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5.奇妙な依頼

オオカミの巣を一人で壊滅させて大した怪我もなく生きて帰ってくるのは控えめに言っても化け物なのです。


すっかり意気投合をして安酒を空にしたシェドリとガリヨン。

酒盛りの後、朝を迎えた二人は名残惜しそうに握手を交わす。

一夜で築いた友情を確かめ、二人は別れの言葉を名残惜しそうにかわすのだった。


「いやぁすっかりごちそうになってしまって…」

「気にすんな、こっちこそ楽しかったよ。それじゃ名残惜しいが…」

「ええ、お互い生きていれば、是非…また」



◇ ◆ ◇ ◆


シェドリと別れた後のガリヨンはテントはそのままに来た道を早足で翔けていた。

最初に立ち会った村長へ”お礼”に”参る”ためだ。

オオカミの巣になっていることなど知らないはずもなし。

優しいガリヨンは何か言い分を聞いてやろうと背中に背負ったスコップと腰から下げたマチェットを今一度確認しなおしまっすぐ村へ向かっていた。


――――――


「よお村長、一昨日ぶり」


はじめあったときよりもガラの悪い笑顔を浮かべたガリヨンは明るく、にこやかに村長へ声をかける。

ゆっくりと休憩をとって椅子に座りのんびりと水を飲んでいた村長は、声をかけられた瞬間に驚愕した…まるで幽霊を見たかのような表情を浮かべてガリヨンを見上げていた。


「あん…アンタ…なんで…」

「いやぁ~村長さんには()()()()を紹介してもらっちゃって…感謝を伝えようと思ってねぇ…」

「あんた、あそこまで行って…」

「もちろん行ったさ?そのおかげでほら、こんなにたっぷり毛皮が手に入ったよ」


どさり、と村長の前には紐で縛られたオオカミの毛皮が乱雑に歩織り出された。

どう見ても複数のオオカミを捌かなければ届かない毛皮の量を見て、ガリヨンへ薦めた場所がオオカミの巣であることを知っていた村長はオオカミの巣をたった一人で壊滅させ、一人で生きて戻ってくることができる人間であることを理解してしまった。

(まずい奴を敵に回してしまった…)そう考える村長の心中を知ってか知らずか、ガリヨンはにやりと笑みを浮かべるとおもむろに腰のマチェットをなでるように触れて口を開いた。


「で、村長は俺とどうしたい?」


それは不可解な質問だった。

困惑する村長に気が付いたのかガリヨンはつづけて話し始める。


「あー…じゃあ、言い方を変えよう。村長…いや、この村は俺と敵対したいか?それとも仲良くしたいのか?」


村長にとって決断は日常的なことだ。

簡単なことから複雑なことまで。

だからこそ、この問いに対する決断は早かった。

分岐点だ。そう思った村長の口から出たのは肯定の言葉。

焦りながらも村長は、この目の前にいる男と敵対しないためにも、チャンスを不意にしないためにも、と言葉を紡ぐ。


「も、もちろん!もちろん今後とも仲良くしたいと思っておりますとも!」

「…へぇ、で?どうやって?」

「どうや…って…?」

「そりゃそうだろ。あんな土地紹介しておいてタダで仲良くしたいなんて…少なくても俺は思わねぇからなぁ」

「いや…はは、それは…」

「まぁ、何にも無いっていうなら…悪いが仲良くはできねぇよな?」


もはや会話のペースはガリヨンのものだった。

村長はガリヨンの一挙手一投足におびえ、話の内容などほとんど入ってきていない様子でただひたすらにそうやればやり過ごせるのか。ということだけに注力している様子だった。


