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シオンの棺 ~魔導戦車に敵国の美少女を監禁した~  作者: 葉月双


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29/33

29撃目 何もないと何もないの間


「俺はよぉ、やると思ったんだよなぁ。絶対やると思ったんだ」


 ディスプレイに映し出された銀髪の青年が言った。


「2人乗りの戦車を見た時にさ」青年が言う。「俺は言ったんだ。これ、ほとんどラブホテルじゃん、って」


 何を言っているんだこの青年は。

 ちなみに、僕はこの青年を見たことあるような気がする。

 青年の年齢は25歳前後。


「うちの連中ってみんな戦争で興奮するだろう? じゃあ、やっちまうよな? 戦闘中でも、やっちまうよな?」


 いや、さすがの僕でも戦闘中にはやらない。

 てゆーか、この青年、あまりにもイケメン過ぎる。

 この世の存在とは思えないレベル。

 というのは言い過ぎだけど、普通にちょっとイラッとするぐらい顔がいい。


 100人いたら100人がこの青年を美形だと言うだろう。

 笑顔だし、明るい感じだし、きっとモテる。

 でも。

 僕は青年に底知れぬ悍ましさを感じた。


「よし、シオンは男女のペアで乗るようにしよう、って俺は副団長に提案したんだ。あ、もちろん同性同士でやりたい連中は同性で乗せてやれ、ってね」


 青年は楽しそうに喋っているし、こっちを見ているけど、これは録画だ。


「……嘘でしょ、この人……」コトハが微かに震えながら言う。「ラッセル・ガイルだわ……」


「へ?」


 僕は素っ頓狂な声を上げた。

 ラッセル・ガイル?

 なるほど!

 見たことあるはずだ!


 そして。

 悍ましく思うはずだ。

 人類きってのイカレヤロー、凶悪にして最悪の傭兵。

 全人類の敵、と呼ぶ者もいる。


「私の知ってる彼より若いけどね……」


「はん、俺のこのイケメン姿を見たら、更に興奮したんじゃねぇのか?」ラッセルが言う。「構わないから続けろ。今が戦闘中でも問題ない。戦場で死ぬなら本望だろう? おっと、戦場でヤりながら死ぬなら、それはとっても気持ちいいだろうぜ。俺もやりてぇなぁ」


 ラッセルは本当に楽しそうに笑った。

 その笑顔は、ゾッとするほど暗かった。

 正直、僕はもう萎えた。


 だからソッと服に手を伸ばす。

 コトハも同じだったようで、そそくさと服を着始めた。

 ラッセルはまだ何か喋っているけれど、僕らはもう聞いていなかった。


「スペシャルっちゃスペシャルだわね」


 コトハがボソッと言った。


「雪月花の連中はこれで更に興奮するのかな?」

「でしょうね。あの連中は団長が大好きだもの」


「イカレてる」僕が言う。「雪月花でやっていけるか少し不安になったよ」


 ちなみに、録画のラッセルはもう喋っていない。

 ただジッとこっちを見ていて、時々、ニコッと笑う。


「私もよ」コトハが首を振る。「私もロゼも、割とイカレてる方だと思っていたけれど、たぶん雪月花に行ったら大人しい方なんじゃないかしら」


「そうかも。てゆーか、イカレてる? 僕らが?」

「マトモだと思ったの?」

「いや、思ってないけど、ハッキリ言われると少し複雑だなって」


 僕らは間違いなくイカレている。

 僕らじゃなきゃ、この状況にはなってない。

 捕虜にしたのがコトハでなければ、僕は普通に軍に差し出していた。


 僕らは戦車が好きで、戦車での戦闘が好きで、その中でエッチしようとして、それで、そのまま死んでもいいとさえ思った。

 僕らがイカレてなきゃ、世界中のほとんどがイカレてないってことになる。

 まぁそれでもいいけど。


「なんだか疲れたわ」


 コトハが言って、僕は自分のシートに戻った。

 しばらく無言の時間が流れる。

 ディスプレイのラッセル、あれ消えないのかな?


