32撃目 VS最強の戦車乗り
イラリオン・ゼレンキンについて思いを馳せよう。
僕は彼が大好きだ。
もちろん性的な意味じゃない。
現状、世界で一番有名な戦車乗りで、そしてたぶん最強の戦車乗り。
40歳を目前にした大佐だが、生涯戦車乗りを貫いている男。
僕が集めていた雑誌『戦争大好き♪』で、彼は「俺は戦車に乗って死ぬ。それ以外の死など認めん」と豪語した。
まぁ僕と同じタイプなのだ、完璧に。
「天下のイラリオンさんと戦えって?」とコトハ。
「そういうテメェは、よく見りゃ知った顔だ」とイラリオン。
「え? 2人、知り合いなの?」僕が言う。「ねぇコトハ、イラリオンさんのサイン貰ってよ」
「合同軍事演習で顔を合わせたよなぁ?」イラリオンが言う。「ラクークの戦車エース、最強の冷徹魔女コトハなんたら、だよなぁ?」
「コトハ・シーリナよ」
「ねぇサイン……」
「うるせぇな坊主、俺のサインが欲しけりゃ俺を殺してみろや」
いや、死んだらサイン書けないじゃんバカなの?
って思ったけど言わない。
「ぶっちゃけ、あなたと戦うメリットがないわね」コトハが冷静に言う。「私、戦闘は好きだけど死ぬのは好きじゃないの」
まぁ僕らの目的は逃げることだし、無理に戦う必要はない。
僕は戦いたいけどね!
「メリットならあるぜ? 俺に勝てたら、見逃してやる」
「マジで言ってんの?」と僕。
「おう、俺はいつだってマジだ」イラリオンが言う。「俺はこれでも大佐で、この現場の責任者でもあるってわけだ。部下どもには、俺が負けたらお前らをロストするよう言ってある」
「そうだとしても」コトハが言う。「あなた人気者でしょ? 部下は仇討ちするんじゃないの?」
「俺の命令に逆らったりしねぇさ魔女。まぁ、どうであれ、嫌でも戦ってもらうがな?」
僕らのシオンはロケット攻撃で開けた場所に誘導されている。
イラリオンはそこにいるのだ、間違いなく。
もしくはそこに向かっている途中か。
これだけ移動を遅延されたら、先回りされている可能性の方が高いかな。
「1対1?」とコトハ。
「当たり前だろうが! 俺はなぁ、強い戦車乗り見かけたら、戦わねぇと死ぬ病気なんだよぉ!」
「そりゃ酷い、僕と同じ症状だね。病院には行っても無駄だよ」
「だろうな! くくっ! テメェの射撃、ありゃ良かったぜ! なんで戦車1両だけを潰したのかは、分からねぇが」
「僕の戦車の仇討ちだった」
「おう、そうか、そいつは大事だな!」
イラリオンがゲラゲラと笑った。
僕は彼の部下を殺したわけだけど、あまり気にしていないようだ。
シオンが森を抜ける。
正確には、開けた場所に出ただけで、向こう側はまた森だ。
「よぉし! やるぞコラ!」
イラリオンが通信を切ったと同時にアラート。
シオンのオートサーチシステムは敵を発見できていないけど、僕とコトハは目視で敵を確認。
レスカ帝国の第6世代魔導戦車ベゲモート。
2世代も上の相手に、ガチンコ対決を仕掛けなきゃいけない。
ああ、気持ちいい!
コトハが敵の砲弾を躱した。
通常の榴弾で、木に命中して爆発。
オートロックされた状態なので、アラートが鳴り続けている。
ジャミが耳を伏せた。
うるさかったのだ。
2発目の戦車砲が飛んでくる。
「ロゼ! 反撃して!」
「言われなくても!」
僕は手動で照準を合わせている最中だ。
こっちも相手も動くから、オートロックがないと少し難しい。
2発目を躱して、僕も戦車砲を発射。
選択は徹甲弾。
ベゲモートがそれを回避。
ベゲモートが更に射撃。
クソッ!
向こうはオートロックだから、こっちの射撃が遅れるっ!
