7.泥の声は耳元まで
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
「はぁ…ここ…ここまで…はぁ…ここまで運べば…大丈夫ですよぉ…はぁ…」
「大丈夫か…?」
息も絶え絶えで膝をつくミモザを背に気遣いつつも、森の奥まで死体を運んだガリヨンは黙々と死体を埋めていた。
そしてしばらくザクザク…と森特有のにおいを立ちこませながら土を掘り返しながらふと、さっきから聞こえていたミモザの死にそうな「はぁ、」だとか「ひぃ…」という声が聞こえないことに気が付く。
(しんだかな?)と思いながらも振り返ると静かに兵士の持ち物をあさっているミモザが目に入った。
「何してんだ?」
「…?いやいや、変なことは何もしてませにょぉ…ただ、ここに埋めるとなればこの方たちの装備がもったいないじゃないですかぁ、ガリヨンさんもよくやるでしょぉ?」
「…まぁ、それはそうだが。それでも鎧や剣は使えねぇぞ?」
「はへぇ?」
ぽかんと口を上げ首をかしげるミモザにはぁ、とため息を一つ付き穴を掘る手を止めたガリヨンはミモザにずい。と近づき
まるで説教をするかのような口調で語りだした。
「あのなぁ…そいつらの装備は正規兵のものってことはわかるよな?」
「はいはい」
「…んで、二人の兵士が行方不明…。森に連れてきたっと分けで死体が見つかっても…なんとか、まぁ、獣にやられたと…勘違い…されたらいいなぁ…」
無残な姿のどう見ても獣がやったとは思えない傷の遺体に兵士二人の死体を眺めながら自然に自信がなくなっていくように声が小さくなっていくガリヨンを見て「まぁまぁ、少なくとも人間がやったとは思えませんから大丈夫ですよぉ」とフォローを入れるミモザをにらみながら話し続ける。
「とにかく、二人の正規兵が消えて、その装備っぽいものを持ってたら無駄に絡まれんだろ?」
「あぁ…あぁ!だからガリヨンさんは何も取らなかったんですねぇ!不思議でしたよぉ…盗賊からは奪うのになんでだろうなって思ってましたぁ」
「それも見てたのかよ…。まぁそういうことだ、金やこまごました消耗品は盗る気だったからそれと分けててくれよ」
「はいはぁい…。でも…」
「ん?」
「でも、ガリヨンさんが言う通り装備は盗らないでこのまま埋めちゃったとしても、たぶんそのうちガリヨンさん、疑われますよぉ?」
「は?なんで?」
「いやぁ、いや。腐っても流刑地の領主ですからねぇ、流れてくる悪人の甘えは大物なら確認してますよぉ…。ガリヨンさん、向こうでは有名人じゃないですか」
「いや、俺はそんな有名じゃ…」
「えー?えー…犯した罪もそうですけどぉ…」
「そりゃそうだが…っていうかどこまで知ってんだおめぇ…」
「へはは…私、私が知ってることしか知りませんよぉ」
「…つーか俺が有名なこととすぐ疑われる因果がわからんのだが…?」
「あぁ、ああ。それはですねぇ、さっきも言いましたが、この死体、見つかって改められた場合…どう見ても獣の殺し方じゃないじゃないですかぁ」
「まぁ、それは…そうだな」
ちらり、と再度兵士を見る。
冷静になってよく見てもどう考えても鈍器で殴られた跡とそれにより頭がつぶれた証跡、顔面に残る剣戟の跡……。
そんな死体に苦虫を噛み潰したかのような顔をするガリヨンを気にせずミモザは話し続ける。
「はいはいぃ…で、まぁ、私からしますと怪物か何かの仕業に見えるんですがぁ…。見る人が見れば人間だっていうのはわかっちゃいますよねぇ」
「あぁ…」
「で、でですよ。その際、だれが殺した?って話になるわけじゃないですかぁ…。その場合、真っ先に疑われるのは…」
「流罪人…」
「へはぁ…へへ、へへへ、察しの言い方は嫌いじゃないですよぉ」
