3.略奪と悪人の末路
森の中、獣道を進むガリヨンは目前に一つのテント群を見つけ、にやりと口角をあげた。
それは群……と、いっても二つのテントが点在しているだけだが───そのテント自体もボロ布にその辺の木を立てただけの簡素なものではあったが―――ガリヨンにとっては何よりもお宝に見えていた。
「しっかし、今日は収穫ゼロかよ」
「しゃーねぇだろ、村に兵士がうろついてやがるし、直接は襲えねぇ。」
「とはいってもよぉこの前攫った奴はもう壊れちまったし新しいのが欲しいぜ」
「今日は道を歩いてるやつも今日は少なかったから明日に期待だな」
「あーあ、いい女抱きてぇなぁ~」
「女といえば近くの村の女はやせこけちゃいるがなかなか悪くねぇよな」
「あー、アイツか。アイツの旦那はのせいでケガしちまったが、ぶっ殺したらいい稼ぎになったなぁ……」
「あぁ、また見かけたら今度は女房の方も攫っちまおうぜ!」
テントの傍にいた男が2人そんな会話をしている。
治安の悪い会話がガリヨンの耳にも届くことから、二人はガリヨンの存在に気が付いていないのがわかる。
……それに、どうやら会話内容からしても野盗で間違い無い様で、その二人を見てガリヨンは知らず知らずの内にさらに笑みを浮かべていた。
ガリヨンはそんな自分の表情を気にせず、──たとえ気づいていたとしても隠すことなどしなかったが…。──笑みを浮かべたままそのまま静かに野盗のテントへと近づいていった。
……ガリヨンが今からやろうとしてるのは略奪。
2人の野盗から命もろとも何もかもを奪おうという魂胆であった。
日没の……暗くなる中で森に入ったのも、ガリヨンが見つけた獣道が獣が作った。というよりも草木を刃物で切った跡や足跡のようなものから人間が作ったものだという確信があったからこその行動であった。
ガリヨンなりの推理と経験則から野盗がこの先にいる。という予想を立てたが見事的中したことで上機嫌になったガリヨンは浮かれ気分もそこそこに静かに受け取った手斧を携えた。
あたりは先ほどよりも薄暗くなって、さらに風が吹いていた事もあってガリヨンの足音は風の音と共に野盗の耳に入ることはなかった。
1歩…2歩…と、静かに。
手元の斧を握りしめ暗がりの中を近づいていく。
森の中で焚火を囲む2人組はこの後の自分の姿を想像できずに談笑にふけっていた。
(数は3…?いや、2か。だが荷物が多い、1人帰ってくる可能性も視野に入れて3人キャンプと見ておこう)
冷静に、確実に殴殺できるように。
すでにガリヨンが野盗を見つけてから10分がが経ったかといった所だがすでにガリヨンの頭の中には5つの襲撃プランが出来上がっていた。
その中でも一番シンプルな奇襲を選択し、行動に移すことを決めた。
この瞬間、2人の野盗の命日が決まった。
「それで、あの時あの野郎がr…ッ」
楽し気に会話をしていた男の頭に当然己が突き刺さり、言葉が止まる。
突如暗がりから現れた男の風を切り裂くかのような豪快な一振によって、野盗の一人はあっけなく命を散らす。
ガリヨンは斧を男の頭へ縦に…薪を割るように斧を振り下ろした。
骨が割れる音と共に甲高いパカンッ!という音が響くと頭をカチ割られ、斧の突き刺さった男は絶命する。
斧が頭にめり込んだまま、おそらく自分が死んだことにも気づいていない男の身体はビクン、ビクン、と跳ねていた。
それを邪魔だと言わんばかりに無言でそんな死体を蹴り退かすとちらりと頭蓋に刺さったままの斧を見て、これは抜くのに時間がかかる。とそのまま捨て置き、死体のそばに置いて、死体になった男のものであろうマチェットを手に取った。
そして、驚愕するもう一人の野盗へマチェットを振りかざした……。
「だぁーッ!殺り方ミスった!この布洗わねーと使えねぇじゃねぇか!!」
声を発することもできず、臨戦態勢をとることもできず。
ガリヨンによりこの世から去った野盗を森の奥に捨て、野盗のキャンプをあさっていたガリヨンはそう叫ぶ。
死人に口なし道具は不要。
そういわんばかりに無遠慮に、先ほど2人殺したとは思えないような手際でテント内を物色するがリヨンの姿は傍から見れば野盗か何かであった。