「コトハ! 森に入って! 開けた場所じゃ不利だ!」
「言われなくても!」
シオンは反対側の森を目指しているが、ベゲモートが進路を塞ぐように移動している。
シオンとベゲモートの距離が縮まる。
お互いに射撃。
そしてお互いに躱す。
これ以上、近くなると躱せなくなる。
まぁ、少々は当たってもなんとかなる。
シオンはそんなにヤワじゃない。
軽量コンパクトボディでも、それなりの装甲を確保している。
よって、装甲はベゲモートの方が弱い。
すでに1両撃破したから間違いない。
ステルス性を追求した結果、装甲が微妙なのかも。
詳しくは知らないけど、方向性としては先に見つけて先に撃破するタイプのはず。
機動性も高そうだし、思想の段階から防御を捨ててる可能性が高い。
そう、ベゲモートは本来、こんな戦い方をする戦車じゃないのだ。
要するに、イラリオンがやっぱりイカレてるよね、って話。
お互いに撃ち合いながら距離が縮まり、シオンが急ブレーキで魔導防壁を展開。
敵の榴弾が防壁に当たって爆ぜる。
防壁を解除して即座に発進。
相変わらず、魔力の消費が激しい。
僕の撃った徹甲弾を、ベゲモートも魔導防壁でガード。
そして即座に発進。
加速性能はシオンの方が上みたいだ。
「防壁貫通弾、残り4発よね?」とコトハ。
「そうだよ。向こうは何発かな?」
「さぁね。でも4発ぐらいじゃないの?」
魔導戦車の数はあまり多くないので、みんな通常弾頭の方を多く積む。
コストの問題もあるしね。
ベゲモートが射撃。
たぶん防壁貫通弾。
僕は魔導防壁を展開しなかったし、コトハもしなかった。
とりあえず防壁貫通徹甲弾を選択して、反撃の一発を撃った。
敵の砲弾がシオンの前面装甲に命中。
そこが一番、装甲が固い。
砲盾という盾を装備しているのだ。
ちなみに、コトハがシオンをそっちに向けていたのだ。
爆発の衝撃でシオンが揺れるが、機体の損傷は軽微。
全ての攻撃を砲盾で受けれたら、5発か6発は耐えられるはず。
まぁ、そんなことよりも。
「防壁貫通弾じゃない!?」
僕は驚いて言った。
「こっちが盾で受けるって読まれてたのね。少し向きを変えるのが早かったのかしら?」
ちなみに僕が撃った防壁貫通弾を、ベゲモートは砲盾で受けた。
徹甲弾だけど、砲盾を貫通できずに逸れた。
「そしてこっちは貫通弾を一発無駄にしたっ!」
「もぉ! ダメな子なんだからロゼは!」
あ、その言い方すごい萌える。
シオンとベゲモートが交差して、すれ違う。
まぁ、そうは言っても距離がまだ500メートルは離れているので、すれ違うという表現も変かもしれない。
ベゲモートが旋回しながら射撃。
こっちも負けずと撃ち返す。
敵の砲弾がシオンの後部装甲に命中。
衝撃があって、オートロックのアラートとは別で損傷アラートが鳴った。
ちなみに僕の撃った砲弾は外れた。
クソッ!
シオンは全速力で森へと向かい、
ベゲモートが追いながら連続で射撃。
僕も撃ち返す。
コトハがシオンを横に向けて、1発は躱して、2発目を横の装甲で受ける。
敵の砲弾がシオンの装甲を滑って逸れる。
徹甲弾だったか。
危ない、ちゃんとした角度で入っていたら、砲盾以外は貫かれる可能性がある。
てゆーか、後部装甲なら貫かれていたかも。
横に向けたコトハ最高!
ベゲモートは割と容赦なく撃ってくる。
僕はベゲモートの少し前方を撃って、土煙を巻き上げた。
まぁ土煙はオートロックにはあまり意味ないけど、凹凸は意味がある。
急激に車両の向きが変わると、オートロックが少し遅れる。
正確には、砲身の向きを物理的に動かすので、遅れるのだ。
砲身は一瞬で動いたりしないのだから。
しかも凹凸だから下がって上がってと、2回遅延できるってわけ。
まぁ本当に僅かな時間なんだけど、それの連続が大切。
コトハがシオンの向きを調整し、最短で森へ向かう。
僕は連続でベゲモートの前方の地面を削って、凹凸を大量に製作。
敵の砲撃の回数がかなり減ったので、こっちとしては動きやすい。
距離も徐々に開いて、砲撃を躱せるようになった。
元々、速度はこっちの方が早いので、差は詰まらない。
「そんなにバンバン撃って大丈夫なのロゼ?」
「森に入ったから、今から節約する」
開けた場所で戦うよりは、少しマシになる。
まぁでも、見失わないように、よく相手を見ている必要があるけれど。
ベゲモートから通信が入ったので受ける。
「逃げてんじゃねぇぞガキども!」
「逃げてない」僕が言う。「森の方が有利だと思ったから入っただけ。撃破するさ」
「おっしゃ! ならいい!」
イラリオンが通信を切った。
よぉし、撃破するぞぉ!