 ずっといるから、すごく嫌なんだけど。

 と、コトハがジャミの頭を撫でた。

 ジャミが嬉しそうにコトハに寄っていった。


「苦手じゃなかったっけ?」と僕。


「苦手なんじゃなくて嫌いなの」

「でも今、撫でた」

「前より嫌いじゃなくなったのよ」

「なるほど。僕のことは?」


 僕が聞くと、コトハが溜息を吐いた。


「嫌いな相手とキスすると思うの? 殺すわよ?」

「わぁい」

「喜ぶな変態」

「殺すなら戦車砲でお願い」

「原型残らないわね」

「残りたくないからさ」


 この世界に、何かを残したいと思ったことはない。

 これからも、たぶんない。


「そうね。何もないから始まった人生、何もないで終わりたいわね」


 コトハがなんとはなしに言った。


「僕も、てゆーかみんな、生まれた時は何もない」

「そうでしょうね。何か持って生まれてきたらビックリだわ。朝のニュースで流れるわね」

「そりゃいい。笑える」


 そしてまた沈黙の時間。

 僕たちはウトウトしていた。

 なんだかんだ僕も疲れているようだ。


「なぜ人は」コトハが言う。「何かを得ようとするのかしら?」


 それはとっても、小さな声だった。

 寝言かと思うほど、曖昧な声。


「さぁ」僕が言う。「何もないと何もないの間を、『何かある』で埋めたいのかも」


「何の意味があるのかしらね? どうせ何もないに戻るのに」

「そうだね。死んだら何もない。愛すべき戦車も」

「私と戦車とどっちが好き?」

「戦車」

「でしょうね。死ね」



 途中で雨が降り出して、そのまま夜になっても降り続いた。

 かなり酷く降っていて、外に出たら秒でびしょ濡れになる。

 ディスプレイで外の様子を見ているけれど、視界はかなり悪い。

 そんな中、コトハはシオンを進めていた。


「土砂降りってやつね」とコトハ。

「隠密には最高」と僕。


 敵に発見される確率が減った。

 というか、そもそも敵は僕らを探しに来ていない。


「操縦する方は少しだけ気を遣うのよ? 知ってた?」

「そりゃね。僕だって雨の日に操縦したことあるし」


「ニア共和国はずっと晴れてるのかと思ったわ」コトハが言う。「ニアの人たちの頭の中みたいに」


「それ笑える。話変えていい?」

「ご自由にどうぞ」

「なんで誰も僕らを探しに来なかったんだろう?」

「リソースが足りないだけでしょ。今のラクークはボロボロだもの」

「ドローンすら飛ばせないってこと?」

「なんなら衛星だって古いのが一機あるだけで、間違いなく私たちの捜索には使ってないわ」

「なるほど。戦争が終わってから本腰入れるって感じかな?」

「どうかしら? 明日の朝は一応、ドローンかヘリが飛ぶかも」

「そりゃいい。また撃ち落としたいな」


「あるいは」コトハが言う。「国境付近で撃破する気かも。私らが逃走すると考えたなら、だけど。上層部が何を考えているかは分からないけど、国境付近ならレスカもいるでしょうし、ね」


 結局のところ、偉い人らの考え次第ってことだ。

 あのスクラップ工場を守っていた連中は、何か罰を受けたのだろうか?

 まぁラクークだし、銃殺とかも有り得る。


 とはいえ、僕は何度同じ場面に出くわしても必ず戦車を盗る。

 考えても仕方ないな、と思った。

 どれほど親しくしても、たとえ親友や家族であっても、僕は最後には戦車を選ぶ。

 そういう人間なんだ、僕は。


「操縦したい?」とコトハ。


「もちろん!」


 突然だったけど、僕は即座に反応した。


「いいわ」


 コトハがシオンを停車し、シートを降りて僕と入れ替わる。

 それから何度か交代しつつ、僕らは焼けた森まで辿り着いた。


「酷いわね」

「まったくだね」


 焼けた森を見た感想。

 雨が降って良かったのかも。

 たぶん降ってなかったら、まだ燃えてたんじゃないかな。

 しばらく進むと、消火活動をした跡があった。


 ふむ、消防隊はまだ健在なんだなぁ。

 どの程度の効果があったのかは分からないけれど。

 もちろん、今この場に消防隊はいない。

 更に進むと、ニアの車両がいくつも転がっていた。

 焼けてるなぁ、と思いつつシオンを停車させる。


「とりあえずパワーユニットの予備を積めるだけ。あとはまぁ、私らの拳銃とかその弾丸とかね」


 コトハが言った。


「うん。魔力消費が激しいから、最悪、単独機動システムを使う可能性あるしね」


 パワーユニットの用途はそれだけだ。

 もしくは、魔力を流さずに初期起動させるとか。

 どちらかと言うと、僕らの武器の方が大事かも。


 また生身でギャングに襲われる可能性もあるし。

 僕らはシオンに積んであった戦闘服・雨衣2型を着て外に出た。

 雨が痛いなぁ。

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