にまり、と不気味な笑みを浮かべてガリヨンを眺めるミモザに後ずさりながらもガリヨンは話を続けるように促すと「はぁいはい…」とミモザはまじめな顔をして続きを語りだす。
「流罪人と言っても数がいますからねぇ…ガリヨンさんも何人か見たでしょう、野盗の人を」
「あぁ、あいつら無限に湧いてくる資源にしか思ってなかったがあいつら流罪人なのか」
「まぁまぁ、みんながみんな野盗に身を落とすわけじゃないんですけどぉ…そうなる人が多いですねぇ、まぁ大概この半島ついた段階の桟橋で私財奪われちゃってるみたいなので野盗になるしかないんでしょうねぇ」
「あれ俺だけじゃなかったのか……」
「あーあー、ガリヨンさんもでしたかぁ…まぁ特別な技能があるか…図太い人じゃないと大概…罪を犯した人なんて基本的に選択肢に奪うがありますからねぇ…」
「話が逸れたな。戻してくれ」
「あらぁ、あら、すみませぇん。…えっと、ガリヨンさんが疑われる理由ですよねぇ?…数が居るとは言っても流罪人として自分の領地に流れてくる以上…特にガリヨンさん程のビッグネーム、領主が確認してないわけないじゃないですかぁ?…それでこの死体。ガリヨンさんの過去の経歴を調べたときに…察しがいい人が居たら決めつけるまではいかなくても…疑うくらいはしますよねぇ?」
「……」
ミモザの理論は穴がある。
だがその穴を加味したとしてもありえなくはない。という事実がガリヨンの動きを止めた。
ガリヨンは現状、目的もなくだらだらとこの島で生きるだけの流罪人であり、別に犯罪者として疑われることで何かの目的の障害になる。というわけではないのだが……。
「確かに…時間稼ぎにしかならねぇな…」
「えへぇ…そうです、そうです、遅かれ早かれってところですよぉ」
発見されれば逃亡生活は必至。
現状、何の権限も持たないガリヨンに対し領主に逆らった罪というのは情状酌量の余地はなく処刑…。断頭台への階段しか道はない。
疑われない。というのは甘めに見積もっても不可能であった。
疑念は調査を呼ぶ。疑いは確信へと変化していく。
…かといってせっかくあの場で処刑されずに手に入れた第二の人生という幸運を逃亡生活でふいにするのはもったいない。と、ガリヨンは考えていた。
そもそも、ここの兵士の態度を見るにまともな操作もせず無用な犯罪者狩りが横行して面倒なことになるのも予想される。
…しかし、そうなるとガリヨンにはどうしていいか。という案が一切浮かばなくなっていた。
ミモザはそんな自分の問いかけから手を止め、上の空に何か思案するガリヨンを眺め満足そうにうなずくと、静かにガリヨンに近づき、耳元でささやいた。
「へへ…へへ…実はぁ…私にいい考えがあるんですよぉ」
「うわぁ!?!?」
急な接近と、ドロリとした泥のような声に思わず飛びのくガリヨンを見てミモザは愉快そうに笑う。
そんな様子に「テメーッ!」と怒りの声を上げるガリヨンを無視してミモザは話を続けた。
「へひ…へひ、ガリヨンさん一人だと…このままじゃぁまずいと思うんですよねぇ」
「…まぁ。そりゃそうだ」
「はい、はいぃ…ところでぇ、この領地、領民が村を起こして村長を名乗るのは自由なんですよぉ」
「…あ?何の話だよ」
「いえぇいえ、ガリヨンさん傭兵団の団長やってたんですよねぇ?」
「…話が見えてこねぇぞ」
「ひひ…ひひへ…簡単な話ですよぉ…ガリヨンさん…。ガリヨンさんが村長になればいいんです」
「……は?」
意味不明なその提案にフリーズするガリヨン。
それを気にしないどころかミモザは愉快そうににやにやと笑い続けるのだった。
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