「まぁそうおびえるなよ村長、俺だって仲良くしたくないわけじゃない。じゃなかったらもっと手荒い再会をしていた…だろ?」

「ま、まぁその通りですな…。」

「だろ?そんで、あんなところを紹介される馬鹿なりに俺も考えてみたんだよ」

「いや、そんな…」

「まぁ聞けや。…どうしたら仲良くなれるか、って考えた結果。2つの条件を出すことにした」


指を日本立てて村長に見せる。

この時村長はどんな要求をされるのかとおびえたが、一つ目を聞いて安堵した。

ガリヨンが提示した内容の一つはこの村での貿易の自由化。

簡単に言ってしまえば「どんなものでも自由に値段を決めて売っていいですよ」という村長のお墨付きをよこせというものだ。

これは物資が不足している村ではむしろありがたい。

値段が相手に依存するのは癪だがそれでもこの村へ物流を促す存在は助けともいえるからである。

そしてもう一つは?と村長が疑問に思っているとガリヨンはニヤリと笑みを浮かべた。


「もう一つは…そうだなぁ…とりあえず、今のところは貸しってことにしておこうか」

「か…貸し、ですか」

「そ、貸し。それが飲めなきゃ仲良くはできないけど…どうする?」


貸しと言われ拍子抜けする村長に対してガリヨンはにやにやと変わらず笑みを浮かべている。

普段の村長ならば貸しを含め条件を飲んでしまえば最悪、うやむやしてしまえばいい。ちょろい交渉だ、と安堵していただろうが如何せん村長には目の前の男は正体がつかめていない。

圧倒的な暴を持つ存在に貸しを一つ与えてしまっていいのか…?と村長は数泊の思考をし、現状で今すぐに敵対するのは得策ではない。とすぐさま頷く。

それを見て満足そうににこりと笑うガリヨンは静かに手を差し出し村長の手を握った。


「うれしいぜ村長さん、改めてよろしく…この村も…よろしくしたいところだが…」

「だが?何かほかにあったかね?」

「あぁ、この村の名前知らねぇやと思ってさ」

「なるほど、なんだ、村の名前…!ほほ、私も気づきませんでしたな…改めてよろしく…ええと」

「ガリヨン、前も名乗ったから今度は忘れんなよ?」

「あぁ、失礼、この年になると物忘れが…よろしくガリヨンさん。そして、この村…トゥーレの村をよろしく」

「あぁ、よろしく…トゥーレ村の村長サン」


固い握手と共にお互いの腹積もりを探りながら…。

そんな友情のようなものを村長と結んだガリヨンはとりあえずと言わんばかりに村で商売をやっていそうな人間を探すことにした。

荷物になっている毛皮や肉を捌いてしまいたいという考えからだったが、それ以上にも現状、依然見かけた兵隊がいない。そして妙に村人が生き生きとしている点が気がかりとなりその原因を早めに知りたいということからも急ぎ足で村を回ることとしたのだった。

