゃんと約束してるから」


「里奈ちゃんが待ってるから」


 透花は美玖の誘いを断り続け、ついに美玖は完全に拗ねてしまった。「もう透花ちゃんと遊ばない」と怒る美玖に、今度は俺と幹介が悩まされることになった。

 

 透花はこのごろ毎日、里奈と遊んでいるらしい。


 里奈の影が濃くなるにつれて、透花はますます俺たちから離れていく。それに従って日に日に美玖の機嫌が悪くなる負の連鎖だ。


 楽しかったはずの学校。

 それが徐々に居心地の悪い空間に変わっていく。

 

 そんなある日、登校して教室に入ると透花が一人、静かに座っているだけだった。

 

 「おはよ」と声をかけると、透花は俺のズボンにある赤いキーホルダーを見てから顔を上げる。


「おはよう、大和くん」

 

「なぁ透花……美玖がめっちゃ拗ねてるぞ」


 二人で話す機会なんてほとんどない俺は「いいのか?」とつい透花に聞いてみた。すると透花は荷物を片付ける手を止めて困ったように笑う。


「そうだよね……でも里奈ちゃんが毎日遊んでって言うんだ」


「また里奈かよ。なんでそんな仲がいいわけ?」


 これは俺の純粋な疑問だった。


 俺たちは同じクラスで毎日一緒に授業を受けているのに、最近の透花は学校に来ない里奈との方が親しくしている気がする。


 透花は俺の言葉に席を立って近くに来た。

 そして内緒話をするように口元に手を当てる。


「あのね、実はね? 私、里奈ちゃんの顔だけ分かるんだ」


「え?」


「お母さんもお父さんも私には『顔』が分からないんだけど、里奈ちゃんだけは顔を見ただけで『里奈ちゃん』って分かるの。お母さんはそんなはずないって言うんだけど、私すごく嬉しくて」


 透花はふふふと嬉しそうに声を漏らした。


 透花の病気について俺は分からない。顔が分からないという感覚がそもそもどういうものなのかイメージすらできなかった。


 ただ、腰に下げた赤色のキーホルダーと、透花のスカートについている白いキーホルダーがすごく寂しいものに感じられた。


「じゃあさ、今度の村のお祭りは一緒に行こ」


「え?」


「最初に美玖が言ってただろ? イリグチ様のお祭り。少しだけ屋台が出て、子供はお菓子が貰えるんだ。それは俺たちと行こうよ」


「わかった。お母さんにも聞いてみるね」

 

 美玖のためじゃない。

 

 だけど里奈ばかりを構う透花に『俺たちだって友達だ』と――

 そう思って欲しくて、里奈より先に俺は約束を取りつけた。


 そしてそのお祭りの前日。

 最も避けたかった事態が起こった。


 美玖と透花が、教室で激しく喧嘩をしたのだ。



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― 新着の感想 ―
毎話しっかり引きがあって続きが気になります。
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