3.キーホルダー
次の日の放課後。
美玖はいいことを思いついたとばかりに俺たちのことを集めた。
六年生と五年生は同じ教室で授業を受けているため、五年生の功太も美玖によって集められる。功太は幹介の弟だ。
「透花ちゃんはさ、洋服とかはわかるんでしょ?」
「うん。でも着ている服ってみんな毎日変わるから……」
「だよね。だって今日さっそく幹介と功太を間違えてたもん。だからさ、マークをつけたらどうかなと思って家から持ってきたんだ」
美玖はそう言って、目を輝かせながらランドセルをゴソゴソと漁り始める。
取り出したビニール袋の中にはたくさんの色のキーホルダーが入っていた。
「みてこれ!家にあったんだけど丁度十色あるの。これを服につけておけば透花ちゃんも誰が話してるか分かるんじゃない?」
「なにこの不細工な犬」
美玖から最初に受け取った幹介は嫌そうに顔をしかめた。
幹介の手元に渡ったキーホルダーを見てみると、青い板状のゴムに、変な犬のキャラクターが印刷されてる。
「知らないよ。とりあえず十色あればいいと思ってお母さんに聞いたらくれたんだ」
そう言って美玖は俺たちにキーホルダーを配り始めた。
「大和は赤ね。黄色は功太。私はピンクで、透花ちゃんには白をあげよう」
美玖はそう言って透花にもキーホルダーを差し出した。
透花は初めて友達からプレゼントを貰ったみたいに、驚いた顔をしてそれを受け取る。
「こんな不細工な犬のキーホルダー……つけるの恥ずかしい」
渡された黄色のキーホルダーを見ながらポツリと呟いた功太の言葉に、美玖は頬を膨らませる。
「えー? 可愛いじゃん! それにコレを付けておけば、名前を言わなくても透花ちゃんが誰か分かるんだよ?」
コレを可愛いという美玖の趣味は相変わらず分からない。
でも色のついたキーホルダーで、人の顔が分からない透花が過ごしやすくなるようにと気遣える所は、素直にいいやつだと思う。
「ズボンの引っ掛けるとこにつけておいたらいいんじゃない?」
そう言って幹介はズボンのベルトを通す所にキーホルダーをつけた。確かにそれなら見えやすいし邪魔にもならない。
全員つけてみると、なんだか小さい時にハマっていた戦隊モノの変身アイテムに見えた。
この歳でお揃いなんて恥ずかしかったけど、透花は嬉しそうに笑っている。
「こんなの貰ったの初めて。ここの子って優しいんだね。歳が違う子でもみんな仲が良いみたいだし」
「そりゃずっと同じメンバーだもん。全校生徒今まで十人しかいなかったんだよ? それに、もう透花ちゃんも仲間だから!」
美玖は透花の手を握ってぶんぶん振り回した。
透花は目を白黒させながら、ちょっと嬉しそうに笑っている。
「でもいいのかな? 十色しかないんでしょう? だったら、私が貰っちゃうと一つ足りなくなるんじゃない?」
「大丈夫だよ。里奈は学校来ないから」
心配そうに尋ねる透花に、手をパタパタと振って功太が答える。
里奈は功太と同じ五年生。
しかし二年生の頃から学校に来なくなった。
里奈は心が不安定になっちゃったからだとか何とか親は言っていた。
元々あまり沢山話す子じゃなかったし、同じ学年の功太や同じ女子である美玖ともあまり仲が良いわけじゃなかった。
だから「そっか」くらいの認識だったけど、村の大人たちは俺たちよりも里奈に対して過敏に反応する。
まるで里奈なんて元々いなかったみたいに、彼女の話が出るとみんな気まずそうに口を閉ざすのだ。
「でもこれ……すごく嬉しい。名前を聞かなくても誰か分かるもん」
透花は嬉しそうに白いキーホルダーを握りしめて笑った。
都会から来たと聞いて、最初は羨ましいと思っていた。でも、透花はどうやら前の学校でいじめられていたみたいだった。
“顔が分からない”って都会の学校では浮いてしまうらしい。
「これから沢山遊ぼうね透花ちゃん」
美玖は透花に笑顔でそう言った。
何もない田舎の村に加わった新しい友達。
太陽が差す教室の窓はいつもより輝いて見えた。
その光の中で、俺たちの手に握られた五個のキーホルダーの金具が、ささやかな希望の光のように、鈍く反射している。
こんなに嬉しかった出来事が、恐怖の始まりだったなんてこの時は思いもしなかった。




