8.泥の底より愛をこめて
「…何言ってんだお前」
ガリヨンの口から出た言葉はおそらく誰もが同じようにする言葉だった。
当然だ、話の脈絡が破綻している。
それに突然村長になれ、と言われてもガリヨンとしては従う理由も意義もない。
普段の会話なら変人の戯言と受け流すか、何かの冗談だと笑い飛ばすのがせいぜいだろう。
しかし、この場にとってはミモザの破綻した理論がさらに破綻しているという状況。
笑うこそ勿れ困惑は必至。だからこそ、のどから絞り出した言葉はそんな困惑の色を濃く残した声色をしていた。
「まぁまぁ…突飛なお話過ぎましたよねぇ」
「そりゃあな、順序だてて説明しろ」
「なぁに、なぁにも…むづかしいはなしじゃないですよぉ…」
ミモザが言うには、ガリヨンはどうあがいても疑われる。
それは“女王殺し未遂”という罪状の為だ。
体制に逆らうものはいつだって煙たがられる。それが前科持ちならなおさらだ。
だったら疑われてもいつでも戦えるように…。身を守れるように仲間を募り、集団でいたほうが良い。という考えだからだそうだ。
何故、傭兵団ではなく村長なのかと聞くと、そのほうがミモザにとって都合がいいからだとミモザは変わらずににやにやと答えた。
「話は理解したが、お前の都合のいいように動くつもりはないぞ」
「えぇ?えぇ~?だめですよぉ」
「ダメって…そもそも俺がお前に従う理由はないし…それに俺は俺でやり方を考えることだってできるんだ」
「いえいえ、ガリヨンさんにはもう残された道はありませんよぉ?」
「……なに言ってんだ」
「だって、だって私はここの場所を知っていますし…。それに、あなたのしたことは全部見ているんですよぉ?」
「……なるほど、お前はこの状況が狙いだったのか」
はめられた、と理解したガリヨンの顔を覗き込むように眺めるミモザは非常にうれしそうだ。
そんなミモザの様子は、ふと見ると、不気味な雰囲気はなく、ただの年頃の少女の様で、(…そういえばよく見るとまだ若いのか。)そんな風に考えてしまうほど普段の纏う雰囲気が異常なのだった。
「うひ、うひ…」
変わらず、笑い方は気味が悪いのだが…。
◇ ◆ ◇ ◆
「…ところで、俺がお前を殺しちまうってシチュエーションは考えなかったのか?」
兵士二人をすっかり埋め、一息ついたころ。
ふと、疑問に思ったガリヨンはミモザに問いかけてみる。
「あぁ…あぁ~…まぁ、限りなく低いなって…」
「根拠は?」
「えと、えと、もと傭兵ならわかると思いますけど…殺しって割と理がないじゃないですかぁ」
「…んん、まぁわかる。」
「へひ、へひ…ですので…。理のない殺しをしちゃった後なら、さらに罪を重ねるほど馬鹿じゃないかなぁって」
「…いや、わからん、そういう場合って普通やけっぱちにならねぇか?」
「あの…あの、ガリヨンさんって自分が普通の枠組みだと思われてるんですかぁ?」
濁ったひとみに見つめられ言葉を飲み込むガリヨン。
ミモザの脳内の理論にガリヨンはあまりついていけないが、それでもその一言には反論ができなかった。
「…と、とにかく!お前の狙いはわかった。それで?俺に何をさせたいんだって?」
「あぁ、あぁ…そうですねぇ…どうしましょう…今全部話してもいいんですけどぉ…」
「もったいぶるなよ」
「いえぇ、いえ。こういうのは…やっぱりぃ…小出しにして一個ずつ解決してもらうのが定石かなぁって思ってぇ…ひえへへ…」
「んだよそれ…」
呆れかえるガリヨンにミモザはにやにやと笑いながら語ったのは「村を作ってほしい」ということだった。
聞けば、この領地…ルサノヴァレ半島全域は領主によりエクシティウム王国の中では当たり前の鐘楼をすべて解体させ接収されているのだという。
鐘楼は村ごとに異なる製法で作られる村の象徴的なものである。というのが共通認識だった。
