18.情報の整理
1.イリグチ様は子供を攫って成り代わる
2.成り代わりに必要なのは身体と宝物
3.宝物を死者の世界で東の祠に置く必要がある
3.夏の間、夜になるとイリグチから死者の世界に入れる
4.死者の世界でイリグチ様に触れられると狂う
湊人の部屋で、ここまで分かったことを殴り書くように紙にまとめた。紙の右端に書いた『後3日』と言う文字が気持ちを焦らせる。
俺の隣では、幹介、美玖、優也が湊人と電話を繋いで、どうするのが一番いいかと話し合っていた。
透花の母親は今回のことをとても怒っていた。
家に行っても俺は追い返されるかもしれない。
やはり学校で律の宝物を探し、奪うしか方法はなさそうだ。
優也はあれから蔵に戻って、いくつかノートをこっそり抜き取ってきたらしい。紙を捲る音をさせながら、他に情報がないか探しつつ俺たちと話した。
「宝物をみつけたら、夜までどこかに隠れて神社に向かう方が良さそうだな。いつでも出発できるように放課後は毎日どこかで落ち合うか」
「チヨ婆の家がいいんじゃないかな。神社からは少し遠いけど律が知らない場所だもん」
「大人にも見つからずに神社まで行けるかどうかだな。道を考えておかなきゃ」
優也と湊人と幹介が計画を立てるのを聞きながら、俺はランドセルの底に家から集めた懐中電灯入れていった。
少し前に授業でやった『朽木村を調べよう』と書かれた地図がついたプリントをランドセルの底から救出し、皺を伸ばしてもう一度丁寧に入れる。
一番心配なのは、律の『宝物』を奪って神社から死者の世界に入ったとして、“俺”が東の祠に持っていっても透花を救えるかどうかということだ。
「死者の世界のことなんてほとんど書いてないし、イリグチ様に成り代わられた奴を助けようとする大人なんて今までいなかったから分からない」
ノートを読み終わった優也は、電話の向こう側でそう言った。
美玖と功太は死者の世界に入らない代わりに、当日はチヨ婆の家で俺たちと電話を繋いでおいてくれるらしい。
まあ、電話が繋がるのかどうかは分からないけど。
一通りの作戦が練り終わった段階で湊人がぽつりと呟いた。
「この呪いってさ。そもそも解けないのかな」
「解くって?」
「二つの世界を繋いでいるのがイリグチ様なんだろうけどさ。別にもう繋がなくてよくない? 昔、食べ物がなくなってたくさん人が死んだ時に始まったんだろ? 死んだ後もこの村で過ごせますように……とかなんとか。でも、もうそんな事しなくていいと思うんだよね」
湊人らしい意見に「うーん」と幹介や美玖の唸る声が聞こえる。
イリグチ様からすれば生贄にしておいて、もうそんな事しなくていいなんて言われたら怒ってしまいそうな話だけど一理ある。
「これは俺が勝手に考えた話なんだけどさ。そもそも呪いってどうやって生まれると思う?」
電話の先から優也が静かに問いかける。
それに真っ先に答えたのは美玖だ。
「恨んでる気持ちとかを持った人が死んじゃって、呪ってやるーって思うからじゃない?」
「でもさ、ネットで調べても出てくるのって元から有名な人の怨霊や有名な事件の跡地から始まった話が多いだろ。恨んでる気持ちだけならさ、もっと一般人が起こす呪いがあってもよくねぇ?」
……確かに。
『怨霊』『呪い』『心霊スポット』
先程までずっと調べていたその内容。
世界にはそういう風に言われているモノや場所が沢山あるけれども、大抵は悲惨な人生を終えた人の話や有名な事件の跡地がくっついていたりする。
有名じゃなくても人は沢山死んでるし、その人の恨みの強さなんて測れるものじゃないのに。
「神主の息子だけど、俺は幽霊だとかそう言われているモノが見えるわけじゃない。だから正直なところは分からないけれど……。でも俺さ、こういうのって『生きてる人間の認識』が産み出すんじゃないかって思うんだ」
「認識?」
「そう。死者の世界を作るために子供を生贄にした。生贄の子供はイリグチ様になったと人々が『認識』したから、死者の世界とイリグチ様が産まれたんじゃないかってこと。集合体の願いが生み出したシステムっていうのかな……」
ぶつぶつと考えを纏めるように呟く優也は、最終的に「うーん」と唸って結論を言った。
「こういう風に生きてる俺たちの『認識』が目には見えない『呪い』を産み出すんじゃないかって話」
俺と湊人は顔を見合わせた。
優也は髪の毛を染めたり軽い言動をしながらも、たまにこうして難しい事を言う。
「要は……どういうこと?」
「俺たちはイリグチ様の起源を知って、それが本当にあると認識してしまった。それは呪いを強める事はあっても弱める事にはならないんじゃないかって思うんだ」
「呪いを解く方法は、この村の全員が全滅でもしなきゃ無理だって言いたいんだよ」
電話の向こう側で、幹介が付け加えた。
──全滅。
その重たい言葉に喉がギュッと鳴った。
「まあ、透花と里奈だけがイリグチ様を見るとこができた事。そして成り代わりだとか訳が分からない事が実際起きている以上、認識だけが呪いを産み出すわけじゃないと思うけどな」
パタリとノートが閉じられた音がスマホから聞こえた。
「でも呪いというシステムの中で生きなくちゃいけない俺達は戦わなくちゃ。成功すれば、それが新しい『認識』になる」
力強い優也の声。
湊人は「頼んだぞ大和」と俺の肩に手を置いた。
そうだ。呪いのことなんて今は考えられない。
明日からの三日間で律の持っている『宝物』を必ず探し出す。
「任せといてよ」
俺は湊人の目を見て力強く首を縦に振った。