血にまみれたテントの中はまさに死屍累々と言った有様。
頭を斧が突き刺さったまま絶命する男と首から上の部位が別々に分かれてしまった男……そんな二つの死体が恨めしそうに眼を見開きガリヨンを見つめていた。
そんなことはお構いなしに物色を続けると様々なものが見つかった。
先ほども使った粗末だが、まだまだ切れ味が残るマチェットが2本。
どこかから奪ったのか薬草や穀類の種。
荒縄が何本かとこれも奪ったものであろう、銅貨が30枚ほど詰まった袋。
しかし、ガリヨンにはそれらよりも目の前のテントが輝いて見えていた。
…獣、風、虫から身を守る仮設居住用のアイテム。
何も持たない、家すらないガリヨンにとっては喉から手が出るほど欲かった一品である。
「いやー、気を付けたつもりだったが……これじゃすぐ使えねぇや」
着火剤を何一つ持たないガリヨンにとって、火は獣除けとしては重要である。
しかし、血の匂いは獣を呼び寄せてしまう。
焚火で獣よけをしたとしても肝心のテントで獣を呼んではしまっては元も子もない。
水で洗っても良いが貴重な飲み水を消費するのはそれはそれで手痛い出費である。
ガリヨンはどうしたもんかと悩んでいたところふと、2つの死体が目に入る。
「……これ、森の奥に捨てればこっちに集まらねぇかな」
幸い、布に付着した血の量はさほど多くなく、ガリヨン一人に対しテントも二人分あるため汚れた布を切って死体をうまく活用すれば…。と思考を巡らせる。
そして…はぁ、とため息をつくと斧を片手に死体へ近づいていった……。
――――翌朝
鳥のさえずりと共に目を覚ましたガリヨンはのそのそとテントから這い出て身体を起こす。
森の中のためか朝霜で少ししっとりとした空気と肌寒い冷気が深呼吸をするガリヨンの肺の中に入り込んでくる。
草木の匂いと共に吸い込んだ空気を一気に吐き出し、再度伸びをすると体からパキパキと骨が鳴る音が響く。
(昨日は色んなことが起きすぎた…。想像以上につかれてたんだな…)
日の出前には起きようと仮眠したつもりが、焚火が完全に燃え尽きるまで眠ってしまっていたことに驚きながらも冷静にあたりを見回す。
(獣の気配なし。人の気配…なし)
警戒を解きゆっくりとテントを片付けることにする。
空はすがすがしいまでの青空が広がり、昨日の夜の凄惨な出来事などなかったかのようだった。
そんな空の下、いそいそとテントをかたずけ、必要なものとそうでなさそうなもの、持ちきれなさそうなものを改めて明るい中確認するとテントの奥にいいものを見つけた。
おもわず「おおっ」と声を上げるガリヨン。手に取り軽く振るうと異様に手になじむ感覚を覚え、すぐに手に取れるように。と背中にしょい込むように担ぐ。
……それは両手で持つために柄を長く設計されていた唯のスコップだった。
マチェットしか武器のない現状、獣相手の接近戦に不安を覚えていたが、これでオオカミ程度なら撃退も可能だと考えたガリヨンは昨日に引き続き幸運を天に感謝しつつ、鼻歌交じりのご機嫌で荷物整理を再開するのであった。
しばらくして荷物の整理も終わり、野盗から奪った荷物を背負うと目的地の河辺へと足を進めた。
途中、獣に食い荒らされたであろう人間の死体を横目に何の感情も抱かず突き進むとしばらくして、ようやく目的地の河辺へとたどり着くのだった。
「ついたー!!」
思わず声を上げ両手を突き上げるガリヨン。
それもそのはず、村で1時間ほど、などと言い渡されていたはずが実際はさらに何時間も歩かされてようやくたどり着いた場所である。
歩んだ道筋を思い出しなながら(あのジジイ、どんだけ健脚なんだよクソッタレ…)などと恨み言を漏らす。
そんなガリヨンの眼前には広い草原と少しの木々、そして川が草原を分断するように流れていて、定住するにはもってこいの地形であった。
しかしなぜ、そんな土地が今まで手付かずでだったのか、あの村長がそこをよそ者に紹介したのか?
その答えをガリヨンはすぐさま知ることとなる…。
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