鐘楼は時刻を伝えるだけではなく、盗賊や獣の襲撃、記念日に鳴らすなど、村にはなくてはならない存在だったが、それを領主は村人から奪い、金に換えたという。
ミモザはそんな領主に反抗する勢力の一人で、領主を打倒するために日々暗躍をしていたのだが、その中でガリヨンに目を付け領主の気を引く囮になってほしい。そのために村を作ってほしいのだと語った。
「えへ…えへ…村…まぁ最終的に街になってもいいんですが、この領地は村は誰でも作っていいことになってますからねぇ…その代わり、傭兵団のような団体を作ると罰せられるんです…」
「なるほど、だから村という体裁を保ちたい。と…」
「はいはい、そうなんですよぉ」
「だから、反抗勢力は裏でこそこそするしかないわけか…。しかし、お前みたいなやつが何でそんな勢力に?」
「え?えぇと、えとぉ…私は…ん~、なんて言ったらいいんでしょうかねぇ…」
ふーむ。といいながら空を眺めて何か考え込んでいたミモザは静かにガリヨンに振り向き変わらない笑みで沼の底のような瞳を細めて話し始めた
「私…私は…積み木が…好きなんですよ」
「つみき?」
「はい。はいぃ、子供のおもちゃの積み木…あれが大好きでねぇ…一生懸命高く積みあがるととっても楽しいですし…高く積み上げるには相応の計画性っていうものが大事ですからね…計画通りに積みあがる積み木はとぉってもきれいですからぁ…それに…」
積みあがった積み木に思いをはせているのか、嬉しそうにユラユラ揺れて話すミモザはさらに不気味だった。
「えへ、えへ…それにぃ、誰かが一生懸命に積み上げた積み木が壊れる瞬間って…とってもきれいなんですよぉ」
「え”へっ」と、濁った笑い声をあげるミモザに気おされながら後ずさるガリヨンを気にせずミモザは話を続ける
「へへ…へへへ…私ね?積み木好きですけど…私の積み木より高く積みあがってる積み木は嫌いなんですよぉ」
「……」
「えへ、えへへ…だから…ですから、領主の…たかぁ~く積みあがった積み木…崩したら…どんだけきれいなんだろうなぁって…えへ、えへ」
「なんだそれ」
「なに…何って…個人的趣味ですぅ。私は…領主の積み木をぶっ壊して私の積み木を完成させたいんです…。そして、その壊れた積み木を見る領主を見てみたい…ひひ…」
「…」
「そして、反逆と領主討伐という積み木を立ててますけど…その積み木にはガリヨンさんは欠かせないパーツになりましたぁ…。だから逃げないでくださいねぇ?あぁ、そうそう」
「あ?」
「ひひ、ひひ…そういえば、さっき、なんで一人できたんだ?って聞いたじゃないですか。理由はさっきも説明した通りと…もう一つ。」
「もう一つ…?」
「積み木のピースは自分で見極めたいじゃないですかぁ…」
「……あぁ、なるほどな、…何となく理解した」
ミモザは狂っている。おそらく、ガリヨンと同じ、どこかネジが外れて自分の価値観に殉ずるタイプの人間だということを、ガリヨンは今までの人生経験の中から理解した。
だからこそ、ミモザを裏切ると本当に、容赦なくこいつは密告するであろう。ということも理解した。
(多分、こいつのことだからここに一人できたのも俺に殺された場合に備えて何かしら逃げる手段か、もしくは密告の手段を隠してやがるハズ、だとしたら…)
「付き合うしかない…か…」
「??」
「わかったわかった。ならミモザ、お前のその狂った積み木とやらに乗ってやる。だが…」
「おぉ、ぉお!本当ですかぁ?!…?ただ?」
「しっかり手綱はにぎっとけ?いつ噛みつくかわからねぇぞ?俺は」
「ひひ…ひひひ…いいですよぉ…使いずらいピースも使ってこそ、積み木ですからぁ…。ひひ、ようこそ…レジスタンスへ」
こうして、ガリヨンは底なし沼のミモザの策に乗り、ひとまずは村づくりへと歩みを進めるのだった…。
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