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イリグチ様 ─逃げなかった子供だけが背負う呪い─  作者: 白波さめち


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16.助けに行く理由

幹介視点


「俺も行くよ。だって……じゃないと透花がそのうち子供を攫いだすんだろ? そんなの友達として見てられない」


 震えそうになる声を押し付けながら、冷静に見えようにそう言った。

 さらりと助けに行くと言い切った大和。

 一緒に行くとすぐに答えられる優也や湊人の前でカッコ悪い返事なんてできない。


 行きたいと思ったのは本当だ。

 

 一度は友達になったんだ。

 透花が化け物みたいになって、怖がったり恨んだりするようになんてなりたくなかった。

 

 それでも、一人で行こうとは思わない。


 大和や優也や湊人が行くならば、という条件付きのような弱虫の勇気。

 だけど彼らが一緒なら、どこでも行ける気がした。


 そしてあと一つ、俺には行きたい理由がある。

 優也の話を聞いて、ふと会いたい人が思い浮かんでしまった。


 ――チヨ婆。


 俺はチヨ婆にもう一度会いたかった。


 チヨ婆はこの村の子供たちみんなのおばあちゃんだった。

 低学年の頃、親が仕事の子供たちはみんなチヨ婆に預けられる。

 小さな村特有の助け合いってやつだ。


 俺も功太も低学年の間は、学校が終わった後、チヨ婆の家に帰っていた。

 

「ただいま」と言いながら玄関の扉を開けると、チヨ婆が「おかえり」と家の奥から出迎えてくれるんだ。

 小さな居間のちゃぶ台でお菓子を食べて、宿題をする。

 その後はランドセルをチヨ婆の家に置いたまま外に遊びに行くこともあるし、チヨ婆の家にみんなで集まりゲームをすることもある。


 親が家にいる子供たちも自然とチヨ婆の家に集まるから、チヨ婆の家にはいつも誰かしら子供がいた。


 全員が顔見知りのような小さな村に住んでいると、それが普通かどうかなんて麻痺してくる。

 でも、それが嫌だと思ったことなんてない。


 いつも優しいチヨ婆のことが大好きだったし、ここは俺にとって第二の家みたいに思っていたから。


 きっかけは、三年生の時に両親が離婚したことだった。


 お父さんは家を出て行った。

 お母さんとお婆ちゃんは、ずっとお父さんの悪口を言っていた。

 両親の仲が良くない事は分かっていたけれど、まさか自分の両親が離婚するとは思っていなかったから、すごくショックだった。


 家族がバラバラになってはじめて、仲が悪い両親でも大好きだった事に気づいたんだ。


 離婚なんてしてほしくなかった。

 お父さんに出て行ってほしくなかった。

 お母さんがずっとお父さんの悪口を言っているのも悲しかった。

 出て行ったお父さんから一度も連絡がないことも、まるで捨てられたみたいに感じた。


 今なら、当時の自分の気持ちを言葉にできると思う。

 自分一人でも、感情を整理できたかもしれない。

 

 でも、三年前の自分は悲しいという気持ちすら誰にも言えなかったし、感情の整理すらできなかった。

 泣きじゃくる功太にも、親友である大和にも頼れない。

 ずっと重たい空気が流れている家で、お母さんに話すこともできない。


 そんな時、俺に気づいて、ずっと話を聞いてくれたのがチヨ婆だった。

 

 細い皺が沢山ある、ふっくらと柔らかいチヨ婆の手。

 あの温かな手は何度も俺の頭を撫でた。


「悲しかったなぁ。でもお母さんや功太のために、何でもないように見せてるんやろ。いっぱい我慢しとったんやな。幹介は強い子やね」


 メチャクチャな俺の言葉と感情を静かに聞いて、チヨ婆は何度もそう言った。


 チヨ婆は俺にとって心の支えだったんだ。


 生活が落ち着き、俺と功太も大きくなって、家の鍵を預かるようになった。それを機に、チヨ婆の家に行く回数は少しだけ減った。

 

 それでも、チヨ婆に対する気持ちが変わった訳じゃない。


 何をしに行くでもないけれど、チヨ婆の家にはよく顔を出していた方だと思う。


  今の低学年は親が家にいる子も多かったから、子供が来なくなってチヨ婆が寂しい思いをしてるんじゃないかって思っていたのもある。

 

 そんなある日、無性にチヨ婆に会わなきゃいけないような気持ちになって、学校帰りにふと功太と二人で寄ったんだ。


 そこで、家の中で倒れてるチヨ婆を見つけた。


 心臓発作という病気だったらしい。


 俺と功太が見つけた時にはすでに冷たくなっていて、チヨ婆は助からなかった。


 この家に来れば、いつでも会える。

 チヨ婆がいることは当たり前だと、そんな風に思っていた。


 チヨ婆が火葬され、煙になって行くのを俺はただ茫然と見上げていた。

 あまりにも現実感がなかったんだ。


 そのあと少し経って、チヨ婆の家に誰もいなくなった現実が襲いかかってきた。

 悲しくて、寂しくて、でもそれだけじゃない沢山の言葉にできない気持ちが、胸の中をいっぱいにしていく。


 そんな俺の気持ちを察したみたいに、空っぽになったチヨ婆の家を秘密基地にしようと言い出したのは大和だった。


「誰もいなくなった家はすぐ傷むから」


 そう大和は言っていた。

 その気持ちは嬉しかったし、チヨ婆の家をボロボロの廃屋にしたくなくて俺も賛成した。

 

 でも……今になっても、ここに来ると胸が痛む。


「ただいま」


 そう言いかけてしまうから。

 言った時に「おかえり」という返事と、皺の寄った優しい笑顔をつい期待してしまうんだ。


 だから、イリグチ様の話と共に死んだ人の世界があると聞いた俺はつい期待してしまった。


 もう一度、チヨ婆に会えるかもしれないって。


 もし会えたら伝えたいんだ。

 

 今までありがとう。大好きだよ。って。

 

 

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