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7撃目 いつか君は知られてしまう


 コトハが叫び、僕は横からコントロールパネルを操作し、ファイヤーコントロールをオンにした。

 パイロット交代をしている余裕はない。

 コトハは即座に上部機銃を動かす。

 敵が潜伏していると思われる家屋の屋根に銃口を向け、そのまま掃射。


 更に戦車砲をグルリと回転させ、家屋に向ける。

 すぐに同軸機銃でも発砲。

 僕が戦車砲の弾丸を榴弾に設定し、コトハが手動で狙って発射。

 大きな音と、反動。


 コトハが撃った戦車砲は、家屋から少し逸れた場所に着弾した。

 走りながら撃つと、命中率は下がる。

 しかし攻撃に関して、コトハはそこまで上手ではないようだ。


 僕なら当てた。

 イレアナのラーミナⅡも、移動しながら同軸機銃を撃っていた。

 上部機銃はさっきのミサイルで潰れたようだが、とりあえず無事で良かった。


「さっきからガンガン通信入ってうざいんだけど!?」


 言いながら、コトハは再び戦車砲を発射。

 ほぼ同じタイミングでイレアナも戦車砲を撃った。

 今度は両方とも家屋に命中。

 あの家屋に潜んでいたなら、確実にあの世行きだ。

 コトハは左のキャタピラを止めて、右のキャタピラだけで強引にグラディウスを転換。

 そのまま元来た方向へと前進。


「この集落、廃墟にしてもいい?」


 コトハが言った。

 他にも敵が潜んでいる可能性があるからだ。


「ああ、怪しい場所を……」


 ディスプレイに煙を噴きながら飛来する対戦車ミサイルが映った。


「躱しきれないっ! 魔導防壁を張るわ!」


 コトハはサッとパネルを操作し、魔導防壁を使用。

 すごい、まるで自分の戦車みたくグラディウスを操っている。

 対戦車ミサイルが魔導防壁に衝突。

 大きな音と爆発。

 魔導防壁が少し震えた。


「魔力の消費が激しいわね! てゆーか滅べっ!」


 コトハは魔導防壁を解除。

 魔導防壁はマジで魔力を食う。

 だから基本は、回避したり機銃で対空迎撃をする。

 コトハは対戦車ミサイルが飛んできた方角に戦車砲を発射した。

 数秒後にイレアナも同じ場所に戦車砲を発射。

 僕はインカメラを手で覆ってから、イレアナの通信を受ける。


「ちょっと!! さっさと通信受けてよ!! 連携できないじゃない!!」


 酷く怒った様子でイレアナが叫ぶ。


「悪い。とりあえず、集落を廃墟に変える。いい?」

「その前に、警告でしょ! ってゆーか、なんで映像出てないの!?」

「さっきの一撃でインカメラが壊れたんだと思う。あんまり気にしないでくれ」

「はぁ!? 魔導防壁でガードしたでしょ!? とにかく、警告出すからね!」


 通信しながらも、僕たちは移動を続けている。

 停まっている戦車なんてただの的だ。


「あたしたちを攻撃している奴らへ! 降伏しなさい!」


 イレアナが外部スピーカーで言った。


「5分以内に武装解除して出てこない場合、殲滅するからそのつもりで!」


 なんともいい加減な警告だが、まぁいい。

 敵にこっちの意図は伝わったはずだ。

 まだ敵がいるのなら。

 現状、敵がどれだけいるのかすら分かっていない。


 でも、さほど大きな部隊ではない。

 大きな部隊なら、もっと大量のミサイルが飛んでくる。

 たぶん敗残兵だ。


 持っている武器、弾薬もあまり多くないだろう。

 コトハは集落の周囲を旋回するような進路を取った。

 イレアナもそれに続いている。

 当然、どちらの砲塔も集落の方を向いている。


 それはそれとして、そろそろインカメラを手で覆うのに疲れてきた。

 コトハは僕を邪魔者みたいな目で見ているし。

 実際、パイロットの視界を僕の身体で少し塞いでいるので、邪魔なのは確か。

 と、コトハが勝手に通信を切ってしまった。


「おい、なんで……」

「いい加減、邪魔だもの。ロゼが」

「そうだろうけど、勝手なことするなよ」

「いいじゃない。調子が悪いって言っておけば?」