しかし、そんな急ぎ足のガリヨンに声をかける女が一人


「ちょっとよろしいでしょうか?」


その女は深くフードを被ったやせぎすな、見るからに不健康そうな年の若い女だった。

たっぷりと蓄えられた隈の上にあるどんよりとした瞳でガリヨンを見上げながら、不気味な笑みを浮かべている。

その風体に少々気圧されながらもそれを悟られないように、とガリオンは応対をする


「ん、なんだ?俺になんか用か?」

「ええ、そうなんですぉ…実は村長とのやり取りを見てましてねぇ」

「あぁ、あれ見られてたのか…まぁ別に隠してねぇし当然か…」

「ええ、ええ!それで、オオカミをも狩る貴方にぜひお頼みしたいことがありましてぇ…」

「頼み?報酬は?」

「もちろんご用意がありますよぉ…」

「そうか、じゃあ内容に応じてってところだが…?」

「とぉっても簡単です。業務内容は荷物運びですからぁ」

「…なんか怪しいな」


訝しげに女をにらむガリヨンの目を気味悪いニタニタ顔で見つめ返しゆらゆらと揺れる女。

そんな女の表情に若干の恐怖感を覚えたのか、がリヨンはふと目をそらしながら話を続けた。


「仕事すんのはいいけどよ…犯罪の片棒担ぐのは俺ぁやだぜ?」

「いえいえいえいえ!そんなそんなそんな!!犯罪だなんて…この地では合法も合法ですとも…それに、ガリヨンさぁん?あなた、無一文か…それに近い状態なんでしょう?」

「なんで俺の名前…あぁ、村長との会話聞いてたのか…。」

「えぇ…ええ。あの村長を手玉に取る手腕も素晴らしかったですぅ…それで、お仕事のほうなんですが…」

「まぁ金がないのも事実、断る理由もないのも事実。報酬にもよるがな…」

「前向きに考えてくださってありがたいですぅ…申し遅れましたぁ、私、ミモザと申しますぅ…」


ミモザと名乗ったにたにた笑いくねくね動く奇妙な女にひきつつも話を聞くと届け物をしてほしいとのこと。


「完了すれば銅貨40枚を差し上げますよ」

「40枚…ただの届け物にしてはずいぶん値が付くじゃねぇか」

「えぇ、とっても大事なものですからぁ…確実に届けてもらいたいのですよぉ」


黒パン一つが銅貨5枚と考えると破格な報酬にガリヨンは一瞬リスクを考えたがそれでも金がないのは辛い。

オオカミの肉と毛皮が売れるかわからない以上、手っ取り早く金を手に入れられるという話はかなりおいしい。


「……本当に犯罪じゃないんだよな?」

「合法ですよぉ」

「…まぁ、いいだろう。で?届けもんって誰にだ?」


そういったガリヨンを見てにたりとさらに笑みを浮かべるミモザはどこのものかわからない紋章が描かれた小汚い小包を取り出しガリヨンへ差し出す。


「これです」

「なんだこれ?」

「荷物ですよぉ、それ以上はプライバシーなのでお話しできませんが、怪しいものではありません…」

「そうか…。まぁ知らんほうがいいものもあるだろうよ」

「賢明なご判断助かりますぅ」

「で?誰に渡せばいい?」

「隣村…この村から北東にまっすぐ道沿いに行くとここと同じくらいの村がありますので…そこの大きな欅のふもとの墓に備えてほしいのですよぉ」

「墓参りってことか…とりあえず分かった」

「では、報酬は先払いで…」

「あ?」


ミモザの発言に困惑するガリオンをよそに銅貨の入った袋を取り出し手渡す。

それではよろしく。と立ち去ろうとするミモザを止めようとするもあっという間に目の前から消えてしまっていたのだった。


◇ ◆ ◇ ◆


そうして不審に思いながらもトゥーレ村から隣村、シーヤ村へとたどり着いた。

道中、野党に絡まれるというハプニングがあった為、ガリヨンの荷物は出発よりも増えていたがそれはまた別の話である。


「ここがシーヤ村…向こうの村と変わらず疲弊した村だなぁ…」


村人に聞かれないようにつぶやく。

ガリヨンの呟き通り、トゥーレ村と変わらずさびれた様子の村は全体的にどんよりとしていた。


(というか、ここにも鐘楼がないのか…この辺は鐘楼を村で作らない文化なのか?)


周囲をぐるりと見まわしふとそんなことを考えるガリヨン。

ガリヨンの住むエクシティウム王国ではほぼすべての村や町に鐘楼があった。

それは獣の襲来、盗賊の襲撃、昼を告げる合図にほかにも集会の知らせなど村、町を運営していくうえで欠かせないその土地に住む者のシンボルとなる建物。

トゥーレ村が特に貧しいせいでないのかとも考えていたが、ガリヨンが王国で傭兵をやっていたころはどんなに貧しい村でも必ずあったことを思い出し、また、隣村にもないということで、それが当たり前にある国に生まれていたガリヨンにとって本来あるべきものがないというのは奇妙な感覚を覚えさせていた。

しかし、まぁいいか。とそれ以上深く考えることもなく目的の樫の木を探すと村の少し外れ、村の正面から距離はあるが一目でわかる位置にその樫の木はたたずんでした。


──────


「…さて」


樫の木の近くにはやたら装備の整った…おそらく領主の兵隊がいた。

兵隊は偉そうにふんぞり返り、ガリヨンの目的地であった墓の…あろうことかその墓石の上に腰かけていた。

その光景を見て小さく舌打ちを漏らすと絡まれたくないという一心で少し遠くから様子を見て、いなくなったら依頼を実施しよう。と考えていた。

しかし、ガリヨンの背後からもう一人の兵士が声をかけてきたことでその考えは破綻することとなった。

最後まで閲覧いただきありがとうございました

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