「言うためには通信繋がなきゃだろ?」

「……そうね」

「コトハって意外と抜けてるな」


 僕が笑うと、コトハはムスッとした表情を見せた。

 そういう表情をしても、コトハは可愛い。

 って、僕は何を考えているのだろう。

 コトハが可愛いから何だというのか。

 コトハはあくまで、戦車の話ができる捕虜。


 それだけだ。

 でも、いつかはこの関係を終わらせなくてはいけない。

 永遠に戦車の中でコトハを飼うわけにはいかないのだから。

 そう思うと、なんだか胸がキュッと締め付けられるような気がした。


「ねぇ。とりあえずもう一回通信受けて、調子悪いって言って切ってよ」


 イレアナからは何度も通信が入っている。

 僕は息を吐いてから通信を受けた。


「なんで切るのよ!?」


 イレアナが怒ったように言った。


「悪い。なんだか通信システムの調子が悪いんだ」

「あたしとは話したくないのかと思ったじゃない!」

「いや、そんなわけないだろ?」

「どうかしらね! ロゼって自分勝手な行動ばっかりだから、あたしは邪魔なんじゃないの!?」


 まぁ、ハッキリ言えば邪魔だ。

 けれど、そんなこと言うわけにもいかない。


「勘ぐりすぎ。それより、誰も投降してこないみたいだな」

「そうね。ってゆーか、隊長に連絡入れたら、哨戒中のヘリ部隊が来てくれるって。だからあたしたちは戻っていいって」

「えー?」


「えー? じゃないわよバカ。だいたいねぇ、偵察なんて全部空からやればいいのよ。ここらの制空権取ってるんだから。なんであたしたちが地上からチマチマ見回りなんて面倒なことしなきゃ、いけないわけ?」


「それはそうだけど、携行式の対戦車ミサイルはそのまま対空ミサイルにもなるし、ヘリだと危ないんじゃない?」

「知らないわよ。飛行機出すなら空軍に頼まなきゃだし、まぁ大丈夫でしょ?」


 実にいい加減だけど、兵役で仕方なく戦ってる連中はみんなそうだ。

 自分さえ良ければそれでいい、って考え方。


「てか、ロゼが他人の心配なんて珍しいわね」とイレアナ。


「別に。このまま僕らで殲滅できるのに、って思っただけ」

「ロゼは戦車動かせたらなんだっていいんでしょ!」

「まぁね」


 と、また対戦車ミサイルが飛来してきた。

 コトハがハンドルを切って直撃は免れたが、対戦車ミサイルはグラディウスのすぐ真横に着弾した。

 対戦車ミサイルの爆発で地面が抉れる。

 その時の衝撃で、僕はまたコクピットに倒れてしまう。


「ロゼ大丈夫……って、あんた誰よ!?」


 イレアナが言った。

 まずい。

 僕が倒れたせいで、こっちの様子がイレアナに丸見えだ。

 つまり、操縦席に座るコトハの姿がイレアナのディスプレイに映っているということ。


「そんなことより反撃しなさいよ、僚車なら」


 コトハは冷静に言いながら、戦車砲で反撃した。

 イレアナは少し遅れて反撃。


「それってラクークの戦闘服……ねぇロゼ、どういうこと?」


 イレアナの戦車砲が僕のグラディウスを捉えた。

 ロックオンアラートが鳴るが、うるさいのですぐ切った。


「あとで説明するから、ひとまずここから離れよう」

「狙ってるから、妙な真似しないでよね」

「分かってる」

「あなたにロゼを撃てるとは思えないけれど?」


 コトハがクスッと笑った。

 それから、集落から離れる進路を取った。

 敵を殲滅できなかったのは残念だが、ヘリ部隊がカタを付けるだろう。

 それより、問題はコトハの存在がイレアナにバレたことだ。


「はぁ!? なんなのよ!? 上から目線で! ってゆーか、敵のくせになんで気安くロゼのこと呼び捨てにしてんのよあんた!」


「ロゼを呼び捨てにしたのが気に入らないの? 敵兵がグラディウスを操縦してることより? 面白いわね、あなた」


 コトハがバカにしたような口調で言った。


「うっさい!」


 イレアナは叫び、それからしばらく沈黙した。

 たぶん、色々な可能性を考えているのだろう。


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